カルトゥーシュの内容を基に、発掘現場に潜入していた財団エージェントは、オブジェクトを財団の私有テントに個人で移動させました。密閉を解き内容物を検査することが承認されました。瓶の中には黄緑色がかった半透明の物質が入っていました。研究員らには正式な試験を行う機会がなかったものの、密閉解放に立ち会った全職員が、瓶の中身がライム風味のゼラチンに類似していたと強く同意しました。
発掘現場に配属された監督者はO5評議会との協議のため席を外し、その後間もなく、オブジェクトはテント内に無人で放置されました。この警備上の過失の正確な原因は未だ特定されておらず、SCP-9023の収容が確立次第、全面的な調査が予定されています。
オブジェクト周囲が無人であった間に、不明な人物がテントに侵入してSCP-9023を全て消費しました。アノマリーの推測される性質上、財団職員が発掘現場にいたとしても、消費後に該当人物を特定することは不可能だったと思われます。犯人(以降PoI-9023と呼称)が現場から逃走したのか、財団勢力内に身を隠し続けているのかは不明です。PoI-9023の特定と回収は現在の最優先事項であり、他の全ての任務に優先します。
この呪文または祈りには、タウォラクティ発掘現場で回収された複数の遺物にみられる限定詞𓍰𓍸𓎃が含まれています。文脈から判断すると、𓍰𓍸𓎃は何らかの形で神々に由来する対象を指すと思われ、したがって安全に関わるには特別な形式か構造が必要となります。これは古代エジプトの用語で異常存在を指すと考えられており、財団が発掘現場に滞在していた当初の理由でもあります。
通達
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サイト-19システムがセーフモードで再起動に成功しました。
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セーフモードは、収容違反に関連するデバイスやシステムの停止後に自動で実行される緊急プロトコルです。セーフモード時は、全ての端末で以下の機能が制限されます。
- 他のサイトへのプライベート/ダイレクトメッセージ
- サイト-19内でのメッセージ(全メッセージは事前承認された定型チャットを用いて送信せねばなりません)
- サイトの.aicの利用
- あらゆる出入口の利用
サイト-19を通常の機能に戻すには、端末にSCiP認証情報を入力してください。全職員の責任として、サイト機能を復旧させる前に収容違反が完全に解決したことを確認しなければなりません。収容違反の進行中にセーフモードを解除することは即時終了に繋がります。
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本端末は音声録音モードに設定されました。
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[1分45秒の沈黙。]
[断続的な物音。カチャカチャという音。扉が勢いよく閉まる音。]
クラーケン: ねぇ、あの……
[4秒の沈黙。]
クラーケン: もしもし? 誰かいませんか? クソ、どうやって…… [ボソボソとつぶやく]
[15秒のタイピング。]
クラーケン: あー…… コンピュータ? [間] データ? コルタナ? ジャネット?
ERS: 本端末の音声対応緊急応答システム(ERS)が有効化されました。緊急応答システムは.aicではなく、システムの基本的な質問に対して事前生成された解答のみを提供可能です。進行には資格情報を入力してください。
[54秒のタイピング。]
ERS: 認証ありがとうございます、O5-13。サイト-19は現在セーフモードです。ロックダウンプロトコルが有効化されています。
クラーケン: オフにして。
ERS: その行動はサイトプロトコルに違反しています。
クラーケン: 何で?
ERS: サイト-19に収容されているSCPの総数: 308。
クラーケン: どういうこと? SCPって何?
[5秒の沈黙。遠くで大きな打撃音が聞こえる。]
ERS: SCPとは"確保、収容、保護"及び"特別収容プロトコル"を表す多目的の頭字語です。この頭字語はヴェール内の様々な機能で用いられ、例として—
クラーケン: いいいい、やめて。それはよくて。出ていきたいの。私が出た後もう一回ロックダウンを戻すってできないの?
ERS: その行動はサイトポリシーに違反しています。
クラーケン: どうして? 送ったでしょ、その、CEOレベルのパスワードを、それでも?
ERS: サイト-19に収容されているSCPの総数: 308。
クラーケン: それはもう聞いた。
ERS: サイト-19に収容されているSCPの総数: 308。
ERS: 説明していただけますか: 収容プロトコル?
クラーケン: しないけど…… 結局何が言いたいの?
ERS: サイト-19に配属されている職員の総数: 4,998。
ERS: 現在サイト-19にいる職員の総数: 1。
ERS: 説明していただけますか: 収容プロトコル?
クラーケン: つまり…… 収容室にあるやつ全部について? ここで働いてる人がそれをどうにかするはずなんだけど。
[15秒の沈黙。遠くで打撃音が再度、より近くに聞こえる。素早く短い震動が建物を揺らす。]
クラーケン: マジで? 何それ。
ERS: 説明していただけますか: O5評議会?
クラーケン: 私は軍隊みたいな恰好した奴らがあれこれ言ってくるのをやめさせたかっただけだった! プロジェクトを停止するのはO5しか承認できないって言ってたけど、じゃあどうしたらよかったの? 仮に真実を言ったとして、どうせ何も変わらなかった! みんなひたすら私なら独りでできるって言ってきて! そもそもO5は何がしたいの? だから私にアクセスコードを寄越したの? クソッ!
[20秒の沈黙。]
クラーケン: あいつら馬鹿でかい銃持ってた! 怖かった! 今だって怖い!
