司令部命令
本ドキュメントはレベル5クリアランスの内容を含みます。収容維持のために必要な情報は関係職員にのみ与えられねばならず、SCP-CN-890に対し異常を出現させた全職員はクラスA記憶処理を受けねばなりません。もし記憶処理中/後も異常が改善されない場合、該当する職員は強制隔離後に終了されます。
八荒-890 雲端
ドローンを用いて撮影したSCP-CN-890の写真、これより深部の記録は画像が破損しているためアップロードできません。
特別収容プロトコル: オブジェクトは移動不可能であるため、SCP-CN-890周囲3キロメートルは封鎖エリアが設けられ、偽装施設であるサイト-CN-89が建設されます。当該エリアに接近する一般市民に対しては、文化財の発掘中であることを理由にその場から離れるよう勧告します。封鎖エリア付近に十二時間以上留まった者は強制的に隔離した後、クラスA記憶処理を施します。サイト-CN-89に駐留する全ての職員は月に一度反ミーム訓練を受けると共に、心理的評価を行わねばなりません。封鎖エリアを離れる職員はまず心理試験の合格証明書を提出し、ミーム浄化プログラムを受ける必要があります。
いかなる職員も許可無くSCP-CN-890へ進入することは禁止されており、SCP-CN-890を対象とした進入調査期間中、全ての担当職員は厳密に監視されなければなりません。モニタリング記録は物理テープにコピーされ、研究調査のためにナンバリングされた後、映像及び音声ファイルは徹底的に破壊されなければなりません。このコピー内容を閲覧するにはレベル3以上のクリアランス及び現在のオブジェクト管理官の許可を得なければなりません。閲覧後は、同様に心理試験及びミーム除去プロトコルを受けなければなりません。
██/██/1███、収容プロトコル更新:調査職員の低い生存率を鑑み、今後全てのSCP-CN-890に対する探索は無期限に停止され、監督職員の承認を待ちます。
██/██/20██、収容プロトコル更新:クー博士が提出した調査報告により、SCP-CN-890の研究が再開されました。同時にオブジェクトに関係した全ての職員はBHJ-890(名称不明)に分類された異常組織/団体を厳密に追跡します。これは、特に毎年農歴の九月二十二日前後に行ってください。
説明: SCP-CN-890は雲南省██████内に存在する、未知の文明のものと思われる古建築群です。約█████平方キロメートルの面積を占め、その大部分は破損しており、主な建築材料は、外観は一般的な岩石と類似していますが、大量の有機成分と未知の物質を含みます。オブジェクトは内部に空間異常を有する可能性があり、現在も探索が完了していないため、地図を詳細に描写または描画することはできません。SCP-CN-890へ進入後、外界と接続した無線設備は短時間の故障または強力な干渉を受け、その内部にはある程度の時間異常が存在すると考えられます。
SCP-CN-890-1はSCP-CN-890内に存在する特徴的な建築物です。外観はアーチ型の建築であり、彩色図案を有し、人間または物体がアーチを潜り抜けた時、ランダムな地点へ移動します。出現したと思われる既知の事例は以下の通りです。
- 石段の上に位置する殿堂建築。外部は高さ約30メートル、面積約2400平方メートル、全ての建物は上述の石材で構成されており、木梁や木柱、窓口は存在しません。表面には模様が彫刻され、内壁には彩色された壁画が描かれています。建物の異常性は定期的または不定期的に活性化します。詳細は探検記録890-B-1を参照してください。
- 長さ12m、高さ6m、厚さ30cmの影壁。両端の破損から推算される実際の長さは███mに達する可能性があります。人間が対象を肉眼で観察した場合、浮き彫り方式の文字と図案が出現するのが視認できます。これらの図案が伝える内容は完全には解析されていません。その主題は人間に似た知的有翼生物の発生を中心に展開しますが、ビデオカメラではこれら内容を記録することが出来ず、対象がこれ以前に未知の認識災害を有しているかは現在も確認できていません。詳細は探索記録890-B-2を参照してください。
- 広さ約███mの地面の縦穴。辺縁の不規則さから、その形成原因は外部からの力によるものと判断されます。穴の内部からは大量の人骨と、石灰化の兆候がある二つの卵形の物体が混在しています。これらは微量の放射線が持続し、電子設備へ干渉します。放射性炭素年代測定によれば、これらの死亡時期は紀元前350年から最近であることが示されており、いずれも焼却された痕跡が見られます。詳細は探索記録890-B-3を参照してください。
- ██████████████████、 █████████████████、 ███████████、 ████████████████████████、 ███████████████████████、████████████████████。“████████████ ”███████████████████████。(レベル5セキュリティリンク経由でのみアクセス可能)
