クレジット
タイトル: SCP-9007 - ニュース速崩
翻訳責任者: C-Dives
翻訳年: 2025
著作権者: Grigori Karpin
原題: SCP-9007 - Breaking News
作成年: 2025
初訳時参照リビジョン: 6
元記事リンク: ソース
本記事は、CC BY-SA 4.0ライセンスの下で提供されます。これに加えて、本記事の作成者、著者、翻訳者、または編集者が著作権を有するコンテンツは、別段の定めがない限りCC BY-SA 3.0ライセンスが付与されており、同ライセンスの下で利用することができます。
「コンテンツ」とは、文章、画像、音声、音楽、動画、ソフトウェア、コードその他の情報のことをいいます。
動画配信者 RingerBang の“リアクション配信”中に出現したSCP-9007-Aのキャプチャ画像。
特別収容プロトコル:
SCP-9007実例はSCiPNetや外部のインターネット接続から完全に遮断されたコンピュータ上で保存・検査されます。SCP-9007実例をダウンロードした後、影響を受けた機器は完全に隔離する必要があります。
METATRON.aicはインターネット上におけるSCP-9007実例を捜索し、関連する投稿を全て削除すると共に、異常なファイルが関与する投稿活動を監視します。投稿される実例を検出するため、YouTube、Facebook、Instagram、TikTokなどのソーシャルメディア・プラットフォームは .aic が毎日スキャンします。
撮影地の特定を目標として、SCP-9007実例の背景に関する詳細情報は .aic によって記録され、アルゴリズム検索プロトコルに入力されます。
SCP-9007の被影響者は財団が運営する医療施設に搬送し、診断の後、反応の重症度に応じて記憶処理から医療隔離までの範囲で必要な処置を施します。
説明:
SCP-9007は多種多様なプラットフォームにライブ配信されていると思しき一連のインターネット放送です。SCP-9007の内容は実例ごとに異なりますが、“ヴィキャンデル・ニュース・デイリー”と題されたニュース番組という共通のテーマ・前提を堅持しています。本稿執筆時点で、この番組の放送を完全に記録したデータは見つかっておらず、番組の一部のみがソーシャルメディア・プラットフォーム、動画共有ウェブサイト、配信プラットフォームに出現しています。各切り抜き動画のメタデータにはコード化された放送日時が含まれますが、録画に映り込む技術水準を考慮に入れると、その大半はあり得ないはずの日時です。
SCP-9007の初期の異常効果は、GOI-5889 (“ヴィキャンデル=ニード・テクニカル・メディア”) の通常の手口から逸脱しているように思われます。SCP-9007には異常な出来事や状況の記録が収録されています。また、動画の視聴者は認識災害性アノマリーの影響を受けます。
SCP-9007視聴者への異常な影響には、死去した親族及び/または愛する人物からの訪問を受ける幻覚が含まれます。近親者や交友関係の人物を亡くしたことがない視聴者は、ヴィキャンデル・ニュース・デイリーのマスコットを称する実体、オオハシのトゥーキー (SCP-9007-Aと指定) から訪問されます。その後、SCP-9007-Aは様々なパフォーマンス・アートで視聴者を楽しませようと試みます。
SCP-9007-Aの訪問を幻視した人物は、追加で数多くの心理的症状を発症します。
- 権威者1に対する衝動的・攻撃的・暴力的な行動。
- 感情の激発。
- 過去にどの程度そのような言葉遣いをしていたかに関係なく、罵倒語を過剰に使用する傾向。
- 現実感の喪失 – 特に、自分自身の行動や他者との感情的な繋がりが失われているという感覚を伴なう。
- 偏執病。
- 自分とSCP-9007-Aとの関係に関する妄想。
- 口臭。
SCP-9007実例の被影響者の約5%は記憶処理治療への耐性を示しており、症状を完全に解消することが困難です。この耐性を示す人物に対しては、医療機関への入院が唯一残された選択肢となります。このため、財団司令部はSCP-9007放送の防止と隔離を最優先課題としています。
SCP-9007-Aは周辺環境や出現を誘発した人物と物理的に交流できませんが、音声・映像記録の両方に捕捉されます。
発見:
SCP-9007-Aは2024年1月15日、有名なリアクション配信者である RingerBang (本名 ジェイコブ・フェアヘイヴン) のライブ配信中に初めて記録されました。この配信は、フェアヘイヴンがYouTubeをはじめとする様々な動画共有サイトで短い切り抜き動画を幾つも視聴し、大袈裟な態度でそれに反応するというものでした。SCP-9007-Aが出現した時、フェアヘイヴンはSCP-9007実例を視聴し始めたばかりでした。以下はその書き起こしです (編集で認識災害要素を除去済) 。
[フェアヘイヴンがウェブカメラの前に座っている。動画は彼の配信にのみ焦点を合わせ、彼が反応しているコンテンツが映り込まないように編集されている。映像を拡大したため、理想的な解像度ではないが、フェアヘイヴンの顔立ちや部屋の詳細は識別できる。フェアヘイヴンの背後にはブラウン管テレビと様々な旧式のゲームコンソールがあり、スタンドライトが赤い塗装の壁を照らしている。]
フェアヘイヴン: オッケー、バンガーズ! さっきの切り抜きはくだらなかったけど、次のはワイルドなはずだぜ。
[フェアヘイヴンは動画配信サイトをクリックし、SCP-9007実例を視聴し始める。]
フェアヘイヴン: なんじゃこりゃ。ただのニュース番組だ。どうでもいいじゃん。でもこの右側の男、なんかメイクがおかしくねえか。あとこの補装具は何? まあ全体的につまんねえし、別な -
不明な声: エンターテインメントをお探しですかな? ヴィキャンデル=ニードがお手伝いいたしますよ!
