シーグラス
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「あなたのことはガラスでできた人間に見えました。」

サイズの合っていないサングラスのブリッジを指で押し上げながら、南雲麗なぐもれいは静かに呟いた。それは、冷たい人間という意味の揶揄や、透き通るほど美しい肌を持っているという比喩でもなかった。

きらきらと様々な場所が輝いていて美しく、同時に光を乱反射していて気味悪くも見える異形の姿。南雲には言葉通り、目の前にいる男の姿が寄せ集められたガラスの塊のように、少しの間だけ見えたのだ。

「私が、ガラスの人間。……なかなか綺麗な姿で安心したよ。」

天羽太透あもうたすくは笑いを含ませながら南雲と同じように、縁の細い眼鏡をかけなおしそう答えた。そして机の上に置いていた、麦茶と氷の入ったガラスコップを持ち上げてまじまじと見つめ直した。氷とコップがぶつかる音が二人のいるカウンセリングルームに響いた。

「こんなに綺麗に光るガラスに私が見えるとはね。」

天羽は光栄だと言わんばかりの声色でそうつぶやいた。しかし南雲にとっては笑い事ではなかった。扉を開ける前から覚悟をしていたから、そして思っていたよりも怖くない見た目だったからこそこうやって冷静に話せているが、もし心の準備ができていなかったら、卒倒ものだ。そんな不満が伝わったのか、降伏するようにこちらに手のひらをむけて首を横に振る。

「もちろん、馬鹿にしているわけではないんだよ。いくら綺麗だとしても、突然そんなものに出会ったら私だって驚いてしまうしね。」

麦茶を一口飲み、天羽は少し口角を下げ真面目な顔で南雲に向き直した。

「それで、南雲くん。君には私だけではなく、他の人も人間じゃない姿に、少しの間だけだが見えると言うことだね?」
「……はい。」

耳に髪の毛をかけた後、顔を俯けて南雲は頷いた。

南雲がその症状に最初に気が付いたのは2ヶ月前のことだ。同僚の男から実験記録を記した書類を受け取ろうとしたときにそれは訪れた。

「え」
「どうしたんですか、南雲さん。」

そう言う男の手は赤かった。皮膚をはぎ取られているように赤く脈動していた。指の数は目視では数えきれないほどになっており、1本1本がうじのようにうねり書類の上を這っている。ぶちと音を立て生まれた血のあぶくが破裂して南雲の親指の爪の表面に小さな玉を作った。ひっ、と息を飲み一歩後ろに下がる。そして目の前にいる奇妙な肉塊の全体を、見てしまった。それはもう、人間ではなかった。

「南雲さん?」

南雲の名前を呼ぶ口はただの穴と化していた。中には白い粒が隙間を開けて刺さっている。閉じるたびに肉からぽろぽろと落ちていくそれは恐らく歯なのだろう。こちらを見つめてくる目は光を反射していない、ただの黒色。耳や鼻なんてものはどこにも見当たらず、顔の横から肉がぼたぼたと落ちていく。南雲が覚えているのはここまでだった。

目を覚ますと南雲は医務室のベッドに寝ていた。隣で座って心配そうにこちらを見ていた同僚は、ちゃんと人の形をしていた。疲れからくるノイローゼだ、少し休めと言われ、その日は1日ベッドの上で眠って療養をしていた。しかし、仕事に復帰した次の週に今度は廊下の角で鉢合わせになった職員の姿が動く骨に見えてしまい、また倒れてしまった。

こんなことが何回も続いてしまい、とうとう南雲は対話部門という聞いたことの無かった部門のお世話を受けるようにといった通達を受けてしまった。心療の対話を主とする部門だと今では知っているが、通達を受けた夜の南雲は気が気ではなくなっていた。対話とは何なのか、まさか解雇通知か、いや終了か。嫌な想像は止まらずに震えて眠れない日が続いていた。そして今日、初めて会った担当職員が天羽太透だったのだ。

「それから、段々と症状が重くなってるんだね?」

天羽は手に持っているバインダーに挟んでいる紙にボールペンを走らせる。

「はい。最初はゆっくり休めば多少は大丈夫だったし、異形に見える瞬間も一瞬だけだったのですが、次第に見え始めるスパンが短く、異形に見え続ける時間が長くなっているんです。」

南雲は眉の下まで伸びている前髪ごと顔を覆い手を握りしめる。力の入れすぎかそれとも、今までの幻覚を思い出してしまったのか、握りこぶしは震えていた。

「なるほど。……そのサングラスは、普段から?」
「いえ、自分で考えた対処法です。こうやって、視界を隠せば多少効果があるかな、と。……結果は芳しくなかったのですが。」