既に解読された部分的な伝奇伝承の内容において、SCP-CN-890-2は九天上の都市として描写されます。抜粋は下記の通り(詳細は補遺CN-890-A):
彼の者、天空の城である。果てしない天空に覆い、広く果てしないこと際限が無く、幾千里あるか分からない。
これに臨んで天の川を眺めると、光沢があり繊細で滑らか、広範囲に広がり煌びやかに燃え上がり、腕を広げれば掴め取れそうだ。その境界は青く深く、明暗は渾然として、広々と空虚で遠く、これ以上の存在はない。飛閣は寒くなく、雲の階段は旋回し、吊り下がった塔門は深く聳え立ち、美しい御殿は広大で突き通っている。
玉の柱と華の壁には、アンタレスが流れ雲が行き広河が伸縮する様を刻まれており、華やかで際立って美しい。瑠璃の御殿の廊下には、青い鳥や黒い螭竜、輝く陽と真っ白い月の印章が彫り込まれ、堂々と聳え立ち壮麗である。凡筆が真似できることなどできず、賛美の溜息を止めることなど出来ようか。
彼の民は翼のある隠者で、世界の中でも抜きん出ており、塵を脱し埃を絶ち、六道輪廻の外に逃れ、神聖な仙境へ入り、人が普段行うことをすることができず、生も死も無く、悲しみも喜びも空虚であり、寿命はただ溜息をつくことしかできない。
現在においても、未だ実質的な証拠もSCP-CN-890-2の存在が真実である証拠を示した例はありません。
SCP-CB-890の詳細な情報は補遺を参照してください。
補遺CN-890-A: 《遺朝本紀末》三巻より抜粋
世宗孝武帝諱名は靖容、生まれて之を知り、幼くして巨子族に行きて学に従う、巨子の目之に驚き然して曰く:“宇郭清く峻(たか)く、容止神逸、超世迈古の才也。”孝武帝の天資は俗を抜き出て卓絶し、陰陽歴算、天文経緯、術法知略、文賦銳武、研核具足せざるなし、質を究め会を貫く。才世を駕すると雖(いへど)も、驕恣の意は無く、常に澄澈恬然とし、交接を喜ばず。
海の内の四裂する時、人身は乱に塗(まみ)れる。青凰八年、先祖が崩じ、考武は行年二十、践祚し業を継ぎ、《登極賦》を作る。玄は恢(ひろ)く淵は晦(くら)し、辞理渦を巡り、雄渾(ゆうこん)を恢弘(かいこう)し、周密薄く発し、世を脱し宇を逸する大いに有り、悲憤郁の意は浩く、時の人以て其の志と為す。
天啓十三年、孝武南野を征す。南野の藩王陳瑜は、時に武を以てこれを聖と称し、兵を擁し自ずから恃(たの)み、暴恣横熾(ぼうししおう)、逆賊の最なり。考武独り剣を挺し藩府に入り、瑜及び其の士百十人、及び併せて其の帥を殺し、《南野行夜吟》十篇を作り、天下を震慑す。
孝武は文を崇め治を重んじ、通達諸務、及び万廃を具(つぶさ)に楽しみ、八荒感服し、神京復(ま)た四域の中と為し、景は蒸(おお)く承平なり。
天啓十六年、孝武世より佚われ绝えたる篇《測幽》、及び日を浸す天文奥術の法を得る。時の中書令韓明慎み諷めかし曰く:“陛下は冗(あま)りに籍を沈吟し、政事に于(お)いて耽(ふけ)り、臣誠しく惶恐する日甚だし。今海内は升平未だ久しからず、逆は潜み四伏し、荒(こう)し怠るべからずや。”孝武晒して曰く:“卿何(いずくん)ぞ微末鎖節を萦怀する也?此の事を万古の存亡は易く転がるに糸(つな)ぐ、卿は何ぞその膚を事えらる”
天啓二十三年、孝武は《易世詔》を天下に布し、翼の民は素より奥術を浸し、星位辰の周(めぐ)りを以て宿を為し、漢華の内と化し、造化を妙に奪い、正く御弁を乗せ、無限に游び、死せず而して生きる。近世然り然して来たり、峰火歇(や)む無く、列星紊(みだ)れ揺るぎ、宇穹は隙裂し、挙世欲に傾き、存亡危殆(きたい)なり。孝武深明に其れを要し、及び反覆革新の易を行わんと欲し、偕族絶埃を以て世を佚(のが)れ、禍福を逸脱す。
二十三年秋、孝武世を挟み入玄し、翼の民以てこの日を得ん、塵地を永く隔たり、及び世を忘れん。 天啓二十三年の秋、孝武帝は世を恨んで幽界に入り、翼の民はとうとうこの日を得た。世俗の地から永く離れ、そして世間から忘れられた。
補意CN-890-B: 以下はSCP-CN-890に対して行われた三つの探索記録です。
探索記録CN-890-B-1:
日時: ██/██/1███
探索対象: 移動陸上ドローン
目標: SCP-CN-890
メモ: これは第一回探索における試みで、ドローンの主要任務は各種の測量機器を携帯して各種のパラメーターを観測し、有人探索が実行可能か否かを確定し、更に研究のためのサンプルを回収することである。
<記録開始>
無人機はSCP-CN-890の大門を通過して遺跡に侵入した。マイクから激しいノイズが聞こえ、司令部は音声を切らざるを得ず、その後試行が繰り返されるも正常には回復しなかった。しかし、視覚情報は依然として安定して返されている。測量の結果は、オブジェクト内部の温度、湿度は外界と類似し、放射線量は380マイクロシーベルト/時であった。
