SCP-9996

文字数: 1806英単語 (約6分で読了可)

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アイテム番号: 9996
レベル4
収容クラス:
keter
副次クラス:
none
撹乱クラス:
ekhi
リスククラス:
caution

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SCP-9996 (1917年頃)

特別収容プロトコル: SCP-9996はサイト-17のヒト型生物収容室に収容されています。収容室には音響抑制処理が施されており、全ての監視は遠隔視聴覚システムを介して行われます。

収容室の半径20m以内では、争議、敵対的交渉、未解決の不満の表明は禁止されています。SCP-9996を担当する職員は、直接的な交流を行う前に、未解決の対人紛争に対する心理クリアランスを取得し、財団の緊張緩和訓練を受ける必要があります。

近接領域から紛争刺激を完全に排除すると、収容パラメータが不安定化することが確認されています。倫理委員会の監督下で、軽微な口論への制御された曝露が承認されます。

説明: SCP-9996は中年期後半 (約45~50歳) の人間男性に似た実体です。対象は“仲介人”を自称しています。

SCP-9996は、組織の崩壊、身体的暴力の行使、または不可逆的な信頼の喪失に至ると予想される臨界激化ポイントCritical Escalation Point (CEP) に達した、もしくはその状況が差し迫っている紛争へと非自発的に引き寄せられます。

活性化すると、SCP-9996は紛争当事者らのすぐ近くに出現します。サイト-17内では、SCP-9996は物理的障壁を回避して口論の近場に再出現し、この際に空間センサーは低レベル転移と一致する一時的な空間歪曲を検出します。収容以前のSCP-9996は世界各地の紛争現場での出現が記録されていました。SCP-9996は能動的に瞬間移動しているのではなく、紛争そのものによって現場に誘引されている - 即ち、自由意志ではなく移動を強制されている - というのが現在の共通認識です。

出現後、SCP-9996は強迫的に調停役を引き受けます。紛争当事者らは一貫してSCP-9996を中立的かつ説得力のある人物と認識します。SCP-9996が提案する妥協案は確実に受け入れられます。SCP-9996は口語表現、売買関連の比喩、握手などを取り入れた、20世紀初頭のアメリカの商慣習に類似する慣用語法を用いて交渉を進めます。

SCP-9996が仲介する全ての合意は、数日から数十年の期間を経て破綻し、時として対立は当初の規模以上に激化します。これにも拘らず、事後分析では、SCP-9996の介入によって即時の壊滅的結果は回避されることが示されています。


補遺9996-1: 歴史的な取引
以下の文書は全て翻訳されたものです。

1917年 - フランス、ヴェルダン
アルマン・シュヴァリエ中尉の日記


デュヴァル大尉は夜明けに突撃すると言い張った。マルシャン中尉はそれを人殺しと呼んだ。幾つもの声が上がった。あの余所者が割り込まなかったら、ナイフを抜く奴が出ていたかもしれない。

「いいか諸君、俺には君たちが何を売っているか分かっている - 君たちが売っているのは自殺だ。夜明けに突撃すれば、君たちは日没までに後家さんを二倍も買うことになる。しかし、もっと良い提案があると言ったらどうするかね。三日間の休戦だ。君たちは仲間を埋葬し、一息つく時間を取る。そして仕事に戻る。三千の墓穴を掘るよりも三日失う方がまだマシだろう。これで決まりとしようじゃないか。」

我々は同意した。三日間、我々は自軍の死者たちを泥の中に埋め、私は彼を救い主だと思った。四日目に毒ガスが流れてきた。彼はいったいどんな窮地から我々を助け出したのか、果たしてそれは本当に親切だったのか、私は未だに疑問に思っている。

1432年 - イタリア、ロンバルディア
町の公証人の記録

二人の兄弟がブドウ畑を巡って諍いを起こした。片方がナイフを抜いた。異邦人が介入した: 「土地を分割し、余分を売ればいい。二人とも豊かになり、二人とも生き残る。手ぶらで帰る者はいない。」

