クレジット
タイトル: SCP-ES-234 - 私立探偵マーウ
翻訳責任者: C-Dives
翻訳年: 2024
著作権者: Jakuwoski
原題: SCP-ES-234 - D. Marw, Investigador Privado
作成年: 2020
初訳時参照リビジョン: 16
元記事リンク: ソース
重訳元の翻訳者: Uncle Nicolini
重訳題: SCP-ES-234 - Detective Marw, Private Eye
重訳元の記事の作成年: 2020
重訳元の記事の参照リビジョン: 9
重訳元記事リンク: ソース

ノワール・イベント発生中のSCP-ES-234。
アイテム番号: SCP-ES-234
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: その性質上、収容プロトコルはSCP-ES-234をサイト-34施設内に自発的に居住させることに重点を置いています。SCP-ES-234には小型ネコ科動物の居住用に改装したヒト型生物収容室が提供されています1。SCP-ES-234には標準的な小型ネコ用の餌を1日3回給餌すると共に、インタビューや実験手順への協力に対する報酬として軽食を与える必要があります。また、1週間あたり最大30グラムの乾燥したNepeta cataria2が、最低でも5日間に分散して提供されます。いかなる状況でもNepeta catariaを追加で与えることは許可されません。
SCP-ES-234は、プロジェクトを担当する財団職員と少なくとも1日1回交流し、2ヶ月おきに獣医の診察を受けなければなりません。全ての交流は録画または録音装置によって記録する必要があります。
外界への露出を制限するため、SCP-ES-234はサイト-34の特定区域を移動することを許可されます。制限区域や、SCP-ES-234自身もしくは財団職員の身体的・心理学的・存在論的な完全性に危険を及ぼす区域への進入を防止するため、SCP-ES-234の移動はプロジェクト担当職員によって慎重に監督されなければなりません。
カジェーロ・インシデントが発生した場合は、メディアやインターネットの監視を強化し、制御されていないノワール・イベントへの言及を探すものとします。対応班がSCP-ES-234を回収し、目撃者への記憶処理を施し、適切なカバーストーリーを流布するために派遣されます。
現在、マルタの鷹プロトコルの適用を通して、制御されていないノワール・イベントを減らす取り組みが行われています。詳細は補遺ES-234-01を参照してください。
SCP-ES-234が取得・言及した情報の出所を特定し、潜在的な活用法を確立するための努力は継続されます。
説明: SCP-ES-234は可変性の外見を有する概念的個体発生ゲシュタルト実体3であり、現時点では約5歳の雄のイエネコ (Felis silvestris catus) の成体として知覚されています。この実体に見られる最も顕著な異常性は二足歩行及び発話能力であり4、人間の衣服 (主にトレンチコートと濃灰色の帽子) の着用も観察されています。
SCP-ES-234と交流した人物らの証言によると、SCP-ES-234には対話相手に関連する情報 - 相手の個人的な性質、もしくは別な場所で相手に影響を及ぼした諸問題に関するもの - を取得する能力があります。SCP-ES-234は会話中に、多くの場合は明確な文脈に基づかない流れで、この情報を開示します。SCP-ES-234が情報を取得するメカニズムはまだ特定されていません5。

ノワール・イベントの影響を受けた領域。この写真では、現象に伴う特徴的な色調変化が明白に見て取れる。
SCP-ES-234と関連する副次的な異常性は“ノワール・イベント”と呼称される現実改変現象です。この現象の発生中、SCP-ES-234の周囲10m2の領域が影響を受け、その場に存在する物体や人物の色調が顕著に変化します。特徴的な色は、様々な色調の白、黒、灰色へと置き換えられ、被影響領域内の輝度レベルも低下します。更に、ノワール・イベントの被影響領域内では、人間の衣服、言葉遣い、態度が、イベント中のSCP-ES-234の振舞いと一致する時代錯誤なものに変化することが確認されています6。ノワール・イベントの終了後、これらは通常の状態へと戻ります。
SCP-ES-234は、ノワール・イベントの原因や、当該現象が発生する理由を把握していないと繰り返し表明しています。
補遺1: カジェーロ・インシデントとマルタの鷹プロトコルの確立
財団は、████████████市の警察署や捜査現場における一連の出現報告に続いて、SCP-ES-234の存在を把握しました。最初の接触に続いて、SCP-ES-234は収容され、目撃された出来事はテレビ番組の撮影 (“猫探偵”) だったというカバーストーリーが流布され、直接関与した人物らへの記憶処理が施されました。
