アイテム番号: SCP-979-JP
SCP-979-JPによって出現したミノカサゴ( Pterois lunulata )、背後の黒い流体にも注目。
オブジェクトクラス: Safe Euclid
特別収容プロトコル: SCP-979-JP発生区画は周辺の改装によって隔離と封鎖を行い、進入箇所を一部残した上で警備員に偽装した職員によって民間人の進入が防がれます。
説明: SCP-979-JPは██県████水族館の大型水槽内部で発生する異常な事象です。AM2:00からAM3:05の間の異常性発露時間を活性化状態と指定を行い、その時間帯以外は異常性が確認される事はありません。SCP-979-JPが発生する大型水槽は幅20×25m、深さ8mの一般的な水族館等で使用されているものと同一の構造であり、設計段階に置いて異常性は関与していない事が確認されています。
SCP-979-JPが活性化状態に移行した場合、水槽内の不特定な座標に存在する直径約4mの範囲の海水が瞬時に黒い流体状の物質へと変化します。流体は外観上においては重力と水流を無視した流動性を見せる球状の液体として維持され、その際に接触を含む干渉は不可能となります。活性化時に変化の境界線上に海洋生物が存在した場合、その段階で範囲内に存在する生物は流体の内部に取り込まれます。この生物は非活性状態に移行しても再出現する事はありません。水中用ドローン等による流体への接触も試みられましたが、内部に取り込まれたドローンからの信号は即座に途絶えました。流体は活性化状態の間、不定期に内部から多数の物品や海域を問わない海洋生物を排出します。
以下はこれまでに確認された出現物の抜粋です。
- 3mを超えるダイオウイカ( Architeuthis dux )の物と思われる触腕
- 122kgの種類が特定できない程腐敗した脂肪の塊
- 海藻(未特定種)
- 消波ブロック
- フクロウナギ( Pelican eel ) - 個体は出現後水圧の変化によって死亡。
- 2mを超えるヒトと類似した形状の右腕部
- セミクジラ( Eubalaena japonica )の新鮮な背骨
- 使用された形跡のあるシュノーケリングの装備一式 - 酸素ボンベの残量は0となっていた。
- 5432匹のラブカ( Chlamydoselachus anguineus)
特筆すべき点として、SCP-979-JP活性化の際に流体内部で緑色の光が発生する点が挙げられます。光の発生は不定期であり、
多数の光が同時に発生したパターンも報告されています。SCP-979-JPの発生原因が不明である以上、由来が判明していないこの光に対する調査がSCP-979-JP発生原因の解明に繋がる可能性が存在する事から、研究員を派遣しての調査が現在も継続されています。
追記: SCP-979-JPは複数の海域での発生が推測される未確認の転移現象を含有する存在であるとして、Euclidクラスへの再指定が行われました。
補遺1: 大型水槽内を貫通する観覧用のトンネル水槽内部から流体の観察を行っていた研究員が、不明な存在の視認を原因とする心因性ショックと意識の喪失を経験しました。研究員を発見した警備スタッフは非活性化時刻を過ぎた後も戻らない事を不審に思い、トンネルへと向かった際に内部で倒れていた研究員を発見したと報告しています。搬送後、研究員に外傷等は確認されませんでしたが覚醒後に錯乱状態となった為、容体を見ながらカウンセリングと並行して事情聴取が行われています。
対象: 山下研究員
質問者: 白月カウンセラー
<記録開始>
[不要な会話を省略]
白月カウンセラー: 大分落ち着いてきた様ですね。
山下研究員: はい、お陰様で。色々と思い出せるようになってきました。もう大丈夫だと思います。
白月カウンセラー: それは良い事です。では、記憶の整理も兼ねて一度その時の状況を話して頂けますか?無理に考え込まず、思い出した通りに口に出してください。
山下研究員: 判りました。
白月カウンセラー: まず、当時の状況で貴方が最初に思い出せる事は何ですか?
山下研究員: 最初に思い出せるのは、<12秒間沈黙>暗かった事ですね。そうだ、SCP-979-JPが活性化する時刻の十分前からトンネル水槽の所で待機していたんだ。そして暗くなった事に気が付きました。発生時刻を示すアラームが鳴った事で水槽に目を向けたと思います。
白月カウンセラー: 急に暗くなったんですか?そして、貴方は恐慌状態に陥った?