探索を継続。入口を通過した後、ドローンは堆積した大量の砕石に道を遮られた。暫く停止した後、ドローンは比較的平坦なルートを選択して徐々に前進し、砕石地帯を通過した。
ドローンは遺跡の西部街道に到着した。この場所は比較的保存が良好であり、外部からの攻撃には遭遇していないように観察されるが、自然の風化と苔の侵入により甚だしく破損している。周辺の樹木は根が複雑に絡み合い、繁茂密生していて、樹種は複雑であり、個体ごとの識別はできない。しかし全ての葉の付け根から外に向かって白い脈絡が伸びており、ドローンはサンプルを採取した。
ドローンは街道中央のアーチ型門を通過し、軽く揺れた後静止した。しばし後、これは断続的な電源障害によるものであることが確認され、数秒後に正常に回復した。アーチ門には大量の模様が彩色形式により彫刻され、年代がどれ程古いのか確認することは出来ない。アーチを通過した後、ドローン前方に多数の階段が現れ、そして約二十段上方には神殿の遺跡が視認できる。
ドローンは巨大な石を積み上げた階段を通って頂上に至り、神殿に侵入した。正殿内部の構造は久しく失われ、埃にまみれているが、蜘蛛の巣は存在しない。祭壇の上には神像があり、大量の油皿状の蝋燭が無規則に配置されている。ドローンは前進して観察し、蝋燭が未だ使用可能であることを確認した。
カメラが大殿を見渡す。アーチの頂点の高さは地上から約25メートル、金紅色のカーテンが垂らされている。背後の壁画には鳥類が象られて彫刻されている。鳥類の体型は巨大で、純金の羽冠を頭部に戴き、目には青色の宝石が嵌め込まれ、嘴は空洞状であり、彫刻は緻密、翼を広げた瞬間の姿勢を取っている。画面左上には赤色の円が一つ、下方には青色の波が描かれている。
この時、スピーカーから音声が流れたが、マイクはオフのままであり、鈴がぶつかる鮮明な音と鋭い風声が辛うじて認識できた。スタッフによる試運転の後に音声は消失。音声の起源の追跡には失敗し、録音機器への記録も成功していない。
暫し留まった後、ドローンは祭壇を旋回し、壁画下方の木製扉を通過して後殿に侵入した。この場所は正殿と比較すると小型で狭く、殿堂中心には銀白色の王座が一つ設置されていることを除き、家具は存在しない。
ドローンが王座に接近して確認する。カメラ視野内で突如まぶしい発光が爆発し、観測した研究員の目に火傷を負わせた。同時に画面はそのままずっと空白に固定され、ドローンに対する指令を出すことが出来ず、強力な光線により何らかの回路が焼損させられたと推測される。
この時、風と鈴の音が再度起こり、はっきりと、そして明確に識別できるようになる。トーンは徐々に高くなり、人間の聴覚の限界を超える程になるが、音波は設備に記録され続け、約3分42秒後に消失した。この後、ドローンと司令部の接続が短時間回復し、司令部は撤退を命令した。この後、画像の通信が切断されたが、ドローンから送られる各項目の測量データは依然として受信可能だった。
<記録終了>
メモ: 連絡が中断した約十二時間後、パトロールチームがSCP-CN-890外部で充電切れにより行動不能となったドローンを発見した。検査の結果、撮影機のカメラが強い光にで焼損したことにより故障を起こしていた。これを除けば異常な点は無く、先に収集されたサンプルは問題なく回収された。
探索記録CN-890-B:
日時: ██/██/1███
探索対象: D-852
目標: SCP-CN-890
メモ: ドローン探索を経て、オブジェクト内部は有人探索を実施するのに適合または可能であると判断されている。D-852は通信伝達設備及び必需品(圧縮食料、飲用水及び軍用ナイフ)を携帯し、SCP-CN-890へ進入し探索するよう指示された。
<記録開始>
(D-852がSCP-CN-890に進入するよう要求される。彼が警戒ラインを超えた時、無線機のチャンネルがローカルラジオ局に飛ばされる。その時ちょうど正時の時報が聞こえる。約7.2秒の努力の後正常に回復する。)
D-852: おい?サー?何か言ったか、よく聞こえない。
司令部: 周囲の状況を説明してください。
D-852: ああ……少し暗い。あ、小雨が降ってるな。(カメラを持ち上げる)
(画面はいくつかの瓦礫の廃墟を流し撮る。空の色は暗く、青苔が湿り、水が光を反射している。)
司令部: 確認しました。
D-852: それで、俺は今この中に行かなきゃならないわけだ?
司令部: そうですね。前進を続けて随時状況を報告してください。
(D-852はメインストリートと思われる林間の空き地に沿って歩く。両サイドの建築物は酷く破壊されており、進むにつれてそれは酷くなっていく。D-852は命令され停止し、倒壊した家屋の壁に刻まれた不明な記号を観察する。)
司令部: 少し待ってください、記録をしたい。
D-852: “神の姿は高澈才は宇内を逸する。洞の明かりは幽微、気は斗牛を跨ぐ。易世革新は、空前絶後。誠に万古未有、超俗抜冠の器なり。”何だこれ、マジでわけがわかんねえ。
司令部: 貴方はこの記号が何を書いてるか読めるのですか?
