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SCP-9500: "ヴェール"
ほえる縁端。
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タイトル: SCP-9500 - ヴェール
翻訳責任者: Witherite
翻訳年: 2025
原題/リンク: SCP-9500 The Veil
著作権者: HarryBlank,
MrBadFellow,
Placeholder McD
作成年: 2025
初訳時参照リビジョン: rev.27
SCP-9500の画像(推測)。
特別収容プロトコル: このファイルは封印されました。監督評議会はその内容、および推測されるSCP-9500のさらなる収容プロトコルの制定に関して、唯一の権限を保有しています。.管理者オフィスの永続指令に従い、この対象はPenumbraクラスに指定されました。定義は利用できません。
評議会布告2025/09/07により、全会一致
説明: SCP-9500は、Homo sapiens sapiensの大多数が超常現象の存在を認識することを防ぐ、仮説上の認識阻害です。
収容部門の見解は、SCP-9500はそれ自体は存在せず、それが主張する効果は正常性ヴェールが効果的に執行されていることを示しているにすぎません。
SCP-9500研究チームの仮説は、正常性ヴェールとSCP-9500は同一の存在です──すなわち、ヴェールはそれ自身が本質的に異常です。
補遺9000-1: 調査
SCP-9500の存在は、2025年に初めて仮説立てられました。ブラッドリー・フェローズ博士は、以下の理由により正常性ヴェールは実際的に維持できないと主張しました。
- 世界中における異常現象の量や分散。
- 国際的な高速通信システムの発達。
- 正常性執行に敵対的な要注意人物、団体の既知の能力。
この問題が微妙な問題であることから、監督評議会はフェローズ博士の研究作業の補助、評価を行うための管理的協働者を要請しました。カレン・T・エルストロム博士がこの任務に志願し、熟考の上志願者にふさわしいと見なされました。
エルストロム博士は関連性のある財団部局や同盟組織と連携することに決め、フェローズ博士は分析的フィールドワークを行うことにしました。2人は定期的に会合し、調査結果を議論し、理論立て、さらなる研究方法を提言することにしました。
正常性ヴェールについての全ての問題に関する主要な権限を主張していたのが収容部門であることから、エルストロム博士はまずその管理官とインタビューするよう指令されました。
Q: 正常性ヴェールの維持における収容部門の役割を概説してください。
A: 多様です。
この惑星の全ての電子的コミュニケーションは、大陸全土を覆う回線交換機によって監視され、人工知能徴募員によって分析されています。衛星監視装置によって、地上、大気中、水中を含む惑星全土の継続監視を確保し、赤外線イメージングやELIDARによって監視は地下にまで拡張されています。無人、有人宇宙船によって、太陽系全体に対しても同様の監視を維持しています。私たちは、政府、警察、民間活動において現在稼働している全ての追跡装置やカメラへのアクセス権を有し、また、ラジオやテレビの無線、加えて電話やインターネットのネットワークサービスの即時支配権を有しています。全てのコンピューター装置や「スマート」家電の遠隔操作も可能です。
この部門は、人口が1000人を超えるあらゆる居住地に、1名から数千人の工作員を有する最低でもアウトポスト級の戦力の施設を維持しています。私たちは、全世界の政府、全ての刑務所システム、全ての政治団体、全ての宗教団体の内部に潜入しています。また、任務部隊部門と協働し、世界中で多様な専門分野を持つおよそ912の対応部隊の動員、展開を可能としています。どのような地理的位置に対しても、1時間以内に即時展開することが可能です。大都市部であれば、数秒単位で対応可能です。
私たちの活動は、707のフロント企業と、数は極秘ですが、多数のセーフハウスによって隠匿されています。あらゆる予測可能なデータ漏洩やニュース報道、内部告発に対するカバーストーリーや緊急時計画があります。どのような捲られたヴェールや壊された虚構シナリオであっても、影響が人類の25パーセントまでであれば、完全に無効化することが可能です。その閾値以上のシナリオを無効化するためのメカニズムはあまり最適化されていません。私にその詳細を開示する権利はありません。
Q: 正常性ヴェールは異常の影響の結果である、という説明は納得できますか?
A: この部門の活動によってヴェールの有効性を十分説明することができます。他の複合的な影響は不要です。
Q: この現状はどれだけの期間持続していますか?
A: 最低でも2世紀です。
Q: その期間、どれだけの異常なオブジェクトや出来事、人物などを財団は目録化しましたか?
A: 主要な対象は9000以上です。副次的な対象は10万に達しつつあります。
Q: それでは、回復不能なヴェールの損害はどれだけ発生しましたか?
A: ゼロです。
Q: それは統計的にあり得なくありませんか?
A: この惑星でどれだけの市民がSCP財団職員であるかご存知ですか?
Q: およそ50万人と聞いています。
A: それよりはるかに多いです。人類の16人に1人は財団のために働いています。
Q: それでも、95パーセント程度はヴェールの向こう側です。
A: 要注意人物、要注意団体、異常コミュニティーのメンバーを計上しなければそうなります。彼らもヴェールのこちら側にいますし、自身の安全のためヴェールを頼っています。
Q: では、10人に1人でしょうか。
A: およそその程度です。
Q: 人類の10パーセントであれば、残りの90パーセントの取り組みを相殺できると言いたいのですか?
A: いいえ。経験からは、向ヴェール関係者と反ヴェール関係者の最適比率は1:1です。
Q: それでは何を言いたいのですか?
A: 人類の10パーセントがもう10パーセントを王手に掛けており、残りの人々の無知を維持する任務は無視できるほど容易であるということです。
フェローズ博士はエリア-08-Cの財団任務管制室に移動し、SCP-179──地球上の生命の危険を物理的に示すことが知られ、ゆえにヴェール維持の異常な補助として活動しているThaumielクラスSCP──と接触しました。
<転写開始。>
<探査機DSCOVR-3がSCP-179に近づき、太陽の南極点から40000km付近で自転に対して固定する。SCP-179は振り向いてDSCOVR-3を認識する。>
民間望遠鏡撮影によって視界に収められる寸前の異常水星軌道内現象(SCP-179)。
SCP-179: あなたが見えるわ。私のことは見える?
フェローズ博士: ああ、見える。
SCP-179: どう見えるかしら?
フェローズ博士: 太陽上の煙のように。
SCP-179: とても素敵ね。何が望みかしら?
フェローズ博士: なぜ君が私たちを見守っているのか知りたい。
SCP-179: 私は見張り番。
フェローズ博士: そうだ。私たちに見張り番はなぜ必要なんだ?
SCP-179: あなたは自分自身を見張っていないわ。
フェローズ博士: その理由を知っているのか?
SCP-179: ええ。
フェローズ博士: 教えてくれないか?
SCP-179: きっと見えないでしょう。
フェローズ博士: なぜそう言うんだ?
SCP-179: あなたには決して見えない。私の兄弟の太陽は光。私はあなたをその光で見ている。彼はどの方向をも見ている。けれどもあなたは半分の影に隠れているわ。私はその影を見られない。あなたはその影の向こうを見られない。彼女はあなたから顔を背けて泣いているわ。
フェローズ博士: 泣いている? ヴェールが泣いているのか?
SCP-179: 彼女の声が聞こえるかしら? 孤独な声よ。彼女は心を痛めている。あなたはそれから目を背けている。あなたは自分の顔を隠しているわ。
フェローズ博士: どういう意味なのか教えてくれ。
SCP-179: もう教えたわ。あなたは忘れているのよ。
フェローズ博士: もう一度教えてくれ。
SCP-179: いいえ。あなたは自分自身で真実を見つけないといけないわ。
フェローズ博士: 理解ができない。
SCP-179: あなたには見えない。
フェローズ博士: 説明してくれ。
<SCP-179は不快感を示す。>
SCP-179: 私はすでに見た。
<転写終了。>
以上の予備調査を完了し、エルストロム博士とフェローズ博士はSCP-9500の調査方法を議論するため初めて会合しました。
<転写開始。>
<エルストロム博士は地下のサイト-232直上にあるショッピングセンターのレストランに入る。フェローズ博士がボックス席で待ち、メニューを眺めている。このレストランに他の人はいない。>
エルストロム博士: フェローズ博士?
<彼は目を上げ、立ち上がってエルストロム博士と握手する。>
フェローズ博士: ブラッドと呼んでくれ。メニューはいるか?
<彼は再び座る。エルストロム博士は立ったままである。>
エルストロム博士: 機密の場所で会合すべきだったと思うわね。
フェローズ博士: ストラスロイ・カラドック・プラザはデッドモールと言われている。人が来ることは滅多にないのに、店は全て特に理由もなく開いている。デッドモールのレストランに入る人なんてさらに減るさ。しかもこのレストランはピザハットだ。ピザハットに入る人なんて一人もいない。
<エルストロム博士は顔をしかめる。>
フェローズ博士: しかもここは私たちが運営している。
<録音上の沈黙。>
フェローズ博士: しかもピザがタダと来た。
<エルストロム博士はため息をつき、席に座る。>
フェローズ博士: 丸見えの場所なのに隠れている。この状況には適切、だろう?
エルストロム博士: 多分そうね。
<彼女はテーブルの上で手を組む。>
エルストロム博士: この調査の題材を選ぶことになった理由は何かしら、フェローズ博士?
フェローズ博士: ブラッドだ。まあ、ううん。私たちは財団内文化の小さな側面を研究して、その起源が一部異常であることを発見したんだ。それでもっと俯瞰的なことについて考えた。私たちが頼りにしているものについて。それで頭に浮かんだ──メニューはいらないのか?
エルストロム博士: いらないわ。
フェローズ博士: ヴェールが私たちの努力で保たれていないのなら、あるいは機能を維持しているのが物流と能率だけでなかったのなら、それは本当に深刻な問題ではないか? と。周りに訊いてみたんだが、レベル4セキュリティクリアランスでアクセス可能な情報でよりよい説明ができないことがわかった。だから……
エルストロム博士: アイデアを提案して、レベル5職員が却下しないか確認した?
フェローズ博士: そうだ。それで誰も却下しなかったから、レベル5も知らないんだと考えざるを得なかった。
<彼はメニューを軽くたたき、カウンターを一瞥する。現在従業員はいない。彼はため息をつく。>
フェローズ博士: そうしたら、このアイデアの正しさを検証するためスカリー的な──気を悪くしないでくれ、みんなX-ファイルのスカリーは好きだろ──人が割り当てられた。それで全く違う話なんじゃないかと思った。
エルストロム博士: 私もあなたも財団で働いているわ。どちらも懐疑論者ではないでしょう。
フェローズ博士: ああ、そうだな。そうだ。すまない。
エルストロム博士: だけれど、私はあなたの意見に傾いているわ。ヴェールの安定性は……疑わしい。それに、人類がどれだけ私たちに頼っているか、私たちがどれだけそれに頼っているか考えると、ヴェールが部外者の気まぐれに左右されるのか知るのは急務でしょう。
フェローズ博士: ああ、そうだな。まさしくだ。それで、君とギアーズのチャットを読んだんだが……
エルストロム博士: 納得できないわけではないでしょう。
フェローズ博士: これっぽっちも納得できないわけではない。本当に驚いたのは、彼が自分の主張の不条理さに気づいていなかったことだ。
エルストロム博士: 彼は率直で、自分の信じていることを言っているだけよ。詳細は他人に任せているわ。
フェローズ博士: それはそうだが、話の本質が「私たちは一生懸命やっているからヴェールが機能しているに決まっている」では、その程度の確証しかない。
エルストロム博士: 彼が何かを隠していると思っているのかしら?
