アイテム番号: SCP-960-JP
オブジェクトクラス: Safe
特別収容プロトコル: SCP-960-JPはサイト-81██の特別収容ロッカーに上部を固定された状態で保管され、真下に設置された貯水バケツは水位が一定まで上昇すると自動的に交換されます。実験以外でSCP-960-JPから排出される水を直接飲まないように、十分に注意してください。また常に設置された時計を確認し、SCP-960-JPとの15分以上の接触は避けてください。
説明: SCP-960-JPは長さ1.2mの鉄パイプです。周囲に水が存在しないにもかかわらず、その下部からは常に一定の質量の滴が発生しており、変則的な周期で落下しています。落下周期は一時間ほどで変動し、現在0.01~10秒が確認されています。発生した水に異常性はありません。
滴の落下を何らかの形で20分以上認識した場合、認識した生物は時間感覚が変化し、その時の落下周期が1秒であるように誤認するようになります。この影響は軽度のもので、正確な時間を認識することによって容易に抑えることが可能です。またAクラス記憶処理によって認識による影響は消失し、通常の時間感覚を取り戻すことができます。20分以下の接触の場合、滴の落下を認識している間のみこの影響が発生します。SCP-960-JPから発生した滴を直接飲んだ生物はSCP-960-JP-1と指定されます。
SCP-960-JP-1はSCP-960-JPの落下周期を1秒として行動する生物です。身体能力、知能などは以前と同様ですが、動作は物理法則に反した速度で行われます。例えば落下周期が1秒よりも長い時間であった場合、SCP-960-JP-1の行動は常にスローモーションのように見えます。また肉体もこの影響を受けるため、SCP-960-JP-1は通常とは異なった速度で成長します。このような状態にもかかわらず、SCP-960-JP-1は通常通りに生活することができます。詳しくは実験記録を参照してください。
SCP-960-JPの下部を地面、壁などに接着させると、大量の水が発生することが分かっています。この時発生した水を認識した生物は同様の影響を受け、多くの場合は体感時間と現実時間の大幅な差異ために錯乱状態に陥ります。
目視実験記録1 - 日付████/██/██
対象: D-8891
実施方法: 長距離走を数回行ったD-8891にSCP-960-JPによる滴の落下を20分間目視させる。
周期: 1.2秒
結果: 行動に変化なし。長距離走を行ったところ、「いつもより早く走れた」と発言。
分析: 体感時間は個人の主観的な部分が大きく、正確な計測は難しいかもしれません。
目視実験記録2 - 日付████/██/██
対象: D-8891
実施方法: D-8891にSCP-960-JPによる滴の落下を20分間目視させる
周期: 0.8秒
結果: 目視実験1と同様の手順を行うと、「遅くなった。」と発言。
分析: 違う周期の落下を認識すると、認識が上乗せされるようです。
目視実験記録3 - 日付████/██/██
対象: D-8892
実施方法: D-8892にSCP-960-JPによる滴の落下を20分間目視させる
周期: 0.1秒
結果: 初めは混乱していたが、担当職員が腕時計を見せている間は通常通りの時間感覚を取り戻した。Aクラス記憶処理によって、SCP-960-JPの影響はなくなった。
分析: 実際の時間を認識させることによって、影響を抑えることができそうです。
飲水実験記録1 - 日付████/██/██
対象: D-8894
実施方法: D-8894にSCP-960-JPから発生した水滴を飲ませる。
周期: 1.5秒
結果: D-8894の全ての行動は実験以前の1.5倍の時間を要するようになった。また、時計を取り外した人型収容施設にて生活させたところ、36時間周期で食事、睡眠を行った。その後再び飲水実験を行ったが、変化は見られなかった。
分析: 飲水によるSCP-960-JPの影響は不可逆的なものであると予想されます。D-8894が正確な時間を認識していないにもかかわらず、このような行動をとることができる理由は分かっていません。また、相対的な光速、音速などの変化による影響は現在確認されていません。
19██年から██県██村において、動物がおかしな動きをする、突然動かなくなるなどの現象が多数報告されました。調査の結果、一軒の廃屋の天井に固定されたSCP-960-JPが発見されました。また、SCP-960-JP-1-aとなった人物が発見されました。以下はSCP-JP-1-aへのインタビュー記録です。
対象: SCP-960-JP-1(本名████)
インタビュアー: エージェント・███
付記: インタビューを円滑に行うために、エージェント・███はSCP-960-JP-1の発言速度に合わせて話しています。
<録音開始>
エージェント・███: まず、お名前を教えてください。
SCP-960-JP-1-a: ████と申します。
エージェント・███: あなたがそのような状態になった経緯を教えていただけますか?