D-852: 当たり前だ。(間をおいて)漢字しかないぞ、分からないのか?
司令部: ここからは、いくつかの図形が見られるだけだ。
メモ: 後続試験では、肉眼でこれら記号を直接視認した場合、古文書の内容を読むことができ、模写した場合も同様の性質を有することが判明した。現在、更に多くの記号の組み合わせが捜索中である。
D-852: (沈黙)見たか、サー?
司令部: 何をです?
D-852: 何かが俺を見つめてる。
司令部: 前回の探索では、この場所にはいかなる自我を持つ生物も存在しないことが判明しています。
D-852: そうだな、ここではずっと、ハエ一匹さえも見かけちゃいない、だが……(カメラが移動する)
(カメラが下方の白い石彫りを覆い隠すツタを映す。高さ約3メートル、頭部は破損し失われており、その下の身体は背に翼を生やした人型に見え、両手を胸の上で交差させ、翼は下に垂らされている。)
司令部: 見に行きなさい。
D-852: (恐怖で首を振る)嫌だ……できない……
司令部: あれが君に何かできるものですか、あれはただの彫像ですよ。
D-852: (沈黙)
司令部: どうしました?
D-852: ヤツは俺の後ろにいる。
(D-852は予定されたルートを勢いよく走り始める。司令部の命令を無視し、疾走中に不意/故意にカメラを地面に落とした。レンズは来た方向へ上下逆に置かれ、3分後に浸水による故障で停止する。
画像記録では空の色は暗く、雨の勢いは増し、地面には水溜まりが出現する。石版の隙間に浸入し、周辺の植物が激しく揺り動く。これは暴風雨中では正常な現象であるように観察され、これを除き異常は発生しない。)
司令部: D-852?
D-852: (慌ただしく蹌踉めいた足取りで、大口で喘ぐ声)
司令部: D-852、止まりなさい、貴方の背後には何もいません。
D-852: 俺…何だ?あれは……
司令部: 貴方の背後には何もいません、カメラは動くものは何も記録していません。
(僅かな間躊躇した後、D-852は歩みを止め、通話をしやすくするためにマイクを調整する。)
D-852: すまねえ。
司令部: 貴方は今、どこにいるのですか?
D-852: (手を止める)はっきりとは分からねえ、俺はさっきまで逃げるのに必死で……アーチか何かを潜ったとは思うが、よく覚えてねえ。
司令部: アーチ?階段と、その上方の神殿は見えますか?
D-852: (少しも躊躇わず)見えない。目の前にあるのは大広場だ。
司令部: 簡単に説明してください。
D-852: ああ…低い階段がいくつかあって、一つのデカい円形の広場に通じている。石のレンガが幾つか壊れているな。どうやら何かのデザインを組み合わせたようだな。ああ、見えた、これは大きな鳥の形だ。あれは……どうやら天壇のようだな、だがもっと簡単な造りが多い。一層しかない……そこに壁画があるらしい。
司令部: 見に行ってください。
D-852: 嫌だな……
(D-852は階段を登り、壁画に向かって前進する。足音は暫くして止まる。目的地に到着したと思われる。)
司令部: 何が見えましたか?
D-852: (沈黙)
司令部: 貴方が見た内容を説明してください。
D-852:(はっきりと聞き取れない呟き)
司令部: 何ですか?
D-852: 光だ。(一旦停止する)見ろ、火の灯だ。聞こえただろ?澄んで心地良い鈴の音、風が長く鋭い音を立てて、月の光を掠め取り、神殿とオベリスクを通っただろ?
司令部: 私には何も聞こえなません。
D-852: (一旦停止する)いいや、なんでもない、俺の聞き間違えだったかもしれない。
司令部: 貴方は何を見たんですか?
D-852: あれは空の城だ。(沈黙、このことに困惑していると思われる)あんた俺を呼んだか? いや。違う、違う、違う、違う、あれは、去らない極寒の冬を彷徨う、戦火の跡の廃墟だ。一切の出来事には原因があり、俺は帰ることが出来ない。俺は縛られている——
俺はこのことを忘れさせられて、自由を失って、九天を飛び回る翼を失った。だが俺はそれを恥だとは思わなくて——ああ、自由、自由!どうやって命令に従うか、それしか知らないお前らは何て憐れなんだ!未知は恐ろしくも愚かで、お前達は不安だから、彼の来訪を拒んでいるんだ!