山下研究員: そうですね。あの時、水族館内部の照明は点灯していて、内部は何処でも見渡せるように明るくなっていました。そして、アラームが鳴ると同時に少し暗くなったんです。しかし、完全に真っ暗という訳でも無く、その事に対して恐怖は感じなかったと思います。<10秒間沈黙>恐怖は感じませんでしたが、驚きました。トンネルのすぐ傍にSCP-979-JP事象が発生していたんです。貴方に伝えても分からないかも知れませんが、墨のように真っ黒な流体が巨大な球の形になってトンネルに張り付いていたんです。いつもはもっと離れているのに。
白月カウンセラー: 本件のオブジェクトに関しては貴方のケアに必要な情報として、一部が私にも開示されています。支障はありませんのでそのまま続けて下さい。
山下研究員: はい。私はSCP-979-JP事象を間近で観察するチャンスだと思いました。所持していたペンライトを向けて、流体を観察したんです。流体は光を通さず、中を見通す事は出来ませんでした。まぁ、以前に小型の水中用ドローンを接近させた際も同様の結果だったのであまり期待はしてなかったんですけどね。そして、私は何かが排出されるまで待つ事に決めました。待ち続けて<沈黙>
白月カウンセラー: 大丈夫ですか?思い出すのが辛い様なら一度中断した方が良いかもしれませんね。
山下研究員: ああ、いえ、大丈夫です。細部を思い出そうとすると少し怖くなってしまって。とにかく、私は魚や船の残骸が排出されるまで流体を眺めていたんですが、その時緑色の光を見た様な気がします。いえ、確かに緑色の光はありました。小さな光で、それが一瞬だけ上に向かっていくのが見えたんです。私はそのまま光を追って上を見上げました。そして、見たんです。
白月カウンセラー: 緑色の光を?
山下研究員: いえ、その時には光は消えていたと思います。もしくは目に入りませんでした。その時、私が見た物は白い物でした。白くて、五つに枝分かれしていて、私の顔より大きかったと思います。最初は白いヒトデかと思いました。しかし、それを見ていると普段見慣れている何かを思い出したんです。掌でした。それは白くて大きな右の掌で、水槽に張り付いていました。指の関節や掌線まではっきり見えて、ヒトの手に似ていたと思います。そして、急に大きな音と共に黒かった水槽が白色で占められました。掌から腕、肩と続いて、完全に全身が水槽に張り付いていました。上半身はヒトに似ていましたが、顔には目も鼻も無かったと思います。腰から下はそのまま細く伸びて蛇の様で、そして、そして、<息切れ>
白月カウンセラー: 落ち着いて下さい、深呼吸を。一時中断します。
山下研究員: そして、急にいなくなりました。消えたというよりは後ろに引っ張られている様な感じです。そして、緑色の光が沢山見えて、意識が遠くなって、<深呼吸>すいません、今止めてしまうと思い出せなくなると思って、もう大丈夫です。そして、私はそのまま気を失いました。
白月カウンセラー: 成程、わかりました。貴方の発言は容体をチェックする為に記録されていましたが、このままオブジェクト担当班に提出させて頂きます。貴方はゆっくりと休んで下さい。今の貴方には休息が必要です。
山下研究員: 判りました、そうさせて頂きます。よろしくお願いします。
<記録終了>
この研究員の発言と以前に排出された人に似た未特定種の腕を含む多数の有機物から、SCP-979-JPによって排出される個体の中には既存の生物を遥かに逸脱する生物が存在する可能性が示されています。この事案を受けて、SCP-979-JPの発生を制限する手段が現在も模索されています。
