収容体制確立以前のSCP-953-JP。SCP-953-JP-1が全て消失している。
アイテム番号: SCP-953-JP
オブジェクトクラス: Euclid Safe
特別収容プロトコル: SCP-953-JPはオブジェクトを中心として建設されたサイト-81██の室内に存在しています。SCP-953-JP-2の出現を防ぐため、SCP-953-JPの前にDクラス職員を3人並ばせてください。加えてSCP-953-JPの扉部分を封鎖する事によりDクラス職員の浪費を防ぎます。SCP-953-JP担当技術者は遠隔操作によって週に一度SCP-953-JP封鎖装置の点検を行ってください。非常時にSCP-953-JP-2が出現した際は迅速にSCP-953-JPの前に5人のDクラス職員を並ばせてください。
説明: SCP-953-JPは山形県に存在する引き戸の玄関です。SCP-953-JPは本来家屋の一部でありましたが、財団による家屋の撤去が行われた後もその場で直立状態を維持しています。(以下、SCP-953-JPの家屋の外側に向いていた面を「外側」とします。)SCP-953-JPを構成する素材は風化や侵食に対しては高い耐久性を有しますが、戸部分のみ強い圧力や衝撃によって破損する事が確認されています。
SCP-953-JPは周囲半径約12m以内に存在する、またはSCP-953-JPを起点として形成された行列を目視した人物に対し、「自身の目的のためにSCP-953-JPの前に立ちたい(または行列に加わりたい)」という欲求を抱かせます。この欲求は極めて微弱な物であり、他人からの制止や自制心等によって一時的に消失させることが可能です。しかしながら効果範囲内に滞在する限りは欲求が再発、持続します。
SCP-953-JPの外側の正面を起点にして立つ、または既に構成されている行列に加わった人物はSCP-953-JP-1となります。SCP-953-JP-1となった人物は行列から離脱する事を頑なに拒否するようになります。強制的にSCP-953-JP-1を列から離脱させた場合、SCP-953-JP-1は制止を振り切って列の最後尾に並び直します。また、SCP-953-JP-1をSCP-953-JP-1が本来並んでいた位置を中心とした直径約7mの範囲よりも外へと連れ出そうとした場合、SCP-953-JP-1は瞬時に消失し列の最後尾に再出現します。なお、SCP-953-JP-1は先述の特性を除けば変化以前の個人のアイデンティティを有しています。
SCP-953-JPは不定期に戸が開き、数体のSCP-953-JP-1がSCP-953-JPの枠内へと進入します。SCP-953-JP-1はSCP-953-JPの敷居を跨いだ時点で消失します。外部からの観測では解放時のSCP-953-JP枠内に変化は見られませんでした。なお、SCP-953-JP-1を追跡する試みは全て失敗に終わっています。
SCP-953-JP-1が2体以下になった状態が数時間持続した場合はSCP-953-JPの戸が開き、50代の日本人男性の容姿を持つ人型の存在(SCP-953-JP-2)が不規則な間隔で出現するようになります。出現したSCP-953-JP-2は、発見した人間を主に話術などでSCP-953-JPの前へと引き連れようと試みます。人間をSCP-953-JPの前か既に構成された行列の最後尾に立たせた時点でそのSCP-953-JP個体は消失しますが、SCP-953-JP-1が4体以上にならない限りSCP-953-JP-2は出現し続けます。SCP-953-JP-1が5体以上になると全てのSCP-953-JP-2はその場から消失します。
SCP-953-JP-2の出現中はSCP-953-JPの前に立つ、または行列に加わる欲求を喚起させる効果の範囲とその強度が増強されます。効果の強度はSCP-953-JP-2の消失後に減退しますが、拡大した範囲についてはSCP-953-JP-2消失後もそのままとなります。
SCP-953-JPは200█/██/██に「異常なほど行列ができる店」「常に行列が存在する謎の店舗」として複数のウェブサイト上に情報が掲載された事により財団がその存在を把握し収容するに至りました。財団が確保する直前のSCP-953-JPには28体のSCP-953-JP-1による行列が形成されており、SCP-953-JPの有する効果範囲は半径約9mでした。この廃屋はSCP-953-JP以外からの内部調査の後、倒壊によるオブジェクトへの損傷を防ぐために撤去されました。
補遺1: SCP-953-JPは収容当初SCP-953-JP-2の出現を防ぐ為に不定期に減少するSCP-953-JP-1を補充する必要がある事や、SCP-953-JP-2出現時の効果範囲の拡大と強度の増加からEuclidと分類されました。しかしSCP-953-JPを効果範囲外から機材を用いて封鎖する事によりSCP-953-JP-1の枠内への進入を阻止できる事が判明し、SCP-953-JP-2出現の阻止と大幅な収容の簡素化を行うことに成功しました。この結果オブジェクトクラスはSafeへと再分類されました。
以下はSCP-953-JPの特性を調査する際に行われたインタビュー記録です。
対象: SCP-953-JP-1-13
インタビュアー: エージェント・財部。
対象: SCP-953-JP-13。SCP-953-JPの効果範囲外かつ列中央付近にいたため、インタビュー対象として指定。
付記: SCP-953-JP確保直後に行われたインタビューです。なお、対象について3日前に家族から捜索届けが出されている事がわかっています。
<録音開始,(200█/06/22)>
エージェント・財部: あの、すみません。少しお話を伺いたいのですが。
SCP-953-JP-1-13: 何だよあんた。まさか割り込もうって算段じゃないだろうな?
エージェント・財部: いえ、違いますよ。私、庄内共同出版の鈴木と申します。ちょっとした取材です。お話をお伺いしても宜しいでしょうか?