[SCP-9007-Aがフェアヘイヴンの背後に出現し、カメラの視点外から歩いて出てくる。当該実体は身長約1.8mで、人間並みに巨大化したオオハシ科鳥類の頭部と身体を有している。翼の先端には人間の手のような形状の付属肢があり、羽根で構成されているにも拘らず、人間の指と同等の器用さを備えている。SCP-9007-Aは左右に揺れながら頭を上下動させる。]
[フェアヘイヴンが振り向き、悲鳴を上げる。]
SCP-9007-A: その意気です! 盛り上げていきましょう!
フェアヘイヴン: なんだテメエ!
SCP-9007-A: 誰か、の間違いでは? 私は巨嘴鳥トゥーキートゥーキー・ザ・トゥーカン、ヴィキャンデル・ニュース・デイリーの公式スポークスバードでございます!
フェアヘイヴン: なんで喋れるんだ?
SCP-9007-A: 口がありますので! さてさて、あなたは今しがた、ヴィキャンデル・ニュース・デイリーの司会デスクに座る私の友人たちが親切にも世界に向けて発信してくれた、ためになる上に飛び切り愉快なニュースをつまらないと仰った。そこで彼らは、あなたに素敵な時間を過ごしてもらうべく、この私を派遣しました!
フェアヘイヴン: はあ?
SCP-9007-A: ジャグリングはお好きですか?
[SCP-9007-Aは背後から3本のボウリングピンを取り出し、器用にジャグリングを披露し始める。]
フェアヘイヴン: お前、ジャグリングできるの? 俺、今ハイになってんのか?
SCP-9007-A: おや、お気に召しません? そうですか。
[SCP-9007-Aは3本のボウリングピンを落とし、背後から長い鋸歯ナイフを取り出す。]
SCP-9007-A: 普段なら第3幕まで取っておくんですが、あなたは手強い観客だ。
[フェアヘイヴンは悲鳴を上げ、椅子から立ち上がってカメラの視点外に走り出る。SCP-9007-Aは映像の大部分を頭部が占めるまでデスクに接近する。]
SCP-9007-A: 良い子の皆さん? 責任ある大人が傍にいない限り、ご自宅では絶対に真似しないでくださいね。私はプロだから許されるんですよ。
[SCP-9007-Aは上半身の大部分が視点に入り込むまでカメラから後ずさりする。]
SCP-9007-A: 照明の具合はどうです、ジェリー?
不明な声: 調整室からは良い塩梅に見えるぜ、トゥーキー。
SCP-9007-A: それは重畳。では始めます、最初の切開が一番厄介でしてね。
[SCP-9007-Aは左翼/腕を伸ばし、手のような器官でナイフを掴むと、左上肢の中央を切断し始める。]
SCP-9007-A: 普通ならきちんと解体するために羽根をむしるんですが、今回は急ぎでお送りします。
[フェアヘイヴンはまだ室内にいるらしく、カメラの視点外ですすり泣いている。]
フェアヘイヴン: [すすり泣く] ああ、なんてこった。家に帰りたい。
SCP-9007-A: ここがあなたの家ですよ、おマヌケさん。ほら、よくご覧なさい。あなたのためにやっているんですからね。
[SCP-9007-Aは体肢内部構造の上部を切開し、翼と胴体を結合する関節の周囲に円形の切開を施す。]
SCP-9007-A: 切開が終わったら、しっかり掴んで引っ張りましょう。中途半端ではいけません、力強く引く必要があります。なので、深呼吸して全力で挑みましょうね!
[SCP-9007-Aは円形の切開部に指を挿入し、たった1回の素早い動きで上肢全体を引き剥がす。肉が裂け、周囲に血が飛び散る。SCP-9007-Aは上肢の皮膚を完全に剥ぎ取り、残った手で肉と羽根の塊を掲げ、それを揺らしてデスクの上に血を撒き散らす。カメラ視点外にいるフェアヘイヴンの嗚咽が大きくなる。]
SCP-9007-A: さあ、ここからが重要なステップです。三角筋を深く、しかし確実に一度で断ち切らなければいけません。そうしないと、肩から筋肉を剥離するのに恐ろしく手間がかかります。
[SCP-9007-Aは皮を剥ぎ取った左上肢の筋肉組織を切断し始める。筋肉は人間の解剖学的構造と似ているが、あらゆる非異常生物に見られる自然な筋繊維を欠いた、硬い筋肉組織の層で構成されている。SCP-9007-Aは数回の正確な切り込みを入れ、ナイフの先端で筋肉組織を骨格から引き剥がし、骨に最も近接した組織を整然と切断し始める。]
[フェアヘイヴンがカメラ視点外で嘔吐する。]
抜粋終了
結: SCP-9007-Aは左上肢が骨格と切断された靭帯だけになるまで解体を続けた後、クローズアップ・マジックを披露しながら “私を野球に連れてって” を歌い始めた。配信は最終的にホスティング事業者によって停止された。フェアヘイヴンは住居に踏み込んだ財団エージェントらに暴力を振るったものの、鎮圧され、保護拘留され、記憶処理された。彼の症状が回復する見込みは薄い。
SCP-9007-Aは収容されなかった。室内を検査したところ、血液は発見されず、異常実体が出現した証拠は全く残されていなかった。直ちに偽情報活動が開始され、視聴者を増やすためのやらせとして信憑性を毀損すると共に、アメリカ合衆国とカナダの宗教団体に潜入しているエージェントらが宗教コミュニティを扇動し、道徳的義憤から当該配信を非難するように仕向けた。
補遺9007.1: SCP-9007実例の一部抜粋
財団記録・情報保安管理局より通達
当ファイルに書き起こされた動画/音声データはクラスB認識災害の構成要素です。書き起こしの閲覧はリスクを伴わないと考えられていますが、当該アノマリーの性質と、異常な影響に付随する症状に鑑みて、注意が求められます。