フェローズ博士: 何も含みはない。彼が、それが唯一の真実だと思い始める程度には準備の整った古臭い格言を繰り返しているように聞こえただけだ。20年前だったらそうだったかもしれない。だが携帯電話時代では? 無理だろ。
エルストロム博士: 少なくとも彼ははっきりコミュニケーションしていたわ。一方であなたのアノマリーは……
フェローズ博士: 彼女はいつもあんな感じだ。外宇宙で腕を増やせば君だって奇矯になるだろう。
エルストロム博士: ところで彼女とはどれだけ話したのかしら? タイムラグはひどくなかったのかしら?
フェローズ博士: なかったな。今は即時通信のために量子固定悪魔回路が使われている。まあ、そのせいで彼女が探査機を脅威として指さすのを止めるのにしばらくかかると言っていたが。
エルストロム博士: へえ。まあ、彼女の脅威評価は完全に信頼可能だと過去に証明されているわ。そして、ヴェールを異常と同定したようね。
フェローズ博士: 直接確認するほうがいいんだが、薄気味悪い宇宙巫女とはいつもこんな感じだからな。それに本当に面倒な話がある。ヴェールに異常な構成要素が存在したとして、どうやって起源を見つける? 知っている限りだと、あのクソ──すまない──あのブリース・スプラングスターンかもしれない。
エルストロム博士: ブリース……?
フェローズ博士: 私たちの作業中の別のファイルだ。私の心に重くのしかかっている。このファイルを始めた理由でもある。
エルストロム博士: それは知らなかったわ。
フェローズ博士: 収容部門に提出するのは恐ろしくてな。理由はわかってくれると思う。アルプスの大きな洞窟の下に大きな穴があるだろ? その穴に剣を持った巨大ワニ男がいて、その周囲に力場が働いている。その力場は、奇妙なクソを知らない人が奇妙なクソを──すまない──見つけるたびに弱くなると、私たちは発見した。
<録音上の沈黙。>
フェローズ博士: だから、ヴェールは剣持ちワニ男を幽閉する力場に力を与えるまさにそのためだけに存在する可能性を否定しきれない。
<彼は肩をすくめる。>
エルストロム博士: 正直な話、それが正体だとは思えないわ。
フェローズ博士: まあ、確実にそうだと言いたいわけでは──
エルストロム博士: でも、その、ブリース……何と言ったかしら?
フェローズ博士: その男とコミュニケーションを取ろうとしたんだ。最初に訊いたのは名前で、「ブリース・スプラングスターン」と叫んだ。だがそれから何を訊いてもそれしか言わなくなって、ときおり執拗に繰り返した。すぐに、彼を見つけた登山家の一人がブルース・スプリングスティーンのヒューマン・タッチのシャツを着ていたことを発見して、今は、完全には理解していないが、文化汚染の一種だろうと考えている。一度、彼が剣を掲げて名前を叫ぶと、洞窟に雷が走って剣に落ちたことすらある。
エルストロム博士: 『ハイランダー』のあれのように?
<フェローズ博士はニヤリとする。>
フェローズ博士: 『ハイランダー』の誰も「ブリース・スプラングスターン」とは言わない。信じてほしいが、『ハイランダー』でそのクソを見たんだ。
<録音上の沈黙。>
フェローズ博士: 翌日サイトのカフェテリアでキャプテン・ハイライナーブランドのフィッシュスティックが提供された。どこぞのサノバビッチが盗聴しようとしたが十分に聞き取れなかったみたいだな。
エルストロム博士: あなたがなぜ、仕事の検証に私が割り当てられたと思っているのか理解してきたわ。
フェローズ博士: 言いたいのは、私たちがこの真相にたどり着けない可能性もあるということだけだ。
エルストロム博士: 始めなければ決してたどり着けないでしょう。
フェローズ博士: だから、ブレインストームが先行するんだ。ブレインストロム博士。
<録音上の沈黙。>
フェローズ博士: ああ。ピザを取ってくる。
<彼は立ち上がる。>
フェローズ博士: カウンターで注文するんだ。このフランチャイズがマフィアのフロント企業だと思われている理由がある。
<転写終了。>
調査者は両者とも収容部門の見解に納得しなかったため、エルストロム博士は続いて任務部隊部門とのインタビューを手配しました。
Q. 任務部隊部門はどのように正常性ヴェールと関わっていますか?
A. サイレントパートナーみたいなもんだ。そいつを理由もわからずにキレさせられるが、その影響は理解できる。
Q. 詳述していただけますか?
A. 詳述はしない。事実は、ヴェールのせいで任務がはるかに困難になっていることだ。何をするにしても水面下にしなきゃならない。収容部門が監視して後で私たちの目標を閉じ込めるが、私たちはジョンQの肯定も否定もできない。銃が火を噴いたほうがコトははるかに単純に決まってる。思うに、ショーウィンドウ破りのうちショーウィンドウ破りは1割で、9割はガラスの音を隠すのと目出し帽を逆向きに着けていないか確認することだろう。
Q. ヴェールの安定性に、正負どちらかの影響を直接与える異常対象を何か知っていますか?
A. 人前で妙なことをしている以外でか?
Q. ええ。
A. 知らない。私たちの仕事の成功はどこぞのゴブリンのおかげだとでも言いたいのか?
Q. 尋ねているのは何か見たことは──
A. ない。一度もな。私たちはこのクソに蓋をし続けている。静かに動き、他の皆を黙らせている。彼らが望もうが望むまいがな。私たちはその状況を制御しているし、維持している。おかげさまでな。
Q. ありがとうございます。
A. お前のような事務タイプはどんなものもアクション映画のように活動していると思ってんだろ?
Q. 不快にさせるつもりはありませんでした。
A. 次に現地の私の仲間をバカにするなら覚えてろよ、事務職博士がよ。
フェローズ博士は自身の部下から提供された手掛かりを追跡しました。
<転写開始。>
<フェローズ博士はオンタリオ州ベルモントのベルモントアリーナ外部にいる。駐車場でチェーンソーの騒音が鳴り始めると、サイト-232MTF隊長レイン・ギャラントは彼を隅の背後に押しやる。>
ギャラント隊長: ああ、こいつぁ大騒動だ。
フェローズ博士: 何が起きたんだ?
ギャラント隊長: 私の考えの限りでか?
<隊長はMTFラムダ-232("干渉縞インターフェレンス・パターン")の他メンバーに手ぶりで示し、彼らはアリーナの芝生に広がって周囲の構造を見渡す。>
ギャラント隊長: 縄張り争いスケジュールのかち合いだ。
<232-ガンマは通過するセダンをギリギリで避けながらベルモント・ロードを渡り、アリーナに面する住宅の確認を始める。232-デルタは横断歩道を使ってカーディーラーに近づく。店主と販売代理人らは縁石に立って非難するように見ている。>
声: 神は偉大なり、このデウス・マグヌス・エスト、ヴォスクソ野郎どもファッカーズ!
<チェーンソーの空ぶかし音が響き渡り、間もなく粉砕、破砕、水っぽい音も加わる。>
別の声: ラテン語に対応する単語はあるだろこの学なし!
<録音が甲高い金属音で満たされ、フェローズ博士は舗道に倒れる。>
ギャラント隊長: チェーンソーフェンシングだ。初めて見た。
フェローズ博士: 花の子らに張り込みしてるはずだったんじゃないのか!
<ギャラント隊長はアリーナの閉じた扉にもたれ、はめ殺し窓を手早に確認する。隊長は厳しい顔をして身を引く。>
ギャラント隊長: アンタはそのあだ名のせいで勘違いしたようだな。
<隊長は無線を起動する。>
ギャラント隊長: 報告はまだか?
232-ブラボー: 天井を抜けてる最中です。今は──
<アリーナ内で爆発音が聞こえる。>
232-ブラボー: ──あまりよくわかりません。信徒会がスタンドに.GoI-654「白銀花卉信徒会フラタニティー・オブ・ジ・アージェント・フラワー」、全生命の尊厳を守ることに専心するカルト。、友愛会はスケートリンクにいるようです。.GoI-456「銀白蓮花友愛会ブラザーフッド・オブ・ザ・シルバー・ロータス」、全生命の尊厳を守ることに専心するカルト。
ギャラント隊長: どっちが爆発した?
232-ブラボー: スタンドの誰かがグレネードを落としました。あ、待って──
ギャラント隊長: 音声!
<232-ブラボーがカメラ音声を一時接続する。火花の音と「命は尊し」という叫び声のあと、2回目のより大きな爆発音が鳴り響き、映像が突然途切れる。>
232-ブラボー: 個人的に送信しました。
232-デルタ: 隊長、ディーラーで問題が。
ギャラント隊長: 言え。
232-デルタ: ノルマ到達まで閉店できないと言っています。最近の自動車販売はご存じでしょう。
ギャラント隊長: 捨て置け。
232-デルタ: 市長とコネがあると言っているやつもいます。
ギャラント隊長: 捨て置け!
フェローズ博士: ベルモントに市長はいない。村だ──
<別の爆発で、駐車場にレンガのあられが降る。フェローズ博士は壁の縁まで這いよる。GoI-811("チェーンソー・カプチン修道会")の2つの対立組織が白兵戦を行っている。他2つの要注意組織メンバーは、さまざまな重装備を抱えながら燃えさかるアリーナから逃げている。>
メープル・エステートのデレク修道士、GoI-811。
フェローズ博士: うわあ。
ギャラント隊長: 頭を下げろ、ブラッド。
232-ガンマ: 隊長、現在農業用設備にいます。
ギャラント隊長: 今度は何だ?
232-ガンマ: 塒.GoI-1349「瘴毒の塒イートリアン・ナイダス」、カニバリスト超絶論者の教団。の野郎が肥料に毒を入れています。カバーのため隣家のどんちゃん騒ぎを使っています。
ギャラント隊長: どんちゃん騒ぎできなくするってわけか。
<オンタリオ州警察のパトカーが、ライトを点滅させてアリーナ前に到着する。>
ギャラント隊長: あークソ。
<2名の制服警官が武器を提げて車から出る。>
1人目の警官: 動くな!
ギャラント隊長: 言っただろ、私たちがもうカバーした。
2人目の警官: ガラン警部?
ギャラント隊長: 発音は「ギャラント」だ。それも言ったはずだ。「ガラン警部」なんて、スーパーヒーローみてえだろ。
<4団体全てがお互い接敵すると、チェーンソーと爆発の音がアリーナの駐車場で再開する。>
<ギャラント隊長はため息をつき、拳銃を取り出す。>
<映像喪失。>
<フェローズ博士は駐車場に面し、そこではギャラント隊長が駐車している自動車のボンネットや屋根を飛び回りながら、2つの拳銃で総合大乱闘に発砲している。隊長は雄たけびを上げている。>
1人目の警官: 今週で2度目だ。
<転写終了。>
2名の調査者は、フェローズ博士が医学的許可を受けたのちに、ストラスロイ・カラドック・プラザのピザハットで会合しました。
<転写開始。>
<エルストロム博士がボックス席で待っていると、左腕にギプスをしたフェローズ博士が入室する。>
エルストロム博士: 榴散弾かしら?
フェローズ博士: 警官にレンガで殴られた。
<彼は座り、うめく。>
エルストロム博士: 何ですって?
フェローズ博士: エディンバラ下級巡査団ロー・コンスタブルズ・オブ・エディンバラだ。.GoI-6871.不死身の法執行人の自警団。本物の州警察ではない。
エルストロム博士: あの隊長は認知していなかったのかしら?
フェローズ博士: 新参なんだ。まあ当然、私たちにとってな。
<エルストロム博士は頭を振る。>
エルストロム博士: この界隈で何が起きているの?
フェローズ博士: 何もかもだ。
エルストロム博士: アリーナのアイツらは何で争っていたの?