取引は数週間のうちに決裂した。兄弟は互いの土地に塩を撒き、互いのブドウに火を点けたが、どちらも再びナイフを抜くことはなかった。

異邦人はそれきり二度とロンバルディアに姿を見せなかったが、彼の言葉は煙のように漂い続けた。

1962年 - スイス、ジュネーブ
機密解除されたソビエト連邦の公文書

部外者: 「紳士諸君、腹を割って話し合おうじゃないか。君たちが今月引き上げれば、来月は彼らが引き上げる。誰も面目を失わないし、痛い目に遭う者も出ない。妥協と呼ぼうと、常識と呼ぼうと構いはしない。明日、世界は無傷で目を覚ます - そして、君たちが真に買うのは明日だけだ。」

ソ連特使: 「君の条件は… 容認できる。」

部外者: 「その意気だ。君が今日握手することで、世界は明日無事に目覚めるだろう。今から一年後はどうなるか? まあ、それは誰にも分からんことさ。しかし、今日、俺たちにはまだ明日があるんだ。」

研究員メモ: 協定は数ヶ月で決裂した。幾つかの核実験が無期限に中止となった。

2004年 - サイト-██の収容違反
事件記録 ████-シータ、要約

SCP-9996: 「さあ、君たち、契約さえ成立すれば血を流す必要は無い。自由が欲しいか、友よ? 東棟は安全だ。生き残りたいか、兵士たちよ? 銃を下ろしたまえ。これで全員まっすぐ立って出ていけるし、誰の面子が潰れるわけでもない。お買い得だよ、紳士諸君 - そして間もなく閉店だ。」


SCP-████は逃走した。予測死傷者数: 23人。実際の死傷者数: 0人。

3週間後、懲戒手続きによって部門間の不和が生じた。保安部門と研究部門は互いに、過失は相手にあると非難し合った。収容プロトコルは停滞し、信頼関係は崩れ、サイト-██の運営体制は長期間の崩壊状態に陥った。


補遺9996-2: インタビューログ9996-V

質問者: ヴァルガ博士
場所: サイト-17、3番インタビュー室、遠隔視聴覚システム経由。
注記: クラスII陽否陰述対抗説得フィールドを展開した状態で実施。可能な限り逐語的に書き起こされている。


[記録開始]

ヴァルガ博士: 快適ですか?

SCP-9996: 快適さは捉え難いものだ、先生。しかし、仕事に取り掛かるには十分と言えるかな。

ヴァルガ博士: 了解しました。まず単純な質問から始めましょう。あなたはどうやって介入する時期を判断していますか?

SCP-9996: ノックだ。最初は丁寧に、次第に忙しなく。雷鳴より大きく轟き、罪悪感より重く圧し掛かる。いよいよ激しくなる頃には、俺はもう立ち上がっている。

ヴァルガ博士: そうですか。規模はどうでしょう - 例えば、2人の人間と2つの政府を比較すると?

SCP-9996: 五月蠅いものは五月蠅い。寝室、会議室、境界線。倒れつつあるなら、扉はもう揺れている。

ヴァルガ博士: もし、あなたが無視し続けたら?

SCP-9996: 店仕舞いを試みたこともあったよ。物事はいずれにせよ指し示された方角へ向かう。もしかしたらゆっくりと、しかし向かうことに変わりはない。それが答えない代償だ。

ヴァルガ博士: つまり… 義務を感じるのですか?

SCP-9996: 契約条件のように感じる。需要は自分で選べないが、飛び入り参加で提示する売り文句と値段は決められる。

ヴァルガ博士: なんとも独特な表現をなさいますね。

SCP-9996: 昔ながらの商いさ。足元がおぼつかなくとも微笑みを浮かべ、皆が納得できるものを提供する術が嫌でも身に着く。握手したいところだが、今はビデオ通話だからね。

ヴァルガ博士: ふむ。こうなる前の一番最初の記憶はどんなものですか?

