アイテム番号: SCP-ES-173
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: SCP-ES-173の周囲には、500℃の高温に耐性を持つ難燃性素材で被覆された20基の人工衛星を周回させます。人工衛星は8年ごとに交換します。この人工衛星は光の周波数を操作し、SCP-ES-173を視認不可能にする機能を持ちます。NASAおよび各国の主要な天文台に潜入した財団職員がSCP-ES-173に関する全ての研究および観測データを検閲、妨害し、一般社会からその存在を秘匿します。
SCP-ES-173のテレパシー対象はサイト-34の施設に居住させます。SCP-ES-173が生贄を要求した場合、対象は映写室に行き、アステカ文明の生贄の儀式を描いたフィクション映画を見てください。
4か月ごとに、信頼性の低いWebページで、惑星バルカンの存在についてのニュースが発表されます。このニュースの発行元として、陰謀論、都市伝説、UFO研究などに関連したアカウントが用意されます。
著名な科学者やメディア露出の多い専門家が、惑星バルカンの存在について真剣に理論を確立しようとしている場合、以下の2つのプロトコルのうち、どちらを実行するか決定するため、対象を調査します。マグナー博士の辞任以降、フェロー博士がこのプロトコルを担当しています(補遺173-2参照)。
対象が財団にとって有益と判断された場合、財団に雇用します。雇用後、惑星バルカンは存在しないという研究結果を完成させるように指示します。
対象が財団にとって有益と判断されなかった場合、2つ目のプロトコルに従って対象の理論は否定されます。対象が科学界での信用を失うように、不利な情報を流布し、対象の論文に疑惑を発生させます。
説明: SCP-ES-173は水星と太陽の間を周回している惑星に類似した地球外生物です。SCP-ES-173の直径は1900〜2200kmほどであり、質量は約1.943×1022kgです。軌道の変動は検出されていないため、自力で運動することはできず、重力によって公転するのみであると考えられています。
SCP-ES-173は太陽との距離が0.1321〜0.1427auと非常に近く、日食時にのみ観測することができます。そのため、現在ではその存在を秘匿することに成功しています。SCP-ES-173はその質量のため、水星の軌道に変化を及ぼし、19世紀の科学者たちは水星と太陽の間に存在する小さな惑星についての理論を構築していました。彼らはその惑星をバルカンと名付けていました。
有名なフランス人科学者であるユルバン・ルヴェリエは、アイザック・ニュートンの万有引力の法則に基づき、バルカンの存在についての最初の仮説を立てました。その結果、何百人もの科学者が日食時に観測を行いました。
ルヴェリエの死後も研究は続けられましたが、全て失敗に終わっています。1878年の日食の際、財団が妨害した研究は2件でしたが、1883年の日食の際には、10件の研究に介入しなければなりませんでした。これらの研究はSCP-ES-173の隠蔽に対する脅威でした。
財団はアインシュタインと共に、相対性理論によって、仮想的な惑星バルカンを用いずに水星の異常な軌道を説明するカバーストーリーを用意しました。1915年、アインシュタインはバルカンは存在しないこと、そして水星の軌跡が太陽の重力によるものであることを発表しました。
バルカンに関する研究は全て終了されましたが、機密漏洩のリスクを防ぐため、2000年に財団はSCP-ES-173の光の周波数を操作する人工衛星を送り、その視認を不可能にしました。
SCP-ES-173は他の生き物とテレパシーでコミュニケーションをとることができ、思考と感情を伝達することができます。SCP-ES-173は1人の被験者のみを対象にテレパシー経路を維持します。対象が死亡した場合、付近の別の被験者を対象に移し替えます。また、SCP-ES-173は自由に対象を移し変えることができるようです。この自由な移し替えは現在までに4回確認されており、全て財団の要請によって行われました。SCP-ES-173は「常に同じ人間を対象にしている方がより快適に感じる」という思考を伝えてきました。
SCP-ES-173とコンタクトできるのはSCP-ES-173がそれを希望する時だけです。財団からSCP-ES-173にコンタクトを取ろうとする試みは全て失敗に終わっています。コンタクトが行われなかった最長期間は4ヶ月です。不定期的にSCP-ES-173は人間を太陽神への生贄として捧げたアステカの儀式を真似るよう対象に求めます。儀式を行わなかった場合、事件173-1と同様の事態が発生し得ます。
事件発生時、グライス博士がSCP-ES-173のコンタクト対象でした。
SCP-ES-173が生贄を要求したとき、対象はそれを無視し、その後も2週間無視し続けました。3週目にSCP-ES-173は対象自身の思考を阻害するほどに強く主張し始めました。対象は体の不調、頭痛、うつ病を訴え始めました。
