並行世界イプシロン-ガンマ-11、通称“地球社会主義共和国連合”は、エージェントが取得したデータに取り組む職員と、そこに派遣されて直接ユートピア社会を目の当たりにした者たちの両方の間で、数多くの疑問と論争を呼んだ。専門知識を持たない普通の人々にとって、そして驚くべきことに有識者にとっても、共産主義は奴隷制や殺人としか結び付かない。共産主義は — 例えばナチズムのような思想と違って — 理想のイデオロギーだと捉える人々は、敵と向かい合うには余りにも盲目で素朴すぎる。誰も何一つ所有せず、それ故に嫉妬や搾取の介在する余地が無い、階級制度を廃した平等社会の確立は、一見すると非常に良いものに思える。ここには家族の絆の完全な欠如や、恋人同士の領域にまで及び、一般的な売春と結び付けられるような公益などの暗い側面もまた存在する。結局のところ、これは理想郷の幻影に過ぎないのだ。残念ながら、共産主義は理論上は、理論上だけでは美しく見える。それは自然と倫理から生じる基礎的な人間要素の無い社会の存在を前提としている。賢人はかつて「全体主義の伴わない共産主義は美しいが、有り得ない」と言った。それが真実だ。このイデオロギーを実践する試みは決して成功しない。人々は苦労して入手した品を絶対に他者に譲らないし、執着している家族や物を手放さない。それらは我々の存在の一部であり、どうあがいても取り除けない。
イプシロン-ガンマ-11には、上に述べた諸々を否定する何かがある。人々は誰が誰のために尽くす誰であるかに拘らない。全ての人々が同志であり、全人類の利益のために、戦時中の配給食を連想させる報酬で働いている。勤労が報われないというのに、怠惰は全く見られない。仕事はあの人々の人生で最も重要な要素だ。彼らはどのように、何を、何処で行うかを気にしない。何より重要なのは誰もが幸福であることだ。議論、嫉妬、戦争を望む者はいないし、そんな時間も無い。並行世界の隅々まで行き渡った平和と繁栄は確かに目を楽しませてくれるが、同時に思考の糧となる。どうしてこんな事が?
全ては大革命から始まった。当時何が起こったか、我々がそれを知ることは決して無いだろう。まるで誰かが歴史からあらゆる事実を故意に削除し、典型的なプロパガンダによる称賛と、革命の影響の“偉大さ”だけを残したように見える。その後、即座にゴスポディン氏という登場人物が現れる。彼の伝説の前にはレーニンの名声さえもが覆い隠された、何故ならゴスポディンは世界中に共産主義を広め、ポジティブな結果をもたらしたからだ。謎に満ちた、しかし同時に誰もが会いたがるほど人気のある人物。ゴスポディンは社会と協力するが、それだけだ。我々は彼が働いているとしか知らない。何処で? 分からない。そして奇妙なことに、誰もそれを気にしない。ゴスポディンは人々を訪問する — 彼に声援を送る群衆は、ローマ教皇の表敬訪問と比較できる。ただし、信者はゴスポディンの方が多い。ゴスポディンは彼の世界において神格にも等しく、人々は全員無神論者にも拘らず、彼を神だと考える。興味深いのは、特定地域への訪問に関する公式情報にも拘らず、そこに居たエージェントは史上最大の労働者の到着を示唆するような大騒動などを報告しなかったことだ。
同時に、ゴスポディン氏はプロパガンダ・キャラクターの完璧な例でもある。彼の描写はほとんど滑稽ですらあり、ソ連のポスターを連想させる。それを人々は痛々しいほど真剣に受け止めている。
社会そのものが奇妙だというのが最も適当な表現だろう。様々な事例が明確に示されているものの、イプシロン-ガンマ-11で起きている事は不可能かつ不自然だ。人々は決して自発的にあのような事は行わない。そしてどうやら、事実その通りらしい。
人々は幸せそうに見え、周りで何が起きていようと気にせず、社会全体の利益を維持するために忙しく働いている。数多くの観察経験を積み、俳優並みの正確さで偽装したエージェントたちが群衆の中に溶け込んだ。彼らが目撃したものは我々の予想を超えていた。
あの世界の人々は幸福ではない。
誰もが顔に微笑みを浮かべ、満足感を表しているにも拘らず、エージェントは何度も奇妙な行動に気付いたと報告している。標準を大幅に超過して働いていた労働者たちの1人が、配給を貰いに行ったのが最初だった。幾らかの食事や物資を受け取り、それを運び始めた時… 彼は涙を流した。控えめに言っても奇妙で不穏な光景だ。人生に満足した笑顔の男はすすり泣き始めた。この男には手が無かったことに言及すべきだろう。彼は仕事中に手を失っていた。
同様の事例がますます目立つようになった。暫く経つと、エージェントは自分が精神病院の中にいるか、酷く恐ろしい行為に関与しているように感じ始めた。友達付き合いと同一な父子の関係。母親が3人の男と同時に性交するのを何とも感じない — 公益。あのヒト型の生きた殻の中には、行動を起こす能力の欠如に責め苛まれる魂が隠れている。時には助けを求める叫びや呻きが聞こえることもある。あの人々は自由意志で動いてはいない。彼らは抑圧され、奴隷化された意識を宿す思考力の無いゾンビだ。あの世界は地上の地獄だ。何故そんな事が起こり得るのか?
