アイテム番号: SCP-920
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: SCP-920の収容にあたっては、無線、携帯電話、Wi-Fi、Bluetooth、マイクロ波、赤外線、その他あらゆる電子的通信手段を遮断可能な形でシールドされた収容室の内部にファラデーケージを設置し、さらにケージ内に湿度調整機能つきのロッカーを設置してください。SCP-920はこのロッカーに保管して収容するものとします。また、SCP-920のペーパートレイとトナーカートリッジは、本体から取り外した上でそれぞれ個別のロッカーに収め、本体とは別の施設にて保管するものとします。いかなる場合においても、SCP-920を電源や通信ネットワークに接続すること、およびペーパートレイやトナーカートリッジに用紙やインクをセットすることは禁止します。
SCP-920に関する解析文書は、アシッドフリーペーパーを用紙として用い、必ず手書きまたは機械式タイプライターによって作成してください。参照用の複写文書も、電子コピー以外の手段で複写したもののみを使用することとします。SCP-920の収容担当者ならびに研究担当者のブリーフィングは、可能な限り直接対面して口頭で行うようにしてください。
ポリシーディレクティブK-23396-D6に基づき破棄されました。
説明: SCP-920は、███████社が200█年に製造販売した製品に類似した外観を有するネットワークプリンタです。モデルナンバーの表記はE466atとなっていますが、███████社の製品には該当するモデルは存在しません。内部の部品は通常のプリンタと同様のものであり、特に異常な点は見られませんでした。
SCP-920の動作を制御している組み込みソフトウェアは複雑なアルゴリズムを持ち、SCP-920の印刷機能や、SCP-920と直接的・間接的に関わりを持ったコンピュータ、システム、ネットワーク、デバイスなどの動作に超常的な影響を及ぼす性質を有しています。その影響力の発現の度合いは、以下に示すようにいくつかの段階に分かれており、各段階ごとに影響力の強度は異なります(なお、必ずしも以下の段階順に従って発現が進むわけではありません)。
段階 |
詳細 |
01 |
特に異常は生じない。 |
02 |
SCP-920を用いて印刷を行う際に、紙詰まりが生じたり、トナーからインクが漏れたり、あるいは何らかのエラーコードが表示されたりといった問題が時折発生するようになる。 |
03 |
第02段階と同様の現象に加え、SCP-920によって印刷された文書の内容に、時折オリジナルのデータとのわずかな差異が生じるようになる。 |
04 |
第02~03段階と同様の現象に加え、SCP-920と同じネットワークに接続されているプリンタ(機種や構造は問わない)も、第3段階のSCP-920と同じ挙動を示すようになる。おそらくはSCP-920からコンピュータウィルスの形でコードが送信され、他のプリンタの動作を狂わせているものと思われる。 |
05 |
第02~04段階と同様の現象に加え、SCP-920、および同じネットワークに接続されている他のプリンタが、オリジナルのデータと全く異なる(内容が正反対であったり、大きく意味が異なったりする)文書を印刷するようになる。 |
06 |
第02~05段階と同様の現象に加え、異常現象を起こしているプリンタの付近に存在する電子機器類(内線電話システムやコピー機など)も異常な動作を始め、発信者不明の電話着信、コピー機の紙詰まり、電話音声への雑音の混入、コンピュータ内のファイルの改変などの現象が発生するようになる。プリンタから他のハードウェアへとアルゴリズムが伝播する原理は不明。 |
07 |
第02~06段階と同様の現象に加え、異常動作を起こしているハードウェアと同じネットワークに接続されているコンピュータが、メール、PowerPointのプレゼンテーションファイル、紙のメモなどの送信や作成を勝手に行うようになる。ボイスメールシステムは発信者不明のメッセージを再生し、内線電話からは組織内の人物の声や喋り方を模倣した内容の音声が流れる。これらの文書や音声通話は、ネットワークを利用している組織の内部で普段交わされているものと同様の形式を取っていることがほとんどであるが、その内容は組織の活動方針の変更を宣言したり、組織の関係者に様々な行為を指示ないし禁止したりするものとなっている。 |
08 |
第02~07段階と同様の現象に加え、異常現象の影響下にある機器が存在する建造物全体に渡って、設備類の異常動作(エレベータのドアが開かなくなったり急激に閉じたりする、給湯システムから極度に高い温度の湯が流れる、空調システムから汚染物を含んだ空気が流出する、電気配線が激しくショートする、扉の電子ロックが解錠できなくなるなど)が発生し始める。 |
09 |
第02~08段階と同様の現象に加え、異常現象を起こしているシステムの付近に一時的にでも存在していたことのある電子機器や機械装置類(異常現象の影響下にあるネットワークが存在する施設内に持ち込まれたことがある携帯電話、その携帯電話が車内に持ち込まれたことがある自動車、その自動車の付近に存在する電子システムなど)が全て、同様の異常現象を発生させるようになる。 |
SCP-920のアルゴリズムに汚染されたシステムを使用している組織は、その活動内容に大きな影響を受けることになります。異常現象によって生成される文書や音声通信は、ターゲットとなる人物に命令を出す権限のある人物や部署からのものであるかのように偽装されており、結果として特定の活動方針の採用、管理体制の変更、本来ならば組織の目的とは合致しないはずの意思決定などが行われるためです。SCP-920のアルゴリズムがこのような振る舞いを見せる目的や意図は明らかになっていません。
SCP-920が組織内の人物に取らせようとする行動や意思決定の中には、SCP-920のアルゴリズムの拡散速度を速め、その妨げとなる行為を妨害するような性質のものが含まれており、特に前述の第08および第09段階は、SCP-920のアルゴリズムが妨害を受けることを防ぐ必要がある場合にのみ発現することが判明しています。このことから、SCP-920のアルゴリズムには一種の自己保存機能が備わっていると考えられます。
回収記録: SCP-920は、20██年に██████保険会社の本社ビルにおいて発見され、回収されたものです。回収当時、既に同社は倒産しており、破産管財人の管理下に置かれていました。倒産前の同社は、適性を持たない従業員を責任ある地位に昇格させることを繰り返し行っていたようです。そのような人事異動が始まったのは、同社がSCP-920をオフィスに設置してから約5ヶ月後のことであると思われ、これは同社の保険査定や人事業務における不自然な方針変更が行われた時期とも一致しています。
同社の情報技術責任者補佐の役職にあったジャーメイン・████氏が死亡し、その遺体を財団のエージェントが回収した時点で、財団はSCP-920の存在を把握しました。遺体が発見されたのは████氏の自宅のガレージに停車していた自動車の車内であり、現場検証の結果、同氏は車内に乗り込んでエンジンを起動したものの、ガレージの自動ドアや車のパワーロックが作動しなかったために一酸化炭素中毒で死亡したものと考えられています。同氏が所持していた手書きのメモには、SCP-920を廃棄処分として破壊する計画の概要が記されていました。