お前らもこの苦しみを味わえば良いんだ、俺と同じように——だが、俺は行かなきゃならねえ、彼が俺を呼んだんだ。
(ノイズの多い電子音、D-852が通信設備を取り外して破棄したと推測される。この後、司令部が繰り返し呼びかたが応答が無く、設備の電源が消耗し、通信が中断する。)
<記録終了>
メモ: 今回の探索の結果、オブジェクトは現在未知のミーム災害あるいは精神影響を揺する可能性がある。被験者は自我が置き換わるという強力な幻覚を生じ、このことは後の探索でも証明された。
探索記録CN-890-B-3:
日時: ██/██/1███
探索対象: 機動部隊シグマ-26(“青玉案”)
目標: SCP-CN-890-2
メモ: 建築群の構造に対する初期探索の結果、SCP-890-2は我々がオブジェクトを理解するために重要な意義があることが判明した。現地は複雑な地形を有するため、豊富な屋外探索経験を有する四人のチーム(構成員にはS-Cap、S-1、S-2、S-3にナンバリング)がSCP-CN-890に派遣された。主要な任務はSCP-CN-890-2の探索である。
<記録開始>
司令部: 通信装置チェック、私の声が聞こえますか?
S26-Cap: 問題ない、コマンドー。
司令部: あなたたちのゴーグルは大部分のミーム災害をフィルタリングできますが、このオブジェクトがどのような要素を有するかは未知であるため、認識災害に対しての有効な予防措置は研究できていません。
S26-3: だから、あてにするなってことだな?
司令部: ……そうです。もし異常な状況を発見したら、直ちに報告して撤退してください。
S26-Cap: わかった。他に言うべきことはあるかしら、コマンドー?
司令部: 現在の観測結果を見ると、遺跡内部は時間異常が存在する可能性があります。探索時はコマンドーの時報に従って、自分では時間を判断しないでください。
S26-Cap: 了解した。みんな、準備はいいな?
S26-1/2/3: イエス、マム。
S26-Cap: 出発。
(シグマ-26チームは遺跡正門を経由しSCP-CN-890に浸入する。その間通信設備は短時間無力化し、その数分後に回復する。)
S26-Cap: 遺跡に侵入した。
S26-3: この道は本当に歩きにくいな。
S26-Cap: 警戒を高めろ。みんな、四方の異常な状況を観察、及び時間報告をしろ。
(チームは極めて迅速に入口の砂利を通過し、司令部の命令により当時未探索だった通路を選択して前進する。)
S26-2: ここの植物は奇妙だ、血のように赤い。(木の葉が擦れる音)あっ、汁も赤いな。血か?
S26-1: ちょっと待て。(身を屈める)いや、どうやらシナバーか何からしい。
S26-2: 周りもこれと同じだな。
S26-Cap: これらは随分長い時間この場所にあったように見える。コマンドー、ここで何が起こったのか分かるか?
司令部: 前回の探索で採取したサンプルの実験は、葉内部の白色の経脈は全て中空で、液体を吸収するのに適していることが示されている。これらがどこから来たのかについて、君達で判断して欲しい。
S26-Cap: ああ、コマンドー。前進継続。
(チームは前進を継続する。入口の砂利を通過すると地面は比較的平坦になり始め、石レンガは無傷である。前進を継続するにつれ破壊状況はますます酷くなっていく。)
(およそ半時間後、チームはSCP-CN-890-1を通過する。前方には巨大な洞窟が出現する。)
S26-2: 我々は午前いっぱい歩いたと思います。
司令部: 現在午前九時です。まだ一時間しか経っていませんよ、二号。
S26-2: わかった。それなら我々は今この場所から降りていかなきゃならないな。
S26-Cap: 私もそう思う。
(チーム隊員は安全ロープを設置し、続いてS26-1とS26-3が先行してSCP-890-B-3へ浸入する。緩やかに下降する途中、両隊員は壁面を観察するために肩のサーチライトを点灯させる。炎による破壊跡と不明な爪痕が確認できる。)
S26-3: これは本当に少し……あっ!
(地面から10メートル程離れた時、安全ロープが突如断裂し、二名の隊員は穴の底に落下した。)
S26-Cap: 一号、三号?
S26-1: 俺達は大丈夫です。しかしこのクソロープが切れてしまった。壁の途中にこれを切断した何かがあるようですね、もう一度下に何か下ろしても同じ結果になるかもしれません。
S26-Cap: 前方へ進んで、下のエリアを探索して、他の場所で合流して頂戴。私達は貴方たちを上に引き上げる方法を探すわ。
S26-1: わかりました。
(S26-3が懐中電灯を点けて地面を照射する。)
S26-3: これは……乾いている、全部死体だ。皆焼け焦げているように見える。
司令部: 人間ですか?身元の判断はできますか?
S26-3: 損傷が酷すぎて、できないと思う。だが殆どは人間だ。この鉄器から判断すると、農民の類いだと思う。
司令部: 引き続き前進し、速やかに隊長と合流してください。
S26-1: ああ……ちょっと話がある。通信回路が不安定になり始めた。隊長達に連絡はできるか?
司令部: 少々待って下さい。
(司令部がS26-CapとS26-2へコールを試みるが、応答が無い。しかし二者のマイク及び撮影機は依然としてデータを送信している。)
司令部: 駄目です。
S26-3: クソッ、マジでクソだ、俺達はここを離れる。
司令部: 各自、警戒を続けてください。
S26-1: 了解した、前進を続ける。
(司令部はS26-Capとの通信回復を試みるが、成功せず、辛うじて返信情報のみを受信する。)
S26-Cap: あそこに何かいる。
司令部: 私達の声が聞こえますか、隊長?
