ある回の実験にて、SCP-CN-2062が記した自身の名前
アイテム番号: SCP-CN-2062
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: SCP-CN-2062は標準人型実体ユニットに収容されるとともに、人間の一般的な生活必需品が提供されます。セキュリティスタッフはSCP-CN-2062に対し、いかなる形式の交流も取るべきではありません。担当のセキュリティスタッフには事前に、オブジェクトの行動様式が不安定であり、対象の行動を理解しようとする必要はないことを知らせてください。SCP-CN-2062の挙動に他者もしくは自身を傷付ける可能性がみられた場合、覚醒後の状況変化を期待して、収容ユニットへの鎮静ガスの注入が許可されます。平時の状況下においては、上記の収容プロトコルで事足りるため、追加の施策は必要ありません。
説明: SCP-CN-2062は2023年1月2日以降の上席研究員・廖リャオ某某です。上記日付以降、SCP-CN-2062の示す行動様式はランダムに変化する状況に置かれています。現在のところ、Y/Nプロトコルを使用する以外に、オブジェクトと安定したコミュニケーションを取ることは不可能です。
SCP-CN-2062の用いる言語は絶えず変化を続けており、15秒から107分までの不定な間隔で、財団が把握するどの既存言語にも合致しない言語に置き変わります1。ある実験においては、オブジェクトに対し2時間の間、自身の認める母語における「愛」を繰り返し述べるよう指示しました。以下のリストは、国際音声記号(IPA)を用いて記した、上記実験結果の抜粋です。
タイムスタンプ | 意味 | 近似の発音 |
---|---|---|
00:00:12 | 愛 | mtʰɑːʙʉ |
00:08:39 | 愛 | d̪eɤ |
00:13:35 | 愛 | fɜliʔʌtʃa |
00:49:23 | 愛 | moðe |
01:03:57 | 愛 | rëv |
01:17:20 | 愛 | ʔuː |
01:37:24 | 愛 | æxy |
01:40:55 | 愛 | tʲerbꞵutɺaɱ hujakʰɪerɛciptʰo |
01:42:31 | 愛 | ɹvejoː |
01:48:02 | 愛 | aʔh |
SCP-CN-2062は行動面においても、同じ意味を不定な様式で表現します。一般の人間の表現と比べて、オブジェクトの表現には顕著な差異が見られます。例として、「喜びを示せ」と指示した際は、微笑み等の通常の表現に加え、瞬く、膝を曲げる、右手の手のひらで頬を3回叩く、地面につばを吐く、他人の耳たぶを甘咬みするといった様式で喜びを示しました。「喜びを微笑みで示せ」と指示された際は、短時間のうちは指示に従うものの、不定な時間を過ぎると、オブジェクトは直前とは異なる様式で喜びを表すようになります。さらなる実験(模倣、指示、学習などを含む)の後、オブジェクトに対する安定した行動様式の再建は不可能であることが確認されました。一部の行動には攻撃的と解釈され得るものがあるため、実験目的の場合を除き、職員とオブジェクトのコミュニケーションは総じて不推奨となっています。
特筆すべきことに、多くの実験過程から、SCP-CN-2062は他者の表現や行動の意味を十分に理解していることが示されています。また、対象は自身の認識において、現状の対応が妥当であるとみなしており、その認識の範囲内で、収容に最大限の協力を示していることも分かっています。その一方で、オブジェクトに過去の行動記録を見せると、対象はそれらの行為が理解できず、現状の認識と食い違いがあることを指摘します。以上のことから、SCP-CN-2062は当異常現象の唯一の被影響者であり、対象以外への波及は無いものと考えられています。
付録I - Y/Nプロトコル: 複数の実験から、SCP-CN-2062への安定した行動様式の再建は不可能であるとみなされました。このため、オブジェクトの行動様式に合わせることが、対象との交流を実現する唯一の手段と考えられています。行動様式の変化はランダムで、極めて短いスパンで変わる恐れがあり、なおかつ、過去の単発的交流を参考にすることはできません。したがって、交流プロトコルは可能な限り簡潔なものにしなければなりません。上記の観点に基づき、収容チームはY/Nプロトコルを確立し、実験/収容中のオブジェクトに対する相互交流に役立てています。当プロトコルは目下、オブジェクトとの相互交流に有効な唯一の手段となっています。
Y/Nプロトコル
Protocol Y/N
SCP-CN-2062との間で行われる相互交流はすべて「質問・回答」のパターンを基本とします。当方からはYES/NO形式の質問を提示し、オブジェクトは「肯定」または「否定」を使用し、回答を示します。すべての相互交流は以下のテンプレートを厳格に守らねばなりません。