ゴスポディン。
たった1人の人間がどうやってこれを成し遂げたのか? 不可能であるように思える。間違いなく不可能だ。何ヶ月も研究と観察を重ね、幾つもの結論を出し、神経をすり減らしてきた。これらは全て無駄ではなかった。我々はあの隷属社会、人々の苦しみの悲痛が溢れんばかりに満ちた地獄の杯に隠された真実を発見した。ゴスポディンは人間ではない。
では、“ゴスポディン”の名の裏に隠れているのは何か? 1人の人間ではない。人々の集団でもない。小規模ではないが、組織ではない。真実は全く衝撃的だった。
ゴスポディンは宇宙ステーションだ。
誰がいつ建造したかは分からない。我々はそれについて全く何も知らない。しかし、我らのゴスポディンは並外れた技術力の結晶だ。我々にとって未知の、非常に効率的なエネルギー源で稼働している。だが最も重要なのはそこではない。ゴスポディンは惑星全体を奇妙な放射線で覆っている。マイクロ波に似ているが、その構造や特性はまだ完全には理解されていない。ステーションは地球上のあらゆる無垢な住民を洗脳し、ただそれだけの手段でユートピア社会を成立させている。そしてまた、アメリカに何が起こったかも判明した。我々はあの国の名が“共産主義の敵”の同義語、冷戦の宿敵であったことを知っている。アメリカは激烈な爆撃を受け、もはや水浸しの群島しか残っていない。何による爆撃か? 分からない。放射線や、地球を覆う大規模な塵雲などの予測可能な間接的影響の兆候は無いので、核爆弾ではなさそうだ。これがいわゆる“西側粛清”だった。資本主義の首都は壊滅した。要するに大革命とは全人類の奴隷化であり、我々がこれが1日で完了したと仮定している。例え何処にいようとも、ゴスポディンはそいつを見つけ出して洗脳する。放射線はどうやら惑星の奥深くまで届いているらしい。深さと共に弱まって消失するのは確認されたが、人類は安全な場所まで到達不可能だ。イプシロン-ガンマ-11に派遣されたエージェントもゴスポディンの放射線に曝される。しかし、その影響はやや弱い — 革命後に放射線が弱まったか、何らかの未知の要因が“共産主義化”プロセスを減速させている可能性がある。恐らく、我々が別世界の出身者であることが良い方向に働いたのだろう。我々はDクラス職員1名を派遣し、完全に洗脳されるまで連合に留め続けた。19日後に彼との接触は途絶えた。この狂った世界でどれほどの余裕を持って動けるかがこれで分かる。
もう1つ興味深い事がある。この世界にはアノマリーが存在しない。何故それが分かったか? 財団施設を発見したからだ。多分、ゴスポディンの建造を除いて、この世界の歴史は我々のそれと同じ道筋を辿っていたのだろう。異常なオブジェクトは消え去り、全く残っていなかった。施設自体は荒れ果てていた。きっとあちら側の財団職員は今頃、何処かの製鉄所か鉱山で働いているはずだ。実験のために数匹のSCP-PL-009個体を導入した。転送直後、SCP-PL-009個体群は凍り付き、崩れて塵になった。文字通りの意味で。破壊されても支障の無い他のオブジェクトで実験を繰り返した。英語圏支部、フランス支部、ドイツ支部からも少し借りた。全て同じ結果に終わった。放射線はどうにかしてアノマリーを破壊するらしい。ゴスポディンの作成者は狂っているが、忌々しいほどに聡明だ。そいつはアノマリーの何たるかを完璧に把握し、破壊する方法を知っている。そうやって地球上にユートピアを実現したのだ。しかし、1つの謎が残る。何故向こう側のSCP-PL-126は破壊されていない? あの像が実際にはアノマリーではなく、物理法則を極限まで活用しているだけなのかもしれないし、ゴスポディンが意図的に像を除外している可能性もある。だとすると何故か? それに、オブジェクトが廃墟に放置されている理由も不明だ。あの建物は本当に並行世界のエリア02なのだろうか? それにしては建築設計も立地もこちらに対応していない。今のところ、これは謎のままだ。もっと憂慮すべき事実がある。我々が連合の研究を始めてから約2年が経った。我々は8ヶ月前にゴスポディンを発見した。