SCP-ES-234は財団施設に留まることに自発的に同意していましたが、保安職員からは、収容後の数週間にわたって、SCP-ES-234が収容違反と、1~3日後の施設への帰還を繰り返しているとの報告がありました7。これは財団施設外で██件のノワール・イベントを引き起こし、“カジェーロ・インシデント”と指定されました。インタビューで脱走、ひいては財団との合意の不履行の理由を問い質された際、SCP-ES-234は「俺は探偵の務めを果たさないことはできない。犯罪は決して休まないし、俺もそうだ」 (発言ママ) 及び「俺は事務員になるために生まれたんじゃない。手掛かりが見つかり、犯罪が解決するのは路上であって、デスクの上じゃない」 (発言ママ) とだけ述べました。
これらの事件に対応して、マルタの鷹プロトコルが偽情報部門と共同で確立されました。SCP-ES-234には、██/██/██を以て探偵事務所“S, P & Cアソシエイツ”と協力して活動することになる旨が通達されました。このプロトコルを施行するため、財団職員は外部機関のエージェントと協力して、警察の代理で事件捜査を行い、捜査プロセスにSCP-ES-234が関与できる状況を作り出します。マルタの鷹プロトコルの確立によって、制御されていないノワール・イベントの発生率は80%低下しました。
補遺2: SCP-ES-234へのインタビュー
回答者: SCP-ES-234
質問者: ボルハ・ドゥウェル博士、地域倫理委員会所属
序: この記録は、異常性の源に関する情報を得る目的で実施された、SCP-ES-234へのインタビューの1つの書き起こしである。インタビュー中にノワール・イベントが発生したことは注目に値する。<記録開始 [2020年1月20日、月曜日、10:00]>
ドゥウェル博士: おはようございます、SCP-ES-234。私はボルハ・ドゥウェルです、こちらに収容されているアノマリーの一般評価プロセスの一環として、インタビューに伺いました。
SCP-ES-234: おはよう、ドゥウェル。言葉を話す猫とのお喋りは不安じゃないか? (ドゥウェルはこれを否定する) そうでもないようだな。きっと俺みたいな連中を他にも知ってるんだろう。今日はなぜ俺を呼んだ? S, P & Cの新しい仕事か? もしそうなら助かる、ここ数日かなり暇を持て余していてね。SCP-ES-234 (右前脚を上げる): それとも情報をお探しかな? どうも近頃はその方面でばかり必要とされる。先週から探しているファイルES-162/05-01のことなら、モンドラゴン研究員が持ってるぞ。数ヶ月前にあんたの助手のペレスが依頼を受けて渡したが、彼は1ヶ月前に異動になり、あんたにその話を伝え忘れていた。
ドゥウェル博士 (頷く): ありがとうございます、後ほど確認してみますよ。話のついでに、教えてください、どうやってその情報を知ったのですか?
SCP-ES-234: 単純なロジックさ、親愛なるドゥウェル。俺がここ数ヶ月で調べた限り、お上品な研究機関はどこもそうだが、あんたたちは施設外にファイルを持ち出すのを許可されていない。例のファイルが関係する分野も加味して考えると、所持者としてはモンドラゴンが最有力候補だった。それに言うまでもなく、あんたは先月に助手を入れ替えたから、新任助手はファイルの貸与について何も知らなかった可能性が非常に高い。
ドゥウェル博士: 話題が変わりますが、SCP-ES-234、これらの能力をいつ頃から持っていたかを覚えていますか?
SCP-ES-234: 俺の探偵技能のことか、それとも喋れる猫であることか? 物心ついた時から、俺はずっとこうだった。子猫の頃は5匹いたんだ、雄3匹に雌2匹。俺たちはお互いに、そして美しい三毛猫の母とも言葉を交わし合った。幸せな暮らしが続いていたんだ、あの日までは…
ドゥウェル博士: その日に何が起こったのですか?
SCP-ES-234: 兄弟のうち2匹を失った。誘拐され、それっきり行方知れずだ。あの日以来、俺は母の訴えにも耳を貸さず、通りに出るようになった。最初は兄弟を探すために、やがては他の連中が同じ目に遭わないようにな。この話をするといつも気が沈んじまう。もしあんたさえ良けりゃ、一服させてもらうよ。悪癖だと分かっちゃいるが、緊張をほぐして集中するのに役立つ。
(SCP-ES-234はジャケットの内ポケットから小さな銀色のタバコ入れを取り出し、1本のタバコを引き出して、小さな金色のライターで着火する8。)
(SCP-ES-234は数分間無言で喫煙を続け、満足げに喉を鳴らす。タバコの火を揉み消した時、SCP-ES-234は困惑した様子を示し、数秒後にノワール・イベントを引き起こす。)
(SCP-ES-234は別なタバコに着火する。ドゥウェルもトレンチコートからマールボロ・ブランドのタバコを1パック取り出し、吸い始める9。両者は1分間無言で喫煙を続け、その後SCP-ES-234が話し始める。)
SCP-ES-234: なぁドゥウェル、1つ訊きたい。あの露助ルスキ10に何かあったのか? 今日はあいつが来るとばかり思っていた。ドゥウェル博士: 露助ですって? ロシア人? アントノフのことですかね? 確かにロシア語っぽい苗字ですが、彼はポーランドかウクライナの出身だったと…
SCP-ES-234 (身振りで軽侮を示す): 露助だのポーランド人だのどうでもいい、あの連中はみんな[侮辱編集済]。少なくともあいつはアカではないがな。まあどうでもいい。俺は露助を信用していないが、あいつは例外だ。今日会えればと思っていたが、先にあんたに伝えておこう。南米人を信じるな。
ドゥウェル博士: 何ですって、SCP-ES-234?
