SCP-CN-2694


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アイテム番号: SCP-CN-2694

オブジェクトクラス: Safe

特別収容プロトコル: アレックス・ソーリーは有効な照明器具店の電話番号に電話を掛け、自室の古くなった照明設備の交換を試みることでSCP-CN-2694を排除する必要があります。

説明: SCP-CN-2694は、20Wの電球が完全に損壊して以降アレックス・ソーリーの自室を占拠している暗闇1です。

補遺:

補遺CN-2694-1、名刺

店舗名: [存在しそうな照明器具店]

注文電話番号: [確実に有効な電話番号]

担当者: [当然存在するべき店員]

住所: [必ず存在する、あなたの住居に近い住所]

補遺CN-2694-2、通話

[アレックス・ソーリーが床にしゃがみ、白い固定電話に触れるが、ボタンに記載された数字は判別できない。]

[押下する音、連続するクリック音、ため息に続いて、ベートーヴェンの『エリーゼのために』が鳴る。]

[接続——]

アレックス・ソーリー: もしもし?

店員: はい、こんにちは、こちらは [存在しそうな照明器具店] です。何か必要な物はございますか?

アレックス・ソーリー: その…… 部屋の電球が壊れてしまって——そちらに20Wの電球はありますか?

店員: [沈黙]

アレックス・ソーリー: ……もしもし?

店員: 申し訳ありません。ただ今、20Wの電球は品切れとなっております——ですが、それ以外の商品につきましては名刺の裏にリストを記載しておりますので、今すぐにでもご注文できますよ。ご満足いただけなければいつでも返品や交換が可能です。

アレックス・ソーリー: ……そうですか、ではまず██を1つお願いします。こちらの住所ですが——

アレックス・ソーリー: もしもし?

[アレックス・ソーリーの室内に段ボール箱が出現する。]

アレックス・ソーリー: ああ、そういう……

[アレックス・ソーリーが段ボール箱を開く——]

補遺CN-2694-3、購入記録 (一部)