フェローズ博士: 創造神話だ。片方は生命は山腹のハスから生まれたと言う。もう片方は「ハスは水上で咲くだろ脳足りんが!」。そいつらは生命は川の白鳥の卵から生まれたとかなんとか考えているが、どうでもいいだろそんなの。その2組織ではお互い変えるまで儀式が完全に同じだったし、お互い憎しみあっているし、なんとかかんとか。
エルストロム博士: 2つはあのカプチン修道会の2組織のように分派したと……?
フェローズ博士: 友愛会が先に現れて、信徒会があとだ。どちらもオリジナルを名乗っている。
エルストロム博士: 当然ね。
フェローズ博士: そうだな。クレフ博士の証言は問題なく無視できそうだ。
エルストロム博士: もうその覚悟はしていたわ。ギアーズが言ったことの簡易版でしかなかった。
フェローズ博士: 彼が君の関心事をすぐに棄却したからな。
エルストロム博士: 癪に触ってしまったわ。クレフは面白い人だと思っていたのだけれど。
フェローズ博士: 自分の能力に疑問を持たれるのは誰だって嫌だろう。
エルストロム博士: そうね……
<フェローズ博士はため息をつく。>
フェローズ博士: 続けて。
エルストロム博士: アリーナの状況はすぐに手に負えなくなったわ。
フェローズ博士: 手に負えなくなり始めたんだ。あのタウンシップでは毎月1つ、あるいはもっと、新たなGoIが確認できる。闘争の勃発を止めるのは不可能だ。どのストリートにも別々のカルトかギャングか何かがいる。そのうえ、当時は満月だった。
エルストロム博士: それに何の関係が?
フェローズ博士: 満月の日は事態が悪化するんだ。紅い月ブラッドムーンが一番ひどい。
エルストロム博士: なるほど。
フェローズ博士: 医師か獣医に訊けば、同じことが聞けるだろう。
<録音上の沈黙。>
エルストロム博士: 記憶処理はどれだけ必要だったのかしら?
フェローズ博士: 3家族とカーディーラー、肥料屋に女子ホッケーチームだ。
エルストロム博士: その誰もソーシャルメディアに投稿していない?
フェローズ博士: ああ。
エルストロム博士: 警察に通報は?
フェローズ博士: ない。
エルストロム博士: 信じられないわ。
フェローズ博士: 私もだ。
<彼は包帯を巻いた腕を触り、顔をしかめる。>
フェローズ博士: で、次は?
エルストロム博士: こう言うのは嫌だけれど、私たちは操り人形にされているように感じるわ。
フェローズ博士: 例えば、皆が完全に真実を話してくれるわけではない、とかか?
エルストロム博士: その可能性を無視するのは悪い経験論よ。
フェローズ博士: ところで、君の博士号は?
エルストロム博士: ビジネス運営。
<録音上の沈黙。>
エルストロム博士: それから教わったことがあるとするなら、好ましい答えを得られないときは、昇進し続けるということね。
フェローズ博士: 調査の立ち位置をチェンジしたいのか?
エルストロム博士: そういうわけではないわ。でも今回はピザの代金は払いましょう。
フェローズ博士: ピザはタダだ。
<転写終了。>
ベルモント市民が、白昼堂々と発生した異常イベントに対して興味深い興味の欠如を示したため、エルストロム博士は自己検閲アノマリー専門の財団機関に接触しました。最初にスケジュールしたインタビューは反ミーム部門とのものでした。
Q. あなたは誰ですか?
A. 今日はインタビューの時間がない。
フェローズ博士は財団医療関係者に、ベルモントの無関心はHomo sapiens sapiensの自然な生物学的機能を表している可能性について意見を聞き取りました。しかし、1つの期待できる連絡先には他に用事があったため、フェローズ博士はその人物に勤務中に会合するため北極圏まで飛びました。
<転写開始。>
<フェローズ博士は保安エリア-219に到着している。>
保安エリア-219。
<ヘリコプターは中庭に着陸し、彼は財団病院用務員に対応を受ける。彼女は彼を連れていくつかの武装検問所を通り、施設の衛星拘留ブロックの1つに着く。ブロックはパノプティコンモデルで構築されているが、それぞれのセルは塔上の中央監視プラットホームからは不透明に見える。>
<フェローズ博士ははしごを使って登る。>
<プラットホームは診察台と医療設備に覆われている。アンドレア・マスロフ博士は患者──見かけの民族性から考えると極度に蒼白な、さまざまな年齢、体格の5人の人間──の間をドカドカと歩き回っている。>
<フェローズ博士はプラットホームに上る。彼がはしごを登りきる寸前、マスロフ博士は彼の指を踏みそうになる。>
マスロフ博士: バカめ。
フェローズ博士: 何だって?
<彼女はプラットホームをドカドカと横断して自動昇降機に足を載せる。>
マスロフ博士: 必要なときのために体力を温存しろ。ああ。つかめ。
<彼女は付近のストレッチャーの片方を手に持つ。>
フェローズ博士: ああ、私は用務員ではない。ここに──
マスロフ博士: 手伝え。それかどこか行け。選ぶ。
<フェローズ博士はストレッチャーのもう片方を持つ。2人でそれを昇降機に運ぶ。塔の下に配置された警備が2人を見上げる。>
マスロフ博士: ああ!
<警備はその場から離れ、昇降機が降りる。フェローズ博士は一緒に降ろされるのをギリギリ回避する。>
マスロフ博士: ヴェールを調べている?
フェローズ博士: そうだ。
マスロフ博士: 何かしなければならない。
フェローズ博士: 興味深い宿題だ。
<マスロフは頭を振る。彼女はすでに次の患者を診ている。背後では昇降機が塔の下に到着している。>
マスロフ博士: その意味じゃない。ヴェールに何かしなければならない。バカなアイデア。人をバカにさせる。
フェローズ博士: どういうことだ?
<彼女は目の前のストレッチャーに載せられた男を示す。>
マスロフ博士: 血液がない。
<彼女は患者の頸動脈に手を当て、何かつぶやき始める。皮膚の下でほのかな光が見える。>
フェローズ博士: 君はタイプ・レッドか?
マスロフ博士: そうだダー。
フェローズ博士: この人たちは何をやらかした?
マスロフ博士: 無保険。
<患者の血色がやや改善する。マスロフ博士は額をぬぐい、ため息をつく。>
フェローズ博士: 私たちがこの治療でお金を取るとは思えないが。
<マスロフ博士は小さなプラスチック製ダイニングチェアに向かい、ドサリと腰を下ろす。彼女は息を切らしている。>
マスロフ博士: 無保険で病気だ。わかるか? 無保険は病気だ。とてもバカだ。ヴェールのせいだ。
<フェローズ博士は患者らを見渡し、マスロフ博士に顔を向ける。>
フェローズ博士: 私がバカになった気分だ。
<マスロフ博士は神経質にため息をつく。>
マスロフ博士: わかった。詳しく言う。
<彼女は指を1本上げる。>
マスロフ博士: 一つアジーン。保険会社はクソだ。いいかダー?
フェローズ博士: ダー。あー、イエス。
<彼女は指を続けて上げる。>
マスロフ博士: 二つドヴァー。保険会社は人をゴミのように捨てる。貧乏人。病人を。大半の人と違う人を。どんな理由でも。いいかダー?
<フェローズ博士はうなずく。>
マスロフ博士: 三つトリー。保険のグレムリンは悪い報道にうんざりする。魔法使いのグレムリンを雇う。奇跡術的貧血だ。
<フェローズ博士はうなずき、止まる。>
フェローズ博士: こいつらは保険がないから失血したと?
マスロフ博士: そうだダー。怖いな? 保険に加入したくなるな?
<フェローズ博士はプラットホームの床に座る。>
フェローズ博士: それは……邪悪だ。
<マスロフ博士は荒々しく笑う。>
マスロフ博士: 邪悪でバカだ。感染ベクターが全部おかしい。全部おかしい。魔法はずるい。誰でも無保険のときがある。データベースが落ちたときは? 皆が無保険だ。
<昇降機が音を立てて起動する。マスロフ博士はうめく。>
フェローズ博士: なら理論上これは……皆に影響を及ぼしうるのか?
マスロフ博士: そうだダー。財団の囚人は? 無保険だ。多くの医者は? 無保険だ。財団の博士は? 無保険だ。
<フェローズ博士は突然立ち上がる。マスロフ博士は再び笑う。>
マスロフ博士: わかったか! 皆が危ない。
フェローズ博士: だが私たちは保険に入っているだろう。ゴールドベイカー=ラインツ社に。
<マスロフ博士はあざける。>
マスロフ博士: 言ったけれども、魔法はずるい。正しいときもある、そうでないときもある。あなたの上司は、「私には起きないだろう」と思う。誰にでも起きる。貧乏でなくても。老いてなくても。しかし誰も違いがない。
フェローズ博士: このせいで何人が死んだんだ?
マスロフ博士: 初期は万。
フェローズ博士: 1万人?!
マスロフ博士: 違う。数万人。2、3、4万。統計は嘘をつく。ロシアの統計は2重に嘘をつく。異常なロシア? ダメだ。
フェローズ博士: どうして私たちは皆を隔離しないんだ?!
マスロフ博士: 言ったけれども、誰も違いがない。
フェローズ博士: WPOは?.世界超保健機関、世界オカルト連合の部局。
マスロフ博士: うん、彼らはひどいことを言う。家で待機だ。
フェローズ博士: 何も聞かされてないぞ!
<マスロフ博士は手をたたく。>
マスロフ博士: いいね! あなたは本質的だ。私も本質的だ。
<昇降機が到着している。マスロフ博士はやや苦労して立ち上がり、ドカドカと歩いて新たなストレッチャーをプラットホームに引く。フェローズ博士は彼女を手伝う。>
フェローズ博士: 待てよ。これはヴェール外の人に影響を及ぼしているのか?
マスロフ博士: そうだダー。
フェローズ博士: 私たちはどうやって隠してきたんだ? 普通、通りの真ん中で失血することはない。
マスロフ博士: 誰も見ない。
フェローズ博士: 嘘つけ。
マスロフ博士: 誰も見ない! 他を見ている。通りの反対を歩いている。あるべき場所を。とても重要な人も、皆も。どこでも。
フェローズ博士: 治療法はあるのか?
<マスロフ博士は診察を止めて彼に片眉を上げる。>
マスロフ博士: 病気の治療法? バカの治療法?
<転写終了。>
フェローズ博士は、自身の保険料が更新されていることを確実にすべく、次の会合をキャンセルしました。エルストロム博士は新規に報告する内容がなかったため、進んで同意しました。
次週、彼女は次のインタビュー対象にGoI研究グループから連絡先を選びました。
Q. 主要な要注意団体はどのように正常性ヴェールと関わっていますか?
A. 団体によるね。世界オカルト連合は名目上、私たちのパートナー。他のいくつかの大きな団体や、私たちが継続的に戦争できない団体、あるいは勝利できないであろう団体とは不安定な停戦協定を組んでいる。中規模の団体は私たちを試すことがある。小さな団体は私たちを目の敵にしているけれど、たいてい私たちの邪魔はしない。
Q. 公衆における超常活動は、負傷する人が多すぎたり損害が大きすぎたりする前に収容される限り、ヴェールの完全性を滅多に脅かさない、という証拠を発見しました。何らかの要注意団体がヴェールを投影しているか、あるいは少なくとも強化しているという可能性はありますか?
