アイテム番号: SCP-989-JP
オブジェクトクラス: Keter
特別収容プロトコル: オブジェクトの特性上SCP-989-JPの収容方法は未だに確立されていません。しかし、財団とSCP-989-JP間での協議により、SCP-989-JPは20██年█月まで全ての活動を停止し財団の収容下に置かれることを承諾、SCP-989-JP自ら収容施設内に留まらせる試みに成功しています。
現在サイト-81██の大型鳥類収容檻内に1羽のSCP-989-JPがGPSを取り付けられた状態で収容されています。SCP-989-JPは代謝を行わないため、給餌や檻内の清掃は必要ありません。SCP-989-JPの収容違反を防ぐことは現時点では不可能であるため、監視や施錠等は外部からの侵入を防ぐ事に重点を置いて行ってください。
SCP-989-JPが理性的な判断が可能な状態を保っているか、また財団に対し不信感・疑心感を抱いていないか、1日1度カウンセリングによる調査を行ってください。
SCP-989-JPが財団との取り決めに違反していない事を確認するため、日本国内でSCP-989-JPによる活動が行われていないか監視を行ってください。特に、性的内容を主体とした書籍や性的使用を目的とした物品の大規模、かつ広範囲の盗難が発生した場合、事件の調査とともに収容中のSCP-989-JPに対する尋問を行ってください。
SCP-989-JPに対する実験やインタビューを行う際は、SCP-989-JP研究責任者による許可を得た後に行ってください。現在の研究責任者は根本博士です。
説明: SCP-989-JPは日本国内に出現する異常性を持ったコウノトリ(Ciconia boyciana)の群れの総称です。SCP-989-JP個体は食事や睡眠が必要ないことを除き、通常のコウノトリと身体的特徴において異なる点はありません。SCP-989-JPは集団内で一つの意識を共有しており、また声帯が存在しないのにも関わらず未知の方法で日本語を用いて会話を行うことが可能です。
SCP-989-JP個体は日本の排他的経済水域以内の範囲において、任意の地点への出現と消失、SCP-989-JP個体数の増加・減少を行うことが可能です。このとき追加で出現するSCP-989-JP個体は完全な別個体であり、体長・性別の違いが存在します。SCP-989-JPを日本の排他的経済水域外へ連れ出そうと試みた場合、公海へ侵入を行った時点でSCP-989-JPは瞬時に消失します。出現・消失の際、SCP-989-JPは自身の保有する物品や身体に取り付けられた物品を任意に自身とともに移動させることが可能です。
SCP-989-JPの個体数は常に増減を繰り返しており、その正確な数を把握することは困難です。SCP-989-JPの協力の元に行われた財団保有土地内での実験では、最大約3,000,000羽のSCP-989-JP個体が確認されました。SCP-989-JPはこれが自身の最大個体数であると主張していますがその真偽は不明です。
SCP-989-JPは自身の持つ異常性を「コウノトリが赤ん坊を運んでくる」という、ドイツの言い伝えを元とした一般的に広く知られている迷信を日本国内から消滅させる目的にのみ使用します。
現在までに確認されている、SCP-989-JPが目的達成のために使用した手段は以下の通りです。
●単独、もしくは少人数で存在する児童を狙ったゲリラ的な性教育。
(その際、SCP-989-JP同士による人間の体位を模した性行為の実演と解説が行われる事が確認されています)
●幼稚園・保育園・小学校などを占拠しての児童に対する強制的な性教育
(上記と同様)
●通学路や交通機関を狙った大規模なSCP-989-JPによる「正しい性行為の方法」や「妊娠から出産までの過程」を主題とした歌の合唱。
●街中における性的使用を目的とした娯楽品、および性的内容を主体とした書籍の無差別な散布
●未成年の人間が存在する教育機関・住居内への性的目的で使用される物品の投入
●人通りの多い場所を狙っての「児童に幼少期から、正しい性教育を行うべき」といった内容の演説
●上記と同内容のビラの無差別な散布
(児童を対象したビラの散布の際、菓子や玩具が共に散布された)
●上記と同内容の無差別な落書き