[29秒の沈黙。]
クラーケン: 何すればいいか教えてくれる? 私がどうにかする。これが私のせいだとわかってるし、この仕組みを実際のところまるで知らないこともわかってる。でもどうにかする。私はここを出てきたくて、あんたたちは諸々を箱の中に戻したい、から…… だから…… この建物の仕事全部私がやらなきゃならないなら…… それが私のすることなんだと思う。どこから始めたらいいか教えて。
[15秒の沈黙。]
ERS: 私は定型チャットのみ使用できます。
クラーケン: ホント冗談きつい。
クラーケン: さて、悪いニュースだけど、Safe棟は私が来てから着実に崩壊していってる。いいニュースは、その理由が分かったこと。063、知ってる? ファイルいわく毎日歯磨きに使わないと、放射能を出し始めるとのこと。
つまり、こりゃいい。毎日アノマリーを口の中に突っ込むだけでいい。接触した特定の種類の物質を分解するアノマリーをね。悪いことにならないことを祈る。
クラーケン: 最初の173の収容室の清掃から戻ってきた。あれは…… [間]
あそこに行くのが本当に怖かった。というか、あれが本当に怖い。馬鹿げてるのはわかってる。ここにある他のと比べれば、収容は全然簡単。でもあれの何かが、ただ…… ただ、そいつの何かが。それだけ。
瞬きしないように、片目ずつつぶろうと思ってた。でも結局その必要はなかった。コンテナのドアを開けた瞬間、あー、あの子たちが角から飛んできた。小さな錐体状の子たちで、大きな目が一つあった。コンテナの中に飛び込んで、訓練されたように173を見張りだした。
それがいいことなのかどうなのかはよくわからないけど、すごく助けになった。173を全く心配しなくてよくなった。毎回あの子たちにそうさせても問題にならないといいんだけど。
クラーケン: 131。それがあの小さな目ん玉たちの指定だった。どうやら前の収容違反のときにもやってたみたい。
毎日の巡回中、この子たちがついてくるようになった。173以外の収容室には入れないようにしてるけど。
クラーケン: どういう感じに言うのがいいかわからないから、もうはっきりと言う。SCP-682を見失った。
わかってる。馬鹿げてることは。ファイルはもう4回読んだ。一体どうやったら殺せない巨大トカゲの痕跡を見失えるの?
でも事実としてこうなってる。酸の落とし穴でくつろいでるでもなし、正面扉を破壊しようとしてるでもなし、誰かを殺戮してるでもなし — 殺戮する相手もいないから。この建物のどこかにはいる — サイトには近接センサーが付いてるから、出ていこうものなら警報が鳴るはず — なのにどうにも見つからない。
幸先のいいスタートとは言えない。682が行方不明、Safe棟の3分の1の壁がない、100以上のアノマリーが収容違反してるか、今まさにしようとしてる。それで私が何をしてるか? ここに座って、ひたすら読んでる。ここに座って収容プロトコルという収容プロトコルを読んでる。というのも、例のゼリーを食べてからわかったことなんだけど、正しい方法の学習に時間をかけれないなら、自殺した方がマシだから。
クラーケン: 間違いなくトカゲが最大の問題になるもんだと思ってたけど、一向に見つけられない。昨夜確かに屋根の上を這う音がしたはずなんだけど、監視カメラ映像は暗すぎてわからなかった。とりあえず、他の問題をどうにかする時間はできたわけだけど。
いや、一番の問題は食べ物。ここにはかなりたくさん…… インシデントログにはなんて書いてたっけ…… スキップがいる。大量にスキップがいて、ややこしい規定食とか定期的な給餌スケジュールとかがある。更に悪いことに、収容プロトコルのほとんどには承認された規定食の中身が書いてない。最初は全く見つからなかったから、こいつらに何与えたらいいかさっぱりだった。それよりもう少し人間っぽいのに訊いてみることにした。166は特に丁寧に助けてくれた。本当にいい子で、同房者についても多少なら知ってた。彼女と話すたびにバイオスーツを着なきゃいけないのは面倒だけど。
とにかく、承認済の食事リストを見つけることができた。厨房スタッフに預けているとのこと。わかるけど、公式文書にもコピー貼り付けとくぐらいすればいいのに。ほら…… この異常な状況を利用してRAISAにそうしてくれるよう要望できるかな? ここを出たらの話だけど。
[19秒の沈黙。]
クラーケン: ここを出たら、ねぇ……
クラーケン: SCP-971を使えば理論上は無限の食料供給ができる…… ただ当然ながら生物保全上の問題は生じる。計算してみたけど、週に一回メニューから注文すればやっていけると思う。地球上の他の誰もこれにアクセスできないとすれば、絶滅危惧種の個体数に与える影響はそんな大きくないはず。971が実際にはターゲットを殺してはないことに、よろしくはない安心感を覚える。
今のところ、新鮮なレタスを手に入れる方法はこれしかない。結構な数の動物型スキップが植物食が要ることを考えると、これはスケジュールに組み込まないとならない。
クラーケン: どうも、バカ疲れた。何が…… 今何がどうなってるのかよくわからない。
[不明瞭なつぶやき。]
クラーケン: 最後に食事したのがいつか思い出せない。お腹が減らない。水を飲むだけで大丈夫。機械みたい。頭の中にあるのは巡回のことと、収容室の確認のことだけ…… 多分わた、あー…… スケジュール狂ってるぽい。何かが、その、起きた。収容西棟に向かって1158に餌やって他の植物に水やって、それから…… どうだっけ。SCP-286の収容室にいたのは覚えてる。何故かゲームをやりだしてた。別の誰かがいた、財団の研究員…… 別の財団研究員。互いに話した。何を言ってたかはよく思い出せない。アノマリーだったはず。だって、ファイルを読んで……
[10秒の沈黙。]
クラーケン: その研究員は重要そうな人に見えた。多分部門長か何か。名札にはヨッサリアン・レイナーって書いてあった。あんまり…… かなり曖昧なんだけど、私のことを見てたのは覚えてる。本当にじっと。今の私と正反対。一度もゲームに目は向けてなかった。私と目を合わせようとしてた。覚えてるのは、部屋にいるのが…… なんというか…… きつくて…… その人は私を引き戻そうとしてた。私の注意を引こうと。アノマリーじゃなくて、その人が。どうしてわかったのかはわからないけど、わかる。髭があった。顔はなんか、すごい頭にこびりついてるけど…… 何を望んでたの……?
ゲームが終わると、レイナーはただ…… 消えた。
ちなみに、向こうの勝ちだった。
[52秒の沈黙。]
クラーケン: もう8ヶ月も相手のいる会話してないな。
クラーケン: もし私が自分に失敗を許せば、私は失敗する。
ERS: 説明していただけますか: 最後の発言内容?
クラーケン: ほら、私の働き方ってこんな感じなの、いい? 普通の人とは違う。普通の人は、失敗は許されないと感じると固くなっちゃう — そんで結局失敗する。私は反対。失敗を許されれば、リスクがなくなる。リスクがなければ、私は充分に頑張らなくなる。そうやって失敗する。
ERS: 違います。
クラーケン: どういうこと?