A. 当然あるね。多くのGoIにはオントキネティック能力や奇跡論の能力がある。ワンダーテインメント。蛇の手。ヴィキャンデル=ニード。でも、訊くなら私がそう思うかどうかを訊いてほしい。
Q. その可能性があると思いますか?
A. いや。私たちの内輪の外にいる正常性を執行できそうな団体はほとんど、するつもりはないだろうね。そういう団体はたいてい、私たちを正常性を執行しているからと言って活発に見下している。私たちはマーケットに割り込んで、人員を捕獲して、アーティファクトを盗んでいるからね。彼らに私たちの仕事を楽にする理由はない。私たちの失敗を応援しているよ。
Q. そのような失敗の引き金を引くのは容易ではないのですか?
A. フェイスブックの投稿とか、伸びたビデオとか、そういうもの? 間違いなくそうだね。でも、そういうコンテンツをネットから排除する方法は収容部門に訊くべきでは……
Q. 何か気がかりなものがあるのですか。
A. そう。カオス・インサージェンシーとその分派。どうして彼らが毎日毎秒ヴェールを引き裂こうとしないのか、理由がわからない。確かに、彼らは支配を求めているし、利用している国々に多くの無能独裁者を擁立している。それに、覚醒連合はそれを知れば激烈に攻撃を始めるだろうしね。でも、実際、カオスの普遍的目標は騒ぎを起こすことで最もよく果たせるはずだろう? 世界人口の少なくない人々の生活を困難にする。テロが実際に誰も脅かさなければ、それはテロの意味がない。どうして国連を爆撃して皆をポストヴェール世界に引きずり込まないんだろうか?
Q. その答えは何ですか?
A. まだわからない。
フェローズ博士は同じ方向性で考え、世界オカルト連合観測ユニットに従軍することにしました。彼は、108評議会員と正常性執行コミュニティに認知されていない異常コミュニティとの間の衝突に配属されました。
<転写開始。>
<フェローズ博士はGOC輸送ヘリコプターの席に座っている。扉は開いており、彼はドイツはリューゲン・スペリオルの風景を眺めている。下の落葉樹林に火災が生じている。>
リューゲン・スペリオルの火事。
<GOC隠蔽部隊の上級キャプテン クロセッティはフェローズ博士の向かいに座っている。2人は内部回線で会話している。>
クロセッティ: 景色はどうだ?
フェローズ博士: どうして燃えているんだ?
<クロセッティはヘリコプターから身を乗り出す。>
クロセッティ: 火事だろうな!
<彼は笑い、ヘリコプターは降下する。>
<森林の周縁部だけが燃えている。ヘリコプターは中世ドイツ様式の木造建造物の集団をよぎる。地面は人間の死体に覆われ、異様に大きな多くの鳥がそれを食べている。>
フェローズ博士: あれは何だ?
クロセッティ: スヴェントのワシさ。偉いやつが斥候に遣わしたんだ。お腹がすいたんだな!
フェローズ博士: なんだって? いや違う……なんだって?
クロセッティ: スヴェントヴィトだ! 強力な神だよ。
<ヘリコプターは空き地をよぎる。毛皮と現代兵装に身を包んだ兵士が死体を積み重ね、極度に大きなワシが死体の山をついばんでいる。赤熱する火鉢を持った1人の兵士が近づく。ワシは飛び去り、かぎ爪には大人の死体、口には子供の死体を持っている。>
フェローズ博士: あれは本物なのか? スヴェントヴィト?
クロセッティ: そうレヒトが言っていた。.ラーン・レヒト公国レヒティック・プリンシパリティー・オブ・ザ・ラーニ、世界オカルト連合108評議会メンバー。アイツらがニュー・アルコナで飼っているのは間違いない。異教の儀式だよ。
フェローズ博士: 鳥は何を食べているんだ?
<クロセッティはヘリコプターから唾を吐き出す。>
クロセッティ: 踊り子だ。
<ヘリコプターは上昇する。遠くに都市が見える。その建築様式は現代の影響を受けた西スラブのものである。>
フェローズ博士: 踊り子?
クロセッティ: スヴェントの使うスラングさ。意味は知らん。
<都市の周囲には高い壁が建っており、大量のワシがパトロール飛行している。ヘリコプターがバンクしたとき、1発の火球が暗い森から上がって都市の方向へと飛翔する。ワシの一団がミサイルに急降下して衝突し、ワシは燃える羽の雨とともに地面に落下する弾を追う。>
クロセッティ: これがやつらの森を焼く理由だ。火をもって火と戦う、だな。
フェローズ博士: まだ混乱している。別の団体が都市を攻撃しているのか?
クロセッティ: ヤケになってな。ワンチャンも防衛を破れないのに。ワシはもっとたくさん住処にいるぞ。おい!
<彼はパイロットの席を殴る。>
クロセッティ: 目標!
<周縁部の兵士と同様の兵装をしてハルバードと自動武器の組み合わせで武装した兵士の一団が、GOC部隊輸送車に乗って舗道を下っている。ヘリコプターは頭上をよぎり、その車列と足並みをそろえる。>
フェローズ博士: 彼らはどこに向かっているんだ?
クロセッティ: 踊りを中止させるために。
<車列は森の深い場所に進む。ワシは木々の上に上昇し、部隊からはローブを身にまとった祭司が現れて両手を天に突き上げる。>
フェローズ博士: あれは何をしているんだ?
クロセッティ: 占いだよ。鷲魔術イーグルマンシーかなんかだ。
<ワシは木々の中に飛び込む。ヘリコプターのローター音の中でも発砲音が聞こえる。車列は止まり、兵士が降りる。>
<兵士が森の中へ消えても、ヘリコプターは車両のそばにいる。>
フェローズ博士: 私たちは観測を続けるものだと思っていたんだが!
<クロセッティは無人の輸送車を指さす。>
クロセッティ: してるさ! あのバスは借りものだ。PTOLEMY.連合の兵站部門。はバスを無事に返したがってる。
<悲鳴が聞こえる。>
フェローズ博士: 彼らを見ている人はいないのか?
<クロセッティは巻きたばこに火を点ける。>
クロセッティ: アイツらが帰ってきたら人数調査するさ。
<フェローズ博士は彼に身を寄せる。>
フェローズ博士: 彼らは……誰でも見つけ次第殺すのか?
クロセッティ: 今日はそうだ。明日は西のラグーン近くの大きな村を爆撃する。
フェローズ博士: でも、どうして?
クロセッティ: あれがやつらの森だから、それが理由だ。
フェローズ博士: なら、彼らは森を焼き尽くすのか?
<クロセッティは肩をすくめる。>
クロセッティ: 空き地にできるのならな。
<転写終了。>
フェローズ博士は、上級キャプテン クロセッティが用意した、読むことを許可されていない宣誓証言に署名し、観測任務から外れました。彼はストラスロイ・カラドックに帰還してエルストロム博士と会合しました。
<転写開始。>
<2名の調査者はピザハットに同時に到着する。エルストロム博士はフェローズ博士に扉を開け、彼はぎこちなく入りながらぼそりと感謝の言葉を言う。両者はボックス席に座る。>
エルストロム博士: ちょっとしたアクションを見たらしいわね。また。
フェローズ博士: これは学術研究じゃなかったのか。どうしてこんなに暴力的なんだ? 君の言葉なら納得できたのかもしれないが、GOCのあの責務はクソ……すまない。この一週間は大変だった。
エルストロム博士: そう焦らないで。
フェローズ博士: だな。彼らは隠蔽をさほど苦ともしていないようだった。彼らが何と戦っているのか知っているか?
エルストロム博士: 全然。
フェローズ博士: あの公国は消滅したラーン族の後継国家を主張していて、スラブの神のスヴェントヴィトを信仰している。中世期に、スヴェントヴィトはキリスト教の聖ヴィトゥスの転訛だと言われるようになった。それは安楽椅子バカが発音が似ていると考えただけの全くのでたらめだったが、それでも、東部ドイツがキリスト教化したときに聖ヴィトゥスに改宗することになる人もいた。それから数百年が経って、リューゲン・スペリオルの森にはヴィトゥスとスヴェントヴィトが完全に融合したカルトがいるわけだ。
エルストロム博士: それで、彼らはその都市でスヴェントヴィト教団と戦っているの?
フェローズ博士: スヴェントヴィト教団が彼らを殺戮している。GOCはそれを黙認している。片方の団体は108評議会所属で、もう片方は所属していないからな。
<録音上の沈黙。>
フェローズ博士: 私たちが離れたときに彼らは爆撃していたんだ、カレン。爆撃を止めるつもりは全くなさそうだった。何に着弾しているのか気にもしていないようだった。正直、その音が好きだからやっているんじゃないかと思ったよ。
エルストロム博士: 音はどれくらいまで響いたの?
フェローズ博士: 領域の数キロメートル先まで。大砲によっては爆風もそうだ。それに、地下水や植生、地質に明白な影響がある。さらに、彼らには領域外に家族がいる。
エルストロム博士: そうなの?
フェローズ博士: そうだ。ユーテックにもスリーポートランドにも、どちらのスヴェントヴィト教徒もいる。融合信仰者は訴訟か、少なくとも認知をいつも請願している。
エルストロム博士: それで?
フェローズ博士: ヴェールのこちら側では、誰一人気にしていない感じだ。もうパターンはつかめてきたと思う。つまり、GOCの隠蔽作業がどれだけぞんざいでも、ニュース報道一つない。だが、私はヴェールのところで止まる効果を想像していた。一般人だけに効果があると思っていたんだよ。
エルストロム博士: 多分、それは効果でも何でもないわ。
フェローズ博士: どういうことだ?
エルストロム博士: 多分、私たちの調べているものは、平々凡々な無関心でしかないわ。
フェローズ博士: この効果を平凡だと言うのか? 財団がそう見せたがっているものじゃないか。
エルストロム博士: 道徳的判断は私たちの仕事じゃないわ。今取り組んでいるのは、そう言ったイベントが広範に報道されない原因に平凡な理由がないか調査することじゃない。
<フェローズ博士はファイルを軽く叩く。>
フェローズ博士: この会合の前に数日余裕があったんだ。スリーポートランドの1つが近かったから、1日研究休暇をもらった。
エルストロム博士: 私がインタビューをする予定だったはずなのだけれど。
フェローズ博士: 我慢できなかったんだ。それに今は満足しているしな。
エルストロム博士: それで、何を発見したのかしら?
フェローズ博士: スヴェントヴィト教団の殺戮について聞いたことのある人を訪ね回った。難しくはなかった。GOCがUIUに厳重措置を取らせるまでは、あの内容が全部放送されていたからな。
エルストロム博士: UIUがメディア弾圧したの?
フェローズ博士: 米国政府は米国政府だ。帳の内外は関係ない。発見したのは、そうだな。聞いたことにいまだに怒っている人もいたし、うれしがっている人もいた。だが、ほとんどの人は、質問したときいやに妙だった。
エルストロム博士: どう妙だったの?
