アイテム番号: SCP-981-JP
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: SCP-981-JPはアクリルガラス製の収容室内に収容されます。SCP-981-JP収容室が存在する洞窟の周辺には変電施設に偽装された財団の建造物が設置され、部外者の侵入を防止します。
1日に1度、SCP-981-JP-1に定められた量の抑制剤を投与し、SCP-981-JP-1の低レベル活動状態を維持してください。投与のために収容室内に立ち入る人員は、必ず指定された防護服を身につけるようにしてください。抑制剤にはクロラゼプ酸、プラゼパム、ジアゼパム、フルニトラゼパムのいずれかを使用し、同じ薬剤を連続して投与することは避けなければなりません。また、投与の直前に最低3名以上の職員が投与に用いられる注射器の検査を行い、指定の薬剤で満たされていることを確認してください。指定外の薬剤が補充されていた場合、補充を行った担当者は確保の後隔離され、場合によっては終了されます。
SCP-981-JP-1からSCP-981-JP-2が放出された場合、SCP-981-JP-2が終了されるまで収容室内に立ち入らないようにしてください。SCP-981-JP-2を実験目的で移送する場合、移送容器は必ず非金属物質から構成されたものでなければなりません。また、実験目的でない限りSCP-981-JP-2、及びSCP-981-JP-2が分泌する粘液をヒトと接触させてはなりません。
説明: SCP-981-JPはSCP-981-JP-1とSCP-981-JP-2から構成されています。SCP-981-JP-1はサハリン島チェーホフ山の洞窟に存在する半径約18mの半球状の生物学的実体です。SCP-981-JP-1の体表は全てなめらかな皮膚で覆われており、感覚器官や摂食器官、排泄器官等は見当たりません。SCP-981-JP-1の身体は非常に脆く、指で押した程度の力で簡単に崩壊します。しかしながら、SCP-981-JP-1は極めて高い自己再生能力を有しており、これまでに負った傷はいずれも35分以内に再生しています。この再生の過程でSCP-981-JP-1が何らかのエネルギーを消費しているようには見えず、またSCP-981-JP-1がどのようにして生命活動のためのエネルギーを得ているのかも明らかになっていません。
SCP-981-JP-1の遺伝子はヒトのものと一致することが明らかになっていますが、その体内には複数の異なる個人の遺伝子を持つ細胞が混ざり合って存在しています。財団が行った検査によると、SCP-981-JP-1内部には脳を含む人体の主要な臓器の殆どが14組存在しており、このことからSCP-981-JP-1は14個体のヒトが異常な手段によって結合されたものであると考えられています。また、14組の臓器全ては血管系・リンパ系・末端神経系を共有しており、リンパ節はウイルス性感染症の罹患者と類似した肥大を見せています。骨格の構造は通常の人間のものとは完全に異なっており、傘の骨組みのような形に広がってSCP-981-JP-1の身体を半球状に保っています。これら多数の異常な形質にも関わらず、SCP-981-JP-1は問題なく生物的活動を維持しているように見えます。
SCP-981-JP-2はSCP-981-JP-1から放出される生物学的実体群です。その外見はヒトの大腸に類似していますが、実際には全く異なる内部構造を持つことが解剖により示されています。SCP-981-JP-2は先端部に付属した虫垂に似た器官から成分不明の粘液を分泌することができ、この粘液はそれに触れた金属、及びヒトに対してそれぞれ異なった作用を示します。金属が粘液に触れた場合、接触した部分は未知のプロセスによって瞬時に消失します。ヒトが粘液に触れた場合、対象者はその直後に激しい腹痛を訴え、約6時間後に死亡します。この時点で対象者の大腸がSCP-981-JP-2に変化し、腹部を突き破って出現します。なお、SCP-981-JP-2は脳や筋肉に当たる組織の欠如にも関わらずヘビのような動きで自立活動することができ、何らかの手段によって周囲の金属やヒトを感知して粘液を吹きかけようとすることが確認されています。周囲に金属とヒトの両方が存在する場合、SCP-981-JP-2は金属を優先して排除しようとすることが分かっています。また、SCP-981-JP-2は自己再生能力を有しておらず、放出後3日程度で寿命を迎えます。