ERS: 違います。
[嫌悪のこもった叫び声]
クラーケン: SCP-9023はあんたにも影響してるのよ。あんたは私が何でもできるって思ってるけど、私は— [突然の沈黙、荒い息遣い] —何もかもはできない。無理なの。そしてそんな自分が嫌いだから、なんでもできるって信じるしかないわけ。こう考えるしかないの。だから逃げ出さずにこれを直すことに同意した。私はなんでもできる。失敗は許されない。
ERS: 異常に対処する際は、全職員が現実を透徹した目で認識することが極めて重要です。全ての事実は証明されなばならず、比喩的な思考は好ましくありません。
クラーケン: なんて?
ERS: 今日一日全力を尽くしましょう!
クラーケン: うぁ。そもそもなんであんたに話しかけてんだろ。事前に記録された台本なのに。
クラーケン: えっと、まあ危うくおっ死にかけたわけだけど、1229はどうにかなったはず。
あの…… あれは自分が本当に研究員だって皆を騙せてると思ってる。でももし誰かと二人きりになろうものなら、そいつは…… うん、よくわからない。この場所にきちんと職員が配置されれば、誰かと二人きりになることはきっとない。ドアを開けてそいつを目にしたとき…… 正直、即閉じしかけた。
それで、解決した方法なんだけど。収容室の隣の部屋に偽物の鏡があった。私はそこに行って偽の反射をオフにして、そいつが私を見れるようにした。それでひどくおっそろしいウイルスがサイトにブレイクアウトして、治療法を発見できるまで、研究員は互いに離れた部屋でしか話しちゃ駄目だって説明した。
「研究」は続けられるから心配無用とのことだった。毎日パズルか何かをドアの下から滑り込ませてやることにする。1326の食事から面白いページを切り抜いてでもやれば、大忙しにさせたままにできると思う。いつまで続くかはわからないけど、今のところは上手く行ってる。
クラーケン: 疲れてきた。またいろいろ見失いつつある。廊下が広すぎる。半分以上の日がただあっちからこっちへ歩いてるだけに感じる。
SCP-1650-1-Cを数滴与えて457の収容を戻した。い…… いつやったか覚えてない。既にこの話したかどうかも。ついでに言うと、なんでこれを録音してるのかもよくわからない。誰も聞きやしない。もし私が死ねば、それか今してることに失敗すれば、この場所全体が灰燼に帰す。私のこの言葉も何の意味もない。ずっとそう。このデータがどうにかしてサイト外に流出したとしても、誰も気にしない。どうせ私が「自分でどうにかしたんだ」って思われるから。
でもこれはSCP-9023の話じゃない。ずっと前からこう感じてたように思う。注意を引くには、自分が大きく、自信を持ってるように見せないとならない。既に自分がやることをわかってるみたいに振る舞わないといけない。一度もわかってたことなんてなかったのに。それが、誰かに関心を持とうと思ってもらえる唯一の方法だと感じてる。そしていつも裏目に出る。だって、私が自信満々に見えすぎるせいで、みんな私のことを、誰も必要としてない、欲してないなんて思うから。
でも…… 私には彼らが必要。間違いなく欲してる。めちゃくちゃ。
今この場所が人でいっぱいだったとしても、結局私は独り。
私は助けを求めるのが嫌い。友達が、やり方を覚えなきゃ死ぬって言ってたことがある。それは、まあ…… 正しかったのかもね。
[15秒の沈黙。]
クラーケン: その友達はどうなったんだっけ。お-思い出せない。9023のせい? それともここにある他の何かのせい? それとも単に、私が誰かを好きになるのが、だ…… 誰かに弱みを見せるのが、名前も顔も肩書も捨ててただ自分自身でいるのが、どんな感じかも思い出せない、半人前の人間だから? もし誰かが今目の前に現れたら — 286をプレイしたあいつが — 私はこんなに素直になれるのかな。 それとも財団の肩書を背負って、別の役割を演じることになるのかな。
完全に孤独じゃあない。話しても安全なアノマリーはいる。でもこんな風にじゃない。収容についてか、夕食に何を食べたいかの話しかできない。その、もし研究員だったら……? そういうわけでもなく、これもただの言い訳なのかも。[つぶやく] とんだお笑い草ね。
[23秒の沈黙。]
クラーケン: でもまだ私は死んでない。まだ。
[10分14秒の沈黙。]
ここ一ヶ月ほど、この端末の奥の壁にSCP-2900実例が飾られてる。金色のプラカードで、『サイト-19最優秀職員!』だって。その下に小さく、『何もしなくても。』と。捨てようかとも思ったけど、戻ってきたらまた12枚壁に飾られてるだけだろうし。
相変わらずあんまり食べてない。ほとんど寝れてない。昨夜、またSCP-286の部屋で目が覚めた。こ…… んかいはこのゲーム全く覚えてないけど…… また黒でプレイしてたと思う、んでどうせ負けた。
もしここから出たとして、一生不眠症になるでしょうね。
クラーケン: ちょっとお知らせ。サイトのどこにもSCP-3022が見当たらない。
トイレを確認したところ、案の定磁石フックは全部床に落ちてた。最初に収容違反が起きたとき、VIPはプロトコルに従って…… 出てったのね。
[16秒の沈黙。]
クラーケン: これは私のせいだ。全部。財団を引きはがす唯一の方法だと思ったから、O5-13のふりをした。結果、そのせいで、2000人以上が死んだ。少なくとも一人は次元を飛んで逃げた。次元を飛んで。それで、今私は特定のたった一人を次元跳躍させるために上層部が何千ドルもかけて専用の磁石トイレフックを置いた場所に座ってる。そしてここにふらっと入ってきて、その人らを真似しだした。
発掘現場がどんな感じだったか想像もできないでしょ。あの事態にどう反応すれば良かったの? 何を言っても、何をしても、周りのみんなは笑って、「あなたなら独りでできるよ、クラーケン!」って言ってきた。それが超パワーなのか呪いなのかはわからなかった。今なら間違いなく呪いだとわかる。
私はどうしちゃったの? なんで解決することに合意したの? [間] 「合意した」って何、誰かに頼まれたみたいな。誰もいないのに! SCP-9023の話じゃない。そこまで私はエゴイストな野郎で、そこまで自分でやらないといけないって感じてる? こ…… こんなのやってられない、わた—
[唐突に録音が停止する。]
[2分42秒の断続的なすすり泣き。]
クラーケン: どうやって知れば良かったの? 機密ファイルだったのに! しかも四千番台の!
