SCP-927-JP
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生物由来物ユニット-Aから回収された瓶。画像は色調補正をかけて異常性を消去している。

アイテム番号: SCP-927-JP

オブジェクトクラス: Euclid

特別収容プロトコル: SCP-927-JP-1は無力化されたうえでサイト-81██の収容室に収容されます。SCP-927-JPを含んだ分泌液は収容室の床に設置された排水溝によりSCP-927-JP用加熱室に連結され、1日に1度、150℃以上で1時間加熱されたのちに廃棄されます。収容室に窓は取り付けられず、監視カメラの映像はモノクロに処理されます。清掃は1週間に1度、設置されたシャワー設備により自動で行われます。SCP-927-JPへの直接の接触はできる限り避けてください。接触する必要に迫られた場合は標準的な防護服と色調調整ゴーグルを着用したDクラス職員を使用し、作業後にクラスC記憶処理を施してください。

説明: SCP-927-JPはヒトにのみ感染する異常プリオンたんぱく質です。SCP-927-JPは114℃以上に加熱されると変性し、全ての異常性を喪失します。SCP-927-JPは経口摂取などで人体に侵入した場合、血中で他のたんぱく質に感染し増殖します。SCP-927-JPに感染したヒトはSCP-927-JP-1に指定され、その体は腐敗への耐性を得ます。SCP-927-JP-1は生命機能停止後も、身体の半分以上を損傷しない限り未知のプロセスによって血液を生成し続けます1

正常な色覚を持つヒトがSCP-927-JPの含まれた血液の色を視認した場合認識災害を受け、SCP-927-JPを含んだ血液を、『この世で最も素晴らしい味と香りを持ったいちごジャムのような液体であり、ヒトに必要な栄養素全てを兼ねそろえ、感染性を持たない理想の食材である』と認識します。また、この認識に反する情報を得た場合は、情報自体への誤認識がときに記憶の改竄を伴ってもたらされます。

現在収容されているSCP-927-JP-1は、集落で発見されたSCP-927-JP-1-Aと収容違反で新たに発生したSCP-927-JP-1-B,Cの合わせて3体2と、下記の実験後終了されたD-92701であるSCP-927-JP-1-Dの合計4体です。

回収記録: SCP-927-JPは長野県の山中の集落で発生した集団餓死事件によって財団に発見され、サイト-81██の生物由来物研究ユニット-Aに収容されましたが、生物由来物ユニット-Aで発生した収容違反後、サイト-81██のメインサイトに収容されることになりました。

会話記録1: 以下は、Dクラスを用いたSCP-927-JPの実験の会話記録です。

会話記録2: 生物由来物ユニット-Aでの収容違反は、サイト-81██に別件で派遣されていたエージェント・瑳會によって発見されました。発見時点で、すでに収容違反発生から半年が経過していました。以下は当事案終息時、唯一生命活動を維持していたSCP-927-JP-1-Cに対する聴取の記録です。

対象: SCP-927-JP-1-C

インタビュアー: エージェント・嵯會

付記: 対象はもともと██研究員と呼ばれていた職員でした。対象は収容違反鎮圧時、エージェント・瑳會によって救出されています。また、対象は過去SCP-███-JPに曝露した際、色覚を失っています。

<録音開始>

エージェント・嵯會: おはようございます、██研究員。これからインタビューを行います。

SCP-927-JP-1-C: 昔の名前はよしてくれ、今の僕はSCP-927-JP-1-Cだ。下っ端とはいえ財団職員だったんだ。それくらいわかってる。

エージェント・嵯會: ……それではSCP-927-JP-1-C、まず現在の体調を教えてください。

SCP-927-JP-1-C: 収容違反の直後とくらべて、だいぶ良くなったよ。君のおかげだ。知っての通り、SCP-927-JPの精神的影響は受けていない。

エージェント・嵯會: わかりました。それでは収容違反発生時の状態を教えてください。

SCP-927-JP-1-C: SCP-927-JPが収容されてすぐに、すでに精神汚染は始まってたんじゃないかな。その時僕は長い出張に出ててユニットにいなかったから、詳しくはわからない。ただ、10人くらいしか職員がいないユニットだったから、広まるのは早かっただろうね。

エージェント・嵯會: なぜ、被害が拡大してしまったのでしょうか?

SCP-927-JP-1-C: ああ、それはSCP-927-JPには中毒性があるみたいなんだ。長い間摂食しないと禁断症状を起こす。麻薬みたいにね。そもそもあのSCiPはおかしいんだ。

エージェント・嵯會: それは、どんなところが?

SCP-927-JP-1-C: プリオンっていうのは生き物じゃないんだ。だから、子孫を残そうとはしない、つまり自分を拡散しようとはしないんだ。あんまりね。それに対してSCP-927-JPは認識災害にしても、まるで積極的に自分を拡散しているようだろう? 僕は、その特性に、SCP-927-JPが拡散されて得する存在の影を感じずにはいられないんだ。……ああ、話がそれたね。話を戻そうか。

エージェント・嵯會: はい。あなたはいつ頃ユニットに戻ったのですか? また、その時の状況は?