当該アノマリーと関連する症状が出た場合は直ちに報告すべきであり、また被影響者は記憶処理薬を用いた医療処置を受けることが推奨されます。
動画を直接閲覧する際は、適切なクリアランスを有するRAISA代表者に承認申請書を提出してください。
- RAISA管理官、マリア・ジョーンズ
SCP-9007-1 抜粋
1871年10月8日放送
[番組は照明を当てられたアメリカ合衆国の地図から始まり、アニメーション画像の星々がカメラの前を素早く横切る。星が消えると、カメラは光沢のある幅広のデスクに改めて焦点を合わせる。デスクの後ろにある大きな映像スクリーンには風になびく合衆国旗が映っているが、その色調はヴィキャンデル=ニードのロゴに合わせて変更されている。]
[デスクには2人の人物が着席している。片方は、整えられた豊かな口髭を蓄えている乾燥した人間の死体であり、鋼鉄の棒で支えられ、ダックテープ2で椅子に固定されている。もう一方は、ビジネスジャケットを着用し、目と口の周りにショッキングピンクの化粧を施した女性である。女性が話し始めると、口の両端が頬の皮膚を割り、サメのような歯が何列も並んでいることが分かる。女性は反対側の椅子に座る干乾びた死体に顔を向ける。]
ニュースキャスター: [含み笑い] ホントそれなんだよね、ウォルター。
[女性がカメラに向き直り、視点がクローズアップすると、彼女の口がより詳細に映し出される。彼女の口は生物学的に可能な範囲を遥かに超えて広がっており、唇が耳のすぐ下にまで達している。彼女が微笑むと、赤い粘液が鋭い歯にこびりついているのが分かる。]
ニュースキャスター: 時事問題のたった一つの情報源、ヴィキャンデル・ニュース・デイリーへようこそ。次のニュースはアメリカ国内からです。ウィスコンシン州北東部から、非常に深刻な大火災の報告が入っております。現地にはカルメン・ヴィヴェンディ記者が入っています、きっとスクープ情報を入手していることでしょう。
[背景画面に、制御不能に燃え広がる火災の映像が表示される。周辺の木々は盛んにくすぶっているか、既に炎上している。現地取材記者 - よく手入れされた髪型の、現代的なスカートスーツを着た熱心な若い女性 - がカメラを直視している。]
現地取材記者: 私は今、ウィスコンシン州ペシュティーゴの町のすぐ外にいます。今朝早く、ここで大規模な森林火災が発生しました。町全体とドア半島の大部分に延焼したとの報告が入ってます。これからそちらに表示されるのは、合衆国国勢調査局による火災の推定被害地域を示す画像です。

ニュースキャスター: もっとデカくしてくんない?
不明な声: 火災を?
ニュースキャスター: は? いや、もういい。どうせ家にいる連中は目がおかしくなるぐらい画面に近寄って見てんだろうし。カルメン、非常に広いですね!
現地取材記者: はい、100万エーカー以上が焼失しました。過去24時間でおよそ1,500人の近隣住民が死亡し、数百万ドル相当の物的損害がもたらされてます。
ニュースキャスター: しかもこれは1871年当時の数百万ドルですからね!
現地取材記者: その話ホントに必要ですか?
ニュースキャスター: いえいえ、続けてください。
現地取材記者: それでですね、先程、私たちはこの火災の最悪の状況と、それに立ち向かう勇敢な人々の写真を撮影することができました。
画像訳: トゥーキー曰く、「報道の正確性と誠実さは倫理的ジャーナリズムの核心です。」
ニュースキャスター: カルメン。
[現地取材記者の映像に戻る。火災は刻々と接近しつつある。]
現地取材記者: 何でしょう、キニー?
ニュースキャスター: あれはペシュティーゴ火災ではないような気がします。
現地取材記者: どういう意味ですか?
ニュースキャスター: ペシュティーゴ火災は1871年ですよね?
現地取材記者: はい、まさにその年から生中継でお送りしてます。
ニュースキャスター: ふーん。だったら、あれに写っていた21世紀の消防車は何ですか?
現地取材記者: …
ニュースキャスター: カルメン…
現地取材記者: じゃあ私にどうしろって言うんですか? 良い感じの消防活動の写真が撮れなかったから、もっと躍動感があるのを使うしかなかったんですよ。あれは2020年のオーストラリア火災のやつです。
ニュースキャスター: 私たちにはニュースを正確に報道する倫理的責任があります!
現地取材記者: 凡そ事実です。
ニュースキャスター: あー、もう。続けてください。
現地取材記者: 了解です! ええと、今回の火災は焼畑農業が原因だと言われてます。現地の天候によって風速が増し、複数の炎が合流して森林に広がり始めたってことですね。風速が時速110マイルに達すると、火災は一帯で猛威を振るい、1つの集落全体を呑み込みました。
ニュースキャスター: 地元の方々とは話しましたか?
現地取材記者: はい。ご想像の通り、生存者たちは打ちひしがれてます。彼らの家が、人生の全てが失われてしまいました。取材に応じてくださる方を1人お呼びしてます。
[煤で汚れたオーバーオールを着用し、使い古したつば広の帽子を被った男性が画面内に入ってくる。火災は取材記者と男性の立ち位置から約3mの距離まで接近している。]
現地取材記者: こちらはジョージ・クレイバーンさん、地元の農場労働者 兼 鍛冶屋です。ですよね?