[不明瞭なつぶやき。]
クラーケン: ほとんどの、あの…… ほとんどの4206-1が死んだ。知らなかったの……
一匹にはクレートの上の名札に「ベンジー」って書いてあった。着いたときにはまだ生きてた。恐らく、あの子はきっと…… ほら、友達の体調が悪くなる前に— [再び泣き出す] 本当に体調が悪そうで。餌を与えようとしたけど何も食べなかった。抱きかかえて、何時間も待った。何時間も。麻酔も効かなかったはず。異常性の一つで……
[13秒の沈黙。]
クラーケン: カルトゥーシュには、私がアヌビスの裁きを過ぎると書いてあった。ふざけた話。心臓はみんなアミットに喰らわれかけてる。この建物に一歩でも足を踏み入れた全員。みんなドゥアトへ、今、あなたと一緒に私も堕ちていく。そうなるべくしてなるの。
神様、でも知らなかったんです。あそこで飢えてたことなんて。知ってたら、私は…… ごめんなさい、ベンジー。本当にごめんなさい。
クラーケン: それで…… 聞いて。カフェテリアのテーブル、皿、グラスがいくつか壊れてるってのは本当? ええ。それを壊したのが私だってのは? もちろん。でもSCP-5399を8ヶ月以上も聞き続けて何も壊さずにいられるかやってみて。本気で。やってみてくれたら喜ぶ。
[5秒の沈黙。]
クラーケン: あぁやだ。うわうわうわ。また来た。こん畜—
[唐突に録音が停止する。]
クラーケン: SCP-6096が活性化した。
ファイルを読んだときからこの事態を恐れてた。そいつが標的を決めたら、外に出すことを強制させられることになるとわかってたから。最善の防衛こそがぴったりの防衛だと思ってた — 他の収容プロトコルが全部整ってさえいれば、6096にセーフモードにさせても文字通り世界の終わりにはならないだろうって。でも間に合わなかった。サイトにはまだたくさんのやつが自由になってる。682も含め。
私は正面玄関までついていった。そいつは隔壁まで歩いていった。それからただ…… 立ち止まった。待ってた。すぐに出さないといけないって衝動はなかったから、近付いてみた。そいつはこっちを向いた。それから…… 親指を立ててきた。
いや、シーツの下だから実際に見えたわけじゃないけど。もしかしたら中指を立ててたのかも。とにかく、私に許可を与えてた。まるで「準備ができるまで待ってるよ」とでも言ってるみたいに。
[30秒の沈黙。]
クラーケン: 標的は小さな女の子。9歳。どれくらい時間を稼いであげられるんだろう。セーフモードを切るまでどれだけかかるんだろう。今や、それが示すのは私の成功か失敗かだけじゃない。これは弔鐘ね。
あなたたち…… この場所にいるあなたたちに、ここでやってることに…… 最初は恐怖を感じてたかもしれない、嫌悪感を抱いてたかもしれない。でももう違う。全部腑に落ちてきた。悪い意味が。他に何ができるの? 私はセーフモードを切らなきゃならない。サイト-19を元の持ち主たちに返さなきゃならない。小さな女の子を殺さなきゃならない。今日じゃない、間違いなく明日でもないけど、いつかはそうなる。
これまでなんとかした収容プロトコルのおかげで、1日5回、30分ずつ寝る時間は取れてる。でも未だに全部の再収容は終わってない。このままだといつか死ぬことになる。この小さな箱にいつまでもはいられない。今や、私もあなたたちの一員だから。隔壁を開けなきゃならない。日の光を入れなきゃならない。そして、SCP-6096を出さなきゃならない。
クラーケン: SCP-8246が、被ったら聴覚がなくなる白い帽子を作ってくれた。SCP-4384の収容室を清掃するときは持ってくのを忘れないこと。
SCP-5376とSCP-7370の月2回のレスリング試合を観るのを忘れないこと。
SCP-8515に自分がつけられてるって知ってるってことを知らせないようにすること。
SCP-4771を見つけて使ってみるようにすること。後で身を守ってくれるかもしれない。
SCP-137は食べ物を与えるたびに髪をとかしてほしいって言ってくるから、そこに数分はいるつもりで予定を立てること。
SCP-493実例がSCP-1297の警備に当たってくれてることを忘れないこと。本当に付き合いよくしてくれてるから、時々立ち寄って挨拶した方がいいかも。
カメラの確認を忘れずに、SCP-7660、SCP-2332、SCP-1037、SCP-832……
[以降、11分27秒の同様の発言。]
[30秒のこもった発言。扉が開閉する。2つの声が端末に近付いてくる。]
クラーケン: ……死というものを信じてた。古代エジプト文化は実質的に死への準備として構築された面が強い。彼らは、生命は存在の全てじゃなくて、むしろその後に来るものへの土台だという信念の下で動いていた。それは西進と呼ばれた。彼らは死んだんじゃない — 西に行ったの、太陽を追って。ラーを追って。彼らはドゥアトで小型帆船バークに乗って、ラーと共に冥界の悪霊と戦うことになる。だから墓所は食料や衣類やその他の蓄えが — 神々と共に永遠の命を過ごすうえで必要な物資が詰め込まれた。
SCP-049: ううむ。面白い考え方だが、残念ながら大きく欠陥がある。その王国には間違いなく悪疫が蔓延っていたはずだが。
クラーケン: [きまり悪く] あぁ— その…… 多分……
SCP-049: そんなに緊張しなくてもいい、先生。[間] 貴方のポケットに入っているそのラベンダーの小枝には気付いている。
[8秒の沈黙。]
クラーケン: 私は…… [穏やかに] こんな風にあなたと話してるべきじゃないから。
SCP-049: いったい何故? 我々は共に学問の徒ではないか。共に学び、発見し、想像せんと求めている。殊に長いこと我が研究室に逗留されていた後となれば、このような知識について人と話すことは最高に清新だよ。そして貴方はこの施設を原初に還してくれた! どこにも悪疫の痕跡はない。
クラーケン: じゃあ、つまり…… 私は悪疫じゃないの?