商品 購入順序 効果
マッチ 2 マッチを1本擦ると、父親がスツールの上に立って、電球を真新しいものと取り替えているのが見えた。マッチはあなたの幼年期を照らし出し、父親はあなたの家庭を温めた。1束擦ると、子供時代に過ごした部屋で明かりが煌々と灯されているのが見えた。父親があなたに向かって微笑む。あなたはあの逞しきシェルターと抱擁を交わしたいと思い、両手を広げて父親のもとへと駆けた。しかし、ついに暗闇が光を吹き消し、幻想は崩れ去ってしまった。柔らかな灯火も、両手を広げた子供も、父親の微笑みも、もはや存在しない。あなたは床の上で丸まり、ぶるぶると震える。ほら、暗闇があなたを嘲笑っているよ。
3 虫が飛ぶ、虫が飛ぶ。ぽつりぽつりと宙を舞う。あなたは微笑みを浮かべて静かに眠りに就く。耳元では水のせせらぎと夏虫の夜想曲が響き、身体の下には柔らかな草と色とりどりの野花が敷き詰められ、夢の中では活気に満ちた蛍の光と——あれはもしや、蝙蝠か? 真っ黒な翼をはためかせ、醜い目を瞬かせ、鋭い歯を露わにして、ぽつりぽつりと舞い光る蛍を喰い千切る。驚いて夢の中から飛び起きると、背中が汗でびっしょり濡れていた。周囲に散らばった光の死骸を見る——それらは暗闇の中で死んでゆく。
ロウソクの火 5 心は長く炎は短く、ゆらゆらと揺れている。あなたは両手で彼女をしかと護った。たとえ彼女の涙があなたの身体に流れ落ちても、構わず護り続けた。彼女は停電した夜ではいつも明かりを灯してくれた、誕生日にはいつもどんな願い事にも耳を傾けてくれた——だが今のあなたにできることは、目に涙を浮かべながら、彼女の命が一滴、また一滴と暗闇に刈り取られていくのを待つことだけだ。そしてついに彼女は最後の涙を流し、闇の訪れとともにひっそりと息を引き取った。目を向けると、一筋の青い煙が暗闇と混ざり合い、涙の玉が肌を焼いて固まっていた——それが彼女の唯一の遺品だった。
花灯 16 これこそまさになぞなぞだ、短冊の上に書いてある類のものだ2——あなたはなぞなぞの問題からかすかな手掛かりを探し出そうとするが、見えるのは黄色がかった光だけだ——本来であれば、こんなふうにそれをぶら下げて、こんなふうに座っていれば、暗闇から逃れられただろう——しかし、それはあなたの好奇心をますます刺激する。答えをチラ見しようとして短冊をめくるが、その裏は一面が汚れ、焦げ付いていた。その時、暗闇が広がり逆巻き出した。紙へ、骨組みへ、装飾へ、絵柄へ——そしてついには心の中の火種へと襲い掛かる。あなたはようやく理解した。なぞなぞの問題は儚く消える光であり、その答えは永遠で無欠の闇だったのだ。
音声操作ライト 18 こんなものを購入するわけがない。もう分かっているのだ。あらん限りの大声を出したところで、そいつはチカチカと明滅するだけなのだと。あなたは返品した。
ジャック・オー・ランタン 21 確かにちょっと怖くはあるが、こいつがあれば真っ暗な日にやって来る人間の悪霊どもを追い払えるんだ——あなたはそう自分を慰める。しかし、どうして歯がはっきりと見えるんだ? どうして首の断面が綺麗なんだ? 頭にまだ髪の毛が残っているのは、一体どうしてなんだ? 穿られた眼窩に指を入れると、中には血液や脳漿、そして少しばかりの骨片があった——しかも、カボチャが呈していた黄色と溝は、皮膚の温度と残った血の色を隠すための顔料に過ぎなかったことにあなたは気付く——思わず叫び声が上がった。
ガス燈 30 特に何ということはない。何と言っても、これは多くの家庭に光をもたらしてきた代物だ——しかしあなたの部屋にあるのは、人を欺き利用せんとする悪意に満ちた家庭で使われていた物か、昔の白黒ホラー映画で使われていた物か、あるいはその両方に当てはまる物だった。灯架は黒く、かさは白く、炎と光は灰色だ。焦り、抑圧、自己疑念、それのもとではそういった感情しか感じられない——気でも狂ったのか? 違う! この忌々しい代物は既に暗闇と手を組んでいるのだ。こいつらは共にあなたを欺き、嘲笑っており、そしていつの日かあなたを吞み込んでしまうだろう! 早く、早く! そいつを砕いて、粉々に破壊して、あの忌々しい灰色の光を永遠に消し去らねば! 今すぐに! ……"パンッ"……"ガシャン"……あなたは息を切らし、暗闇の中で縮こまった。割れた破片に触れる勇気はない。そんなことをしたら…… きっとあなたは…… 灰色の中で崩壊してしまうだろう。
交通信号灯器 35 赤青黄、黄青赤。それは須らく安全で、道路を行き来する車両に走行と停止を指示するべきものだった。しかし箱を開けた瞬間、ブレーキ音、衝突音、破砕音、叫び声、警笛音、慟哭がひと連なりとなって、鼓膜を突き破らんばかりに脳裏に響き渡る。あなたは箱を固く閉めた。怪物然とした巨体と、あの3色の邪眼は、もう二度と見たくはない。
星光 43 あなたは暗闇を追い払ってくれる満天の星空が手に入ると期待した。しかしそこでは、土や石の塊、雲霧、氷などで出来た巨大な球体が、宙に浮かんでは衝突し合っていた。その間には無数の目がある——膿が垂れ、陰に覆われ充血した目が、回転して一斉にあなたを見つめた。あれは星ではない——少なくとも、あんなものをあなたは望んではいない。
月光 44 明明たること月の如き、果たして本当にそうだろうか? あなたに見えるのは、突然目の前に落下してきた灰白色の球体だけだ——表面はでこぼこしていて、男性の足跡が残されており、白くなった星条旗が立っている。ひょっとしたら裏側にはUFOがあって、何か奇妙な存在がそこで暮らしているのかもしれない。見て、赤い目をしたウサギがこっちに向かって走ってくる——そいつが突然あなたの左手の人差し指を食い千切るまでは、とても可愛くはあった。断面からドクドクと流れる血を見た後、また砂漠の如き巨大な物体に目を向ける——太陽が無ければ、それは何にもならない。
日光 45 これこそまさに太陽の力であり、地球上の万物がひれ伏し崇めるべきものである! 忌まわしき暗闇は一瞬にして焼き払われた。しかし、黒点が至る所に広がり、太陽フレアが煌めく。放たれた強烈な光であなたの右目は瞬時に蒸発し、もはや残った左目を未だかつてないほどの灼けるような痛みから守るほかなくなってしまう。太陽から残忍な炎が吹き上がり、あなたの矮小な身体に纏わりつく。皮膚が黒く焼け焦げ、剥がれ落ち、溶解して、ついにあなたは卒倒した。激痛で再び目が覚めたが、あなたに分かるのは、まだ片目と動かせる左手が残っているということだけだった——言うまでもなく左手の人差し指は失われており、耐えがたい痛みも残っていた。太陽は明日もいつも通りに昇り、西に沈んだ後も暗闇があなたをしかと包み込むのだ。あなたは死にたいと思った。
アイデア 46 あなたは山積みの本を受け取った。あなたは既に一命を取り留めただけの哀れな廃人と化してはいたが、まだ思考することはできる。しかし、あなたは知らなければならない。天才のアイデアはまるで20Wの電球のように明るいが、あなたが一生懸命に思索した馬鹿馬鹿しい考えは、一握りの砂を散らしたものにすぎないことを。ついにあなたは最後の一滴まで知恵を捻り、最後の1ページをめくると、本は灰燼と化した。そんなあなたのアイデアはごくありきたりなものでしかなく、素晴らしい閃きなどではなかった。
希望 50 あなたの漠とした希望では暗闇を照らせず、ただ暗闇に呑まれるだけだった。
音声操作ライト [データ削除済] 停止した脳では思考が続かず、打ち砕かれた希望では未来が見通せず、失われた記憶と身体の痛みでは賢明な選択ができない——あなたはついに音声操作ライトを選択した。黒焦げになった身躯を叩き、喧しく歌を歌う。やがて身体が破け、手の骨が折れ、喉が裂け、血が吐き出され、チカチカと明滅する音声操作ライトもついにはしんとした静けさに包まれるのであった。