クレイバーン: おう。
現地取材記者: 何をご覧になったかお聞かせいただけますか?
クレイバーン: おう。
[火災は取材記者とクレイバーンに最も近い木々を越えて近付いてくる。]
現地取材記者: いつでもどうぞ。
クレイバーン: うん、火が出て森中に広がった。うちの畑は焼けた。隣の畑も焼けた。町じゅうが焼けちまったよ。
現地取材記者: 恐ろしいことですねえ。
クレイバーン: おう。
現地取材記者: ご家族はご無事ですか? 財産は?
クレイバーン: 焼けた。全部焼けた。
現地取材記者: ご近所さんもですか?
クレイバーン: おう。
現地取材記者: どうやらショックを受けていらっしゃるようです。人生に何か残されたものはありますか?
クレイバーン: ねえよ。
現地取材記者: これからはどうなさるおつもりですか?
[クレイバーンは肩をすくめる。]
[火災は両者から僅か数インチの距離まで接近している。両者の服がくすぶり始める。取材記者の肩までの長さの髪の先端が燃え始める。取材記者とクレイバーンはどちらも、彼女の髪が炎上していることや、火災が近接していることに気付いていない。]
現地取材記者: では、他に何か仰りたいことは?
クレイバーン: ああ、ある。今日の午後、俺の子供たちが死ぬのを見た。納屋の動物を外に出そうとして、火災に巻き込まれた。ちっぽけな妖精みてえにふわふわ飛んできた火花が干し草に燃え移って、たちまち広がった。
[クレイバーンの帽子が燃え始める。]
クレイバーン: 火が初めて肌や服や髪の毛に触れた時、あいつらの悲鳴が聞こえた。母ちゃんを呼んでいた。俺を呼んでいた。でもどうすることもできなかった。火災でな、屋根の一部が入口の前に崩れてたんだ。俺はただ、子供たちが叫ぶのを、そして叫ばなくなるのを聞いているしかなかった。それから後はもう、炎がパチパチ音を立てるだけだった。
[クレイバーンのオーバーオールと髭が燃え始める。クレイバーンは突如として炎に気付き、地面に倒れ込み、転がって火を消そうとする。取材記者の頭髪は完全に炎に包み込まれており、顔は焦げ、熱で眼球が沸騰し始めている。火で黒ずんだ唇はひび割れ、流血し始める。取材記者は男性や自分が燃えていることに反応を示さない。恐らく口の損傷によって、彼女の声は歪んでいるが、依然として聞き取れる。]
現地取材記者: それはお気の毒でした、クレイバーンさん。視聴者の方々とヴィキャンデル=ニード・テクニカル・メディアの職員一同を代表して、私からお悔やみ申し上げます。もしもう少しお時間をいただければ、最後にお聞きしたいことがあります。
[クレイバーンは苦痛の叫びを上げている。]
現地取材記者: もう一つだけ質問させてください。クレイバーンさん、森林火災には存在する権利があると思いますか?
抜粋終了
SCP-9007-2 抜粋
1919年1月15日放送
[2人のニュースキャスターはお互いに向き合って座っている。女性は笑いながら干乾びた死体を指差している。]
ニュースキャスター: ジェリー、今のウォルトの話聞いた? 爆笑もんだよ。こういうのも放送にちょいちょい盛り込んだ方がいいって。
不明な声: 生放送だぜ、キニー。
ニュースキャスター: あっヤベ。悪いね、ウォルト。金儲けの時間だわ。
[女性はカメラに向き合い、微笑む。84本の赤く染まった歯が見える。]
ニュースキャスター: 報道が時空の構造に縛られていない唯一の番組、ヴィキャンデル・ニュース・デイリーへようこそ。私、キニー・セントクレアと、こちらのウォルター・クロンカイトがお送りします。この番組の次は、新刊 “我らは何者であったか: メディアリテラシーの死の回想録” を出版した大人気クイズ番組司会者、ジェレミー・キンケイドへのインタビューです。それについて彼と話すのが待ちきれません。しかし、まずはボストンのキーニー広場にいる現地取材記者、カルメン・ヴィヴェンディからの速報です。カルメン、そこにいますか?
[映像は現地のカルメンに切り替わる。彼女の皮膚の火傷は一部治癒しており、目は回復しているが、スカートスーツには焼損による黒い模様と煤汚れがある。取材記者の背後には重大な被害を受け、混乱状態にある市街地の道路が映っている。放送年代と一致する建造物や車両の残骸が見受けられ、大量のゼラチン質の液体が通りや瓦礫を覆っている。]
画像訳: トゥーキー曰く、「いいねとチャンネル登録をお忘れなく。さもないとあなたの家に行きます。」
現地取材記者: ええ、キニー、ここにいますよ。
ニュースキャスター: 今日の午後、ボストンで何が起こったのですか?
現地取材記者: はい。実は最近、私の後ろにある倉庫地区で、船が糖蜜の貯蔵タンクを荷下ろししてました。今日の午後、そのタンクが破裂し、大波となって市街地に押し寄せた糖蜜によって、近隣にある多数の建物に損害が及び、少なくとも20人が死亡しました。
ニュースキャスター: 死者20人? 糖蜜でですか?