SCP-927-JP-1-C: ちょうど収容違反発生から3か月くらいたったころかな。帰ったときには、ちょうど昔僕が実験で利用したDクラスの死体があって、そこから溢れてくる血を██博士がぺろぺろ舐めて確認しているところだった。██博士ってのは僕の同期で、僕の檻の前で無力化してたSCP-927-JP-1だ。研究熱心で、正義感の強い、私の親友だよ。

エージェント・嵯會: あなたはその後どうされましたか? 

SCP-927-JP-1-C: もちろん██博士に聞いたよ。そのDクラスは何だって。そしたら彼は、Dクラスなんてどこにいる、これはSCP-927-JP-1だぞって言ったんだ。財団的な言い回しじゃなく、本気で死体になったDクラスのことを忘れてたみたいだった。

エージェント・嵯會: SCP-927-JPによる記憶の改竄ですね。あなたが外部に連絡を取らなかったのはなぜですか?

SCP-927-JP-1-C: 連絡しようとしたにきまってるじゃないか。でもできなかった。知っての通り、ユニットは機密研究を行うところだ。当時は██博士によって厳しい情報規制が敷かれていて、外部への連絡が経たれていたんだ。僕以外の職員はみんなSCP-927-JPの影響下だったからね。

エージェント・嵯會: では、どうされたんですか?

SCP-927-JP-1-C: ひとまずはみんなに話を合わせた。遅かれ早かれこの状況に誰かが気付いて、助けてくれると思ったからね。そのために僕は、食堂で出される僕とってはただの血と変わらないいちごジャムを我慢し続けた。このころはまだ、パンや野菜も残ってたんだ。不自然に思われると何をされるかわからないから、いちごジャムという名のSCP-927-JPは絶対に食べなきゃいけなかった。でも、ある時事件が起こってしまった。

エージェント・嵯會: 何があったのですか?

SCP-927-JP-1-C: SCP-███-JPの収容違反が起こって、研究員が一人死んだんだ。そのころにはサイドメニューもなくなって、食べ物はSCP-927-JPだけになってたから、多分栄養不足で注意力が落ちてたんだと思う。収容違反自体はすぐに収束した。死んだ研究員は素直で、思いやりがあって、とにかくみんなに好かれてた。でも、みんなは、あいつのことを忘れて、食堂で出されたあいつの血を迷いもなく飲みだしたんだ。僕は飲む気になんてなれないから、残そうとした。そしたらみんなが、貴重なSCP-927-JPを残すのは許されないって怒りだしたんだ。それで、僕は……うっ、おぇっ……

エージェント・嵯會: 無理に話さなくてもかまいませんよ。

SCP-927-JP-1-C: ……いや、大丈夫。ありがとう。そのあと僕は、もう耐えられない、このままじゃダメだと思ったんだ。助けが来る気配もなかったからね。だから、ユニット内に記憶処理物質を充満させる計画をたてた。それはもう、綿密な計画だったはずだ。でも、実行はできなかった。

エージェント・嵯會: なぜですか?

SCP-927-JP-1-C: 僕も空腹で注意不足が欠如してたんだ。計画を実行するその日に、計画が██博士にバレてしまった。僕は██博士に説得を試みたけど、もちろん成功しなかった。それで僕はSCP収容用の檻にぶち込まれることになったんだ。

エージェント・嵯會: そのあとはどうなりましたか?

SCP-927-JP-1-C: 閉じ込められていたからよくわからない。でも閉じ込められててよかったよ。みんなが[削除済]するのを生で見なくて済んだからね。

エージェント・嵯會: ██博士はなぜあなたの檻の前で亡くなっていたのですか?

SCP-927-JP-1-C: 彼は、ユニットの混乱の中で僕がばらまこうとしてた記憶処理物質を浴びちゃったんだ。それで、やっと僕の説得を理解したらしい。彼は自分の目をつぶして、僕のところまで壁伝いに歩いてきたんだ。

エージェント・嵯會: それで?

SCP-927-JP-1-C: 彼は僕の檻によりかかって、ひたすら泣いてたよ。もう、一目では彼とわからないくらいやせ細って、頼りない背中だった。そして、涙も出なくなったころに、掠れた声で、「やっと世界に貢献できると思ったんだけどなあ」って呟いて、そのまま動かなくなったよ。君たちが到着したのはその直後だ。収容違反の流れはこんな感じ。

エージェント・嵯會: はい、これで十分です。

SCP-927-JP-1-C: じゃあ一つ、要望があるんだけど。

エージェント・嵯會: なんですか?

SCP-927-JP-1-C: ちょっと疲れたんだ。色々とね。助けてくれた君には申し訳ないけども、長い休暇を貰って、ゆっくり、ぐっすり眠りたいんだ。

エージェント・嵯會: ……そうですか。私の方から申請しておきます。……本当に申し訳ない。

SCP-927-JP-1-C: ……泣いているのかい? 君が謝る必要なんてないさ。気に病まないでくれ。これは起こるべくして起こったことだからね。

<録音終了> 

補遺1: エージェント・瑳會によるSCP-927-JP-1-Cの終了申請は受理されました。

補遺2: SCP-927-JP-1-Cの発言に基づく再調査の結果、SCP-927-JP-1-Aの首筋に、未知の生物の牙によるものと思われる、2つの傷が認められました。

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