SCP-9996: 2人の隣人、1本の柵柱、シチューが固まるほど熱く言い争っていた。「線に沿って分けろ」と俺は言った。彼らは握手し、温かい食事を摂った。思い出せる最初の契約だ。それからずっと続けてきた。

ヴァルガ博士: それらの合意が長続きしないのはご存知でしょうね。

SCP-9996: 俺の商いは奇跡じゃない。最悪の事態を防ぐのに十分長く持ち堪え、その後は他のあらゆるものと同じように壊れる。君は俺が揉み消した炎を見ようとせず、次の炎から飛んでくる灰にばかり目を向けている。時間は常に借りを取り立てるものだ。灰と血のどちらを選ぶかね、博士?

ヴァルガ博士: …では、もし財団内の諍いに介入しないでほしいと頼んだら、どうしますか?

SCP-9996: 沸騰させなければ俺には聞こえない。瀬戸際にまで達してしまえば、君たちの壁や錨越しでも聞こえる。

ヴァルガ博士: 成程… 私たちはそうなる前に行動を起こすしかないのですね。

SCP-9996: 余地があるのはそこだけだ。戸口まで来たら、取引はもうテーブルに乗っている。

ヴァルガ博士: 最後にもう1つ。あなたはここを出たいですか?

SCP-9996: そんな日もある。だが、したいかどうかは契約に含まれない。

[記録終了]


警告: 以下のファイルは レベル5/9996 機密情報です


レベル5/9996承認を伴なわない当ファイルへのアクセス試行は記録され、即時懲戒処分の対象となります。


補遺9000-3: 事件報告書9996-O5

映像記録 書き起こし

日付: 19██/██/██

場所: サイト-01、機密会議室

参加者: O5-1 (議長) 、O5-7、O5-10、追加評議会員[編集済]

起動中の保護対策: クラスIII陽否陰述対抗説得フィールド、タイプBミーメティック・ファイアウォール、二重スクラントン現実錨 (SRA) アレイ、奇跡術阻止格子、叡智圏減衰装置。

財団内部門カッパ及びデルタにおける分離独立活動についての緊急会合が開かれた。予測モデルは状況の進展による組織全体の破綻が差し迫っていることを示唆した。SCP-9996はレベル5防護結界環境に出現した。


[書き起こし開始]

O5-1: 静粛に。これより、部門カッパ及びデルタの収容に関する投票を -

O5-10: 収容だと? 甘く見るんじゃない、奴らは離反したんだ! 迅速に、綺麗さっぱり始末しなければいかん。

O5-7: もし彼らを粛正すれば、我々の運営能力の半分が損なわれる。重大な影響が及ぶだろう。

O5-10: ふん、また紙の上の数字を持ち出すつもりか。忠誠心よりもスプレッドシートに重きを置くつもりはない。

O5-7: 忠誠心だけでは補給線は維持できない。君は弾の無い銃を構えて戦場に赴きたいとでも?

O5-10: 弾の込められた銃を背中に突き付けられるよりはマシだ!

O5-7: (激昂して言い返す) その被害妄想は背信そのものよりも多くの死者を出すことになるぞ。

O5-10: お前のその臆病さのせいで、我々はいずれ眠っている間にバラされる -

[00:00:06 - 空間剪断事象が発生。奇跡術阻止格子は結界の破壊を伴なわない侵入を検知する。叡智圏減衰装置の数値が急上昇する。両手を上げ、非脅威的な体勢を取ったSCP-9996が出現する。]

SCP-9996: やぁ、どうも。君たちときたら、壁の漆喰が剥げるほど大声で言い争っていたな。俺なら罵り合う手間を省けると思う。

O5-10: ああ、畜生っ - シールドを上げろ! こいつをつまみ出せ!