2ヵ月後、サイト-34付近の████の町で儀式的殺人が報告されました。殺人の容疑者は、頭の中に声が聞こえ、その声に生贄を捧げるようを求められたと証言しました。サイト-34付近の地域では、別の5人が同様の症状(頭の中の声)を訴え、精神科を受診していた事が判明しました。
関係者全員にクラスC記憶処理が施されました。
SCP-ES-173はフィクション映画と現実を区別できないことをマグナー博士が発見するまで、財団は何十年もの間、事件173-1の再発防止のため、生贄の儀式を行う必要がありました。マグナー博士の発見以降、SCP-ES-173に生贄の要求を受けた対象は、アステカの儀式を扱うフィクション映画を見ることでSCP-ES-173を沈静化する事ができます。サラ・ルートンはSCP-ES-173に対して行われた最後の生贄として記憶されています。
発見: 財団は、1825年に「5番目の太陽のしもべ」と呼ばれるカルトに潜入調査をした際に、その存在を認識しました。5番目の太陽のしもべは、財団によって解散させられる以前に20人以上を生贄として殺害していました。カルトの司祭はSCP-ES-173とテレパシーで交信しましたが、それを太陽と混同していました。彼は財団に身柄を確保され、サイト-34の標準人型実体収容セルに収容されました。
司祭は収容セル内で自殺しました。その1時間後、SCP-ES-173は付近にいた財団職員のグライス博士にコンタクトを取り始めました。両者の間に関係は認めらず、対象の死亡時、SCP-ES-173は無作為に距離の近い人物を次の対象として選択すると考えられます。
対象: グライス博士
インタビュアー: ████博士
付記: SCP-ES-173とのコンタクト後、グライス博士への最初のインタビューである。
<記録開始>
インタビュアー: 貴方はどのようにしてSCP-ES-173とコミュニケーションを取っているのですか?
グライス博士: どう説明すればいいのか分からないが…
インタビュアー: 難しいとは思いますが、お願いします。言語を使ったり、言葉を話したりしますか?
グライス博士: いや、言葉ではない。思考や感情そのものとでも言えばいいだろうか。SCP-ES-173が何を望んでいるのか、そしてなぜそれを望んでいるのかを感じるんだ。言葉で説明するのは非常に難しい。中にはとても曖昧で、理解するのが難しいものもある。
インタビュアー: SCP-ES-173が最初に言った、いや、伝えたことは何でしたか?
グライス博士: 私が誰なのか聞かれた。
インタビュアー: どのようにそれを伝えてきましたか?
グライス博士: 私についての想像と疑問の感情を感じた。それですぐに「あなたは誰ですか?」と尋ねていると分かった。
インタビュアー: SCP-ES-173が何者であるか尋ねましたか?
グライス博士: もちろん訪ねたが、よく分からなかった。
インタビュアー: 説明してください。
グライス博士: SCP-ES-173の姿を"見た"。太陽のすぐ近くにある惑星みたいな天体だった。自分を太陽のようだと伝えてきたが、実態は全く違った。
インタビュアー: 意味がわかりません。
グライス博士: SCP-ES-173は自分を太陽のような存在だと思い込んでいて、そう伝えてきた。実際はそうじゃない。
インタビュアー: それで、SCP-ES-173は貴方に何を要求していますか?
グライス博士: 愛情だと思う。あれは愛情を感じたがってて…それから、私に誰かを殺して欲しがってる。
<記録終了>
追記: インタビュー終了後、SCP-ES-173の要求を無視することが決定され、結果として事件173-1が発生しました。
対象: グライス博士
インタビュアー: ████博士
付記: 事件173-1発生後最初のインタビューである。
<記録開始>
インタビュアー: お元気ですか?
グライス博士: まあなんとかな。
インタビュアー: 事件173-1の間、貴方の感覚がどうなったか教えていただけますか。
グライス博士: 本当にひどかったよ。頭は絶えず痛み、SCP-ES-173は1時間ごとにテレパシーを送ってきて、生贄を要求し、私が拒否すると不満と悲しみの感情をぶつけてきた。
インタビュアー: 悲しみ?
グライス博士: ああ、拒絶されたという感覚と"もうどうでもいい"という思いを伝えてきた。私はその理由を尋ねた…少しだけだが理解できた。全ては誤解の結果だったんだ。
インタビュアー: 誤解ですか?
グライス博士: ああ。イメージが伝えられてきた。それは多分SCP-ES-173の記憶だったんだろうな。SCP-ES-173はアステカの儀式を見ていた。儀式では太陽神への生贄が捧げられていて、それで誤解したんだと思う。「僕こそが太陽で、この人たちは僕を喜ばせるために捧げ物をしてくれたんだ」と信じていたよ。それが嬉しくて、その後アステカの人々にテレパシーを送ったんだ。
インタビュアー: SCP-ES-173は生贄を一種の愛情表現だと勘違いしているという事ですか?