SCP-960-JP-1-a: はい、もう何年も前のことですが、その頃私は役場で働いていて、結婚したばかりでした。妻は犬が好きで実家から連れてきて……太郎と言うんですが、そいつの散歩が私の日課でした。ある日いつものように散歩に出かけて、ほんの気まぐれにあの道を通ったんです。
エージェント・███: あの道というのは、廃屋のある通りのことですか?
SCP-960-JP-1-a: そうです。あの道沿いに廃屋があることは知っていましたが、特に気にしていませんでした。
エージェント・███: 続けてください。
SCP-960-JP-1-a: はい、それで、あの廃屋の近くまで来た時音が聞こえました。水道の水の音のようで……太郎が音につられて、中に入ってしまったんです。私も急いで追いかけました。
エージェント・███: 中はどのようになっていましたか?
SCP-960-JP-1-a: 暗くて、ほとんど何も見えませんでした。途中まで太郎の鳴き声が聞こえてたんですが、しばらくして途絶えてしまって…当てずっぽうで奥の部屋に入りました。手探りで太郎を探そうとしたんですが、部屋の入り口あたりで何かにつまづいて……転んで足を捻った上に、起き上がった時水のようなものが顔に降ってきたんです。散々でした。太郎も見つからないしひとりで出ていったんだろうと思って、少し休憩した後その廃屋から出たんです。それで、それで……
エージェント・███: 大丈夫ですか?
SCP-960-JP-1-a: ……大丈夫です。それで、外に出ておかしなことに気がつきました。さっきまで明るかったのに、あたりはもう真っ暗で…急いで家に帰りました。家にはいつもみたいに妻がいて、でもおかしくて…まるでビデオの倍速みたいに、動くんです。話していることもよく分からないし、怖くて、私は自室にこもって、カーテンを閉めて毛布にくるまっていました。それで何時間かたって…気がつくとドアの隙間に紙が挟まっていました。
エージェント・███: 紙?
SCP-960-JP-1-a: ええ、妻の字で、私のことを心配している、何があったのか話して欲しい、という内容の手紙でした。私は言葉が通じることに安心して、すぐに紙に今日起こったことを書きつけて渡しました。妻は私のことを理解してくれて、それから私に合わせて生活してくれました。
エージェント・███: どのような生活を?
SCP-960-JP-1-a: 生活自体はそれほど変わりませんでいた。カーテンを閉め切って、外の景色を一切見ないようにしていました。最初は通じなかった言葉もだんだん通じるようになってきて…妻と一緒にご飯を食べて、今日あったことを話して、以前と同じように寝ました。なかなか楽しかった。仕事にかかりきりだったものですから、あんなに妻と長い時間を過ごすのは初めてでした。あの時のことが夢だったんじゃないかって、時々思って…でも外に出ようとすると、いつも妻に止められました。
エージェント・███: 失礼ですが、奥さんは…
SCP-960-JP-1-a: 妻は…妻は█年前に死にました。私は妻と同い年だったんです。でも、彼女だけどんどん年老いていきました。私は取り残されていくようで…見ているのがつらくて、最後の方はほとんど話すことはありませんでした。一人になって、自宅はまるで時が止まったように静かでした。保存食品を食べて、寝るだけの生活でした。しばらくはもったんですが、ある日ついに食べ物が底をついたので、私は久しぶりに外に出ました。外に出て、それで…その時気が付いたんです。顔なじみだった煙草屋の█████さんも、同僚の████も、親友だった███も…それだけじゃない、この村に知り合いは誰もいませんでした。みんなみんな知らない顔でした。知らない公園で、知らない家族が笑っていました。…やっと分かったんです。妻が私にしてくれたことを。妻がどれだけ大きな存在だったかを。伝えたかった。でももう遅かった。もう二度と、妻と同じ時間を過ごせない。あの時初めて、私は一人になったんです。
<録音終了>
終了報告書: SCP-960-JP-1-aの妻である████氏は██年前に亡くなっています。またSCP-960-JP-1-aの自宅からは、時計が一切発見されませんでした。現在SCP-960-JP-1-aはサイト-81██の人型収容施設に収容されています。
補遺1: SCP-960-JPが発見された廃屋の部屋からは、鳥や猫、犬などの白骨化死体が複数発見されました。これはSCP-960-JPの水滴落下周期が極端に短い時に、水滴を認識したためだと考えられます。
補遺2: SCP-960-JP-1となったDクラス職員の他実験への参加は現在検討中です。
ページリビジョン: 20, 最終更新: 10 Jan 2021 16:29