SCP-981-JP-1は定期的に自身の身体の一部を大きく破裂させ、そこから1~3体のSCP-981-JP-2を放出します。このイベントの発生頻度はSCP-981-JP-1の脳の活動レベルに依存しており、このためSCP-981-JP-1は常に抑制剤によって低レベル活動状態に置かれています。同じ薬物を連続して投与すると効果が薄れることが確認されているため、投与ごとに異なる種類の薬剤を用いることが義務づけられています。なお、SCP-981-JP-1は低レベル活動状態にあっても大凡1ヶ月に1度の頻度でSCP-981-JP-2放出イベントを発生させます。
補遺981-JP-L: 以下の文章はSCP-981-JP収容環境の変遷について述べたものです。
SCP-981-JPは古くからサハリン島に存在していたと考えられており、SCP-981-JPに関するものと思われる最古の言及は、ごく限られた地域のアイヌに伝わるユーカラに見られます。地域によって語られる内容が異なり、ある逸話の中でSCP-981-JPと思われる存在はアイヌラックルによって退治された鉄を憎む蛇の魔神として描かれており、呪いによって彼の剣を朽ちさせたものの薬草の毒で永遠の眠りにつかされたとされています。別の逸話の中では、SCP-981-JPと思われる存在はアイヌラックルの目から逃れるために自ら眠りについたのだとされます。
18世紀に江戸幕府がサハリンでの影響力を強めると、SCP-981-JPは蒐集院によって発見され、その管理下に置かれました。財団が蒐集院から引き継いだ資料によると、蒐集院はSCP-981-JPを“太歳星君”と名付け、後述する“深い睡眠”の状態を保つために“霊鎮め”と称して薬物や呪術的手法を用いた収容活動を行っていたとされます。1875年の樺太・千島交換条約によってサハリン島南部がロシア帝国の支配下に置かれると、蒐集院はサハリン島から撤退せざるを得なくなり、SCP-981-JPは財団の管理下へと移りました。当時SCP-981-JP-1は現在よりも低い脳の活動レベルを恒久的に維持しており、長期に渡る休眠状態にあると推測されました。休眠状態のSCP-981-JP-1は、脳の活動が殆ど見られない“深い睡眠”の状態と、ごく低レベルな脳の活動が見られる“浅い睡眠”の状態を周期的に繰り返しており、前者の状態ではSCP-981-JP-2放出イベントは発生しませんでした。後者の状態では大凡数ヶ月に1度程度の頻度で放出イベントを発生させましたが、薬物処置によって容易に“深い睡眠”の状態へと戻すことが可能でした。また、この時点ではSCP-981-JP-2が分泌する粘液のヒトに対する作用は発現しておらず、金属を消失させるのみに留まっていました(補遺981-JP-Mを参照)。
20世紀前半にソビエト連邦が成立すると、財団はロシア地域における影響力を急速に失い、SCP-981-JPはGRU"P"部局によって奪取されました。"P"部局はその後しばらくの間は財団や蒐集院と同様の封じ込め処置を行っていたとみられ、大きな問題が発生した様子は見られませんでした。しかしソビエト連邦時代の末期になると突如としてSCP-981-JPの大規模な収容違反が発生し、大量のSCP-981-JP-2が収容施設から脱走しました。財団はそれを確認すると直ちに[削除済]を用いたSCP-981-JP-1の精神抑制措置、及び機動部隊を投入してのSCP-981-JP-2除去作戦を行い、これにより被害を最小限に留めることに成功しました。しかしながら、この事件の隠蔽には広範囲にわたる記憶処理と情報統制が必要となりました。この事件の後、SCP-981-JPは再び財団の管理下に戻りました。この時施設から回収された資料によると、"P"部局はSCP-981-JP-2が分泌する粘液の兵器転用を画策していたようです。
