Info
クレジット
タイトル: SCP-CN-1559 - 青鳥セイチョウ
著者: ©Re_spectators
翻訳: BenjaminChong
査読協力: TOLPO
作成年: 2020
著者謝辞
本記事の執筆に当たり、複数のサイトメンバーから多大なご助力を頂いております。特にストーリー面で指摘してくださったreadeiier does not match any existing user name氏・ShineShadowD氏、設定の考察および漢文の批評をしてくださった
Simon Arran氏らに、心より感謝を申し上げます。
他のサイトメンバーからも、貴重で価値あるご意見をたくさん頂きました。記事をよくするために助けてくださった皆様に、ここであわせてお礼を申し上げます。
私自身の力不足により、記事には至らない点もあるかと思いますが、何卒ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願い申し上げます。
画像出典
「青鳥」
ライセンス: CC BY-SA 3.0
タイトル: silverbird.jpg
著作権者:Re_spectators
公開年: 2020
備考: Jean Beaufortによる「White Eared Hummingbird」および韓国国立中央図書館による「조선-청 외교문서(자문) 」2枚(いずれもCC0)の合成画像です。ただし、後者では著作権保護期間が著作者の死後70年または70年以内と法律に定められている国家/地域に限りパブリックドメインです。日本では2018年12月30日付で発効している「環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定」の定めにより、著作権の保護期間は70年です。
「異学会ロゴ(白)」
ライセンス: CC BY-SA 3.0
タイトル: yixuehui.jpg
著作権者:Re_spectators
公開年: 2020
備考:Freedom Kooによる異学会ロゴ(黒)(同・CC BY-SA 3.0)の反転・透過化したものと思われます。
ライセンス: CC BY-SA 3.0
タイトル: Necropsar.svg
著作権者:ShineShadowD
公開年: 2020
備考:ShineShadowD氏による「それで?あんたはもっとたくさんのクールなACS副次クラスアイコンが欲しいわけ?」に収納されているものです。なお、同記事は
Woedenaz氏以下12名による「アノマリー分類システムガイド」に基づきます。
「AG-99」
ライセンス: CC BY-SA 3.0
タイトル: space.jpg
著作権者:Re_spectators
公開年: 2020
備考: Jean Beaufortによる「Space Shuttle Endeavour Landing」(CC0)を編集したものです。
> …ログオン中…
> …指紋認証情報を照合中…
> …顔認証情報を照合中…
> …生体認証情報を照合中…
> 認証が完了しました。HMCL監督者としてファイルにアクセスしますか?(Y/N)
Y
> …アクセス中…
> アクセスが成功しました。編集画面に移行中…
地球暦2098年2月21日更新ログ
実に久しぶりです。まさか幸運にも、私がこの文書の更新を担当することになるとは思いませんでした。
この文書を閲覧する皆さんに、自己紹介をしましょうか。
私は姜文瀚ジャン・ウェンハン — SCP財団イカロス計画最高責任者、財団中国支部ステーション-CN-62852レベル5研究員、ならびにSCP-CN-1559のHMCL監督者を務めています。
20年前、研究室の主任だった私は、このオブジェクトのHMCL監督者になることを自ら志願しました。同僚たちに気が狂ったとでも思われていたでしょう。なぜなら、この文書は作成されてから、ずっと未知のアノマリーを意味する「Necropsar」クラスに分類されたまま、160年も経過してしまったのですから。
SCP-CN-1559は、財団中国支部の歴史上における最大の謎の一つでした。その文書は異学会時代から存在していたものの、人類が真に宇宙進出を果たした今でも、それが何なのかは我々はまだ把握していません。その実在はかねてより疑われていました。しかし、私は信じています — それが確かに存在するということを。