フェローズ博士: 遠い目をしていた。何か見ているものがあるのに、それは一緒の部屋にはないような感じに。
エルストロム博士: 興味深いわね。
フェローズ博士: それをどう取り扱うべきか全くわからないんだがな。
<エルストロム博士はこめかみを軽く叩く。>
エルストロム博士: 私ならわかるわ。
<転写終了。>
エルストロム博士はミーム学部門に彼女の理論を提示し、その結果を議論すべく管理官とのインタビューを予定しました。
Q. 正常性ヴェールがミーム効果によって維持されている可能性はありますか?
A. 可能性? 当然。あなたなら似た現象に詳しいでしょう。
Q. フロンティスピースですか。
A. ええ。ノウアスフィアという編み物に植え込んだ小さな撚糸、私たちが隠れられる皆の脳にあるしわ。これのおかげで、ヴェール外の人々は私たちのことを忘れます。明白な関連性を見い出しません。私たちのセーフハウスやフロント企業を認識しません。収容部門が達成していることの多くは、これがなければできていません。
Q. では、私たち財団は、この効果も同様に作れたのでしょうか?
A. いいえ。フロンティスピースを作るのに必要なエネルギーはべらぼうでした。しかも、実はフロンティスピースは些細なものに過ぎません。地球人口の少数とその図像、その地理に余分な保護を与えるだけです。引いて蔽えるカーテンと考えましょう。それでは、ヴェールは? あなたの考えるそれは? 全くヴェールではありません。むしろブラックホール、皆の注目を脳から吸い取って……虚空に捨てるものです。それを達成しようとすると、この惑星の全奇跡術師を吸い尽くすことになるでしょう。しかも、とても大きく凸凹した痕跡を集合的無意識に残すでしょうから、それではあなたが私に尋ねるまでもないでしょう。まるで抜け歯のような感覚になるでしょうから。1列まるまるの抜け歯です。
Q. 私たちの試験の結果について話しましょう。
A. ですね。あなたの提案に基づいて、今までヴェールの反対側にいた多様な人物に、無害でも異常な刺激を曝露させました。彼らのためにヴェールを破りました。そして脳の遠隔睡眠測定テレソムニック・リーディングを行いました。
Q. 発見したものは?
A. 異常現象に遭遇する人は、およそ9:1程度の割合で忌避する傾向があります。遭遇後ほんの数分後であっても、刺激が再導入されるか曝露が延長されない限り、ほとんど全員に見たものに関する困難が認められます。一般人は、暗い路地で人狼に直面したとき、表通りの明かりに逃げ戻る間に自分は何も見ていないと自分で納得します。ですが記憶形成は早いですから、その経験を本当に消去することはできません。脳に記録されるものはあるのです。
Q. 測定は何を示していましたか?
A. 円形、あるいは回転楕円体の可能性のある図像に、光と闇の間の際立った境界がありました。
Q. どういう意味だと考えていますか?
A. 何も意味していないでしょう。単なる心理学の錯覚です。私たちが迷信深い洞窟生活をしていたころからの痕跡でしょう。
Q. あるいは、他の何かが注意を引いているか。
A. かもしれません。ですが私は疑わしいと思います。
Q. ありがとうございます。実験対象はその後に記憶処理されましたか? それとも再現研究のために保持されますか?
A. 当然、Dクラスで実験しました。どこに行くこともありません。
Q. えっ。
当面の間さらなるフィールドワークを避けたい欲求を示していたフェローズ博士は、エルストロム博士がインタビューを予定していなかった部門の専門家を集めた小さな会議を研究収容サイト-43で組織しました。
SCP-9500円卓会議
出席者: ブラッドリー・フェローズ博士、サイト-232 管理官補佐(議長)。アレックス・ソーリー、非現実部門。ダニエル・アシェワース管理官、オントキネティクス部門。エリ・フォークレイ、誤伝達部門。アーヴィング・ガット博士、超現実部門。シェルドン・カッツ管理官、法務部門。キンバ・ラズロー博士、空想科学部門。ヨッサリアン・ライナー博士、戦術神学部門。アレックス・ソーリー、非現実部門。メリンダ・ウィリアムス博士、対抗概念部門。
研究収容サイト-43。
<転写開始。>
<専門家たちはサイト-43の役員会議室のテーブルに並んでいる。フェローズ博士はせき払いする。>
フェローズ博士: まず、本日はここに集まる時間をくださりありがとう。
ライナー博士: ヴェールは神ではない。
フェローズ博士: ……ライナー博士、ありがとう、開始してくれて?
フォークレイ管理官: あなたが必要とされる場所はあるんですか、ヨッシー?
ライナー博士: これをさっさと片づけたいだけだ。
フェローズ博士: 素晴らしい。すでに有意義な内容になっているな。あー、だからここで正常性ヴェールの性質について学際的議論を始めようと──
アレックス・ソーリー: なあ、それがもし月だったら?
ウィリアムス博士: 畜生め。
フォークレイ管理官: 黙りなさい。
ラズロー博士: いや、もっと話を聞きたい。
アレックス・ソーリー: 私もだ。
フェローズ博士: あー──
カッツ: 法務部門はあらゆる全ての司法制度で常に何百もの裁判を行い、脅迫か破産させることで人々を従順にさせている。興味深いことに、これはアメリカでは普通のことだと考えられている。より開明した地域ではやや困難となるが、それでも我々は打ち勝っている。その上、毎日千もの中止要求命令を発射しているし、脅迫メールを作成するのに丸々一つのオフィスがある。今やISPのほとんどは私たちの配下にある。収容部門と任務部隊部門は手柄を自分のものにしているが、私はクレフがショットガンでできるよりも多く、適切な準備書面によって内部告発者を撃ち落としてきた。その上、それはゴールドベイカー=ラインツの保険屋から受ける援助を計上していない。個人的には、これは私たちの対象や活動がオンライン上や伝統のメディア報道で推定異常に欠失していることを説明するのに十二分だろう。
ウィリアムス博士: 畜生め。
フォークレイ管理官: 誤伝達部門が言うべきことはこうです。つまり、シェルドンの弁護士らを通過した、ヴェールを貫通しようとする異常に関する発言のほとんどは、何らかの形で誤形成されます。この誤形成が異常効果に関連していると想像することもできるでしょう。明白な発言を防ぐギアスか、干渉効果か、自動抽象化フィルターか。
フェローズ博士: その可能性があると思うのか?
フォークレイ管理官: ほぼ無責任に提案できるほどには事実無根です。
フェローズ博士: オーケイ……
アシェワース管理官: 似た話になるが、何らかのオントキネティックがこの効果を引き起こしていると考える理由はないな。
フェローズ博士: それはどうして?
アシェワース管理官: それに必要な規模の現実改変力場は検知できるはずだ。その影に隠れたものは検知できないかもしれないが。
ガット博士: 外向性と内向性を考えよう。サクランボの具材に対するパイ皮とクリームだ。その体裁に成形されて焼かれた曖昧言説主義。しかし君はそれを粒子加速器めいて壁に叩きつけて、それで隠されたものを見るんだ。しかし食べたらそうはならない。
<録音上の沈黙。>
フォークレイ管理官: 彼はどちらも理解していません。
ウィリアムス博士: 対抗概念部門はヴェールのプロファイルに一致する異常を認知していません。認知できないものを認知するのが私たちの仕事です。なので、おそらく何もないでしょう。
フェローズ博士: それは別の部門の仕事でもあったと思うんだが。
ウィリアムス博士: 聞いたことがありませんね。
ラズロー博士: NPC理論について聞いたことは?
<ライナー博士がうめく。>
ラズロー博士: 財団の下級職員が過去にとんでもない業績や特徴的な業績を挙げていることは滅多にない。一度雇用されれば、たいてい組織外の社会生活は本来ないし、家族生活もこれと言ってない。これは明らかに、圧倒的な世界を股に掛ける陰謀の一部となることによる、隔離、疎外効果に関する物語だが、それにしてもだ。興味津々になるだろう。
フォークレイ管理官: 誰も興味津々にはなりませんよ。
ラズロー博士: まあ、始めようか。ヴェール外の世界が本質的に「現実」感が薄かったら? ヴェールは重要ですらなく、一般人が異常を認知しないのは、俺たちから見て彼らが文字通り非実体だからだったら? 死せる一般人仮説デッド・ノーミー・セオリーと呼ぼう。
ライナー博士: イヤだ。
ラズロー博士: それで、異常を認識する能力は彼らのプログラムになかったら? 財団全体が何らかの、わからんが、小型現実内社会実験だったら? 俺は全くそうは思わないが。
フェローズ博士: そうだな……待て、そう思わないと言ったのか?
ラズロー博士: そうだ。声に出したのを聞いたら、全くバカげているよ。
フェローズ博士: オーケイ。
ラズロー博士: 財団がヴェールの持続に成功しているのは、それがこの層の中心物語を維持させているものだからだ。安定した舞台設定に必要な特徴だ。
フェローズ博士: はあ。それでアイデアを思い付いた。
ウィリアムス博士: そうなのであれば、それこそミーム効果ですね。
<転写終了。>
エルストロム博士は、予定された会合の2日前にフェローズ博士との会合を要求しました。後者は進んで同意しました。
<転写開始。>
<2名の調査者はピザハットの前で出会う。両者とも入店しない。>
エルストロム博士: インタビューは読んだかしら?
フェローズ博士: ああ。議事録は読んだか?
エルストロム博士: 読んだわ。
フェローズ博士: Dクラスか。
エルストロム博士: ええ。
フェローズ博士: フロンティスピースとの比較を棄却するのが早くなかったか?
エルストロム博士: 早すぎたわ。あなたの会議出席者も同じく協力的ではなかったわね。
フェローズ博士: だが、理論は思いついた。
エルストロム博士: 私もよ。
フェローズ博士: せーの──
エルストロム博士: やったね。
フェローズ博士: 私もそう言うつもりだったんだが。
エルストロム博士: 今まで話してきた人は皆自分の説明に胸を張っていて、他人の説明をすぐに棄却するわ。
フェローズ博士: つまり都合よく、これについて本気で考えている人はいないということだ。
エルストロム博士: 私たちを除いて。
フェローズ博士: なら、彼らは嘘をついているか、嘘をつかれたかのどちらかだ。次は何を探すんだ?
エルストロム博士: 私たちを高位権力者に注目させて、上のどこまで腐敗が進んでいるのか見ましょう。
<転写終了。>
エルストロム博士は時間異常部門(TAD)管理官とのインタビューを予定しようとしたところ、すでに予定されていたことを発見しました。
Q. 時間異常部門の、正常性ヴェールに関する主要任務は何ですか?
A. 何もないわ。
Q. あなたの部門はヴェールに対して何らかのスタンスを取っていますか?
A. 私たちの職は、タイムプレーン全体の時間安定性を保証することよ。活動は本質的に隠匿される。でも、ヴェールそのものはTADの関心対象よ。
Q. どのような形で?
A. 私たちの監視しているタイムラインは全て中央正常性機関、CNAを特徴に持つわ。あなたと私が起源とするタイムラインでは、それはSCP財団。バリエーションはあるけれど、いくつかの中核的な真理は共通するわ。
全ての中央正常性機関は人類との関係を特徴に持ち、ヴェールはその中心的要素なの。機関がないことが特徴のタイムラインや、ヴェールがないことが特徴の機関もありうるし、そういう事例もいくつか認知しているけれど、基本的には……外れ値よ。1981年多財団協定によって、エージェントがそこに行くのは禁止されているわ。
Q. では、財団の中には初めからヴェールがなかったものもあるのですか?
A. 実はそうじゃないわ。最後まで維持されているか否かにかかわらず、財団やその類似機関で、ずっとヴェールのバリエーションが存在しない機関はないのよ。
Q. なぜそう考えるのですか?
A. 明確な答えとしては、中央正常性機関の存在は正常性ヴェールの存在によって決まるわ。
SCP-9500の画像(推測)。
ベースライン時間を治安維持する財団の組織である時間異常部門(DTA)は、そのエージェントをフェローズ博士が追跡する許可を出しました。彼は、ウィスコンシン州スロースピット外部の放棄された農場にある井戸で、その連絡先と会合することを予定しました。
<転写開始。>
<フェローズ博士は井戸のそばにいる。彼は縁から覗き込み、縁を指でトントンと叩く。彼が水筒から飲み物をすすって口をゆすぎ、背をそらそうとすると、背後から声が聞こえる。>
声: 待ちましたか?