1週間前、奴は移動し始めた。
著者:
B博士 — PL-126プロジェクト主任、レベル5
確保。収容。保護。
アイテム番号: SCP-PL-126
オブジェクトクラス: Thaumiel
特別収容プロトコル: SCP-PL-126はその寸法に合わせた設計の密室に収容されます。SCP-PL-126の右手は損傷耐性がある素材の容器で覆わなければいけません。この容器はレベル5クリアランスの職員が承認した場合のみ開放されます。
イプシロン-ガンマ-11次元(以下SCP-PL-126-1とする)への遠征は適切な職員によってのみ実施されます。レベル4のクラスE職員は、現時点でSCP-PL-126-1における長期ミッションへの派遣が承認されている唯一のクリアランスです。職員は2016/10/14付の布告11(修正版)に含まれるガイドラインに従って募集されます — ガイドラインにはSCP-PL-126-1へ派遣された職員の基本的な義務と禁止事項も記載されています。Dクラス職員の派遣は被験者としてのみ認められます。被験者は常に派遣されたエージェント、または保安職員の警護下に置かれなければいけません。
ある人物がSCP-PL-126-1に間断なく滞在する時間は12日以下に留めることが推奨されます。SCP-PL-126-1を離れた人物は、当該次元への滞在による負の影響を完全に排除するために、20日間の回復期間を設けなければいけません。
明白な理由なくSCP-PL-126-1住民との接触を図ることは固く禁止されています。
その特性上、オブジェクトSCP-PL-126-2は常に監視されなければいけません。SCP-PL-126-2はイプシロン-ガンマ-11次元(SCP-PL-126-1)の内部に位置するため、その存在によって及ぼされ得る脅威は制限されています。これを踏まえて、SCP-PL-126-1は実質的にSCP-PL-126-2を確保・収容する手段と見做されています。
説明: SCP-PL-126は20世紀半ばの労働者に典型的な衣服を着ている、体格の良い筋肉質な男性の彫像です。彫像は一般的な男性のサイズに対して2:1の比率で、左手に巨大な鍛冶仕事用の金鎚を持ち、右手を差し伸べて歓迎の仕草を示しています。分析で彫像の構成に不自然な点は検出されませんでした。構築材質は物理的に灰色の大理石に似ているにも拘らず、モース硬度7.4という異常な硬さを特徴としています。SCP-PL-126は同じ材質で作られた、一辺が90cmの立方体の台座に乗っています — この台座には“Да здравствует Господин!” ("Da zdrawstwujet Gospodin!"、日本語訳 “ゴスポディン万歳!”)という文言が彫り込まれています。
SCP-PL-126は、その右手に触れた人物を、SCP-PL-126-1と指定される異次元(世界イプシロン-ガンマ-11)に転送できます。SCP-PL-126-1は我々の現実と概ね同一の並行世界です。この並行地球は、共産主義を主なイデオロギーとする唯一の国家的主体、“地球社会主義共和国連合”の存在を特徴としています。[1]
転送先の廃墟は財団によって開発され、現在は次元間暫定研究エリア02-β(通称エリア02-β)として機能しています。ここで発見された並行世界のSCP-PL-126には構造や機能の相違点が全く見られません。並行世界の像に特別収容プロトコルは適用されず、隔離された部屋に配置されています。エリア02-βは最寄りの人口密集地から約6km離れています。並行世界の住民たちは財団の活動に如何なる関心も抱いていないようです。
SCP-PL-126-1は本来、我々の地球と同一だったと考えられています。得られた情報によると、並行世界の暦における2001年、俗に“大革命”と呼称される出来事が発生しました。[2]