私の家系は、周の時代から綿々と受け継がれてきた血脈を誇る一族です。私の94代前の先祖は、楚の左史を務める方でした。彼が左史に就任してからの2年目、SCP-CN-1559が頻繁に夜空に現れ始めたといいます。その方は、それについて詳細かつ厳密な観測記録を残してくれました。そしてその記録は、私の90代前の先祖の手により異学会の竹簡に登録されたのです。
私の曽祖父、祖父と父親は、みな財団職員として、SCP-CN-1559の研究に関与していました。そして今日は、私は一族の意志を受け継ぎ、この文書にその物語を綴ることになります。
物語はおそらく、黄昏時の星空を羽ばたく、一羽の小鳥から始まるのでしょう。
以下の文書は報告書の過去バージョンです。
当該文書は2020年4月26日に登録されたものであり、2098年2月21日付で更新されています。関連する指示に則り、SCP-CN-1559を完全に説明するために必要と判断されたため、当該文書は最新版の報告書に添付されています。

宋の画家・顧▇氏によるSCP-CN-1559への描写。
特別収容プロトコル: 現時点でSCP-CN-1559の実際の外形や存在形態はまだ把握されていません。オブジェクトはこれまでに既知の異常性を示さなかったことから、既に異常性を喪失しているか、脅威となる異常性を有していないものとされています。SCP-CN-1559、およびそれに関連する異学会文書「異学九拾九」に対応する実体は未だに発見されていません。オブジェクトの性質に関する研究は進行中です。研究が終了するまで、この文書は財団のデータベースから削除されません。
説明: SCP-CN-1559は、中国古代の文献にのみ見られる何らかの実体です。当該実体は高高度飛行または宇宙航行の能力を有するものとされ、文献ではしばしば中華圏における伝説上の動物「青鳥」セイチョウと表現されています。
SCP-CN-1559に関する目撃記録は、散発的に先秦時代の出土・伝世文献に見られます。現在判明している最も早い直接的な記述は、西周・成王時代の青銅器銘文から発見されたものです。また、天文・暦法に関連すると思われるいくつかの殷墟卜骨に対する分析からは、SCP-CN-1559の最も古い観測は殷の後期まで遡れることが示唆されています。文献を用いた推定では、オブジェクトは生物、機械装置または神格実体と考えられ、肉眼による視認が可能です。また、形態は鳥類に類似するとされ、肉眼で視認可能な両翼を有し、青白い光を発生または反射していると推測されています。オブジェクトは、立春から立夏までの間の夕方に偶発的に天空を飛翔している模様です。その活動範囲は、おおよそ今の湖南・湖北の一部地域(すなわち、先秦時代における「楚地」)に相当します。先秦時代以降の文献では、SCP-CN-1559に関する直接的な目撃記録は見られず、代わりに中国神話における西王母の使い「青鳥」として登場しています。しかしながら、SCP-CN-1559に対応する実体の本質については未だに把握されておらず、これまでに財団がSCP-CN-1559に関する映像資料を入手したこともありません。
異学会の記録によると、初期におけるSCP-CN-1559へのイメージは、中国古代の伝説における「祥瑞」(めでたいとされる現象)に類似するものとされ、神(大部分の神話では、西王母)からのメッセージを人間に伝える存在だと考えられていた模様です。秦以降では、直接的な目撃記録がないがために、「青鳥」へのイメージにおける天文学的な特徴は徐々に消え、「使い」としての特質が強調されるようになっていきました。これは、李商隠による「無題」1を始めとする秦以降の文学作品にも反映されています。
財団において、SCP-CN-1559に対する記述は異学会の文書「異学九拾九」(補遺CN-1559-Aを参照)を継承しています。注意すべき点として、SCP-CN-1559の活動時期には、中国の文化体系における天空・宇宙に関連する神話・概念ならびに文学作品が急速に拡張・多様化されていました。そのため、SCP-CN-1559の出現は、古代中国の宇宙観醸成に重要な役割を果たしたと考えられています。現在、SCP-CN-1559の存在は当時における中華圏全体としての宇宙への注目度を上昇させたものだと信じられています。同時代において、天空・宇宙および神々に関する伝説は盛んに語られ、宇宙に関連する既知の概念もSCP-CN-1559の活動時期またはその後に出現しています。これらは牛郎-織女神話2、二十八宿3の概念などを含みます。また、同時代においては関連する文学作品の創作も活発に行われ、「天問」4などが後世に伝えられています。