[対抗説得フィールドの振幅が増大する。SCP-9996の音声は説得指数の低下 (Δ-0.31) を示すが、理解度は影響を受けない。]

O5-7: 待ちたまえ。もしこいつが阻止格子を迂回できたのなら、モデル通りの収容は既に失敗している。追い払おうとしても無意味だ。

O5-1: 記録した。対象の発言を認める。

SCP-9996: 株を綺麗に分割したまえ。資産は安定部門に、自治権は戦略部門に。諸君は王冠をあるべき場所に保ち続け、彼らは既に盗んだ鍵を持ち続ける。

O5-10: それは降伏だ。

O5-7: 現実錨は0.92ヒュームを維持している。パラクリート・リスク評価を実行してみよう。

SCP-9996: 計算してみるといい。俺と同じ答えを出すはずだ。血を今流すか、後から流すか。大抵の者は後を選ぶ。

O5-7: パラクリートの結果が出た。
粛清すれば、36時間以内に交戦に至る確率が約86%。推定死者数1,200~1,400人。完全な組織崩壊に至る確率は41%。
取引に応じれば、現段階ではほぼ確実に死者を出さずに済む。いずれにせよ、中央値約30ヶ月以内に分裂に至る確率が93%。
引き延ばせば、情勢は不安定になり、ゆっくりとではあるが粛清シナリオへと移行するだろう。

O5-10: つまり、全ての道はクソに通じるわけだ。これがお前の自慢の品か?

SCP-9996: それは単なる但し書きだ。1つの道はまだ明日を買うことができる。

O5-7: 私の意見はこうだ。彼らには厳密かつ暫定的な自治権を与えよう。隔離し、取引条件が成立するまで資産を凍結し、複数のフェイルセーフを講じる。2年後に再評価する。

O5-10: ジーザス、自分が何を言っているか分かっているのか。それは裏切り者に足掛かりをくれてやるも同然だ。

O5-7: 彼らは既に足掛かりを組み始めている。放任するより、我々が設計図を描いてやったほうがいい -

O5-1: 条件は。

O5-7: 隔離ゾーン。条件成立まで資産を凍結。外部との同盟を認めない。彼らが条件に違反した場合、再統合する。

O5-10: 少しでもおかしな真似をしたら交渉決裂だと付記してくれ。

O5-7: 安全対策として、連絡員の監視も付け加える。戦場よりも書面で争う方がまだ賢明だ。

SCP-9996: 言った通りだろう。君たちでも納得できる解決策だ。長続きはするまい - いつもそうなんだ - しかし、十分な時間稼ぎになる。

O5-10: 相変わらず同じ粗悪な契約を持ち掛けてばかりいるんだな。いい加減飽きてはこないのか?

SCP-9996: この商いは飽き以外の何物でもない。俺が売る明日は全て灰に変わってしまう、そして俺はそれを知っている - 今までずっと知っていた。だが、ノックが聞こえたら、俺は答える。止めることはできないんだ。

O5-1: これより投票を開始する。

[00:47:22 - 投票が記録される。結果: 可決。7-2-2。]

O5-1: 暫定運営自治権協定Temporary Operational Autonomy Accord (TOAA) をここに正式に採択する。

SCP-9996: これにて契約成立だ。明日は保証された、それ以上ではない。もっと良い品があれば良かったのだが… 無かったよ。これが破談に終わったら、また会おう。

[空間剪断事象が発生。SCP-9996は消失する。現実錨が基準値に戻る。]

[書き起こし終了]


事件後の概要: TOAAの採択によって、財団は資産17点と職員412人の隔離を余儀なくされ、条件が満たされるまで資産は凍結された。組み込まれたフェイルセーフによって、公然たる衝突は26ヶ月延期された。34ヶ月後までに、協定に署名した派閥は、現在“カオス・インサージェンシー”として知られる敵対的な超常軍事ネットワークへと再編されていた。後日回収された内部記録において、TOAAはインサージェンシーの“設立憲章”として扱われている。

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