<フェローズ博士は後ろに倒れ、せき込んで水を吹く。>
声: おっと。時間通りのようですね。
<無特徴の白衣を着た女性がフェローズ博士が立つのを手助けする。>
声: 大事なものに被害はないはずです。
フェローズ博士: <がらがらの声で> ただの水だよ。
女性: あなたを止めようとしたのです。この井戸はただの井戸ではありませんから。
フェローズ博士: ……ダニカ?
女性: 会ったことが?
フェローズ博士: ダニカ・アゾパルディ? アゾパルディ博士? 毎日私のそばで働いて、ときおり今日がいつか忘れると2倍働いていた?
<アゾパルディ博士はまばたく。>
フェローズ博士: 君がDTAの連絡先なのか? どうしてかは知らないが?
アゾパルディ博士: 違うと思います。あなたはエルストロム博士ですか?
<録音上の沈黙。>
アゾパルディ博士: ああ、ブラッドですか。では遅刻したのですね。あまりにも。
<彼女は手を広げる。>
女性: ダニカ・アゾパルディ、測時学課。以前に会ったことがあるようです。
フェローズ博士: 私は……まあいい。こんにちは。もう一度。
アゾパルディ博士: では、私が秘密を教えれば、あなたはエルストロム博士に伝えますか?
フェローズ博士: ヴェールに関する話なら、このファイルに関しては私たちは対等なパートナーだ。
アゾパルディ博士: まだそうなのですか? わかりました。
フェローズ博士: それは──
アゾパルディ博士: それでは、理解すべき主な内容は、時間は前後に動くだけではなく、左右、上下にも動き、あるいは時間の超立方体のように四次元で動く可能性があるということです。そして、あなたが現実として認識するものの一部には、代替現在やあなたの現在と同期する過去や未来の代替タイムラインの束を横断するものもあるかもしれませんが、それは一切発生しないことであり、意味をなさないものです。なぜなら、あなた自身は、あなたが普通の方法だと思う方法で時間と相互作用しているからです。
フェローズ博士: 確かに、今まで君が言ってきたことよりは納得いく話だな。
アゾパルディ博士: あなたがイルゼと話したときに──
フェローズ博士: カレンがイルゼと話している。レインデルス博士と。今ちょうどな。
アゾパルディ博士: ええと、私は誰が誰だか把握できないのです。実のところ、イルゼはこの話を完全に理解できる立場にいません。彼女の分野から外れています。私の話の多くはまだ、適用できるものではありません。ですがいずれ適用できるでしょう。いつか。きっと。
フェローズ博士: 素晴らしい。
アゾパルディ博士: それで、イルゼの教えた付随的タイムラインについてですが。
フェローズ博士: ちょっといいか? わかった。
アゾパルディ博士: それはCNAの不在を特徴とします。それが何かわかりますか?
フェローズ博士: カレンに聞くことにしよう。
アゾパルディ博士: いいですね。アクロニムは時間を節約セーブします。
<彼女は笑う。>
アゾパルディ博士: わかりますか? TADはアクロニムです。彼らが文字通り救ってセーブいるのは……?
フェローズ博士: もちろんだ。
アゾパルディ博士: まあ、片方のバージョンはそうです。もう片方はそうでもありません。
フェローズ博士: なんだって?
アゾパルディ博士: つまり、遠く離れたタイムラインには、CNAやヴェールはありません。そうなると権力の空白が生まれますが、結局は欠けた存在の同等物で埋まります。公衆が受け取る情報をコントロールしようとする人はいつでもいます。なので、その仕事の一端を担うヴェールのようなものもいつでもあります。その空白が強制的に空白のままにされる場合──ノウアスフィアレベルでの普遍的開眼や、機関を破壊する外力などなどで──最終的にタイムトラベル技術が公衆に利用可能になるのですが、はぐれタイムトラベラーを逮捕してタイムライン安定性を維持する時間当局の連合がありませんから、因果ループが発生するだのなんだの起こり、最終的にそのワールドラインの全ての分岐でZKクラス時系列破綻シナリオが構成されることになります。タイムラインがどのように進行したとしても破綻が生じ崩壊します。こういった「付随的」タイムラインが多元宇宙の均衡にとりわけ重要であったケースでは、測時学課が足を踏み入れ、本来的に戒厳令を敷く間に新たなCNAの任命を試みます。理解できたでしょうか。
フェローズ博士: ……多分? いやまあ、カメラに収めているから録音もあるしな。
アゾパルディ博士: 本当ですか? それはよくないですね。
フェローズ博士: どうして?
アゾパルディ博士: おそらくあなたは最後に井戸に痰を吐いて因果の……いえ、大丈夫でしょう。
フェローズ博士: それで、重要な点は、ええと、どこでも財団が復帰するか、ヴェールが復帰するかのどちらかなのか?
アゾパルディ博士: 非常に薄っぺらい見方ですが。まあそれでは、あなたは平地人ですね。
フェローズ博士: ああ……うん?
アゾパルディ博士: 私なら、全体としての「それらがないと現実は崩壊する」という観点に同意したと思いますが、あなたはあなたの観点があるのでしょう。今のところは。
<アゾパルディ博士は白衣から名刺を取り出し、フェローズ博士に手渡す。>
アゾパルディ博士: ここの人たちに会ったら、私に挨拶してください。
フェローズ博士: 誰だ?
アゾパルディ博士: この録音をファイリングしたらわかると思います。
<彼女はフェローズ博士を通り過ぎ、井戸の縁に上がる。>
フェローズ博士: 飛び込まないよな……?
アゾパルディ博士: 向こうを向いてください。
<フェローズ博士は向こうを向く。>
アゾパルディ博士: 観測者効果です。
<フェローズ博士は振り返る。アゾパルディ博士はどこにも見えない。>
<彼は名刺を調べる。次のように書いてある。>
ダニカ・アゾパルディ
太陽中心局所バブル最高司令部
<転写終了。>
2名の調査者は前回の会合の2日後に再会しました。
<転写開始。>
<2名の博士はストラスロイ・カラドック・プラザの入り口で会い、一緒に入場する。>
フェローズ博士: 今日は完全に無人だ。
エルストロム博士: どうやって営業できているの?
フェローズ博士: 人生のちょっとした不思議だな。
<2人はピザハットを通り過ぎ、無人のショッピングモールを散歩しながら話す。>
エルストロム博士: 今ならヴェールに異常性質が存在すると胸を張って言えるほど、十分わかったんじゃないかしら。
フェローズ博士: ヴェールは認知フィルターだ。そこにあるものを見たり、適切に理解したりするのを止める。
エルストロム博士: もっと踏み込むわ。人には見たいと思う、あるいは見ると予想するものが見える。
フェローズ博士: それぞれの観測者にとっての「最も楽な道」に従ってな。人のそれまでの世界観を脅かさないものとして。
エルストロム博士: そしてそれは財団にも効果があるわ。
フェローズ博士: それが奇妙な点だ。まるで生きて、発見されるのを望まない何かのようだ。
エルストロム博士: ヴェールの中のヴェール。
フェローズ博士: それが何だったとしても、全員がそれに洗脳されている。
エルストロム博士: 見たところ、あなたと私以外は。
フェローズ博士: その理由が気になる。
エルストロム博士: このファイルを最初に開こうと思ったのはいつかしら?
<フェローズ博士は渋い顔をする。>
フェローズ博士: よく覚えていない。4月のいつかだったのは覚えている。
エルストロム博士: うーん。
フェローズ博士: どうした?
エルストロム博士: 私もそうなの。確かね。
フェローズ博士: 管理職パートナーが勧誘されていた時期がわからないのか?
エルストロム博士: いえ、自分で探し回っていたときのことを念頭に置いていたわ。あるいは科学者たちにそうさせていたときのことを。
フェローズ博士: 興味深いな。
エルストロム博士: 今までの調査結果と違って。
フェローズ博士: 少し残念だな?
<彼女はうなずく。>
フェローズ博士: もっと隠された感じの何かという結果になると思っていた。もっと興味深い感じの。
<エルストロム博士はニヤリとする。>
エルストロム博士: あのクロコダイルのように?
フェローズ博士: アリゲーターだ。
エルストロム博士: 今となってはクロコダイルになるかもしれないわ。
フェローズ博士: やにわにな!
<両者は笑う。>
フェローズ博士: なあ、もし来週予定が空いているなら、あの洞窟に出向いて見に──
<2名の調査者は角を曲がる。ショッピングモールの2つ目の入り口から、1名の制服を着たMTF将校が2人に近づく。>
フェローズ博士: 私のじゃないぞ。
<将校は2人の前で止まって振り向き、肩の徽章を明らかにする。MTFアルファ-1("レッド・ライト・ハンド")である。>
将校: エルストロム博士とフェローズ博士ですか?
エルストロム博士: どういうことかしら?
<将校は入り口を手振りで示す。>
将校: 私から話すことではありません。
フェローズ博士: 報告の予定は──
将校: ご理解お願いします。騒動は望んでいません。
<エルストロム博士はため息をつく。>
エルストロム博士: これが結論、ということね?
<転写終了。>
2名の調査者は空輸で保安サイト-01に移送され、デブリーフィングのためMTFアルファ-1工作員によって監督評議会会議室まで護衛されました。
<転写開始。>
<評議会会議室は電気がついている。議長チエアマン以外の席は空席である。彼は2名の調査者に座るよう手振りで示す。フェローズ博士は会議室の端にある傍聴ベンチに座るが、エルストロム博士は監督者のプレートを見てO5-3の席を選ぶ。直後、フェローズ博士はきまり悪そうに立ち上がって彼女の隣のO5-4の席に座る。>
O5-1: もう少し早く応じられなかったことに申し訳なく思う。君たちの調査は指示で情報を与えたほうが有益だったのだが。
フェローズ博士: この機会を頂いて光栄です。
エルストロム博士: 私たちは自分たちの手で相当解明しました。
<議長は悲し気に笑う。>
O5-1: 洞窟の壁に作られた影だ。だがそれこそ重要なのだ。
フェローズ博士: 話が理解できません。
O5-1: いずれわかる。結局、君たちは従ってしまっているのだ。その魔力に支配されている。
<彼は後ろにもたれて指を組み、2名の調査者を静かに見つめる。>
エルストロム博士: その?
フェローズ博士: ヴェールのことを言っているのですか?
<議長はうなずく。>
O5-1: フェローズ博士、君は十分屈服しているのだよ。
エルストロム博士: ヴェールが異常であることをもう知っていたのですか?
O5-1: そうだと制定したか? 君たちの完成版報告書はまだデスクに届いていないが。
フェローズ博士: まだ完成していません。
O5-1: 間もなく完成するだろう。ここまで至ってしまうと、君たちが照明スイッチを切望するのを見過ごすのは酷なことだ。知っているだろうが、我々は闇の中でも目が見えるのだよ。
エルストロム博士: では、私たちは正しく推測できたのですか? 財団が、フロンティスピースのようにヴェールを作ったのですか?
O5-1: 君たちはひどく逆向きに理解している。ヴェールが我々を作ったのだ。ヴェールが我々を維持しているのだ。そして、それを収容する必要はない。全人類への恵みだ。虚無未満から生まれたるものだ。我々が露出を恐れることなく善行を行う恩恵を与えるものだ。我々は、闇という無限に成長する余裕のある場所で栄えている。
フェローズ博士: ですが、ならそれは何なのですか?
O5-1: 我々の種の最奥の真実に語りかける力だ。君たちが手探りで探していた巨人は我々のものであり、我々はその巨人のものであり、巨人が忘れることはない。我々は忘れてしまうのだがね。
<彼はほほ笑む。>
O5-1: それは心強いものだと思うが、君たちとその気持ちを共有できるとは思っていない。我々の将来を保証する存在は我々のポテンシャルに発している。それは宇宙霊魂スピリトゥス・ムンディに根ざしているのだ。
フェローズ博士: 集合的空想のことですか?