●テレビ局・新聞社などの報道機関に対する取材活動への協力を約束した上での、自身の主張の放送・掲載の要求、または脅迫
●議員などの政治関係者に対する政治活動への協力を約束した上での、性教育の促進や性的な物事に関する法律・条例の施行・緩和の要求、または脅迫
●「コウノトリの迷信」が内容に含まれる書籍・娯楽作品の回収、および日本国内の排他的経済水域への遺棄
いずれの手段を用いる場合も、SCP-989-JPは「コウノトリが赤ん坊を運んでくるという迷信は嘘である」といった内容の主張を繰り返し行います。
これらの行動に使用される物品は、全て日本国内から盗難されたものであり、SCP-989-JP自身もそれらの物品が自身が盗み出したものであることを認めています。盗難された物品及び交通機能の停止・落書き等の清掃作業・多数の一般市民への記憶処理など、現在までにSCP-989-JPによってもたらされた被害総額は約█億5000万円です。
SCP-989-JPが「コウノトリの迷信」を消滅させる理由として、SCP-989-JPは「この地を呪いから解放するため」または「我々自身を救うため」と答えています。
当初、財団はSCP-989-JPの収容を計画しましたが、SCP-989-JPの持つ日本国内であれば自由に出現・消失する特性、および日本各地で発生したSCP-989-JPの性教育活動に対する対応に追われ適切な収容手順の確立を行うことができませんでした。しかし、最初にSCP-989-JPの活動が確認されてから10日後、今まで会話に応じなかったSCP-989-JPが、SCP-989-JPの収容方法確立のため現地調査を行っていた根本博士との会話に応じました。その後のSCP-989-JPと根本博士の協議の結果、20██年█月までに日本国内からの「コウノトリの迷信」の完全な消滅・もしくはその手段を確立させることを条件にSCP-989-JPは活動の停止および財団の監視下に置かれることに承諾しました。
日付: 20██年██月██日
対象: SCP-989-JP
インタビュアー: 根本博士
根本博士: それではインタビューを始める。
SCP-989-JP: はい、よろしくお願いします。
根本博士: 何故君達は、「コウノトリの迷信」の消滅のための活動を行っているんだ?
SCP-989-JP: この地を呪いから解放するためです。そして、再び我々が住むことのできる土地に戻すためです。
根本博士: それは以前にも聞いた答えだな、今日はその辺を詳しく教えて欲しい。
SCP-989-JP: はい、かつて我々の種は、この地で暮らしていました。他の命あるものと同じようにこの地の一部として存在していました。しかし、あの忌々しい呪いがこの土地に来たことによって我々の生活は変わりました。
SCP-989-JP: ある朝、目覚めたとき、我々は赤く薄暗い湿った場所にいました。あたり一面は肉のようなものに覆われていました。何か水のようなものが流れる音が絶え間なく続いていました。そして、我々の足からは良く実った稲穂のような赤と白の肉の塊が生えていました。稲穂には豆ほどの大きさ歪な肉の塊がいくつも生えており、細かく震えていました。稲穂は我々の足と完全に一体化しているように見えました。
SCP-989-JP: 稲穂を千切ろうとした時、我々の頭の中に何かの生き物の鳴き声が聞こえてきました。しばらくしてそれが人の幼子の鳴き声だということが分かりました。鳴き声は鳴りやみませんでした。我々はたいへん苦しみました。
SCP-989-JP: しばらくして、我々はとある方向へ向かえば、鳴き声が僅かに小さくなることに気が付きました。それはそれぞれが違う方向でした。最初は皆渋りましたが、すぐに鳴き声に耐えきれずそれぞれの方向に向かうことにしました。その方向に行けば行くほど、声は小さくなりました。道を間違えると声はすぐに大きくなります。景色は変わらず、昼も夜もありませんでした。
SCP-989-JP: しばらくすると、高く細長い桜色の筒のようなものが見つかりました。近くによると稲穂についていた実の一つが離れ、中に入っていきました。そして、また頭の中で別の人間の幼子の鳴き声が聞こえてきました。我々は次のところへ向かいました。
根本博士: それで、君たちはずっとそれを繰り返していたのか?