SCP-ES-234: そうだ、南米人には用心しろ、奴らは裏表を使い分けるのが上手だからな。あと、その呼び名は止めてくれ。俺の名前はマーウだ。
(SCP-ES-234は数分間無言で喫煙を続け、その後ノワール・イベントが終了する。)
<記録終了 [2020年1月20日、月曜日、10:48]>
結: ファイルES-162/05-01に関する情報は、インタビュー後間もなく事実であると確認された。その他の[セクション編集済。完全版のファイルへのアクセスにはレベル3以上の特別認可が必要です]
補遺3: パン・インシデント
2020/02/10、SCP-ES-234は新たなカジェーロ・インシデントを開始し、2020/02/15まで財団職員との連絡を絶った後、██████████、████████の教会内にて、中程度の負傷状態で発見されました。その後、SCP-ES-234は更なるカジェーロ・インシデントを起こし、2020/03/05に[編集済]と共に回収されました。この事件の結果、SCP-ES-234収容室の警備体制は強化され、それまでSCP-ES-234が許可されていた特権の幾つかが剥奪されました。詳細は文書ES-234/02-03 Panを参照してください。
補遺4: SCP-ES-234に関するその後の通信
日付: 2020/03/12
To: ボルハ・ドゥウェル
From: █████████管理官SCP-ES-234の姿勢が度々問題を起こしてきたことは否定できない反面、その有用性もまた同様に、幾度となく価値ある情報を我々にもたらした。そして、異例のやり方ではあったが、SCP-ES-234のおかげでパン・インシデントの後に[編集済]を入手できたのを忘れるわけにはいかない。
そこで、もしSCP-ES-234の狩猟衝動、尽きせぬ好奇心、捜査と協力への欲求を抑制できないなら、それを他へ向け直すのはどうだろう? あれが明らかに異常な実体で、その性質がまだよく分かっていないことは理解している。あれは自分を探偵だと考えている猫、或いは少なくとも我々がそのように見ている何かだ。しかし、理解し難いものに対する我々の拒否反応は、それを単に箱の底に放り込んで忘れてしまうほど強いものだろうか? 更に言えば、あれに特別な地位を付与し、サイト内の活動により深く関与させておけば、いつか帰ってこなくなったり、もしくはなお悪いことに、衆目を集めたり、他の組織の手中に落ちたりする可能性を減らすことができると思う。
日付: 2020/03/30
To: █████████管理官From: ボルハ・ドゥウェル
SCP-ES-234は敵意を示さない知性体であるため、終了しなければならないような事態は好ましくありませんし、何よりその性質について学ぶべきことが山ほどあります。SCP-ES-234の研究チームが軽視しがちな点の1つに情報取得能力があります - あれは間違いなく、SCP-ES-234自身の信条に反して、知性と探偵技能の成果ではありません。多くの手掛かりが欠落し、妥当な推論を導き出すことが実質的に不可能な例がしばしばあるのです。SCP-ES-234は情報を見境なく捕捉する一種の“ラジオ”なのか、それとも特徴付けるのが一層困難なメタ認知特性を帯びているのか?
S, P & C探偵事務所というアイデアは、 SCP-ES-234自身の現実世界に対する見解と非常に好相性なので、SCP-ES-234はその能力を以てしてもS, P & Cを拒絶できません。ノワール・イベントによって、彼のパラダイムが犯罪小説レベルまで矮小化している間は特にそうです。こうしたノワール・イベントは自己完結しており、範囲も持続期間も限定されていますが、仮にSCP-ES-234が自分の存在の変遷にうんざりしてしまい、建物や街路だけでなく、全世界を犯罪小説の中に引きずり込んでしまおうと決めたら… もしくはなお悪いことに、今我々が知るところの現実に戻るのを許さなかったらどうなるでしょう?
私はこのシナリオについて、関連プロジェクトや偽情報部門の職員のみならず、異常存在論やミーム学の専門家ともじっくり議論し、共同で一つの解決策を考案しました。不可解な犯罪現場、粘り強い警察官、心を傷付ける謎の金髪美女といった、SCP-ES-234にとっての理想である犯罪小説の世界観を、退屈で味気ないものに変え、戻る意欲を奪うほど魅力的な選択肢を用意するのです。財団の仕事以上に相応しい選択肢があるでしょうか? 我々が追い求めるのはただの犯罪者ではなく、概念さえも殺害できる実体で、我々が愛するのはただの謎めいた金髪美女ではなく、不死の守護女神です。明らかな理由で、彼をエージェントに任命することはできませんが、クラスEの職位を付与して特定の業務に従事させるのは、出発点として悪くないでしょう。
日付: 2020/04/01
To: ボルハ・ドゥウェルFrom: █████████管理官
ドゥウェル、君の提言は全く以て狂気の沙汰だし、リスクも伴うが、上手く行きそうだ。マーウ探偵をチームに迎え入れようじゃないか。