"P"部局から奪還された時点でSCP-981-JP-1は既に休眠状態から覚醒しており、薬物を用いて脳の活動を抑えてもSCP-981-JP-2放出イベントを完全に抑止することは不可能となっていました。よって、粘液に対処するためにSCP-981-JP-1はアクリルガラスによって覆われることとなりました。このため現在はSCP-981-JP-2が収容を破る恐れはありませんが、SCP-981-JP-1が覚醒した場合のリスクが予測不可能であるため、抑制剤の投与は現在も続けられています。
補遺981-JP-M: 20██/██/██、SCP-981-JP-1が突如として低レベル活動状態から覚醒し、大量のSCP-981-JP-2実体を放出する事案が発生しました。その後直ちに██博士がフルニトラゼパムの投与を行ってSCP-981-JP-1を低レベル活動状態へと戻しましたが、この際██博士がSCP-981-JP-2の粘液に触れ、直後に激しい腹痛を訴えました。██博士は隔離室に移送され、6時間後にSCP-981-JP-2が彼の体内から出現しました。これ以前に行われた実験では粘液のヒトに対する作用は発現していませんでしたが、以降のDクラス職員を用いた実験では今回と同様の異常性の発露が確認されました。このことから、この事件の前に発生した何らかの出来事によって粘液の特性に変化が生じたのではないかと推測されています。なお、この事件の後SCP-981-JP-1への抑制剤の投与の際には防護服を着用することが義務づけられました。
後に行われた調査の結果、SCP-981-JP-1にはこの事件の前に投与される予定だったプラゼパムが投与されておらず、代わりに少量の異常な成分が混入したメタンフェタミンが投与されていたことが明らかになりました。薬剤の投与を任せられていた███博士は、自室で大量のプラゼパムの服用による自己終了を行っていたことが確認されました。███博士は26年に渡って財団に勤務してきた忠実な職員であり、このような事件を引き起こした動機は明らかになっていません。この後施設内の全職員に対して精神鑑定が行われましたが、何らかの異常な影響を受けていると認められる人員は存在しませんでした。このような事件の再発を防止するため、SCP-981-JP-1への薬物投与の前には厳しい検査が行われることとなりました。なお、この事件でSCP-981-JP-2が新たに獲得したヒトに対する作用については、前述のメタンフェタミンに混入していた異常物質に由来する可能性が指摘されています。異常物質とメタンフェタミンの入手ルートについては調査が続けられていますが、今のところ成果は得られていません。
補遺981-JP-N: 1875年に蒐集院がサハリン島から撤退した際、彼らはSCP-981-JP-1周辺から回収されたいくつかの物品を本国に持ち帰っており、それらは第二次世界大戦後に財団へと引き継がれました。それらの物品は殆どが異常性の無い調度品等で占められていましたが、中にはSCP-981-JPに関連すると思われる文章が記載された複数の紙片も含まれていました。炭素年代測定によると、それらの紙片はおよそ████年前のものであると推定されています。紙片に記された文章は大部分が未知の言語によって記されており、[削除済]文字によって記された1つのみが財団によって翻訳されました。以下にその内容を記載します。
Ozi̮rmokの敬虔なる信奉者である、ゼンド・[削除済]への通達
悪い知らせです。かの不信心な[判読不能]の異端者たちが、どこからかあなたがたのことを嗅ぎつけたようです。奴らは“共にある信奉者たち”を[恐れて/警戒して]います。その鉄を朽ちさせる力を[恐れて/警戒して]います。奴らは[蜜蝋?]の鎧に身を包み、あなたがたのことを探しているようです。“共にある信奉者たち”は[不完全/未完成]です。今の彼らでは、鎧を破ることはできないでしょう。
幸いにも、異端者たちはあなたがたの詳しい居所を確信してはいないようです。信奉者たちを[深い眠り/仮死]に就かせなさい。そして彼らを大地の下の[墓所?]に隠し、不信心者たちの目を欺くのです。然るべき時が来たれば、彼らは再び[深い眠り/仮死]から解き放たれるでしょう。
カルキスト・[削除済]
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