“大革命”の先駆者であり、重要人物だったのは“ゴスポディン”でした(“Господин”; 固有名詞; 翻訳不能。“ミスター”に相当する) — 革命を引き起こし、その中で積極的に活動し、恐らくは指導者だったこの男性の正確な姓名は知られていません。世界イプシロン-ガンマ-11で果たした重要な役割ゆえに、“ゴスポディン”はSCP-PL-126-2に指定されています。“ゴスポディン”の描写はプロパガンダにおける人物像の典型例です。これはステレオタイプな労働者としての表現、共産主義のシンボルでもある属性(鎌と鎚)、そして革命中・革命後に行ったと公表されている活動によって補強されています — 彼は人々と協力して仕事を行っているか、世界各地の連合市民を訪問していると伝えられています。イプシロン-ガンマ-11において“ゴスポディン”の名前はある種の神格に匹敵します。[3] イプシロン-ガンマ-11のプロパガンダ活動は極めて効果的であり、概ねSCP-PL-126-2の偉大さを一般市民に納得させようとする内容です。これにも拘らず、プロパガンダ活動を推進しているのは市民ではなく、未知の組織によって統制されているようです。財団の立場やイプシロン-ガンマ-11における本質的事実の巧妙な隠蔽により、プロパガンダ活動の原点やそれらに責任を負う組織は特定できませんでした。問題の組織が存在する可能性は実質的に除外されていません。
イプシロン-ガンマ-11で実施された精密な研究と観察により、SCP-PL-126-2の実在が特定されました。“ゴスポディン”は宇宙ステーションの機能を持つ人工衛星型オブジェクトの名称です。SCP-PL-126-2は地表から約3420km上空に位置しています。正確な規模は不明ですが、予備研究でその構造が円環状であり、地球の位置と相対的に垂直な体勢を取っていると断定されました。大きさはおよそ長さ800km、幅200kmと推計されています。SCP-PL-126-2の構造は太陽光を完全に反射し、適切な条件の下で反射光を観測することができます。SCP-PL-126-2は金属材質で作られていると思われ、外装のコーティングは非常に滑らかです。移動や回転は行っていません。
地球に向けられたステーションの一部は多数のフレーム状構造を備えています。構造の大きさは数百メートル規模と測定されており、最大の構造はSCP-PL-126-2の表面から3km突出しています。これらの構造は装飾ではなく、ゼータ[ζ]線/波と呼ばれる特異な電磁放射線を継続的に放つアンテナの役割を果たしています。この放射線は130ギガヘルツ[GHz]の一定周波数で放射され、様々な点においてマイクロ波を連想させます。マイクロ波と異なり、ゼータ波は遮蔽すること、弱めることが不可能です。ゼータ波は存在そのものが既知の物理法則と矛盾します — 本来その干渉は地球上の大型生物を滅ぼすのに十分である一方、実験室条件下でゼータ波を発生させる試みは、一般に受け入れられている基本的な活動や理論に反して全て失敗に終わりました。イプシロン-ガンマ-11では物理法則が異なるためにこの放射線が発生し得るのではないかと推測されています。現在までに開発された手法は、間接的とはいえ効果的にゼータ波を検出・測定できます。SCP-PL-126-2研究スタッフの中でも、ゼータ放射線の検出と実験を可能にした職員は高い評価を受けました。
この放射線の基本的な特性は、身体と思考の自己制御という観点から人間の精神に及ぼす影響です。ゼータ波は並行地球の全ての住民から自由意志を剥奪し、共産主義イデオロギーの仮定世界観に完全に沿って生活させる目的で調整されているようです。放射線は個人レベルでは完全に影響しておらず、影響者の意思のごく限られた部分はゼータ波から影響を受けません。このような人物は思考力の残滓を保持していますが、意思決定や実践的活動を行うことはできません。SCP-PL-126プロジェクトに取り組む心理学者たちの意見は、基本的倫理・正義・自然な家族観・社会的要因の欠落した社会の受動的観察を強いられた結果、大部分ないし全てのイプシロン-ガンマ-11住民が隠蔽された抑鬱状態にある、もしくは類似の精神医学的症状に苛まれているという理論で一致しています。