グライス博士: その通り。そして、神が語りかけてくれたと思ったアステカの村人は皆嬉しがった。
インタビュアー: もう一つの誤解があったのですね。
グライス博士: ある意味では、SCP-ES-173は私たち人類によって勘違いさせられたと言えるだろうね。
インタビュアー: なるほど。
(一時中断)
グライス博士: グライス博士、事件173-1によって、SCP-ES-173にはコンタクト対象をDクラス職員に移すよう要請しなくてはなりません。
グライス博士: わかった。仕方ない事だと分かってるよ。
インタビュアー: 何か問題でも?
グライス博士: いや、問題はないよ。ただ、対象を移すよう頼む前にSCP-ES-173に適切に別れの挨拶を伝えてもいいかな?
インタビュアー: ええ、問題ありません。
<記録終了>
補遺 173-1
マグナー博士は鬱病に苦しんでいたため、職務を離れ、休暇を取ることになりました。
対象: フェロー博士
インタビュアー: ████博士
付記: マグナー博士の退職後のフェロー博士へのインタビューである。
<記録開始>
インタビュアー: マグナー博士の様子はどうでしたか?
フェロー博士: あんなにも酷い状態の彼は今までの人生の中で一度も見たことがありませんでしたよ。彼は幸せで、元気な人でした。…あんなにもストレスの多い仕事ができるほどには。
インタビュアー: 彼はどうあるべきだったと思いますか?
フェロー博士: それはどういう意味でしょうか?彼は自分の親友を裏切ったのです。自分の言葉になんの価値も感じられなくなるほどに…。
インタビュアー: しかし、それが彼の仕事でした。知人を騙さなくてはならない状況も初めてではなかったはずです。
フェロー博士: でもそれで自殺した人はいなかったでしょう!
インタビュアー: それが最初の質問で聞きたかった事です。彼の鬱病の原因は友人を裏切ったことですか?それともその友人が自殺したことですか?
フェロー博士: うう…
インタビュアー: 財団の採用時のテストで、マグナー博士は友人の自殺に耐えるには十分な精神的耐性を持っていることが分かっています。
フェロー博士: 申し訳ありません。私には答えられません。
(一時中断)
フェロー博士: マグナー博士はどうなるのですか?
インタビュアー: 一時的に職を離れることになります。その間、誰かが代わりを務めることになるでしょう。
フェロー博士: きっとラルスがやるんでしょうね…。
<記録終了>
心理学者: 改善が見られて嬉しいです。さて、ルダックに関して聞かせてもらえますか。
マグナー博士: 彼は正しかったんだ、彼を解放しなくてはならなかった。続けてもいいか?
心理学者: はい、すみません。どうぞ続けて。
マグナー博士: 最悪なのはそれが正しいと知っていながら友を否定しなくてはならないことではなかった。バルカンは実在した。惑星ではなかったので、その点は間違いだったが、それでも彼はバルカンを発見した。誰がこんなことを世界に発表できた? - バルカンは実在する!しかもそれは生き物なんだ!生きているんだ!クソ怪物なんだ!ってな。
心理学者: どうするつもりだったのですか?
マグナー博士: 財団にとって有益と判断されなかった場合であっても財団への雇用が許可されたのを知ってるか?
心理学者: どのように?
マグナー博士: あの日の夜、彼に全てを伝え、財団に雇用して研究チームの一員にするための事務処理を始めようとしていたんだ…
(一時中断)
マグナー博士: 短くまとめるとこうだ。ルダックは、バルカンの存在を証明するために自分にできることは何でもやるとはっきり言った。それは祖先に誓った自分の使命だと。彼はルヴェリエの遠い親戚だったらしく、それに誇りを持っていた。もしルダックを財団に雇用し、SCP-ES-173についての真実を伝えたならば、彼はそれを後先考えず世界に公表しようとしただろう。だから彼を雇用することはできなかった。だが同時に雇用しなかった場合、彼のバルカンに関する理論を財団が揉み消したなら…彼はきっと自らの命を絶つだろうということも分かっていた。
心理学者: 貴方は何百もの命を救った人でもあります。そのことは覚えておいてください。フィクション映画でSCP-ES-173を騙し、サラ・ルートンを最後の生贄としてSCP-ES-173による犠牲者に終止符を打ったのは貴方です。
マグナー博士: 私の行動がルダックを追い詰めたんだ。最後の犠牲者はサラ・ルートンではなくルダックだ。そして私はその死刑執行人だ。