[SCP-049は笑う。]
SCP-049: それを恐れていたのか? 自分で仰った通り、貴方は神の食べ物を食べた。悪疫はそのようなものと共存できない。
クラーケン: ……なるほど。ただ、あなたが……
SCP-049: 確かに、エジプト人はその病に苦しめられていただろうね。思うに、貴方の食べたものは予防策のようなものだ。治療とは全く異なる。だがそれはいい、置いておこう。貴方の話を最後まで聞かせてくれ。
クラーケン: えっと、もうそんなに言うこともないんだけど。予防策だったかどうかはともかく、食べたものは私わたし用のものじゃなかった。多分死んだ後に食べるものだったんだと思う。西へ旅立つ時に力と畏敬を授ける魔具。でも私は早く食べちゃって、結果…… 今、人生最大のジョークが現実になってる。今の私は文字通り助けを借りれない。全部ひとりでやらないといけない。[間] 一生ここから出られると思えない。この建物の中で死ぬんだ。そしてアヌビスが心臓を例の天秤に置いたら、結果は自明…… それはもう勢いよく傾く。
SCP-049: ううむ…… 失礼を承知で、一つ質問がある。
クラーケン: 何?
SCP-049: 何故それを食べたんだ? それが何かも知らなかったのに、何が駆り立てた?
[10秒の沈黙。]
クラーケン: 正直、説明しようがない。私って前からいつもそんな感じのわけわからんことするから。
[4秒の沈黙。]
クラーケン: ……でも、それが全部ってわけじゃない。もっと複雑なの。さっき言ったように、SCP-9023は人生最大のジョークが現実になったみたいに感じてる。私はずっと孤独を感じてた。どこにいても、何をしてても…… どういうわけか、結局自分一人でやっちゃうの。助けを求めるのが気まずいのか、助けを得るには説明が下手すぎるのか…… わからないけど、多分他の誰も気にしない。本当にそんな単純なのかもしれない。いずれにしても、ああいう開いてる瓶を見ると…… 持ってっちゃうタイプなの。誰も私を止めないだろうって思うから。
[SCP-049は冷笑する。]
SCP-049: 貴方の言っていた心臓の重さの話は正しいかもね。
クラーケン: ……あぁ。
SCP-049: [ため息] 失礼した — 今のはひどい言い分だった。つまり、貴方の視点は偏り過ぎているということだ。例えば、私を例にとってみよう。ここのような施設の運営を私が手伝えるだろうか? 当然不可能だ! 悪疫の根絶というより崇高な目的があるからね。私が崇高な目的を持っていて、貴方も崇高な目的を持っているとなれば、他の皆も同じだと思うのが道理ではないか?
クラーケン: つまり…… 何が言いたいの? みんな自分のことで精一杯だから、助けるって概念そのものが嘘ってこと?
SCP-049: 違うよ、先生。違う。全く逆だ。我々には互いを助け合う責任がある。一人一人がしていることは重要だからだ — 他人に理解できるかどうかは気にしない。
クラーケン: でも似たようなもんでしょ。互いに助け合うなんてできない。
SCP-049: 文字通りには無理かもね。それでも、貴方は視野狭窄が過ぎる。貴方が目標を達すれば、私も恩恵を受ける。要するに、罹患者が一人もいない状態で、どう悪疫と戦えばいい?
クラーケン: ……はぁ。
SCP-049: そして私は貴方を助けてきた。話すことで、貴方の孤独と闘っている。だからこそ、私を研究室から出してくれたのではないかな?
[6秒の沈黙。]
SCP-049: ハッ! 知恵比べで貴方に勝った。実に爽快だ!
クラーケン: それで…… つまり…… やった。全部再収容した。
[5秒の沈黙。]
クラーケン: ……SCP-682を除いて。
相変わらずどこ隠れてるのかわからない。わかったとて、どうしたらいいの? 所詮一人の人なのに。バラバラに引き裂かれるのが関の山でしょ。
[震える息遣い。]
クラーケン: ここで成し遂げたことは誇らしく思う。誰もこれを聞いてないとしても…… 誰も理解できるだけの認知抵抗値を持ち合わせてなかったとしても…… 誇らしい。でも、いずれは限界が来る。独りじゃどうあっても無理なことはあるんだから。
確立できた収容は…… 多分1か2年くらいは維持できると思う。そのうち何かやらかして、死ぬことになるんだ。でも多分、こんだけやったおかげで、死者数は減るんじゃないかな。本物の財団エージェントが制御を取り戻すのは楽になると思う。多分…… 役に立てた。
だから…… こちらクラーケン博士、もしくはクラーケン研究員、もしくは特別エージェント・クラーケン、もしくはHCML監督官クラーケン、もしくは何でも…… サインオフ。迷惑かけて改めて申し訳ありません。私の亡骸が恥ずかしい形で見つからないことを願います。
------
本端末の最終アクセス日は3,325日(9年)前です。進行するには資格情報を再入力してください。
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クラーケン: ねぇ。とんでもないの。見つけたんだけど。地下室に行く必要があって—
[大きな叫び声のような音でゲインが跳ね上がる。音声は金属を細断する音へと安定する。]
クラーケン: オーケーオーケーオーケーオーケー。すぐ外なんだけど、ちょっと待ちなよ。まず話するから。
サイト-387が地下室にあった。サイト-19の完璧なコピー、ただしレゴ製。完全にどうかしてる。どうかしてるものならここで散々見たけど、あんな大きい自作レゴみたいなのは—
[振動音が13秒間音声を遮る。]
クラーケン: —レゴで遊ぶのに夢中になって他のことするのすっかり忘れちゃうから。だからこれまで行ったことなかったんだけど。ただ、昨夜は何かして元気づけたくて、そしたら何を見たと思う? サイト-387は空っぽだった! たった一人のミニフィギュアがその場を取り仕切ってたんだけど、誰だと思う?