- 当方、質問を述べる。
- 当方、「"肯定"と言い、次に"否定"と言い、それから答えてください」と述べる。
- SCP-CN-2062、現在認識する母語で「肯定」「否定」と述べ、最後に回答を行う。オブジェクトの発言を検証し、対象の回答を確認する。
- 上記ステップを繰り返す。
ステップ2の省略はできません。質問のたびに繰り返して、交流の様式を確かめ合う必要があります。さもないと、SCP-CN-2062は時間経過で様式に従えなくなり、手順をやり直さなくてはなりません。
ステップ3におけるSCP-CN-2062の回答が、直前に提示した「肯定」および「否定」のサンプルと一致しない場合、質問を繰り返します。これは、オブジェクトの行為が不定な間隔で変化することに起因する、正常な範囲内の現象です。
付録II - 会話ログ: Y/Nプロトコルを用いた、SCP-CN-2062との相互交流記録の一例。参考として示します。
会話ログ
2023年2月14日、13時31分
<記録開始>
インタビュアー: こんにちは、SCP-CN-2062。気分は良好ですか?"肯定"と言い、次に"否定"と言い、それから答えてください。
SCP-CN-2062: 肯定。否定。肯定。
インタビュアー: 昨日と比べて、ご自身に変わった点はありますか?"肯定"と言い、次に"否定"と言い、それから答えてください。
SCP-CN-2062: 肯定。否定。否定。
インタビュアー: 本日は何か、特別な要求はありますか?"肯定"と言い、次に"否定"と言い、それから答えてください。
SCP-CN-2062: 肯定。否定。否定。
インタビュアー: 行動が定まらない異常性について、あなた自身も研究をなされていることを、我々は把握しています。この点に関して、何か発見はありましたか?"肯定"と言い、次に"否定"と言い、それから答えてください。
(12秒の間、Y/Nプロトコルを示さず。)
インタビュアー: 質問を繰り返します。行動が定まらない異常性について、あなた自身も研究をなされていることを、我々は把握しています。この点に関して、何か発見はありましたか?"肯定"と言い、次に"否定"と言い、それから答えてください。
SCP-CN-2062: 肯定。否定。否定。
インタビュアー: 分かりました。次に述べますのは、定例の情報共有です。回答の必要はありません。
インタビュアー: あなたの受け持つ研究プロジェクトがこの度、邵茂学シャオ・マオシェ博士と蕭筠シャオ・ジュン博士に移管されました。やや時間はかかりましたが、比較的スムーズな引き継ぎでした。両博士ともに、あなたの規範的な文体を褒めていましたよ。なんでも、実験レポートがとても詳細で、記述も明瞭で解りやすかったと。あなたは直前まで、素晴らしい仕事をこなしていらっしゃいました。
それと、標準的な事故死のカバーストーリーが、ご親族様の元に通知されました。そうしなければならないのは遺憾ですが、優秀な財団職員の立場として、必要な措置と理解していただけるものと思います。ご親族は今のところ、皆さん精神的に安定していらっしゃいます。財団のご友人からも、家族のことはこちらで面倒を見るよ、と言付けを貰っておりますので、あまり心配なさらないでください。
インタビュアー: あなたの気分は良好ですか?"肯定"と言い、次に"否定"と言い、それから答えてください。
(34秒の間、Y/Nプロトコルを示さず。)
インタビュアー: 質問を繰り返します。あなたの気分は良好ですか?"肯定"と言い、次に"否定"と言い、それから答えてください。
SCP-CN-2062: 肯定。否定。否定。
インタビュアー: 我々に何か、やれることはありますか?"肯定"と言い、次に"否定"と言い、それから答えてください。
(53秒の間、Y/Nプロトコルを示さず。)
インタビュアー: 質問を繰り返します。我々に何か、やれることはありますか?"肯定"と言い、次に"否定"と言い、それから答えてください。
SCP-CN-2062: 肯定。否定。否定。
インタビュアー: もしも……誰かに、あなたと同じ異常現象が起こったら、あなたの気分は和らぎますか?"肯定"と言い、次に"否定"と言い、それから答えてください。
(18秒の間、Y/Nプロトコルを示さず。)
インタビュアー: 質問を繰り返します。誰かにあなたと同じ異常現象が起こったら、あなたの気分は和らぎますか?"肯定"と言い、次に"否定"と言い、それから答えてください。
SCP-CN-2062: 肯定。否定。否定。
<記録終了>
備考: 会話の終了後、SCP-CN-2062は右手人差し指の爪を引き剥がした。鎮静ガスの注入後、サイトの医療チームが収容ユニットに進入。対象を止血し、包帯を巻いたものの、大事に至るものではなかった。当行為の意味を知ることはもはや不可能である。