異学会の記録に基づく仮説では、SCP-CN-1559の出現が該当地域の住民の注意を引いたことにより、これらの住民はSCP-CN-1559の本質について思考を重ね、やがて宇宙について思考するようになり、関連する様々な概念や伝説を生んだとされています。SCP-CN-1559の活動時期において、楚地住民の星空を観察する期間がそれ以外の時期よりも長かったことから、楚地神話・伝説の発生はこのような星空観察の活発さによって加速化されたものと推測されています。楚の文化がその後の漢文化に対する多大な影響を鑑み、SCP-CN-1559は中華圏における文明の発展に深刻な影響を与えた可能性があります。
補遺CN-1559-A: 異学会文書におけるSCP-CN-1559の記述(抜粋)
「異学九拾九」文書における「賛」(対象に対する分析)の部分は歴史上において頻繁に追記されています。これらの追記は、主に異学会の構成員や財団中国支部の職員による対象に関する連想や思考からなるものです。文字数の制限により、以下の文書では追記された「賛」は含まれておらず、説明文と初版の「賛」のみが記述されています。
注記: 下線部分はマウスオーバーで注釈が表示されます。

志号
異学九拾九
志類
魅
経
青鳥、霊禽なり。黄昏時に起ち、星間を徘徊すること。盤桓ばんかんし、子の時に至りて休む。
史
青鳥、楚地に居り。春日に至りて、夕方の明星。長庚ちょうこう昇れば、則ち起ちて天を巡り、子の時に至りて乃ち止む。夏が立てば則ち復た出でず、次年の春に復た見る。双翼青白く、体の輝燦すること晨星しんせいの若ごとく、尾は輝くこと。爍明しゃくめいすること藍の焔が如し。起てば必ずや紫気が見え、気は九万里を貫きて上る。自在にして諸星の間を遊び、歓然として燕雀の若し。楚人、之を異とし、以て西王母の使いと為す。朝に崑崙を辞し、暮に蓬莱に宿る、祥瑞なり。黄昏に至る毎に、楚人争きそいて天を相望み之を尋ねる。嘗かつて善く射る者春秋時代の楚の弓の名人。養由ようゆう氏有り、強弓勁矢を備えて之を撃たんと欲す。然れども青鳥、雲上を高翔す。飛矢力尽きて墜ち、卒ついに獲る所無し。
之を久しくして、楚人、乃ち観星の法に通ずる。天星を分けて二十八宿を作り、左史5をして天の儀を観しむ。天時流転、遂に観星に依りて出でり。之に問えば則ち曰く。「青鳥、霊使なり。青鳥起てば則ち天信転ず。天信は星象なり。節気異なれば則ち晦明変化異なるなり」と。
楚懐王四年、屈原のこと。屈平子、楚の副宰相のこと。左徒に任ず。時年、青鳥頻りに現れ、人皆以て吉兆と為す。
秦王6、言を聞きて曰く。「寡人、大業を立て、以て六祖の霊に饗きょうせんと欲す。嘗て楚に青鳥有りと聞く。神使なれば、之を観て則ち天命を知るべきかな。寡人之を得ば、則ち業を成すは「まもなく実現できるようになるのではないか?」の意。豈あに日を指して待つ可からずや?」と。遂に楚を伐し、楚楚の首都。郢えいを尋ねて破る。長庚の起つに至りて、秦王天を観れば、天色澄明ちょうめいにして、天の川のこと。河漢輝きを生む。然して青鳥匿かくれり、遂に復た現れず。
賛
楚に霊鳥有り、王母是を従わす。周あまねく列宿を行き、観星の道を授く。秦の後に徳は衰え、復た現れざるなり。嗚呼!青鳥の現るるは已やむかな。九天の輪転、何物ぞ之を示すや?日月星辰、何の理ぞ之を定むるや?中国古代思想において、天地間に存在する陰・陽・風・雨・晦かい・明の六つの気を指す。六気りっきの弁は、何の道ぞ之を御するや?
奔江楚土長庚起,懸宇漢河玉斗明。
青鳥歸天難復返,人間安解紫微情?
奔江 楚土 長庚起ちて、空にかかる様。懸宇 漢河 北斗七星の別名。玉斗明るし。
青鳥 天に帰りては 復た返ること難しかれば、人間 安いずくんぞ天帝が住む場所。転じて宇宙を指す。紫微の情を解せんや?
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