クレジット
タイトル: SCP-CN-073 - その不幸を哀れみ、その争わざるを怒るか?
原題: SCP-CN-073 - 哀其不幸?怒其不争?
著者: ©︎Hannah_AI
作成年: 2017
アイテム番号: SCP-CN-073
オブジェクトクラス: Euclid Neutralized
特別収容プロトコル: インタビュー-073-5と財団の調査によって、SCP-CN-073-1が未知の手段を用いて、SCP-CN-073を意識の中に封じ込めたことが確認されました。SCP-CN-073-1はサイト-CN-34の15号標準人型収容室にて収容されています。定期的に、SCP-CN-073-1の健康調査と治療を実施してください。 インシデント-073-fの後、SCP-CN-073の無力化が宣言されました。特別収容プロトコルはもう必要ありません。
説明: SCP-CN-073は特定の人物群を対象として発生する異常です。SCP-CN-073-1の説明によると、この異常は経済水準が富裕~中間層にある家庭の学生の文房具に、実体を持たない意識体の形で顕現します。
学生がSCP-CN-073に影響された文房具を使用して学習活動を行う時、SCP-CN-073の異常効果が発揮されます。学生はぞんざいな字で筆記してしまう等、以前の水準を下回る異常な成績/成果を出すようになります(具体的な例は付録-073-betaを参照してください)。学習を始めてから48時間が経過すると、利き手が痙攣したり、注意力が散漫になる等の異常な症状が現れます(具体的な症状は付録-073-betaを参照してください)。異常効果の全容を解明するには、更なる実験の実施が必要です。
インシデントログ-073-a: 2017年█月、上海市の██中学国際クラス及び北京市の██付属中学特進コースにおいて、平均成績の大幅な下落が発生しました。同時期、学習障害を訴える学生の全国的な急増が問題となっていたことから、財団の注意を引きました。1週間後、██中学での定例検査の際に、エージェント・王█が階段の踊り場にてSCP-CN-073-1を発見。異常性を確認した後、収容に成功しました。
現在、SCP-CN-073-1が未知の方法でSCP-CN-073を捕縛していることが確認されています。SCP-CN-073-1は男性の人型実体であり、健康状態は芳しくありません。SCP-CN-073-1は発見時、布地の39%が破れた状態の棉入れの着物を着ており(分析では、着物には19世紀頃の中国における紡績技術が使用されていました)、脚部には多くの粉砕骨折の痕が確認されています。SCP-CN-073-1は普段、足を曲げ、肩から縄で吊り下げたむしろを敷いた"藁苞"のような格好で生活しており、腕で身体を支える形で移動します。
インシデント-073-fの後、異常の無力化が確認されました。SCP-CN-073-1についても死亡したと推測されます。
インタビュアー: ハンナ博士
対象: SCP-CN-073-1
<記録開始>
ハンナ博士: ええと、またお会いしましたね、SCP-CN-073-1。以前の対話では、貴方はSCP-CN-073の情報について話すことを拒絶していました。今回、自分から対話を求めてきたということは、私達に何か伝えたいことがあるのでしょうか?
SCP-CN-073-1: 俺の姓は孔だ。まあ、博士の姐ちゃんなら、数字で俺を呼んでくれたって構わん。俺は命がもう残り少ないことを悟ったのだ。そいつ……と俺は、どちらも老いすぎた。俺たちゃあ、果てに行き着こうとしているんだろう。
ハンナ博士: 「そいつ」とは?
SCP-CN-073-1: そりゃあもう、新式学堂で、ご子息ご令嬢の勉学を妨げていた奴だ。
ハンナ博士: 貴方とSCP-CN-073との関係について、詳しく教えてください。
SCP-CN-073-1: …あの頃も、俺は若くなかった。秀才になる機会さえ掴めない童生だった。生計を立てるため、人様の書物の清書を手伝ったりして、なんとか飯にありついていた。█鎮での暮らしは悪くはなかったよ。暇な銭を一杯の酒に換えて飲んでは、茴香豆ういきょうまめをつまんだりした。何ホー翁の息子の詩の清書をしていた時、そいつは初めて喋りだした。あの時、俺は気が触れたのかと思ってしまった。なんてったって、頭ん中から声がしたのだからな。
そいつは、そいつが一種の“力”であると語った。俺のように幾度も機会を逃した、古今の貧しい知識人の恨みつらみが集まったものであると。そいつは“王侯将相いずくんぞ種あらんや”、“富める者に仁徳なし”、“この社会は元より不公平だ”といった話を、つらつらと語ってきた。俺はたまげて何も喋りだせなかったし、そいつと話をしたくもなかった。ただただ、黙々と筆を動かしていたんだ。
だが、暫くすると、何家の若旦那の元々良くなかった詩才が、更に酷くなっていった。秀麗だった筆跡も、曲がりくねったものになってしまった。俺は結局、若旦那の本棚にあった書物や紙、硯を抱えて、屋敷から立ち去ったんだ。
ハンナ博士: 貴方は、SCP-CN-073の言い分に賛同したのですか?