SCP-989-JP: はい、しかし仕事は少しずつ複雑になっていきました。
SCP-989-JP: しばらくは人間の幼子の鳴き声だけが聞こえていました。時間の感覚もなくなってきたころ、人間の声に交じりアブラセミの鳴き声が聞こえてきました。その次はヒヨドリの鳴き声、その次は水の跳ねる音、その次は名前も分からない何かの鳴き声、聞こえる声は次々増えていきました、稲穂の数も増えていきました。一つの声に従うと、そのほかの声が耐え切れないほどの叫びをあげ始めました。しかし我々はそれでも前に進むしかありませんでした。休まず止まらず眠らず変わらず、我々は実を運び続けています。
根本博士: では何故君はここに存在することができているんだ、君の話の通りだと、今も君は働いているはずだろ?それに我々は君たちが日本国内で絶滅した理由を人間による乱獲と都市開発や農薬による環境汚染によるものと考えている。君たちにその記憶はないのか?
SCP-989-JP: 我々には死んだ記憶はありません、動かなくなった我々はまだいません。我々がここにいる理由は分かります …ここが次の仕事場だからです。
根本博士: それはどういう意味だ?
SCP-989-JP: 我々には聞こえます、実を運べと要求する人や虫や水の鳴き声が。人の子の元へ運べと願う鳴き声が…。きっとそれが我々のここでやるべき仕事です。
SCP-989-JP: だけど同じように聞こえます、我々には聞こえます。我々の解放を望む我々の声が。実を運ぶことを要求する何者かの鳴き声よりずっと大きく、強烈に、絶えず我々の頭の中で鳴り続けます。それに答えるため、我々は動きます。
根本博士: 仕事の内容は君たちはもうわかっているのか?少なくとも君たちの話に出てきたような実はついていないようだが。
SCP-989-JP: いいえ、変わらず我々の足には実はついています。そして恐らく仕事の内容は変わらないのでしょう。実を運び、植え付ける。ただ今度は人の幼子、そしてまだ生きていない人の子に植えつけることとなるでしょう。まだ我々は一度も仕事はしていませんがそんな気がします。
根本博士: 分かった、なぜ君たちが「コウノトリの迷信」が自分たちの身に降りかかった異常の原因だと考えているのかは・・・まぁ、自分たちの体験と照らし合わせれば察しがつくのかもしれないな。
根本博士: それで、なぜ性教育なんだ。
SCP-989-JP: 始めはそうするべきだと考えました。多少の時間が必要であってもそうするべきだと考えました。我々の大半はそう考えました。確実にこの呪いを消し去るためにはあらゆる可能性も捨てるべきではないと考えました。場合によってはあなた方人間たちの助けが必要であるかもしれないと考えました。期待通りの結果で我々は嬉しく思います。
根本博士: そうか、正直こちらとしても君たちの冷静な判断のおかげでかなり助かっている。
SCP-989-JP: 今はまだ我々に聞こえる二つの鳴き声はあの世界で聞こえていた鳴き声ほど大きくはありません。しかし、それも少しづつ近く大きくなってきています。この呪いさえ消え去ればきっと我々は救われます。あなた方は我々の成しえない方法でこの呪いに立ち向かうことができるでしょう。
SCP-989-JP: あなた方が不幸な我々を救ってくれることを期待します。
根本博士: 我々が必ずその迷信を日本から消し去ることを約束しよう。ではこれで今日のインタビューを終了する。
SCP-989-JP: ありがとうございます、お疲れさまでした。
SCP-989-JPの消滅の目的である「コウノトリが赤ん坊を運んでくる迷信」は、かつて日本国内でのみ異常性が確認された「コウノトリが人間の乳児や胎児を襲い、異常性を持つ異形の生物に変異させる」といった異常な行動を誘発する情報災害としてSCP-████-JPに指定され、調査研究が行われていました。