O5-1: 他に何がそれほどの壮大な自己隠遁性悲劇を思いつける?
エルストロム博士: オントキネティクス部門なら──
<議長は棄却するように手を振る。エルストロム博士は口を閉じる。>
O5-1: 現実改変の話をしているのではない。現実がひざまずく話をしているのだ。創造において人間の精神に勝るものはないのだよ、エルストロム博士。地球には。それを越えた場所にも。それこそが創造なのだ。
フェローズ博士: では、私たち……人類がヴェールを創造したのですか?
O5-1: 意図的ではないが。この惑星の他の種は、大型類人猿さえも、我々の異常との特別な関係を共有していない。我々だけの盲点だ。ワタリガラスは魂の送り手サイコポンプだし、ネコは死者を見ることができる。ミーム学は魚に何ら効果がない。我々の種だけがカーテンから覗くことが完全にできないのだよ、博士たち。Homo caecus、盲人とでも呼ぼうか。
エルストロム博士: それが説明だと言うのなら──
O5-1: 最初の秘密とは何だったか?
エルストロム博士: なんですって?
O5-1: 最初の秘密だ。人類が縁端を垣間見たが真の顔を認識できなかった、最初のものだ。
フェローズ博士: それは、特定の回答を念頭に置いているように聞こえますが。
O5-1: それは月だった。
エルストロム博士: そうですか。
O5-1: 最初の秘密にして、最も長く残り続けたものだ。光の届かない場所で何が起きている? 影の面にはどんな恐怖が存在する? 歴史全体を通して、わずか半ダースの実例でしか確実に理解したことがない。太陽の神にささげられた燃え盛るチャリオットに乗った人々だ。とりとめのない話をしていると思っているだろう。
フェローズ博士: その暗喩を理解しているところです。
O5-1: 暗喩ではない。文字通りに話している。我々は月にたどり着く前に原子を分解した。脳外科手術を行った。たどり着く前に多くの扉を開いたが、縁端を這いずるオーラは我々を永代思い焦がれさせていた。幾千年もの間、我々は畏敬をもって蒼白の球体を見上げていたのだ。文明の興る前から。言語の生まれる前から。赤い岩のできる前から。月は決して我々の月ではなく、人類の見た初めてのものであり、恐れ、決して理解できず、飼いならせず、破壊できないものだった。盈ち、虧け、ひと時だけ瞬く、悪意に満ちた目。それこそがヴェールなのだ。
<彼は身を乗り出す。>
O5-1: この不思議は、我々がナックルウォークしていたころからDNAに潜んでいた。君には決して触れることができないのだよ、フェローズ博士。その冷たい光は君よりも長くあり続ける。今までどれだけの人類が存在したのか知っているか? 一千億以上だ。そのほぼ皆が同じ空の同じ衛星を見上げ、それが一体何なのか考え、間違った理解をした。空は平面で、死装束が地平線を包み、無情な神をくるんでいると。無限は子供の落書きへと縮約された。ほとんどの人類はその誤解を振り払うことがなかった。どうすればできたのだろうか? 一握りの人々しか、その荒野を踏みしめたことがなく、真の静かなるを知らないのだ。
<彼は空席を手振りで示す。>
O5-1: この組織は知は力なりという訓えのもと活動しているが、宇宙にはより大きな力がある。無知だ。彼らは、私の父も賤者パアリアも太初の存在ワン・フウ・ワズ・フアアストも他の皆も、それのために寺院を建立することはせず、代わりに研究所を建てた。それは今日まで存続して、かかる不思議を可能にする光のない裂け目を監視している。
エルストロム博士: あなたの言いたいのは、月は……
O5-1: アームストロング前の時代に、ある男がその表面を暗くした。博士たちよ、その影は広がるしかできないのだ。
<彼は目を閉じる。>
O5-1: 太陽が照らしても光の通り抜けられない吸い込む虚空が存在する。知っての通り、暗闇とは光のないことではなく視覚のないことだ。裏側にあるその穴は、我々の盲目を、愚かさを、真実追及に対する強情な拒絶を全て取り込み、その事象の地平面は我々の焦点を完全に飲み込む。それは月の回転と共に円を描き、常に見えない場所、意識の外に留まる。そして、その真空は我々の共有する長夜に咆哮するのだ。
<彼は明らかに歓喜してため息をつく。>
O5-1: ほえているのだよ。
フェローズ博士: クソが。
エルストロム博士: それがその意味するところなのですか?
フェローズ博士: 私たちはずっと……それに祈っていたのか?
<議長は目を開く。>
O5-1: 我々は、それをときおりある些細な確証と見なすことを好む。毛布が滑り落ちていないことを確認するものだ。
フェローズ博士: 私たちは無知の祭壇に崇拝していたんだ。
<議長は警告のため指を立てる。>
O5-1: 我々は崇拝していない。だが崇拝を防いでいるわけでもない。人々に見させるのはとても簡単だろう。紅い月を見ろ。月食は危険ではないのだよ!
<彼は笑う。>
O5-1: それが真実だ。危険ではない。危険を回避している。我々がそれを強くするほど、それが我々を強くする。月が全く暗いとき、我々が月に我々の影をかけ、我々の本影を混ぜ合わせたとき、太陽が……
<彼は頭を振る。>
O5-1: 要点は、我々はそれに祈っていないということだ。利用しているのだ。私は無知な人間ではない。我が目は開かれている。月の塵を指でなぞった。その正体は知っている。ゆえにそれに対し権力を得たのだ。それは、史上最も高尚でやんごとなき権威だ。
フェローズ博士: それが彼らの見ていたものだったと。球体のイメージは。
エルストロム博士: 彼らは月に面して、決して理解できないことを知るのですか。
O5-1: そして、目を背けるのだ。
フェローズ博士: 「何も見ていない」と。
O5-1: そうだ。
エルストロム博士: 正常性は嘘の上に築かれているのですか。
O5-1: ずっとそうだった。
エルストロム博士: 悍ましい話です。それが与えた被害は──
<議長は鼻を鳴らす。>
O5-1: 君は誤解している。我々の後援は、凡百な社会病理を非難しているのではない。無知とは、自然に存在しない侵入性感染症ではない。我々の種の基本的性質なのだ。我々の誇示する知性サピエンスは天空にヴェールを立てたが、それはここでの奇妙さの範囲を示す。獣を飼い太らせるための蒙昧は血液や胆汁ほどの異常でしかない。非難されるべきことがあるのなら、それは我々皆に等しく降りかかる。
フェローズ博士: では、無知をやめた人々には何をするのですか?
<議長は肩をすくめる。>
O5-1: 方針の正当化が必要なほど頻繁に起きることではないのだよ。君たちのどちらも、プロジェクト全体の危険とはならない。危険であったなら、この調査に不便を感じるまで進行することは許されなかっただろう。
エルストロム博士: なぜ私たちにここまで到達させたのですか?
O5-1: 当然、拍子抜けさせるためだ。それは君たちの困惑を糧としている。君たちが質問するのを好まず、答えが得られないのを好んでいるのだ。
フェローズ博士: あなたは答えを伝えていますが。
O5-1: そう思っているのか? 君は自分で考えた未完成の説明のほうがよくないのか? 残っている手がかりをたどりたくないのか? 君はもうこの新事実が虚偽ではないかと疑っている。ミスディレクションだと。君に抵抗するすべはない。私がどのような真実を語ろうとも、一週間もせずに熟考しなおすだろう。
エルストロム博士: それは正しくありません。
<議長はフェローズ博士を手振りで示す。>
O5-1: 彼のことだ。君のことではないだろう。
フェローズ博士: どういう意味ですか?
O5-1: 君に不思議を残そう。
<彼はテーブルを1回タップする。>
<会議室の扉が開く。2名の武装したMTFアルファ-1エージェントが気を付けの姿勢で立っている。>
O5-1: おやすみなさい。
<転写終了。>
2名の調査者はMTFアルファ-1メンバーらによって、ヘリコプターに移送するためサイト-01地下鉄網まで護衛されました。しかし、プラットホームに足を乗せた際、両者は突然消失しました。
以下のイベントは、2名の調査者の襟カメラが記録したものです。
<転写開始。>
<2名の調査者は満天の星空の中にいる。黒い天体と白い天体が2人の上にぼんやりと現れる。その中心には、6本の腕を持った人型の姿があり、腕の4本は後ろで手を組み、2本の腕が、光と闇の交わる半影の縁を掴んでいる。>
賤者
この姿の適切な指定名称は賤者パアリアだ。さらなる説明は不要である。
賤者: この説明で満足だろうか?
<フェローズ博士は周囲を観察する。ほのかな構造線があり、星空はシミュレーションされていることが示唆される。彗星の軌跡と遠くにあるパルサーの光芒の間に、青銅の金具が光る。>
エルストロム博士: あなたは誰かしら?
<賤者は彼女に顔を向ける。その輝きによって重大なノイズが生じているが、賤者は無毛で中性的な、金のブロケードの付いた精緻な白い制服を着た存在であることがわかる。>
賤者: 私は番兵だ。
<フェローズ博士は賤者に近づき、指さす。>
フェローズ博士: 腕が6本ある。
賤者: その通り。
フェローズ博士: いつも腕が6本あるのか?
エルストロム博士: ブラッドリー?
<賤者はクツクツ笑う。>
賤者: これほど最後の最後でも、関連性を確かめる。君たち2人にはとても感銘を受けた。多くのことを学んだだろう。
エルストロム博士: 多くの誤答だけれど。しかもその問題はもう解決したわ。
賤者: かの帳の真の性質を知ったのか?
フェローズ博士: 議長が全てを教えてくれた。
賤者: 彼が? きっと本調子ではなかったのだろうな。
エルストロム博士: 黒き月はほえているか?
賤者: 白日の黙するとき。
<録音上の沈黙。>
エルストロム博士: ……なんですって?
<賤者はため息をつく。>
賤者: 彼はこの返答を聞いたことがない。評議会の誰もだ。
フェローズ博士: どういう意味なんだ?
賤者: 知識が声を失うときのみ無知が口を開くということだ。
フェローズ博士: それが私たちをここに連れてきた理由なのか?
賤者: その通り。
<賤者が手振りすると、星空は薄暗くなる。未知の道具や多数の作業場、本、書類で満たされた、華美な内部空間が明らかになる。>
賤者: ここは私の作業場だ。考え事をするための場所だ。昔から邪魔を厭悪しているから、邪魔者を締め出す方法を取った。これらの部屋の中では、他の夢見と共に夢を見ることはない。私たちは隔離されている。
フェローズ博士: 集合的無意識から隔絶されていると?
賤者: その通り。
エルストロム博士: どうして私たちを誘拐したのかしら?
賤者: 蠱惑的な嘘の最後の残響を越えてしか真実を聞くことはできないからだ。
<エルストロム博士は腰に手を当てる。>
エルストロム博士: なら聞きましょう。議長の説明のどこが間違っていたのかしら?
<賤者は残りの2本の腕を後ろで組み、広大な作業場を歩き始める。>
賤者: あの説明は、君たちが聞いて棄却した他の説明と同じだ。彼の信じたがったものに過ぎない。
フェローズ博士: 彼が全部でっち上げたのか? 月の裏側に怒れるブラックホールは存在しないのか?
賤者: 当然存在する。
<賤者は、作業場の向こうにいまだに見える球体を手振りで示す。>
賤者: しかし、そのブラックホールが君たちの種に与える影響力について、避け得ないものは何らない。オスカー・ワイルドは刑務所の中で何を言った? 「私たちは皆どん底にいるが、星を見る人だっている」と。星を見よ、ブラッドリー。
<話している間、大きいほうの球体の光が盈ちる。>
フェローズ博士: 太陽か。
賤者: その通り。
エルストロム博士: サウエルスエソル。あなたが彼女をそこにやったのかしら?