ゼータ波は恐らく“大革命”以来、約15年間にわたって放出されています。この長期曝露は並行地球の住民の脳構造に著しい悪影響を及ぼしました。住民を我々の現実世界に拉致する必要があった実験は全て、時間と共に進行する脳細胞の劣化と、不自然な癌の発症率上昇を引き起こしました。これまでに確保された住民は全員死亡しています。我々の世界からSCP-PL-126-1へ移動する人物の場合はこれと異なり、ゼータ波の影響にやや強い耐性があります。Dクラス職員を利用した実験で、約19日の活動猶予があると断定されました — これ以上長く滞在すると、対象者は有害な放射線に99%の確率で曝されます。短期間で現実世界に帰還すれば、並行地球人が受けるような害を伴わずに回復可能です。
ゼータ放射線は異常特性を帯びた物体にも影響します。この事実は、イプシロン-ガンマ-11の地球に超常オブジェクト/現象が完全に欠落している謎を解決しています。今日まで、このプロセスの仕組みは最小限の原理さえも解明されていません。異常と定義される特性を帯びた物質は、ゼータ放射線を浴びてから数分以内に全ての特性を失い、さらに正常性からの逸脱度に比例して破壊されます。極端な場合、オブジェクトは分子レベルで不安定化します。知性ある異常存在はゼータ波を浴びると激しい肉体的苦痛を受けるようです。潜在的に危険な異常存在を無力化するためのゼータ波の利用を巡っては数多くの議論が交わされていますが、現状に関連する脅威や、収容チャンバーとエリア02-βの間の転送手段が最大の障害となっています。
ゼータ放射線には、それに曝露したオブジェクトから異常特性の要因を検出する能力があると推測されています。ゼータ放射線の対異常特性は、この宇宙において自然に反した影響力の発現を可能とする基本因子、通称“異常因子”の実在を示す証拠だと提唱されています。しかしながら、全ての推測は純粋に理論上のものであり、未だ実際的な要素には基づいていません。ゼータ放射線の存在自体、他の異常存在に破壊的影響を及ぼす異常現象と見做し得ることも考慮する必要があります。
特に注目すべきは並行世界側のSCP-PL-126です。財団の収容下にある像の異常な動作原理が明白な(そしてしばしば些細な)理由のために調査できないのと同様に、並行世界側の像の異常性もまた議論されています。この像は常時ゼータ放射線を浴びているにも拘らず、その影響を受けません。研究スタッフはこのオブジェクトがどのように機能するかの回答を得られていません。“ゴスポディン”は何らかの理由で並行世界のSCP-PL-126を意図的に無視しているか、そもそも像自体を異常物として定義できないと思われます。後者の可能性が最も高いものの、残念ながらこれは無視できない重要な事実です — SCP-PL-126は、口語的に表現すると、物理法則を未知の手法で極限まで曲げてはいるものの違反してはおらず、従ってそもそも異常ではない可能性が示されています。 [4]
2017年6月12日、財団が干渉を開始してから初めて、SCP-PL-126-2は移動しました。SCP-PL-126-2は継続的に推定時速5kmで動き続けており、これは宇宙規模で見れば比較的遅いと見做せます。しかしながら、SCP-PL-126-2は速度を変化させず、常に特定の一地点を向いています。観測結果が示す限り、SCP-PL-126-2はエリア02-βの地理的位置に対応する区画へ直線的に接近しています。単純計算で約20日と14時間後、SCP-PL-126-2は地球の熱圏に突入する見込みです。地球への近接がどのような効果をもたらすかはまだ不明ですが、移動速度の遅さから、SCP-PL-126-2自体は殆ど損傷を受けないと思われます。SCP-PL-126-2が移動し始めた理由も判明していません。ステーション職員とエリア02-β財団職員の接触可能性が予測されています。