ふむふむと呟き天羽は、書類に何か書きながら南雲の全身をちらりと確認した。先ほどから忙しなく唇を舐めて湿らしている。膝に置いている手は互いの指と指とをこねくり時間の経過を待っているようだった。もちろん普段来ない場所での対話からくる緊張ももちろんあるのだろうが、どちらかと言えば、南雲の態度は何かに怯えているように見えるのだろう。

「よし、概要は分かったよ。ありがとう南雲くん。……実はこうやって話す前に、少しだけ調査をさせてもらったんだよ。ひょっとしたらオブジェクトが潜在している可能性や、君が担当したオブジェクトの性質に罹患してしまった可能性もあるからね。身辺調査、南雲くんの同僚くんの検査、オブジェクトの性質調査エトセトラ。」

まあ、僕は本当は別の人に頼んだだけなんだけど──とこっそり呟いた後、わざとらしく咳ばらいをして話をつづけた。

「……しかし、結果は全部白。南雲くんのその症状がオブジェクトに関係している可能性は限りなく低いという事になった。」
「……そうですか。それは……その……」
「いやあ、良かったよ南雲くん。」
「え?」

隙を突かれたのか、間の抜けた声で南雲は顔を上げた。

「だって、精神操作や視覚に悪影響を与えるオブジェクトのせいじゃないことが分かったんだよ。それなら、僕が治すことができるってことだからね。」

天羽は胸を張り、自信満々にそう答えた後、ソファからゆっくりと立ち上がった。スプリングの軋む音が、呆気にとられている南雲の意識を鮮明にさせた。そして、最初から考えていたことを、頭の中でまとめている途中で、天羽に先に問われた。

「南雲くんは、海は好きかな?」
「はい?」
「海だよ。しょっぱいの。」
「……まあ、好きですよ。」

そりゃあ良かった、と天羽は小さく音を立てながら手のひらを合わせた。

「実は今日はちょっと気分転換に違う所で話をしようと思ってね。明日……というより今日だけど、何か予定があったりとかしない?」
「ええと、休みはもらっているので、大丈夫です。」
「そうかい。それは都合がさらに良い!」

まあこんな時間に話しているし大丈夫だと思ったけど──部屋に置かれている時計に目を向ける。5時を少し過ぎたあたりを指していた。PMではない、AMだ。近頃の昼間によく症状が発生しているせいで、昼間の対話がどうしても怖かった南雲が、カウンセリングを真夜中に指定したのだった。

「それで、海がなにか?」
「行こう。」
「どこへ。」
「海。」

何となくそういわれるのかな、と予想していたが、実際に言われてしまうとは思わなかった。今から、外の海に向かうと天羽は言っているのだ。それがカウンセリングとどう関係するのか、何故海なのか、疑問が積もりすぎて、脳が容量不足のエラーを出してきた。

「いわゆるリフレッシュってやつだよ。さあ、行こう。」

そう言って天羽は南雲の手を握った。ガラスとは真反対の、柔らかく暖かい手のひらだった。

薄ぼんやりとした海は暗幕をはためかせているようにうねっていた。波打ち際に白い泡の線が押し寄せて砂をさらい平らにしていく様子が微かに見えた。すうと深呼吸をすると、独特な香りが鼻腔を通り抜けていった。これが潮の香りというやつなのだろうか。

「南雲さん。ここ、シート敷いたので座ってください。」

ぽんぽんと隣に座るように南雲を促す。久しぶりの砂の感触のせいでぎこちない歩き方になりながらも天羽の隣までたどり着く。腰を下ろすと、シートの砂が擦れる音が聞こえた。

「寒くないですか?羽織るものも持ってきてますので言ってくださいね?」
「いえ、今の季節はこれくらいがちょうどいいです。それより、何故海に突然連れてきたのですか?」

溜まっていた疑問を1つづつ消化していこうと南雲は早速質問を投げかけた。

「1/fのゆらぎ。」
「え?」
「僕たち人間が落ち着ける音のことをそうやって言うんですよ。この世界の様々なところにそれはあるんです。例えばロウソクの火のゆらめきや、葉っぱが擦れ合う音、そして、波の音。」

そこまで聞いて何となくイメージがつかめた。ヒーリングサウンドとしてそういった環境音がおすすめされていることを思い出す。何故そういった音を聞くのがリラックスできるのか不思議だったが、そういう原理があったのかと素直に感銘を受けた。