しかし財団の懸命な努力にもかかわらずSCP-████-JPの影響範囲拡大は拡大、SCP-████-JPの収容方法は確立されませんでした。日本国内での急速な出生率の低下・新生児の生存率の低下による人口の減少を重く見た財団日本支部上層部は、日本国内のコウノトリを絶滅に追いやることで間接的にSCP-████-JPの影響下から脱する事を目的とした「不幸ノ鳥作戦」を計画、実施しました。日本国内で生存が確認されていた最後のコウノトリの死亡が確認された1986年2月、SCP-████-JPの収容は完全に失敗に終わったと判断され、SCP-████-JPはExplainedに分類されました。その後、SCP-████-JPのExplained分類に伴いコウノトリの日本列島繁殖個体群の絶滅の原因は「乱獲および、都市開発や農薬による環境汚染」とするカバーストーリーの適用、SCP-████-JPに関する全ての情報の改ざん・記憶処理などによる隠蔽工作、コウノトリ養殖活動への妨害工作が行われました。現在SCP-████-JPは日本国内でごく一般的に知られている迷信として存在しています。
しかし「不幸ノ鳥作戦」が終了した3年後の1989年6月、日本国内に存在する乳児や胎児が一定の割合で異常性を持った異形の生物に置き換わる現象が発生し始めました。発生する現象や対象の選定からSCP-████-JPとの類似性があるため関連が疑われましたが、SCP-████-JPに比べ発生率が非常に低いことから、これらは超常現象として記録研究され、その後は発見された生物の回収・研究および目撃者への記憶処理が行われることが決定されました。
財団の監視下において実施されたSCP-989-JPの仕事内容の観察では、実を植え付けられた新生児や胎児が変異、SCP-████-JPや上記の超常現象にて確認されていた異常性を持つ生物が出現するという結果になったことから、これらの現象とSCP-989-JPは密接な関係にあるものと推測されています。
この事実がSCP-989-JPへ漏洩した場合、SCP-989-JPが財団に一連の現象を解決する能力を有していないと判断し、財団との協定を反故し活動を再開させる可能性が存在します。情報の漏洩を防ぐため、この情報はSCP-989-JP研究関係者以外には秘匿されることが決定しました。
SCP-989-JP収容手順確立のため、現在SCP-████-JPはExplainedから再度通常ナンバーへ再配置され、収容手順確立に向けて研究が再開されています。
SCP-████-JPの詳細については、別途閲覧の許可申請を行ってください。
現在、SCP-989-JPは明確に財団と敵対するような姿勢は見せていない。これはインタビューでの発言通り、SCP-████-JPの影響を我々人類の持つ技術でのみ取り除くことが可能である可能性をSCP-989-JPが理解しているためだと思われる。
しかし、SCP-989-JPがその冷静さを保っていられる期間は、SCP-989-JPが提示した期間よりも短いものであると考えられる。日本国内に存在する人間をすべて排除する事が、最もSCP-████-JPを消滅させる可能性が高い方法であることに当然SCP-989-JPも気が付いているだろう。例えそのような短絡的な方法を選択しなかったとしても、彼らが活動や仕事を始めた場合、以前のような「コウノトリを絶滅に追いやり異常性から逃れる」という力技を封じられた我々にはなす術はないだろう。事実を捻じ曲げ、何もかもが正常に見えるよう誤魔化し続けてきたツケが回ってきた。
我々は既に失敗している。
何としてもSCP-989-JPの示した条件の期限までに、いや・・・SCP-989-JPの理性が崩れ去る前に。我々はSCP-989-JPの完全な収容、もしくはSCP-████-JPの収容を今度こそ成し遂げる必要がある。
例えそれがどんなに望みの薄い可能性であろうとも。
現SCP-989-JPおよびSCP-████-JP研究責任者 根本清一郎