(応答なし。)
S26-2: 見に行きます。
メモ: 以下の内容はチームが発見した文書記録です。当該内容は修正液により滑らかな石壁上に書かれており、太字部分は複数回描写されています。
人類のイデア界において、これまで精神的な概念或いは現象が物質界中に直接用いられたことは殆ど無い。その根本的な原因の一つ、それは則ち、人類の精神が肉体の限界を超越できず、一度肉体を離れれば二度と実存を維持することは叶わないことだ。これらは言うなれば、主観が我思うの根本的なカテゴリーを成し、殆どの人類は精神の概念を抽出して利用し、物質界にもたらすことはできないことを意味する。
故に、汎霊説のような概念は、人類のイデア界中に存在し、ほぼ永久に仮説、憶測の地位にある。そしてそれはこれらの知識が、ほぼ永久に幻想の範疇にのみ属することを意味する。主観的にこのことを言うだけでなく、客観的にも同様に言及すると、人類は些かもこれらの領域の経験や現象を得ることができないため、これらに関するいかなる知識も幻想にしかなり得ないのだ。
S26-2: これは中二病だな。
S26-Cap: 行こう。
(この時、S26-1及びS26-3はまだ中央エリアに到達していない。)
S26-1: マジでクソだな。あれは何だ?
(S26-3がS26-1の指さす場所へ懐中電灯を照射する。微かに光沢を放つ二つの卵型の輪郭が現れる。石灰色で、底部は褐色の物質に埋もれているが、焼けた痕は無い。S26-3がすぐさま接近して観察する。)
検査の結果、この物体に接近した際、環境中の放射線量は1200マイクロシーベルト/時に急増したことが判明した。しかしながら、依然として隊員の防護服の耐久範囲内である。
S26-1: あれは卵か?
S26-3: いや。(手で小突く)昔はそうだったのかもな。殻が石灰化している。コマンド、これが何か判るか?
司令部: 検査かサンプル収集はできますか?
S26-3: 適切な道具が無ければ、おそらくできないだろう——ファック!
司令部: どうしました?
S26-3: 止まれ!畜生が止まれ!
S26-1: 撃つな——
(S26-3が大声で叫び、暗闇に標準を合わせて発砲する。銃火は不明な物質を含んだ空気に引火し、火炎が渦状の気流を形成して急速に周囲へ拡散し、S26-3の防護服に着火する。)
S26-1: ファック——
(火勢は広がり続け、両隊員の撮影機は熱によって破損し、映像は曖昧になる。S26-3は襲い掛かる火焔を躱していたが、突如動作を停止し、外を凝視する。マイクからノイズが聞こえ続ける。6秒後、S26-3は完全に炎に覆われ、抵抗する様子は見られない。)
S26-1: ——い、嫌だ、やめてくれ……
(S26-1は救助を放棄して後退する。撮影された画像が激しく揺れ、その後停止する。カメラの視覚が下がり、マイクからは抑えられた嗚咽が聞こえる。火焔が届いて蔓延し、画面が飲み込まれる。)
メモ: この時、無線信号は強力な干渉を受け、リンクが切断される。チームの死傷は判断できず、外部の観測ではSCP-CN-890には火災の形跡は発見されていない。
この時、司令部はS26-2のマイクが依然としてオンラインであることに気づき、接続を試みた。しかし30秒間地面を擦る音と爪を引っ掻く音がした後で中断された。
インシデント発生の五時間後、S26-Capのマイクが突然オンラインになる。
S26-Cap: (声を潜めて)それで……お前は一体何を言いたいんだ?
S26-Cap: 彼らは雲端の上で暮らす種族で、そしてお前たちは何世代にもわたり土壌に根差す。爛々と輝く離火はただ地獄から来る光芒で、近づかんと欲する程ますます深みに嵌り、自力では抜け出すことは叶わない。
S26-Cap: 私はお前等を阻止する。我等の先達はそれができたし、今私も同じことができる。
S26-Cap: それじゃあ何だ?お前等は今もそんなところを漂っているのか。(大笑)棄民!——お前なんて鮫野郎で、お前等なんて未だ去らない死人だ——!!