[端末の信号が一時的にロストする。外部配線の損傷が原因と思われる。信号は22秒後に回復する。]
クラーケン: —発電機に連れてってくれた。レゴ版だと、テーブルの下にある大きな灰色のブロックの部屋のことね。んでフィギュアのクラーケンが床を分解しだして—
[重い息遣いのような歪みが10秒間映像に重なる。発生源不明。]
クラーケン: —そこに隠れてた。発電機の中に。そしてそこには別の小さなフィギュアがあって、少し面食らってたんだけど、SCP-053だと気付いた。うん、その、ごまかさずに言うけど…… あの3歳の子のことはすっかり忘れて—
[端末のすぐ近くで大きな衝突音がする。約13秒間、音声が聞き取りにくくなる。]
クラーケン: —そしてフィギュアのSCP-682がフィギュアのクラーケンの頭をもぎ取った。
[突然の3秒間の沈黙。]
クラーケン: 全部わかった?
ERS: サイト-19は現在セーフモードです。ロックダウンプロトコルが有効化されています。
クラーケン: よし。そりゃよかった。あなたが私に言ったアレ、覚えてる? その…… 透徹してること。
[付近で不規則な息遣いが聞こえる。巨体が持ち上がり、瓦礫が動く。]
ERS: 異常に対処する際は、全職員が現実を透徹した目で認識することが極めて重要です。全ての事実は証明されなばならず、比喩的な思考は好ましくありません。
クラーケン: うん、それ。ありがと。
現実には、SCP-682を私一人で収容する方法はない。だからそれはしない。
O5-13の資格情報を入力してる。セーフモードをオーバーライドしてる。
助けを求めてる。
[15秒間のタイピング音、SCP-682が姿勢を立て直し、巨大な四肢が地面を打つ音で遮られる。]
ERS: オーバーライド承認。
通達
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サイト-19の全システムが再起動に成功し、機能が全面的に復帰しました。
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サイト-19セキュリティ映像
日付: 20██/9/25
時刻: 23:00
[ライブ映像が復旧する。A・クラーケンは管理室Aの奥の隅にあるコンピュータ端末の上に身体を丸めている。彼女は染みだらけの古い白衣を着用しており、極度の疲労が見て取れる。]
[天井の大まかに中央部分がSCP-682に破壊されており、現在SCP-682は背中の大きなコンクリート片を払い落している。その身体は一応の損傷を負っている。]
[収容違反が記録されると、サイレンが鳴り始める。Alexandra.aicは付近の全てのサイトにSCP-682救難信号を送信する。]
[メッセージを受信すると、財団ロゴが端末に白く点滅する。]
クラーケン: よし!
[A・クラーケンは振り返って実体と向き合う。]
SCP-682: 一人だけか……?
クラーケン: もうすぐ終わり。
SCP-682: 結構。
[SCP-682は前方に突進し、映像で巨体がぼやける。クラーケンは怯み、逃げ場のない中端末を背に倒れる。]
[獰猛な唸り声が他の全ての音をかき消す。SCP-682は見えない力に遮られたかのように前進を止める。唸り声は続き、SCP-682とクラーケンの間の空間から発せられている。発生源は後にSCP-4771-B実例と特定された。]
クラーケン: ベンジー—!?
[SCP-682はクラーケンに襲い掛かろうとするが、後ろに激しく投げ出され、首から血が噴き出す。黒い膿漿が壁と床を染め、SCP-682の首と胸に追加の噛み痕が現れる。唸り声は激高のそれとなる。]
クラーケン: クッ!
[クラーケンはなんとか立ち上がって戦場を走り、SCP-682による頭上への一撃を辛うじて躱す。]
[SCP-682の前肢が虚空を衝つ。50 cmほどの鉤爪を見えない首に巻き付ける。唸り声は高音になり、怒りと苦悶に満ちた泣き声になる。SCP-682の甲皮に爪痕が出現していく。]
[やや苦労しながらも、SCP-682はSCP-4771-B実例を自身の下に押し込み、全体重をかけて押し潰す。泣き声が突然途切れる。]
SCP-682: 死者を誘い出すとは…… 忌まわしい……
[クラーケン博士は管理室Aを出て、北方、高セキュリティ収容区域の方向へと廊下を走る。]
[SCP-682は彼女の背後、廊下へと這い出る。あふれ出た大量の血で足を滑らせるが、立て直した時点で傷は既に塞がっている。]
[カメラ映像SA12に、クラーケンが高セキュリティ収容区域の外周に到達する様子が映る。彼女は端末に接近し、最初のエアロックを開けるためのコマンドコードを入力する。]
クラーケン: お願い! ベンジーをまた死なせておいて、こんなとこで食べられるわけに—
[SCP-682が角を曲がると同時に、エアロックの扉が開き始める。クラーケンは開口部に身体を滑らせ、SCP-682の爪を辛うじて回避する。爪は扉にぶつかる。]
[カメラ映像SA9の端に、クラーケンが2番目のエアロックに接近しているのが映る。]
[カメラ映像SA10に、SCP-682が最初のエアロックの扉を構造から引き裂くのが映る。]
[カメラ映像SA8に、SCP-1021-1を介してサイト-19に進入した緊急機動部隊ミュー-9が現れる。彼らは角を曲がり、カメラ映像SA9の視界に入る。]
ミュー-9 アルファ: やれ!
[クラーケンが視界から逃げ出すと同時にSCP-682が現れる。]
[その後の映像は、続く血と銃弾の雨で概ね識別不能になる。]
作戦後報告: 23分間の交戦後、ミュー-9はSCP-682の鎮圧に成功した。死者は計2名であり、同様の収容違反に関連する平均死者数に比べて著しく少なかった。
再収容の成功報告から間もなく、サイト-19の全職員が見当たらないことを受け、ミュー-9は再度救難信号を発した。しかし、クラーケン博士を同定すると、救難信号は誤報であるとして撤回された。
クラーケン博士は深刻な精神的苦痛状態にあったものの、それ以外に負傷はなかった。
SCiPチャットによるビデオ会議
記録日: 20██/9/27
時刻: 17:00
[ユーザー A・クラーケンがビデオ通話に参加する。通話には既に11名の人物が出席している。]
R・ハートッグ博士: —馬?