補遺CN-2694-4、通話

[申し訳ありませんが、お掛けになった番号は現在使われておりません……]

[申し訳ありませんが、お掛けになった番号は現在使われておりません……]

[申し訳ありませんが、お掛けになった番号は現在使われておりません……]

[接続——]

店員: はい? こんにちは、こちらは [存在しそうな照明器具店] です。何か必要な物はございますか?

アレックス・ソーリー: [荒い息遣い、甲高く聞き取れない人間の声。]3

店員: もしもし? 聞こえますか?

アレックス・ソーリー: [むせび泣く声、激しい咳、甲高く聞き取れない人間の声。]4

店員: 電話に出てください、イタズラ電話はお断りです! 切りますよ……

アレックス・ソーリー: [むせび泣く声、甲高く聞き取れない人間の声。]5

店員: あー…… ハハハハハハハ——

[アレックス・ソーリーが驚く。笑い声が受話器からだけでなく、周囲の至る所から響いている。]

[アレックス・ソーリーが振り向くと、それまで気付いていなかったものに気付く——真っ黒な固定電話。散乱した段ボール箱。浮遊する送話器から耳になだれ込み、周囲の抑圧的な空気に乗って好き放題に響くせせら笑い。]

店員SCP-CN-2694: ハハハハハハハハハハハハ——6

[「苦情を入れとくべきだったな」アレックス・ソーリーは最後にそう独り言つと、受話器を滑り落とし、茫々とした暗闇の中へと呑まれていった。]

補遺CN-2694-5、発見記録

[記録開始]

ある明るい昼間、自室の床に仰向けに倒れ、起源不明の影に覆われた状態のアレックス・ソーリーが発見されました。当人は外界からのいかなる刺激にも反応を返さなかったために死亡したものと推測され、現在は非現実の外部へと移されています。

アレックス・ソーリーの室内で不自然に損壊した20Wの電球は既に交換されましたが、損壊した原因は現在も不明です。当人の部屋は、次のアレックス・ソーリーの就任および入居が済むまで空室となっています。

[記録終了]

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