SCP-PL-126-2がSCP-PL-126を利用し、容易に我々の世界へ侵入する可能性もまた考えられます。“ゴスポディン”活動規模の拡張は、ほぼ確実にイプシロン-ガンマ-11で発生した活動と類似する結果を招き、ZK-0G6-λクラス世界終焉シナリオに繋がるでしょう。現時点では有効なゼータ放射線の遮蔽手段が開発されておらず、防衛措置を講じることができません。O5評議会命令に従い、職員はSCP-PL-126-2との接触を待機するものとします。ZK-0G6-λクラスシナリオの明白な脅威が呈された場合、SCP-PL-126の破壊が考慮されます。しかしながら、その残骸が引き続き転送能力を保持するか否かは未知数です。
補遺: 治療対象として拉致した人物へのインタビュー
対象者: リュドミラ・ヤンコバ、イプシロン-ガンマ-11住民、大量生産工場の従業員。
質問者: B█████████博士
序: 対象者はインタビューが開始される丁度19日と3時間前に収容された。対象者の予後は極めて思わしくない — 脳は著しい損傷を受けていたため、身体機能の継続が妨げられている。患者は不明瞭な発話が可能だが、首から下が麻痺し、失明している。医療職員は今後10時間以内に彼女が死亡するものと推測した。
<記録開始>
B█████████博士: こんにちは、少しだけ話す時間をもらえないか?
L.J.: 勿論。問題ありません。(軽く微笑む)
B█████████博士: どういう気分かを教えてくれるかい?
L.J.: 先生… とても良い気持ちです。
B█████████博士: 敢えて言うが、その答えには驚かされる。もっと詳しく聞かせてくれるかな?
L.J.: こんなに心地良かったのがいつ以来か、もう思い出せません。実は、それほど多くの事は覚えていないんです… 頭が痛くて… 私は地獄にいたのだと思います… でも今は… 言葉では言い表せません。
B█████████博士: 話せるだけ話してみてはどうだい?
L.J.: 何が起きていたかは覚えています… あれは生きているなんて言えない… まるで夢を、悪夢を見ているようでした、でも悪夢だってあれよりはマシです… (沈黙) そうして、あなたたちがやって来ました… 気付きました、あなたたちは何か違うと… 私たちみたいに簡単に負けなかった… きっと天使様なんだと思いました… でも無視せざるを得ませんでした… だけど、とうとう私を見つけてくれた…
B█████████博士: 残念だが、不誠実な事は言いたくない… 予後は非常に悪いんだ。放射線の影響領域から君を出した後、脳は自壊し始めた。君は死にかけている。
L.J.: 分かっています。でも、私は幸せです。
B█████████博士: その前向きな性格は本当に好ましいと思うよ。説明してくれるかい?
L.J.: あのね、先生、私たちは毎日、義務とか心配とか揉め事とかが溢れた世界に生きているでしょう… でもそこには人生の明るい面もあるんです… 悲しいけれど、私たちはよく、自分たちがどんなに恵まれてるかを忘れてしまうんです。一番大切な物、特に身分に関係なく持っているたった一つの物に、私たちは感謝しない… ああ、頭が… すみません、今日は何日ですか? 確か今日は… ああ… ふふ、今日は私の誕生日でした。 (微笑む)
B█████████博士: そうだったか、誕生日おめでとう! 君は本当に逞しい人だ。君がこんな状態で誕生日を迎えなければならない事は残念に思う… 願いも聞いていないし、プレゼントの話は止そう。少し実利主義が過ぎるかもしれないが…
L.J.: でも先生、もうプレゼントは貰いました。もう一度手に入れたんです。私たちは皆それを持っています。なくすのは簡単だけれど、すぐに忘れてしまう。皆がそれを求めて何世代も戦います。とても尊い物なんです。あなたのおかげで、私はまたそれを取り戻しました。
B█████████博士: ほう、何だい?
L.J.: 自由です、先生。
<記録終了>
注記: 患者はインタビューの1時間後に死亡した。
Bibliography
2. B博士 “大革命” 17,93; 2016 ww. L
3. D・ヤブロンスキ技術主任、B博士 “ゴスポディン — 労働者から神へ” 10,94; 2016
4. マテュー・ナイン博士 “物理学上のSCP-PL-126” — 研究; 2017