補遺2: SCP-979-JP事象の発生に対する海水の有無の必要性を調査する為、水槽内部の完全な排水を行おうとした所、活性化時刻以前のSCP-979-JPの発生が確認されました。発生時、内部の水量は水嵩35cmを切った状態であり水中に目視できる生物は存在しなかったにも関わらず、突如内部の水全てが黒い流体へと変化しています。この変化は非活性化まで47秒継続され、クロマグロ( Thunnus orientalis )の生きた個体や未特定種の海綿、幅3mに及ぶ凍結した海水と共に深海探査に使用される設備を備えた潜水艇が出現しました。潜水艇は外観から財団保有の有人深海探査艇"Captat"である事が判明しましたが、船体は錆とフジツボ類に覆われており、内部からは争った形跡を残す3名の腐敗した遺体が発見されました。同探査艇は20██/9/23に日本海沿岸で消失した機体と同一の物であり、記録から内部の乗組員は下北沢博士、楊操縦士、棚橋副操縦士の三名であると判明しています。
これらの報告を受けて、水槽内の排水が異常事象の活発化を促す事が指摘された為、以降の排水は必要であると判断されるまでは行われない事が決定されました。また、有人探査船内部の機器から復元された記録からSCP-979-JP事象は広範囲の海域に及び、発生に未特定の存在が関与している可能性が浮上した事からオブジェクトクラスの変更と共に調査の継続が決定されました。
音声記録-████
搭乗者: 下北沢博士、楊操縦士、棚橋副操縦士
付記: 異常事象遭遇以前の記録は特筆すべき点が無かった為、編集を行っています。
<再生開始>
楊操縦士: 現在、水深2,172mに到達。下方向に岩盤と砂地を確認。
下北沢博士: このまま一度着底を行えないかな?地層のサンプルを採取しておきたい。
棚橋副操縦士: わざわざ着底しなくてもマニピュレータを伸ばせば届く範囲ですね。岩石片と砂の一部で十分ですか?
下北沢博士: ああ、十分だよ。
楊操縦士: バスケットを解放した。マニピュレータの操作はそちらで頼む。
棚橋副操縦士: 了解です。<沈黙>あれ?
楊操縦士: ちょっと待て、砂地はどこだ?
下北沢博士: どうした?
楊操縦士: 待て、何かおかしい。下方向に何も見えないんだ。ライトも何かおかしい、範囲が狭くなってる。
棚橋副操縦士: マニピュレータに異常発生。可動していない様です。
下北沢博士: 機器の異常に地形の変化か。一度司令部に通信を試みる。船体を浮上させてくれ。
楊操縦士: 今やってるが移動スラスターにもエラーが出てる。このコードは、異物が侵入?
棚橋副操縦士: バケットを収納させた方が良いんじゃないですか?
楊操縦士: ああ、いや駄目だ。こっちもエラー。マイクロバルーンも動かん。船体が何かに固定されてるのか?各自、窓から何か見えないか確認してくれ。こっちはシステムを調べてみる。
下北沢博士: 正面の窓からは何も確認できないな。そっちのカメラはどうだ?
棚橋副操縦士: ま、待って下さい。さっき何か光が見えたんです。
下北沢博士: 深海魚じゃないか?
楊操縦士: ライトの光が届いてないのにか?おい、棚橋、カメラは伸ばしてるのか?
棚橋副操縦士: やってますが、何かの負荷がかかって動かせないんです。かろうじて回転しますけど、何も見え、<悲鳴>
楊操縦士: おい、何が見えた?
棚橋副操縦士: 緑色の、緑の何かがいました。すごい勢いで動いて、<以下、不明瞭な発音>
楊操縦士: <罵声>おい、博士!これは明らかに異常だ!上の船に連絡を取ってくれ!この距離なら簡易送信くらい出来るだろ!?
下北沢博士: 駄目だ、送信と同時に信号が遮断されている。モニターを見る限りソナーも機能していないようだな。完全に手詰まりだ。
楊操縦士: ふざけるな!こんな鉄の棺桶に閉じ込められて終わりだなんて、<沈黙>え?なんだ?
棚橋副操縦士: なんですか?これ、生き物ですか?
下北沢博士: <溜め息を吐く>
[以降、悲鳴と罵声が続き、突如記録が中断される]
<録音終了>
記録装置から復元されたデータの中には最後に転送を行おうとした形跡のある撮影データが残されていました。
映像記録-██
撮影された存在の詳細は不明です。