<賤者は苦々しい顔をする。>
賤者: 彼女は遠い昔、君たちを遠くより導くべく自らの意思であの立場を引き受けた。この世界がいかに蒙くなろうと、天に希望の灯台が常にあるという意思で。確固たる約束だ。どの方向に進めばいいか探し求めたとき、正しい方向を見られるようにするための。彼女は完璧な勇気と完璧な愛をもって、君たちのために犠牲となった。かたや私は自らを土壌に縛り、この仕事の地球側を担当している。
<賤者は頭を振る。>
賤者: 私はあまりよい働きができていない。
エルストロム博士: もしあなたが私の思う通りの存在だったなら、あなたは始まりのときにいたのでしょうね。あなたは財団を作るのを手助けした。
賤者: 言った通りだ。よい働きをしていない。私たちなら叡智を開墾し、新たな知恵の木の種を蒔くことができると思っていた。それが始まりのとき、私たち2人で互いに誓ったことだった。しかし私たちは全てを信じることはなく、終いに爪弾きにされ、あるいは儀式と義務に葬られてしまった。無知の引力は他者にとってあまりにも強く、乗り越えることができないものだった。そして今でも無知は受け継がれている。
フェローズ博士: 評議会に?
賤者: その通り。
<賤者は振り返って暗い球体を観察する。>
賤者: 評議会はあのひどい汚れを見て「習得すべき力がある」と考える。かたやその向こう側では真実の火が熱核の威厳の中で輝いている。太陽は、共同で知ろうとする人類のポテンシャルによって輝いているわけだ。見上げるだけで……
フェローズ博士: そうしたら目に悪い。
エルストロム博士: この人が文字通りに言っているとは思えないわ。
<彼女は賤者の隣まで移動する。フェローズ博士も同じくする。>
エルストロム博士: でもあなたは不可能なことを求めているわ。人類の10分の9は……いえ。財団全体も影響を受けている。人類の九十九パーセントは無知におぼれているわ。そんなに大きな穴をどう修復すればいいのかしら?
賤者: その必要はない。君たちは孤独ではない。
<賤者は一番下の両腕で2名の調査者の肩に手を伸ばす。>
賤者: 評議会は、無知のみが人類の核心を支配できると考えている。それで暗闇の側をとった。しかし闇と光の関係は互酬的ではない。夜はろうそくの火を消さないが、ろうそくの火は闇に打ち勝つ。エネルギーがある限り燃えることができる。そして知識は恐れを退散する。黒き月が君たちを支配から逃した理由を理解しているか?
<2名の調査者は視線を交わす。>
賤者: 君たちは未知の深淵を探っているからだ。どうして君たちは、君たちだけはミスディレクションの恥から見逃された?
<エルストロム博士は太陽を見つめる。>
エルストロム博士: 見ることに決めたから。
賤者: 君たちは真実を探し求めることに決めた。それが違いだ。
フェローズ博士: 思い出したよ、カレン。
エルストロム博士: 何を?
フェローズ博士: 最初にこれを調査しようと思ったときのことだよ。日食のすぐあとだった。
<エルストロム博士は額に手を当てる。>
エルストロム博士: それは本当なのね?
賤者: 調査の方法も証拠も、ほぼ全て消え去った。運に任せて残ったものを調べてもいいが、それでも消えたものが必要になるだろう。
<賤者は2名の調査者の肩を握る。>
フェローズ博士: なら、あれは偶然だったのか? 運命だったのか?
賤者: 違う。君は無関係だった。全てはあれの仕業だ。
<賤者は月にかかった影を手振りで示す。それは身もだえしている。>
賤者: 君たちは包囲網を目撃している。
<賤者は手の1つで半影の輪郭を描く。>
賤者: この灰色の薄い帯が真のヴェールだ。光と闇が対立する黒き月の最後の砦だ。かつて、君たちは悪魔や怪物や混沌のみを夢見た。かつて、君たちは未知というものの神を作った。しかしそれは強大な神ではない。弱くうつろなものだ。頑迷で遅鈍なものだ。私たちははるか昔に灯台を建てることにしたが、相続人らがその光をゆがめた。相続人はその光で世界を収容するに足る監獄を、堕ちた財団を作った。彼らの過ちだ。
エルストロム博士: それがなぜ過ちなのかしら?
賤者: 無知は脆弱なものだ。破壊点が存在する。君たちの監督者も、国王も女王も大統領も首相も、自分が真実を時代遅れにしたと考えている。しかし君たちの種は畏敬の念を抱くためにいるのではない。疑問を持つために生まれた。足枷を感じるだろう。かつて未知について考えていた空き地を感じるだろう。そして黒き月は凋落する。全世界が蒙くなれば、黒き月の飢えを満たす恐れも愚かさもなくなるからだ。無関心は無知ではない。休眠だ。そしてついにあらゆる方法に熟知して無関心から目覚めれば、単純な説明に手を伸ばすことはなくなる。指令を求めることはなくなる。星々に、光に、批評眼を向け、咆哮は単なる悪い記憶に過ぎなくなる。
フェローズ博士: 私たち皆がその選択をしなければならないと言っているのか。全人類が。光か闇か、真実か嘘かを選べと。
賤者: 違う。
<賤者の声は深まり、エコーし始める。>
賤者: ここに等価のものは存在しない。全ての道は等価ではない。正しい選択と、誤った選択とが存在する。君は誤った道のはるか奥まで迷い込んでしまった。君のため、君の子供たちのため、道を引き返さなければならない。すぐに。
<エルストロム博士は笑う。>
エルストロム博士: 80億人の人口に……何を期待しているのかしら? ある日目を覚まして、心地よい先入観にうんざりしたことに気づいて、世界を批評的に考え始めると?
賤者: その通り。
フェローズ博士: だがそうなるはずはないだろう。
賤者: 必ずやそうなる。
フェローズ博士: どうして?
賤者: そうならなければ、皆は暗闇の中で死ぬからだ。それが美徳だと聞かされているだろうが、実はそうではない。それは羨望もされなければ避け得ないものでもない、単なる結末だ。君たちは互いに殺し合うか、病にあえぎ死ぬか、箱詰めしたブギーマンに食べられるだろう。私たちはその目的のために動作している永劫を犠牲にはしない。
<星空が再び明らかになり、光景は前に進んでいる。月の影の部分が下を過ぎ去り、太陽が視界を満たす。太陽コロナの縁に小さな黒い点が現れ、あらゆる方向に数キロメートルの黒い糸を伸ばしている。>
賤者: 静寂は終わりだ。太陽が聞こえる。最高峰から評議会会議室の最深部まで。人類は光の中で生きなければならない。今こそ洞窟から出るときだ。
<2名の調査者はサイト-01の地下鉄プラットホームにいる。>
<転写終了。>
広範な医学的、心理学的、超心理学的評価を受け、2名の調査者は自己誓約により解放されました。両者には、記憶処理の代わりにミームギアスがかけられ、調査結果を他者に伝えることを防いでいます。
議長の介入の前に、SCP-9500ファイルを完結するための最後の会合が割り当てられていました。2名の調査者は、2025年9月7日の次の月食の際にこの責務を称賛することに決めました。
<転写開始。>
<夜。エルストロム博士はストラスロイ・カラドック・プラザで車から降り、1組の茶色の紙袋を持ってくる。フェローズ博士は空きの駐車スペースでローンチェアに座っている。駐車場の大半は同様に空で、一握りの人々だけがうろついている。>
<エルストロム博士が近づくと、フェローズ博士は顔を上げる。彼は他の人々を手振りで示す。>
フェローズ博士: ほとんど職員だ。全員じゃない。
エルストロム博士: 何が違うの?
<フェローズ博士は椅子のひじ掛けから手を伸ばし、アスファルトからもう一つの椅子を持ち上げる。彼はそれをエルストロム博士に手渡し、彼女は広げて彼の隣に座る。>
エルストロム博士: 双眼鏡は持ってきたかしら?
<フェローズ博士は驚き、不安になったように見える。彼はポケットに手を当て、エルストロム博士をにらみつける。>
エルストロム博士: 騙されやすいんだから。
フェローズ博士: 種の特性だ。
エルストロム博士: だけれど、日食のときは双眼鏡を郵送してくるわ。ずっと理由が気になっていたの。
フェローズ博士: 本当に目立つよな?
エルストロム博士: そこなのよ。そうである必要はない。
<エルストロム博士は紙袋の1つをフェローズ博士に渡す。>
フェローズ博士: これは?
エルストロム博士: ピザよ。
フェローズ博士: ピザハットの?
エルストロム博士: 手作り。
フェローズ博士: 冗談。
エルストロム博士: 新たな技術を身に着けるのに遅すぎることはないわ。
フェローズ博士: へえ。ありがとう、カレン。
エルストロム博士: どういたしまして。ブラッド。
<月食が深まるまで数分残っている。2名の調査者は親し気な沈黙の中食べる。>
フェローズ博士: 彼の言ったことは正しいと思うか?
エルストロム博士: どの? 議長の?
フェローズ博士: そうだ。皆が見上げたら……?
エルストロム博士: どうでしょうね。
<体格のいい中年男性が、両博士の数メートル先のタールマカダムに折り畳み椅子を置く。フェローズ博士は彼を意味深長に眺め、エルストロム博士を見てやや頭を振る。2人は声を落として会話を続ける。>
フェローズ博士: 今となっては、この光景が恐ろしいな。
<エルストロム博士はほほ笑む。>
フェローズ博士: なんだ?
エルストロム博士: 彼は多くの点で間違っていたけれど、特に1つが印象的だったわ。人類と夜空について。皆が皆顔を上げて月を見るわけじゃない。明白な天体を過ぎて見る人もいるわ。
<彼は彼女にほほ笑み返す。>
フェローズ博士: 星を見る人だっている、と?
<彼女はうなずく。>
<体格のいい男性が2人に呼びかける。>
男性: 天体ショーの準備は大丈夫か?
<光はほとんど消えている。>
フェローズ博士: もちろん。あなたは?
男性: 本当のショーはお前たちには見えないさ。
エルストロム博士: どういうことかしら?
<男性は肩越しに親指を立てる。>
男性: 太陽は今でも背後のどこかにある。俺たちのために光り輝いている。建てようとしてもよりよい灯台は建てられない。これは信じてもいい。
<エルストロム博士は顔をしかめる。>
フェローズ博士: 月食を見るためにここに来たのではないのなら……
男性: 他の人たちを見るのが好きなのさ。
<男性は小集団を手振りで示す。>
男性: 彼らの人柄を推し量る。学ぶものがあるから見ている人を見たり、人に見ろと言われたから見ている人を見たり、あるいは見るなと言われたから見ている人を見たりする。そういう感じさ。
フェローズ博士: あなたは月を見るのか?
男性: 多分しないよ。安全すぎる。
<フェローズ博士は笑う。>
フェローズ博士: なら日食を捉えたいんだな。目が見えなくなってしまうから。
男性: 正しく観測しなければな。しかもそれに時間をかける価値だってある。
エルストロム博士: どうしてそう言うんだ?
男性: 大事なことを思い出すにはいいものだからさ。何かが近くにあるってだけでは、それが大きくなるわけでも強くなるわけでもない。その周りにはやっぱり光が見える。そう心に留める価値があると思うのさ。わかるか?
<彼は群衆に注意を向ける。>
<エルストロム博士は当惑して頭を振る。フェローズ博士は肩をすくめる。>
<上空では月の表面が暗くなっていく。>
<2人はそれを見ない。>
<2人はお互いを見ている。>
<転写終了。>

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