(鈍い衝撃、銃声)
<記録終了>
メモ: この後、S26-Capのマイクは再度オフラインとなり、チーム隊員はその後72時間以内にいかなる情報も返さず、シグマ-26は消失したと判断された。
加えて、S26-Capのマイクの最後の音声は検査の結果、その音声トラックと異なる音声は発見されず、このため彼女が誰と対話していたのか推測することはできない。
補遺CN-890-C:
補遺CN-890-C: 《クー博士の最終調査報》
私が19██年に財団に加入して以来、このオブジェクトの調査を直接命じられるまでは、これに関してはほとんど何も聞いたことは無かった。いったい誰が私をこの任務に就かせてサイト-CN-89へ所属する希望を拒絶したのかは判らない。私はただ既存のあまりにも長い歴史ドキュメントと外界で収集したほんの一握りの情報から、事件のあらましを熟考せねばならなかった。しかし、私にはすべての枝葉末節を解明することはできず、それでも最後には、まだ詳細な一つの答えを導き出すことができた。
最初に、一般的な歴史では記述されたいかなる古代国家の情報もSCP-890-1について言及しておらず、財団の拡大歴史書にのみ言及が散見され、そしてそれらの差異は極めて大きい。例えば、異学会の保存記録(《██████,██》)には次の記述が見られる:
天啓二十三年九月廿二、焔光中天より少し西に有り、色は蒼白、下に堕ちる。しばらくして阡陌は皆く素として天に通じ、四野は尽く火の噬む所と為り、焚ゆること七日耐えず。
これとあの壁面の面影が甚だしく食い違っていることは疑いようが無く、“携世入玄”の説話をあまり信じられない。結局は“どのような歴史的事件が起こったとしても、集団の以訛伝訛のために諸説紛々となることは避けられない。時間は推移し、歴史伝承は記録されねばならない時点に至った時には、既に本来の顔を失ってしまっており、そのような歴史が記録された時には、ただの純粋な想像力の産物となってしまうのではないか。 ”
そして、このように、異学会が掌握する資料は更に信頼できるものであるべきで、私たちが“涅城”と仮定する、つまりSCP-CN-890-3は事実上存在しないと言える。この場合、誰がSCP-CN-890を建造し、歴史を捏造しただろう?
これは十二年前の《█████報》だ。当時はまだ発行部数の多い新聞だったが、この一年で人/組織によって意図的に収集・破壊されており、その一部を発見できたのは実に幸運だった。第21版上では、このような報道がなされている:
10月29日のニュース、登山客が████ ███を徒歩で通り過ぎた際、“墳墓”となった村落を発見し、恐れ戦いた。十一戸の大門が開け放たれた家の中は、炊事道具、照明道具や財産に至るまでが残されたままで、四十二名の村民は一夜の間に姿を消した。
記者は本事案を受け持つ警察より情報を得た。この村は僻地にあり、交通、電力は通っていないため外部との接触は少なく、もし偶然通りかかる人がいなければ、この事件は何か月も明るみにならなかった可能性が極めて高い。現在失踪した住民は行方不明のままだが、数々の痕跡は、彼らが自発的に去ったことを示している。
これは怪奇事件のトップ10に入れることができる。そしてその中の“辺境の地”“数か月”、“自発的”これらのいくつかの語句が私の注意を引いた。半月の長期調査を経て、この種の失踪事件は少なくない、或いは潜在的な発生率を遥かに超えていることを発見したの。各種のルートを通じて追跡調査できたデータは約██件あるが、上記の僻地性を考慮すると発覚することは困難で、これは毎年発生するインシデントである可能性がある。そしてそれらのほとんどは毎年同じ日、つまり農歴九月二十二日を中心に発生しており、これは絶対に偶然ではない。
本来ならばこれとSCP-CN-890を関連付けることは出来なかったが、幸運にも三日前に、ある生存者を発見した。彼は██年前の失踪事件の後で警察が発見した際には身体に多数の火傷を有していた。治療後は負傷員収容所へ送られており、今もなお思考に混乱が見られる。彼に口を開かせるために私はいくつかの手段を使った。これが倫理委員会の評価に影響しないことを希望する。以下、インタビュー記録の抜粋:
クー博士: さて、今、私の質問に答えることはできますか?
███: (ゆっくり頷く)
クー博士: では、起こったことを話して下さい。宜しいですね?その二人が来た時のことから始めてください。
███: あの日…… (間)覚えてはいるけれど、どうもはっきりとはしない。もう彼等の顔を思い出せないし、覚えているのはそれが二人の若者だっだことだけだ。
彼等は私と一緒に宿に入った。私の村には電線が通っていなくて、ともかくその地域はどこもそんな風だったから、毎晩早々に寝てしまうんだ。あの日、彼等は離れの部屋にいて、私は彼らが話す声を聞いた。
クー博士: 何を話していたのですか?
███: 分からない。(間)あれは、聞いた感じでは……私達の言葉じゃないと思う。でも、私の聞き間違いかもしれない。
クー博士: ああ、ちょっと待って、あなたは読み書きができますよね?