現地取材記者: ええ、破裂した時、問題のタンクには200万ガロン以上が貯蔵されてたんです。結果として生じた波は高さ約25フィート、時速20マイル以上に達しました。100人以上が深刻な怪我を負い、先程申し上げた通り、20人以上が死亡しました。建物や瓦礫に叩き付けられたか、押し潰されたか、もしくは数百万ガロンの甘いシロップによる溺死です。
ニュースキャスター: なんてことでしょうGood lord。
現地取材記者: 善き神Good lord? そうですかね?
ニュースキャスター: えー… ニュースに集中しましょうか、カルメン。他の被害はどうですか?
現地取材記者: 馬と飼い犬も多少死んでいます。
ニュースキャスター: 馬が? 何頭?!?
現地取材記者: ええと… メモを確認しますね。断言できませんが、少なくとも6頭が死亡しました。
ニュースキャスター: ジーザス・クライスト。なんて悲劇! あんな美しい生き物が!
現地取材記者: あの…
ニュースキャスター: あんた血も涙もないのか、カルメン? 馬が死んでるんだぜ! こんな悲しい話があるかよ!
現地取材記者: 続けますね… この地区で働いていて、軽傷で済んだ目撃者をお呼びしてます。
ニュースキャスター: ああ、ヒトの被害者から話を聞こうじゃんか。重要なのはそれだけだもんな、え?
現地取材記者: 私は馬語が話せませんので。
ニュースキャスター: あっそう。お好きにどうぞ。
[カメラ視点が右に移動し、糖蜜と土にまみれた30代半ばの男性を映す。画面下部から男性の名前 (“ハリー・ギブソン”) を示す画像が浮かび上がる。]
現地取材記者: どうも、ギブソンさん。今回の事件についてお話を聞かせていただけますか?
ギブソン: なあ、これって映画カメラか? 映画館によくあるアレだろ?
現地取材記者: はい。慈しみ深き神は存在すると思いますか、ギブソンさん?
ギブソン: 何だって?
ニュースキャスター: カルメン…
現地取材記者: はいはい。ギブソンさん、あなたは何を目撃しましたか?
ギブソン: あー… 俺の勤め先の隣に蒸留所があってよ、そこにタンクがあったらしいんだが -
現地取材記者: その情報に疑わしい点があると言いたいのですか? これは隠蔽工作ですか?
ギブソン: 隠蔽?
ニュースキャスター: カルメン! 話を遮るなって!
現地取材記者: 続けてください。
ギブソン: 今言った通り - なあ、なんで俺に質問するんだ? 映画には音が入らねえだろ。
現地取材記者: お話を最後まで続けていただけますか? ここにいると猛暑日のジューンベリーおばさんのパン屋みたいな匂いがしてキツイです。
ギブソン: とにかく、俺ぁ足場の上で一部始終を見たんだ。一緒に働いてた隣近所のジムは波に呑まれちまった。あいつがいったん沈んでから、トラックの荷台に押し上げられるのを見た。溺れたのかと思ったけど、問題なのは重さだったんだろうな。糖蜜がどんなに重いか知らねえだろう。とにかく、波が引いて、ジムの身体をトラックの残骸から引っ張り出してみたら、胸が陥没してやがった。肋骨が胸骨を突き破ってるのが見えた。あんなの今まで見たことねえよ。
現地取材記者: もし慈しみ深き神が存在したら、ジムを彼自身の肋骨で刺したりはしなかったでしょうね。
抜粋終了
SCP-9007-2.5 抜粋
放送日時不明
[放送日時が不明なSCP-9007の幕間コーナーの切り抜き動画。]
[このコーナーは、少なくとも3ダースの机がホワイトボードと教員用デスクに向き合って並んでいる無人の教室から始まる。教員用デスクはカメラ視点の反対側を向いている。映像に変化が無いまま、数分間の沈黙が続く。教員用デスクに置かれた書類の僅かな動きは、室内に気流が存在することを示唆しており、最初の数分間において時間経過や活動を示す唯一の要素である。]
[マイクの近くで、デシベル値が最大になるほど大きな咳が聞こえる。その後、声が聞こえてくる。]
SCP-9007-A: ジェリー! 撮影の用意はいいですか?