SCP-953-JP-1-13: 取材?記者なのかあんた。……いいぜ、ちょうど暇だったし。
エージェント・財部: ご協力感謝します。始めにお名前を伺っても?
SCP-953-JP-1-13: あー、██。
エージェント・財部:ありがとうございます。では最初の質問から。貴方は何故この列に並んでいるのですか?
SCP-953-JP-1-13: ん?変な質問だな。この店結構有名じゃないの?[SCP-953-JP-1-13が情報端末を操作しWebサイトのスクリーンショットを見せる]ほら。これこれ。この口コミサイトで見かけたんだよ。何でもウマい飯が食えるらしくてさ?んでんで、ダチと三人で朝人が少ないうちから並ぼうっつって来たんだけどよ、もう混み具合がすげーの!
エージェント・財部: そんなに人気なんですか。知りませんでした。朝早くから並んでいるとのことでしたが、あなたたちは何時ごろから並び始めたのですか?
SCP-953-JP-1-13: え、んーと、何時からだっけ。[SCP-953-JP-1-13が後方のSCP-953-JP-1に声をかける]そうそう、朝の6時からだよ。でも来た時にはもう人がいてびっくりしたよ。2、30人はいたな。ついた時は帰ろうかなと思ったけど、こんだけ並んでるんだ、きっとウマイに違いねぇって思ってさ。ぜってえ食ってやろうって三人で話して並んだわけよ。
エージェント・財部: 大盛況なんですね。立ちっぱなしで疲れませんか?
SCP-953-JP-1-13: そ、こまでは気にならねえな。うん。むしろワクワクしてて疲れを感じないというか。遊園地の2時間待ちなんかよりずっと楽だぜ。
エージェント・財部: ふむ、あなたたちが並び始めてからどのくらい進みました?
SCP-953-JP-1-13: うーん、多分6人ぐらいは中に入っていったんじゃないか?こっからだと見えにくいけど、そんな気がする。
エージェント・財部: だいぶゆっくりとしてますね。
SCP-953-JP-1-13: 従業員もすくねえんじゃねえかなー、結構古い店だし。お、まって、ちょっと進んだな。2人ぐらい入ったっぽい。
エージェント・財部: 少しずつ進んでますね。もう少ししたら入れるんじゃないですか?
SCP-953-JP-1-13: だとイイんだけどな!そうだ、取材ならアンタも並んだらどうだ?レビューってのは重要だぜ?食レポっていうの?
エージェント・財部: 気になりますが……。[司令部からの通信により列に入らないように注意受ける。10秒間の沈黙] あいにくアポイントメントをまだとっていませんので。内部の取材はまた後日です。今日は下調べみたいなものですから。
SCP-953-JP-1-13: そうか、仕事すんのも大変だな……。他に俺に聞くことある?
エージェント・財部: いえ、以上です。ご協力ありがとうございました。
<録音終了>
終了報告書:SCP-953-JP-1は自身が列に並び続ける事に違和感を覚えない模様。列に並ぶ目的はSCP-953-JP-1になる前の目的が主体だった。この他複数のSCP-953-JP-1に取材を行ったがその多くはSCP-953-JP-1-13と同様の目的で列に並んだと主張した。また、エージェント・財部が列への参加を促された際に逡巡を見せた事からSCP-953-JP、SCP-953-JP-1に何らかの精神的作用があると予想される。
対象: SCP-953-JP-1-30(元D-953-JP-2)
インタビュアー: ██研究員
付記: SCP-953-JP封鎖後に配置された元D-クラス職員へのインタビューです。インタビューは通信機器越しに行われました。
<録音開始,(200█/08/12)>
██研究員: 聞こえますかSCP-953-JP-30。
SCP-953-JP-1-30: [沈黙]
██研究員: SCP-953-JP-1-30?
SCP-953-JP-1-30: ……すすまない。
██研究員: 進まない?列がですか?
SCP-953-JP-1-30: [沈黙]
██研究員: 質問に答えてください。
SCP-953-JP-1-30: 辛い。
██研究員: 辛い?何故ですか?
SCP-953-JP-1-30: あんたらに協力するために並んでなきゃいけない、わかってる、でも辛い。なんか、なあ、なんのために俺何で並んでるんだ?なぁ、いつまで並べばいい?教えてくれよ。立ちん坊は辛いんだ。
██研究員: 大事なお仕事ですよ。そのまま並んでいてください。
SCP-953-JP-1-30: 1か月経てば出してもらえるんじゃなかったのかよ!もう、もう何日だ?何か月?わかんねえよ……。なぁ、俺もうヤダ、帰りたい。帰らせてくれよ。なぁ。頼むよ。
██研究員: それはできません。
SCP-953-JP-1-30: ふ、ふざけるな。何でおれたちをこんな無意味な目に合わせるんだ!ただ、毎日立って、たって、時間も、ああ、でも、並ばないと、でも、いやだ!
[SCP-953-JP-1-30が列から外れて走り出す。SCP-953-JP-1-30は効果範囲外に出た所で瞬時に消失、列最後尾に再出現する。]
██研究員: SCP-953-JP-1-30?
SCP-953-JP-1-30: 何ですか?
██研究員: …並ぶことに苦痛は?
SCP-953-JP-1-30: いえ?特にはないですが。
██研究員: そうですか。インタビューを終了します。
<録音終了>
終了報告書: SCP-953-JPの封鎖後からSCP-953-JP-1が列に並び続けることに違和感、精神的疲弊を覚えるようになった。SCP-953-JPはあくまで対象の欲求を元にして誘因を行いSCP-953-JP-1を増加、維持させている模様。なお、効果範囲外に出て消失、再出現のプロセスを踏んだSCP-953-JP-1は違和を感じなくなる為、以降SCP-953-JP-1-29、30、31で継続して収容を維持する。