L・ケアンズ博士: そう! 冗談で言ってるんじゃないぞ。恐らくあの可哀想なのは— メリアム、お前なんて言ってたっけ?
M・リッセル博士: 疝痛になっていました。納屋の中心で泡を吹いて死にました。名前はバリーです。サイト-22で愛された仲間でした。葬式をやっていた真っ最中、突然バリーが葬式の干し草ベッドから起き上がって—
R・ハートッグ博士: まさか。
T・A・ムーア博士: ……それがケアンズ博士だったり?
M・リッセル博士: 残念ながら。
[笑い]
Y・レイナー管理官: その心霊話を切り上げてしまって申し訳ないけど、今回の会議の主役が出席したみたいだ。
S・アンドリューズ管理官: やっとか。
A・クラーケン: あー、こんにちは、皆さん。
L・ケアンズ博士: どうも、トラブルメーカー。
O・中村博士: あたしならもっと言ってやるけど。
L・ケアンズ博士: やめとけ。俺のしでかしたことと比べりゃ何だってマシだ。
I・ヴァルガ管理官: 財団で最も目立ったサイトが、文字通りにも概念的にも9年間も封鎖されていた。これは雑に片づけていい問題ではありません。
S・アンドリューズ管理官: いや、ケアンズの言う通りだ。全員に自分の異常指定を与えるのがいいだろ、彼みたいに—
E・マン博士: おい、そろそろ始めるぞ。
W・ボイル博士: 管理官方、敬意をもって言わせてもらいますが—
O・中村博士: こちとらクリスマス1回台無しにしただけでキャリア終わったってのにこの女は—
S・アンドリューズ管理官: 仮にうちのサイトのエージェントが一人でもその半分レベルでもしようものなら—
Y・レイナー管理官: もういい! ここは法廷じゃない。
[3秒の沈黙。]
Y・レイナー管理官: ありがとう。この件についてたくさんの意見があることは理解しているが、イオナの言ってくれたように、9年だ、事態について話し合う時間は山ほどあった。過去起きたことについて議論する場ではない。これからどうなるか、先のことについて話し合う場だ。
A・クラーケン: えっと、あの、発言してもよろしいでしょうか? 無礼なことを言うつもりはないのですが、財団の方針については一応熟知しているつもりです。理解してます…… つまり、私がどういう状況にいるかもわかっています。規則などは読み上げてもらわなくても大丈夫です。
Y・レイナー管理官: まさに君のその態度が、君の言う…… 規則を読むきっかけになった。
A・クラーケン: え?
Y・レイナー管理官: 私のことがわかるかな、クラーケン?
[6秒の沈黙。]
A・クラーケン: ……さっぱり。
Y・レイナー管理官: ばっちりだね。かなり前、君と私は一緒にSCP-286をプレイした。確か私が勝ったはずだ。誰も気付かないと思ったのか?
A・クラーケン: えっと、いえ、そんなこと— 多分、あれはSCP-9023のせいで—
Y・レイナー管理官: わかったことなんだが、そのアノマリーは、君に直接関係する認知にのみ影響する。286の収容プロトコルからご存じだろうが、それを職員がプレイすることはポリシー違反だ。更に言うと、そのような事態は定期試験によって完全に防がれるはずなんだ。
E・マン博士: 重要なのは、ヨッシ管理官が戦術神学部門会議の真っ最中に消えたとき…… 大勢がそれに気付いたということだ。
T・ウェルド管理官: サイト-19に職員がいないことに複数の財団職員が同時に気付き、複数サイトレベルでのパニックが発生。当然ながら調査を試みたところ、あなたを見つけた — そして即座に、状況は制御下にあると結論付けた。
L・ケアンズ博士: ……またSCP-286に強制的にプレイさせられるまでな。デジャブだ。
W・ボイル博士: まあ、毎回ではありません。13回中7回は財団職員に影響を与えなかったので、あなたは民間人と対戦していたはずだと考えます。
I・ヴァルガ管理官: 付け加えておくと、そのこと自体が政策上の懸念を提起するものではあります。ですが一旦置いておきましょう。
R・ハートッグ博士: ちょっと喋っても? 状況を甚だしく単純化しすぎているようだが。何もSCP-286のシステムだけで気付いたというわけでは全くない。サイト-19には、他の財団サイトに提供するオブジェクトやリソースが大量に存在する。その発注が何一つ履行されなかったときの反応は想像に難くないだろう。
T・A・ムーア博士: ……だけどそしたらHMCL監督者が「心配するな、お前ら! クラーケンがなんとかしてくれるぞ!」って言ってきて、そしたら全部忘れられる。次の事態まで。
Y・レイナー管理官: 細かいところをいちいち話さなくてもいい。要点は、我々にはサイト-19にアクセスしようとする理由がたくさんあったにも拘らず、SCP-9023のおかげで何度も無関心になってしまうということだ。これが数ヶ月続いて、ようやく問題を捉えて、それに対処するチームを組織することができた。
A・クラーケン: そもそもこの会議をどうやって始められたのかも疑問に思っているのですが。
Y・レイナー管理官: SCP-9023過大評価しすぎだね。確かに表面的にはとんでもなく破壊的だけれど。だがその効果は君の行動に左右される。みんないかなる異常性も受けることなく、安全に君と意思疎通できる。だが万が一、例えば、君が自分は管理者だと主張しようものなら、ここの全員がそれが事実だと非常に思いたくなってしまうだろう。
S・アンドリューズ管理官: それで、そのような利口なアイデアを抱く前に知っておいてほしいのは、今現在、O5評議会は自身及び管理者の役割についてノウアスフィアのグリフを確立させているということだ。だから、もし今も自分の脳波や心拍が大切だと思っているなら、自分が彼らの誰かだと主張して回るのはお勧めしない。
A・クラーケン: いえいえ、信じてください。もうあんなの二度とごめんです。ただ…… これに従えれば。皆さん予防接種を受けてらっしゃるのですか? 私と話すために?