不明な声: 準備完了だ、始めてくれ、トゥーキー。
[SCP-9007-Aがカメラ視点内に歩いて入り、教員用デスクに寄りかかるのをカメラがズームインして映す。以前解体された左上肢は元通りになっているように見えるが、動画をスロー再生すると、肉が上肢上部にホチキスで粗雑に固定されているのが明らかである。SCP-9007-Aが嬉しそうにカメラに手を振ると、縫合線やホチキスの下から小さな膿の塊が噴き出す。]
SCP-9007-A: ヴィキャンデル・ニュース・デイリーの視聴者の皆さん、こんにちは。制作チームからの大切なお知らせのため、いつもの放送を中断してこのコーナーをお送りします。私たちを取り囲む世界は、かつてないほどに暗澹たる様相を呈しています。NFT、仮想通貨、企業の自己満足と大量虐殺の助長、そして現代の西洋社会における最悪の罪… コマーシャル。宣伝広告はメディア産業の生命線であり、ジャーナリズムにとっても例外ではありません。
[SCP-9007-Aの目から赤みがかった緑色の液体が流れ始める。]
SCP-9007-A: 我々ヴィキャンデル=ニードは社会を動かす要因の正体を熟知しています。ありとあらゆる西洋民主主義国家の活力 - それはお金です。そして我々は、ニュースの間に差し挟まれる自動車の宣伝や勃起不全治療の広告ほど、その娯楽性と現実逃避を損なうものは無いことも承知しています。
[SCP-9007-Aが話し続けるにつれて、嘴からも赤みがかった緑色の液体が流れ始め、目から流れる液体と混ざり合う。]
SCP-9007-A: 工場の製造ラインで児童労働者仲間たちと一緒に10時間働いて帰宅した後、あなたが望むのはニュースを見ることだけです。そうすれば、あなたはご自分の身には起きていない世界各地の悲惨な出来事で英気を養い、「なーんだ、俺の人生もそう悪いもんじゃねえや。車でも買おうか」と言うことができるからです。
[SCP-9007-Aはカメラ視点上部に手を伸ばし、円グラフを右肩のすぐ傍に引き下ろす。この過程で傷口の大部分に留められていたホチキスが緩み、血液と膿が大量に足元にこぼれ、カメラレンズにも細かい霧となって飛び散る。]

SCP-9007-A: さて、健全な経済活動が国民の幸福にとって大切なのは理解していますが、それよりも更に重要なのは情報を入手し続ける必要性です。
[SCP-9007-Aの腕の肉が視覚的に腐敗し始め、腕全体に走る傷口からより多量の液体が流出し、皮膚・羽根・筋肉が伸びて骨から垂れ下がる。SCP-9007-Aはこの状況や、嘴と両目から流れている他の液体に気付く様子を見せない。]
SCP-9007-A: 整然と統率され資金潤沢なジャーナリズム産業無き社会とは果たしてどのようなものか? 無構造。混沌。荒野です。かつてアリストテレスが「都市の外において人間は神か獣である」と語った通りなのです。それこそがニュースを失った我々の姿です。顧みる価値すらない都市無き迷える獣、ただ糞の中を嗅ぎ回るだけの動物です。
[上肢の肉が完全に骨から剥がれ、腐った筋肉の塊と骨の間に糸状の生体組織が残るばかりとなる。肉が教室の床に落ちる際、湿ったビシャッという音がする。]
SCP-9007-A: しかし、いったいどうすれば、十分な情報に基づく民主主義という共通概念を維持しつつ、皆さんの夜の娯楽に割り込まずにいられるでしょうか? 親愛なる視聴者の皆さん、あなた方がその答えです! これはウィン・ウィンの取引です! 我々は皆さんが懸命に働いて稼いだお金を手に入れ、あなた方は魂無きエンターテインメントと、“世界では今何が起こっているのか”を知ることによる自惚れを手に入れるのです。
[SCP-9007-Aは激しい身振りをしながらカメラを指差し、腐敗した筋肉と脂肪の筋がレンズにぶつかる。SCP-9007-Aは身を屈めてカメラに接近し、映像の大部分をSCP-9007-Aの顔が占める。この時点から、SCP-9007-Aの嘴の表面にひびが入り始める。]
SCP-9007-A: ただ我々のウェブサイト VikanderNewsDaily.hub.giveusyourmoney にアクセスしてくだされば良いのです。支援ボタンをクリックして、月々もしくは単発の財政支援をよろしくお願い致します。
[SCP-9007-Aの目が急速に濁り、色が薄れて灰色に変化する。眼球内の液体が沸騰し始め、眼球が破裂して、灰色がかった液体が羽毛に覆われた顔に噴出する。]
SCP-9007-A: ほんのささやかなご寄付でも、第四権力の自由の確保に貢献します。宝石類、法定貨幣、知性体の魂、脳以外の移植可能な臓器、トラベラーズチェック等々、あらゆる通貨に対応しております!
[SCP-9007-Aの嘴が割れ始め、その残骸が眼窩から流出する粘液と混ざり合う。コーナーが終了する頃には、腐敗した有機物の残渣に覆われ、カビが生えた、漠然とヒト型の骨格だけが残っている。]
SCP-9007-A: 皆さんの利益を最優先に考えてくれるチームに加わりましょう。ただしその利益が当社の企業理念と整合する場合に限ります。世界を繋ぎ続ける番組、ヴィキャンデル・ニュース・デイリー。
抜粋終了
SCP-9007-3 抜粋
1908年6月30日放送
[番組はニュースキャスター2人がカードゲームに興じている様子から始まる。干乾びた死体の腕には木の杭が数本取り付けられ、萎びた皮膚にホチキス留めされたカードの束を掲げる姿勢に固定されている。]
ニュースキャスター: おーっと! 今回は引っ掛かったね、クロンカイト! はーずれ!
不明な声: キニー、生放送だぞ。
[キニーは山札に手を伸ばし、死体の手札に1枚を追加した後、そのカードを死体の皮膚にホチキス留めし始める。]
ニュースキャスター: うぅーん、んじゃ1枚だけ、ウォルト。心配すんな、覗いてねえから。
不明な声: キニー!
ニュースキャスター: 聞こえてるよ、ジェリー。現場の記者に繋ぎな。
[相手の声は溜め息を吐き、荒涼とした森林地帯の映像に切り替わる。地面になぎ倒され、焼け焦げ、葉を失った数千本の木の幹が転がっている。空から降る灰がカメラの前を漂う中、取材記者がワイヤレスマイクを持ってカメラ視点内に入ってくる。]
現地取材記者: こちらはカルメン・ヴィヴェンディ、シベ -
ニュースキャスター: あなたの名前はみんな知っていますよ、カルメン。本題に入ってください。ハッ! フォーエイトだ!