SCP-CN-073-1: 何を言う!汝は何を根拠に人の清白を汚すか!君子もとより窮す。俺達のような人間は皆、文が書けないことを金持ちや教師、状元、はたまた皇帝のせいにするとでも言うのか?己を微塵も責め立てないとどうして言えようか。己が文を書けないからといって、金持ちの子息も書けなくしてやろうと思うわけがあろうか。孔子様の教えは、一体どこへ行ったのだ!
ハンナ博士: 分かりました。では、貴方はどのようにして、SCP-CN-073を収容する方法を思いついたのですか?
SCP-CN-073-1: …俺がそいつを家に持ち帰った後、そいつは俺に“力”を受け入れろと諭してきた。そいつは俺に、金榜題名の大官になる手伝いをしてやると持ちかけてきた。その後は俺達のような貧しい学生の為に、立身出世への道を作ってやろうともな。俺は心にもなく承諾すると、そいつは俺の身体に入り込んできた。そいつが文具に取り憑くように、だ。
少し経つと、そいつは俺が“力”を使って、金持ちの学生を一掃しようとは思っていないことに気が付いた。だが俺は既に、そいつを精神の中に押し込む術を把握していた。そいつは発狂したよ。何とかして俺の束縛を振り切ると、そいつは丁ティン挙人の家に逃げ込んだんだ。
夜が更けてから、俺は丁挙人の屋敷に忍び込み、息子の書斎にてそいつを捕まえた。再び封じ込めようと試みた最中、俺は丁挙人の使用人に見つかってしまった。俺は走って逃げようとしたが、そいつの力は依然として強かった。ようやく心の中に閉じ込めた時にはもう、俺は使用人達に囲まれていたよ。誰も俺の話を信じてはくれなかった。俺は謝罪文を書いたのち、制裁を受けた。夜通し打たれ続けたのだ……
ハンナ博士: 貴方の足の傷は、その時のものなんですね?
SCP-CN-073-1: その通り。…その後、俺は█鎮を離れた。俺が行きつけだった酒場で、茴香豆が何たるかについて論じた小僧だけでも、そいつから守ってやろうと考えたのだ。そいつの“力”は、俺を生かし続けた。大変長い時間、寝食を共にしたよ。次第に、そいつが俺から抜け出そうとする試みは減っていった。2ヶ月前まで、ずっとな……。…あの新式学堂でそいつを捕まえた時、俺はすっかりくたびれてしまった。俺は、これが最後の脱走だろうという予感がした。
ハンナ博士: 分かりました。インタビューに応じていただき、ありがとうございます。今日はこれにて……
SCP-CN-073-1: 博士の姐さんよ、こんなに沢山会ったんだ。もしかしたら、俺の最期の話し相手になるやもしれん。どうか、名前を教えてくれないだろうか?
ハンナ博士: Han…漢娜ハンナと言います。漢水の漢、嫋娜じょうだの娜です。
SCP-CN-073-1: 天匠は青紅に染め、花腰は嫋娜を呈す……なんと美しいことか。
<記録終了>
インシデントログ-073-f: インタビュー-073-5の3日後、SCP-CN-073-1は収容室から消失しました。監視カメラは消失時の状況を収められませんでした。
オブジェクトクラス再分類申請: 全国の学校に異常が見られなくなったことから、オブジェクトクラスをNeutralizedに再分類する申請を提出しました。
多分、孔██は死んだに違いありません。 - ハンナ博士
2017年█月█日: 申請を承認する。 - O5-██
ページリビジョン: 15, 最終更新: 21 Feb 2024 12:28