Y・レイナー管理官: いいや、実はね。私はこの会議の前に何も受けていない。何故なら、起きようものなら — 結局君を信じてしまうからね。
M・リッセル博士: あくまであなたの場合はですが。私は成馬の動きを著しく阻害するほどの認知抑制剤を摂取しています。
T・A・ムーア博士: 会議中ずっとそれを言いたくてウズウズしてたのか、メリアム?
M・リッセル博士: つい2分前から、です。
I・ヴァルガ管理官: 元の話題に戻りましょう…… 予防接種を受けている者もいます。受けていない者も。それが重要なのでしたら言っておきますと、私は受けた側です。あなたがどれだけ最善の意図を持っていたとしても、つい間違ったことを言ってしまう可能性はありますから。
L・ケアンズ博士: 受けてない一派の一員として言わせてもらうと…… ヨスに賛成だ。お前は教訓を学んだことだろう。
O・中村博士: そりゃ保護されてない神経の持ち主にゃ簡単に言えるでしょうね。
L・ケアンズ博士: じゃあお前の保護されてる神経は違う風に言ってるのか?
[3秒の沈黙。]
L・ケアンズ博士: ちょっと思っただけだ。
W・ボイル博士: 実際問題、意味のない話です。SCP-9023を扱うためだけに新たな予防接種を開発しましたが、それでも成功率は部分的です。
S・アンドリューズ管理官: おい、本人の前でそれを言うな!
A・クラーケン: その、そ…… そんな大したことではないとわかっているのですが、すみません。どうして皆さんが私を信じてくださるのか理解できません。
E・マン博士: まあ、我々の視点から想像してほしい。非常に効果の強い認識災害実体が最大規模のサイトを一つ掌握した結果…… できる限りプロトコルを維持することを選択した、と。
A・クラーケン: 自分勝手にですよ。私は出ようとしただけです。
E・マン博士: 変だな、今すぐ逃げ出そうという様子もないようだが。
L・ケアンズ博士: 謝らなくていい、クラーケン。
A・クラーケン: わ—
L・ケアンズ博士: 既に十分な罰は受けただろ? どこかで、それを受け入れなきゃならない。信じろ。なあ。
[10秒の沈黙。]
Y・レイナー管理官: この状況は確かに特殊だ。しかし初めてではない。ラックがほのめかしたように、彼自身もある異常の対象になっている。私自身もそれなりに災禍に見舞われてきた。それと話を聞いたことがあるかもしれないけれど、お茶子がある年のクリスマスの任務で—
O・中村博士: オーケー、詳細は知らなくても生きてけるから。
W・ボイル博士: 私たち一人一人に自分の物語があります。
R・ハートッグ博士: そのうち自分の話だって聞かせたいね!
I・ヴァルガ管理官: その頭の中にあったアノマリーのせいで、私は大切なエージェントを失いました。彼女は結果に向き合うよりも、逃げだすことを選びました。その行動自体は彼女の責任ですが、問題はそこではありません — 私の管轄下にあったのですから、私が防ぐべきでした。[間] 私はあなたを信じていません、クラーケン。しかし、あなたが自分の能力を示せるとは信じています。
A・クラーケン: 能力を示すのをやめることにはならないのですか?
I・ヴァルガ管理官: なりません。
Y・レイナー管理官: これについては十分話したと思う。君が推察したように、ここから二つの選択肢がある。一つは、君の指定を確定し、SCP-9023の影響を二度と心配する必要のない、設備の整った収容室に収容すること…… もう一つは、指定を確定した上で、君が我々の雇用オファーを受け入れることだ。
A・クラーケン: 本当ですか?
Y・レイナー管理官: 本当だ。この提案はO5-13が自ら承認した。本物のO5-13、その人。
T・ウェルド管理官: どれだけ強調しても足りないほどに、あなたはサイト-19を救った。そもそもあなたのせいであの状況になったことは置いておいて。あの時のあなたの決断は…… 理想的だった。
S・アンドリューズ管理官: まあ、もう少し早くセーフモードをオフにしても良かっただろうが。
T・A・ムーア博士: 私個人としては、是非チームに加わってもらいたいね。
T・ウェルド管理官: ただしもう一つ言っておく、クラーケン。これは収容されるか自由の身かという選択じゃない。これは責任の問題だ。雇用を選ぶなら、あなたは相当な重荷を背負うことになる。生涯にわたり、あなたはこのアノマリーの効果を管理し、説明責任を負うことになる。
[10秒の沈黙。]
A・クラーケン: その通りですね、当然。[間] 私は失敗するかもしれません。それは念頭に置かれて……?
L・ケアンズ博士: ずっと念頭には置いてる。
A・クラーケン: でしたら受け入れます。
Y・レイナー管理官: それは良かった。書類を用意しておこう。評議会の代表者が直接話したいそうだ。他の皆に関しては — 会議休止だ。
[I・ヴァルガ、M・リッセル、T・A・ムーア、O・中村、L・ケアンズ、R・ハートッグ、T・ウェルド、S・アンドリューズが退出する。]
W・ボイル博士: 頑張ってください、クラーケン。
[W・ボイルが退出する。]
E・マン博士: ちょっと待った。あれがゼリーだった理由は判明していただろうか?
Y・レイナー管理官: 会議を出るんだ、エヴァレット。
E・マン博士: でもゼラチンが発明されたのは—
Y・レイナー管理官: エヴァレット。
E・マン博士: うあぁ、わかった。
[E・マンが退出する。
Y・レイナー管理官: よし、じゃあ。書類—
A・クラーケン博士: レイナー管理官?
Y・レイナー管理官: うん?
A・クラーケン博士: 助けてくださりありがとうございます。
Y・レイナー管理官: ……どういたしまして、クラーケン。次はもう少し早く助けを求めてほしいな。さて、代表者と協議する必要があるから。すぐ戻る。
[Y・レイナー管理官はカメラ映像を切る。]
[15秒の静止。]
[自身のカメラ上で、クラーケンは端末から立ち上がる。彼女は背後の窓に向かう。窓で、空が三角形に切り取られて見える。]
[太陽が沈みかけている。クラーケンは顔をそちらに向ける。]
[彼女と陽は、互いを暖かく見つめる。]