[カードを固い表面に叩き付ける音が聞こえる。取材記者が改めて話し始める。]
現地取材記者: 私は今、中央シベリアのエニセイ県、ポドカメンナヤ・ツングースカ川の近場から生中継でお伝えしてます。約2時間前、この人口の疎らな地域で爆発が発生し、かつては鬱蒼と茂る森林地帯だった場所の木々が2,000平方キロメートル以上にわたってなぎ倒されました。
ニュースキャスター: ふんふん、続けてください。
現地取材記者: 先程申し上げた通り、この辺りの住民は多くありませんが、研究者が1920年代から1930年代にかけて記録した直接証言によると、少なくとも3人が死亡した可能性があります。
ニュースキャスター: ちょっと待った… “1920年代から1930年代にかけて”? どういうことです?
現地取材記者: ええと、先程申し上げた通り、私は1908年のシベリアから生中継でお伝えしてます。しっかり聞いてたらお分かりのはずですよ、キニーさん。
ニュースキャスター: じゃあ… どうやって1920年代から30年代の学者の報告書を入手したんですか?
現地取材記者: いかなるものも大胆不敵なジャーナリストを押し留めることはできません。ヴィキャンデル=ニード報道部にとって時間の暴政には何の支配力もありません。
ニュースキャスター: そうですか。
現地取材記者: 先程申し上げた通り、これは歴史上最大規模の衝突事件の1つです。
ニュースキャスター: 衝突事件? 先程は爆発だという話でしたが。
現地取材記者: 2007年の学術論文がですね、これは隕石が上空5kmほどで爆発したのが原因だと論じるようになりますし、また広くそう信じられるようになります。
ニュースキャスター: カルメン。2007年? ニュースだけ伝えてもらっていいですか?
現地取材記者: カードゲームを続けてくださって結構ですよ。ともあれ、S・セミョーノフさんという目撃者をお呼びしました。
ニュースキャスター: ファーストネームを訊かなかったんですか?
現地取材記者: Sさん、あなたは何を目撃したのですか?
セミョーノフ: 私は突然、真北の方角、オンクールのツングースカ通りの上で、空が真っ二つに裂け、森の上の高い所で大きな炎が燃えているのを見た。
現地取材記者: それは凄い。
セミョーノフ: 上空の裂け目はどんどん大きくなり、北側全体が炎に包み込まれた。途端にシャツが燃えているかのように、耐え難い暑さを感じた。炎があった北側から強い熱気が伝わってきた。
現地取材記者: 爆発の現場から約65km離れていたと仰いましたね?
セミョーノフ: その通りだ。とにかく私はシャツを引き裂いて捨ててしまいたかったが、空の裂け目が閉じ、力強いズドンという音が聞こえて、私は数メートル吹き飛ばされた。一瞬意識を失ったが、妻が走り出てきて、私を家まで連れ帰ってくれた。その後、まるで落石のような、大砲を撃つような凄まじい音が聞こえて、大地が揺れ動き、地面に倒れ込んだ私は、岩に頭を割られるのではないかと恐れて、頭を低く下げていた。
現地取材記者: きっと恐ろしかったに違いありませんね。
セミョーノフ: 空が裂けた時には、熱風が家々の間を砲火のように吹き抜けて、地面に通り道のような跡を残し、作物にも被害が及んだ。後になって、窓ガラスが何枚も割られ、納屋では鉄の錠前の一部が折れているのを見つけた。
[取材記者が指を鳴らし、セミョーノフはその場に硬直する。]
現地取材記者: キニーさん、視聴者の方々にもお伝えしておきたいんですが、今のは1930年代に鉱物学者の調査隊が収集した直接証言なんです!
[ニュースキャスターが大きな溜め息を吐く。]
ニュースキャスター: ありがとう、カルメン。
現地取材記者: どういたしまして。十分な調査内容の効率的かつ正確な報道、それがプロの仕事ですからね! だからこそジャーナリズムは -
ニュースキャスター: セミョーノフさんから他に訊きたいことはありますか、カルメン?
現地取材記者: あ、そうでした。
[取材記者が再び指を鳴らすと、セミョーノフは通常通りに呼吸し始める。]
セミョーノフ: 私に何をしたんだ?
現地取材記者: お気になさらず。最後にもう1つお訊ねしてもよろしいですか、Sさん?
セミョーノフ: まあ、いいだろう。
現地取材記者: 2022年の世論調査によると、神の存在を信じているアメリカ人は僅か81%です。過去10年間で10%以上減少したことになります。あなたは神はいると思いますか?
[セミョーノフは少しの間、取材記者を見つめている。]
セミョーノフ: 思う。
現地取材記者: 今の聞きましたか、キニーさん。隕石の衝突で深刻な脳損傷を負った田舎っぺがあなたに同意してますよ。神は実在します!
ニュースキャスター: ありがとう、カルメン。
抜粋終了
SCP-9007-4 抜粋
ローマ建国紀元832年放送
[番組はこれまで同様、ニュースキャスターのデスクを映す視点から始まる。これまでと異なり、デスクには誰も着席していない。カメラ視点外から声が聞こえる。]
不明な声: 気持ちは分かるさ、本当だ。でもどうしようもねえだろ? 彼女は契約を結んでるし、他に代わりはいねえんだよ。
[古い木製のドアが軋むような音が聞こえる。]
ニュースキャスター: その通り、ウォルト。あいつにはプロ意識が欠けてる。神がどうのこうのって、ふざけてんのか?
不明な声: ウォルト、あんたの何十年もの実績には敬意を表するが、彼女は契約を結んでるんだ! あんただって同僚の不満が理由で自分の高待遇の契約が水の泡になったら嫌だろ? 楽屋に届くフルーツの盛り合わせを失いたいか? 保湿クリームが惜しくないか? 俺たちゃあんたを出演させるために墓穴を掘り返さなきゃいけなかったんだぜ、ウォルト。そんでもし契約が破棄されたら、あんたはあっという間にあっちに逆戻りなんだぞ?