███: (首を振る)
クー博士: いいわ、分かりました。続けて下さい。
███: その後、彼らは外へ出ていき、私はその後について行った。いや、興味があったわけじゃない、ただ……私は何かに引き寄せられたんだ。私と彼らは一緒に出ていった。他にも多くの人がいたが、よく覚えていない。後で、そいつらは皆失踪して、私だけがそうしなかったことを聞かされたよ。
(沈黙)
光と、荒廃した城を見た……そして、彼を見た。そして、あの二人のうち一人が振り返って、まるで私を歓迎するかのようにを伸ばした。それは鳥の爪だった。(クー博士: ちょっと待って?)まったく信じられない。
あれは実に壮大な宮殿だった。村の何人かの年寄りが話したものとまったく同じで、彼らはその名を何度も何度も、死ぬまで物々も呟いていた。(クー博士: あれって何?)あれは……私は自分の目でそれを見たんだ。
神殿、静寂、万籟俱寂。王階は塵芥が積り、王座はがらんどうで、ただオベリスクが風でうなる音が聞こえるだけだ。だが心地の良い鈴の音が、はるか天蓋の上から聞こえる。他の連中も同じだったのだろう、彼らと私は同一で、皆魅入られていた。そしてあの何かは…私たちを呼んでいたんだ。私たちに故郷への帰り方を教えてくれたんだ。
クー博士: ええと、ですが今、あなたはまだそれを実現してはいないようです。
███: (沈黙)火の光が天から降り、あらゆる繁華は灰燼になり、宮殿は火焔の中に崩れた。私は皆が一人ずつ火中に入っていき、その顔には敬虔な微笑を湛えているのを、恍惚としながら眺めた。怖かった。本能は離れたがったが、そのすべては非現実的に見えた。安らかであり、揺蕩い、人を熱狂させ……私はそれに触れたい……(声が小さくなる)
クー博士: うん?
███: (語調が突如高まり、早口になる)痛い! 偽りの幻影は灼熱の痛みを消すことはできない——火が腕を舐めた瞬間、私は目を覚ました!私は抗って逃げ出した。振り返ろうとは思わなかった——あの二人が私を阻もうとしたが、彼らを振り切った。あの声は私の耳元で絶えず咆哮し、私は一族に背いた。彼らの中には戻りたくない——
永遠に朽ち果てない存在は無く、全ての人間は最後には死を迎える。毎分毎秒何時でも誰か死ぬ者があり、一切は土崩瓦解し、潰れ、断片となる。蒼穹の下、六合内のあらゆる生命は歳月の流れとともに次第に消失する。貴女たちの時間なんて、ただ溜息程のものでしかない——
あんたは解っていない——あんたが何故卑劣な手段で真なる神を辱めたがるのか、あんた達は自分がそんなに偉大だと思っているのか?ある者は彼の国を見失い、またある者は精神障害や精神の問題を抱えている——あんた等は必ず失敗する!数千年前に起こったのと全く同じだ!あんたは重大な代価を支払うことになるだろう。そして私は彼の許しを得て、再び故郷へ帰るんだ。
あんたは恐れるべきだ。あんたは何故恐れないだ、博士——あんたの敵、彼はいまだあんたの敵になったことはないが、あんた等は何が何でも彼の到来を阻止しようとしてる。
クー博士: [データ削除](レベル5の安全なリンクからのみ閲覧可能)
███: [データ削除](レベル5の安全なリンクからのみ閲覧可能)
クー博士: それは一体何だというの?
███: 雲端。
上記の内容から永久不変の経典的存在の影を見出すことは難くない。残忍だが、古い宗教では欠かすことができないと見られる要素——火祭。度重なる探索で、SCP-CN-890は何らかの認識災害を有し、被影響者に自身が雲端の民だと思わせることが分かった。かくして、あの二人の外来者(或いはその所属団体)は彼らの“神”を喜ばせるための生贄にするために、生者を引き寄せるようになった。そうして、真相は必然的に二つに分岐することになる。:
- “雲端”は確かに存在する。千年前の“携携入玄”は実際は火祭方式で昇天して解脱し、“棄民”が“天穹”へ帰還し、“真の神”の許しを求め、SCP-CN-890を建造し、生贄を探し求めたのだ。
- “雲端”は決して存在しない。“携世入玄”は後世の人間が捏造した虚言であって、その宗教(或いはそれ以外の目的)のために人心を騙す口実を探し、失踪者が目撃し信仰したものはミーム影響下の幻覚に過ぎない。
残念なことに、雲端の実在を証明できる証拠は無く、同様に否定することもできない。認識論が我々に教えるのは、人類の事象に対する認識は螺旋状に上昇し波状に前進する。より一般的に言えば、古い油条は一日では揚がるものではないのだ。真相は1であるかもしれず、また2でもあかもしれず、もしかすると両者が正しいのかもしれず、あるいは全部私の勝手な憶測なのかもしれない。これに対する再調査と精査には時間が必要だが、唯一疑いがないことがある。SCP-CN-890の背後にはそれを制御する何者かが存在し、我々を翻弄しているのだ。
特筆するべき点は、S26-Capが“千年前の先達”と発言し、███もまた彼らの失敗を鼻で笑ったことだ。これが誰であれ、彼らはその場所で何らかの役割を演じた。それは異学会か、別の何者かか?それを知ることは出来ない。
とにかく、我々はあの神秘の教派の行方を捜すことでのみ更に多くの真相を知ることができる。この報告書を書き終えた後、私は一刻も早く眠らねばならない。もし後続の進展や新たな発見があるか、またはレベル5クリアランス下の何かを見せたいのなら、私に知らせて頂戴。
フリーダム クー博士、レベル2情報専門官
P.S:ああ、一言付け加えると、何故かは分からないけれど、今私は本当に腹立たしいことに、自分自身を火の中に投じたいわ。