[軋み音が聞こえる。]
ニュースキャスター: まあまあ、ウォルト。本気で言ってやしねえさ。だよな、ジェリー?
不明な声: 俺は自分の仕事をしてるだけだ、キニー。
ニュースキャスター: そうかい。ジーザス。でも今のは言い過ぎだったな、ジェリー、今夜あたしのエージェントに電話でチクってやるよ。
不明な声: とっととデスクに座って仕事しろ。
[ニュースキャスター2人がカメラ視点内に入る。女性は干乾びた死体を台車に乗せて運んでいる。死体の胴体と脚にロープが巻かれ、台車に固定されている。女性は死体を椅子の横に立て掛けたまま放置する。]
ニュースキャスター: コーナーが終わるまで立ったままでも大丈夫か?
[死体の口が開き、軋むような呻き声が聞こえる。それ以外の活動の兆候は見られない。女性は死体の肩を軽く叩く。]
ニュースキャスター: 老兵斯くあるべしってか。よっしゃ、始めよう。
[女性はデスクの後ろに着席し、スーツを正す。]
ニュースキャスター: こんばんは、時事問題のたった一つの情報源、ヴィキャ -
不明な声: 番組開始から30分経ってんだぞ、キニー。イントロはもう終わってる。早くニュースに移れ。
ニュースキャスター: 後で編集しろよ。
不明な声: 生放送なんだよ!
[女性は肩をすくめる。死体が僅かに微笑み、テープで固定されていた口髭が乾燥した皮膚から剥がれ、放送が終わるまで口の端からぶら下がったままになる。]
ニュースキャスター: さて、世間話の時間は無さそうです! 皆さん、今夜は速報をお伝えします。火山噴火の報告が入ってきました。現場のカルメン・ヴィヴェンディ記者に繋ぎます。カルメン、状況をお伝えいただけますか?
ニュースキャスター: カルメン、そこにいますか?
[映像は、連鎖的な噴火の光で照らし出された夜間のヴェスヴィオ山に切り替わる。現地取材記者がカメラ視点内に入ってくる。彼女の背後では、山頂から巨大な噴煙が噴き上がり、炎の壁が町の郊外に接近している様子が伺える。取材記者はローマ様式の建造物が立ち並ぶ石畳の路地に立っており、一部の建造物は炎上している。背景に悲鳴が聞こえる。取材記者の顔とスーツは煤で黒ずんでいるが、皮膚と頭髪は燃えていない。]
現地取材記者: ここにいますよ、キニーさん。なんか私を降板させたいって話が聞こえましたけど、どういうことですか?
ニュースキャスター: 仰ることがよく分かりません。活火山の噴火現場にそんなに近付いても大丈夫なんでしょうか?
現地取材記者: 私は今の居場所で元気にやってます、キニーさん。ここ、ヴィキャンデル・ニュース・デイリーで。
ニュースキャスター: それは良かった、しかしまずはニュースをお願いします。状況をお伝えいただけますか?
現地取材記者: もちろんです。私はプロですので。
[建造物が炎上する音と遠方の悲鳴だけが聞こえる中で数分が経過する。]
ニュースキャスター: [咳払い] いつでもどうぞ、カルメン。
現地取材記者: はい、キニーさん。危険信号を長らく無視し続けてきたポンペイの町は今、近隣の火山の噴火によって壊滅的な被害を受けてます。
[カメラ視点が上方に移動し、かなりの高度3から火山を映し出す。ちょうど発生した斜面での二次的な噴火と、山腹を流れ落ちる火山灰の雲を捉える。]
画像訳: トゥーキー曰く、「あらゆる優れた報道には要点が4つあります: 客観性、公平性、中立性、収益性、煽情主義。」
現地取材記者: ご覧の通り、長年の交渉の末、ヴェスヴィオ山はもう十分な… もう十分だと判断しました。
ニュースキャスター: 住民たちの間ではどのように評価されていますか?
現地取材記者: 確かめてみましょう。
[カメラ視点が地上に戻り、取材記者の後を追う。取材記者は自分の方向に向かって慌てて走ってくる男性に近寄る。]
現地取材記者: 失礼します、今のお気持ちを教えていただけますか?
[叫びながら走って通り過ぎていく男性のトーガが炎に包まれる。彼は咳込んで黒ずんだ痰を吐き出し、必死に自分の身体についた炎を消そうとする。やがて突然、男性は石畳の路面に倒れ込む。カメラ視点がズームインする。熱で眉毛と頭髪の一部が焼け焦げており、角膜は粉塵による深刻な瘢痕で濁っている。男性の顔は青みがかっており、窒息死したことを示している。]
現地取材記者: 今お聞きになった通りです、キニーさん、これが現地の雰囲気です。
[背景には他にも悲鳴が聞こえる。叫び声は次第に大きくなり、火山灰の波が町を覆った時点で突然止む。ガスの影響は取材記者に及んでいないようである。]
ニュースキャスター: さて、スタジオに戻る前にもう一つ、火山からの声明は得られましたか? どんな議論でも双方の意見を聞くことが常に重要です。
現地取材記者: はい、こちらに声明文が用意してあります。
ニュースキャスター: それは良かった!
[ガスと粉塵の壁が取材記者を呑み込み、赤熱した火山灰が彼女を覆う。映像中では彼女の輪郭以外には何も判別できない。取材記者は状況に反応しない。]
現地取材記者: 火山語からの翻訳は難しいですが、恐らくこの声明は“私には自衛権がある”という意味だと思います。
抜粋終了
SCP-9007の放送源を突き止める努力が進行中です。