「もちろん動画サイトに波の音なんか溢れるほどありますが、実際に聞いた方がさらに落ち着けるんじゃないかと思いましてね。」
「だから、わざわざここまで?」
「まあ、それだけではないのですがすぐに分かりますよ。」

そうはぐらかして天羽は海の方を見つめた。南雲も同じ方向に顔を向ける。先ほどの話を聞いたせいか、確かに波の音が心地よいように感じた。一定ではない、相殺された小さな波が来たかと思えば、たまに風が味方しているのか大きな波がこちらに寄せてくる。靴の先までくるんじゃないかと少し心配になり足を三角座りの形にたたむ。水平線の奥からぽちゃ、という水音が聞こえてくる。

「あの。」

南雲は沈黙に耐え切れず、ずっと先ほどから感じていた一番の疑問を天羽にぶつけることを決意した。

「はい、何でしょう?」
「天羽さんは、私を嫌がらないんですか?」

言ってしまった、と南雲は思った。心臓が焼きごてを当てられたように熱く苦しく跳ねる。頬の内側を噛んで平静を保とうとするが、無理だった。シャッターを切るように、1つ1つ少し前の記憶が蘇ってきた。

異形に驚き失神する寸前に聞こえてきた、同僚の「またかよ」という低い声。目覚めた後にこちらを見つめてくる腫れものに触るような歪んだ顔。記憶処理剤の多量摂取により吐いた便器に、まだ形を残していたお昼ごはん。一度だけ、限界にたどり着いたときに目を貫こうとしたデザインナイフの刃先。全ての嫌な記憶が押し寄せてきて、私は自己嫌悪の闇に飛び込んでしまう。波の音が、古びたラジオのノイズのように汚く頭で変換されていく。

「せっかく相談に乗ってくれている初対面の天羽さんに、ガラス人間なんて言ったり、目を見ずに話してしまったり、失礼なことばかりしているし、それに、ほら、深夜に時間指定をしてしまっているし、とにかく、失礼なことばかり。」

普通のことを話すことは上手にできないのに、自虐の言葉は次から次へと湧いてきた。まずい、そろそろやめないと、寧ろ迷惑になってしまう。心はそう思っているのに、口は動きを止めない。

「なんで嫌がる必要があるのかな。」

口の動きを止めてくれたのは、天羽さんだった。あごのあたりに手を置いて、眉をひそめている。

「どう僕が見えたかを聞いたのは僕だし、緊張で目を合わせられないことぐらい誰でもあるさ。時間指定なんか、むしろ嬉しかったよ?僕、昼夜逆転気味だし。」

立て板に水というのはこの事かというくらい南雲の自虐を素早く優しく返してきた。その表情に同情の影は見えない。むしろ、眼鏡の奥の瞳は細くなっており、とても楽しそうに見えた。

「それに、ガラス人間って言われて僕は嬉しかったよ。」
「嬉しかった?」
「ああ、これを見てよ。」

そう言って天羽は白衣のポケットに手を突っ込み何かを見せてきた。手のひらの真ん中に、青空を閉じ込めたような小さな固まりが集まっていた。親指の爪ほどの大きさのものもあれば、ビーズほどの大きさのものもまとまっていた。何かは分からなかったが、綺麗だった。

「……これは?」
「シーグラス。海に揉まれて丸くなったガラス片だよ。」
「ガラスが、こんなに丸っこくなるんですか。」
「そうさ。小さな砂に削られてね。この浜辺にはよく落ちてるんだよ。このガラスが私は好きでね。だから最初にガラスの人間と言われた時、僕は嬉しかったんだよ。」

そう言って天羽はシーグラスの1つをつまんで海の向こうを覗くしぐさをした。そして「サングラスを外してご覧。」と南雲にも1つシーガラスを渡して覗くよう促してくる。言われたとおりに私はかけていたサングラスを外して海の方をのぞき込んでみた。

「わあ……。」

暗い夜に包まれていた上にサングラスをかけていたせいで気が付かなかったが、いつの間にか海から太陽が頭を出していた。光がシーグラスの曇りをすり抜けて私の目に届く。向こうの水平線の橙とシーグラスの青が混ざり合って、藤色が私の指の中に生まれていた。気が付けば、南雲の自己嫌悪は陽の光に照らされいなくなっていた。そして、ただ一つの感情に支配された。

「綺麗。」
「でしょ。これを見せたかったんだ。」

天羽はシーグラスをポケットにしまい南雲の方を向いて、いたずらが成功した子供のように無邪気に笑った。

「教えてあげたかったんだ。この世界の美しさを。」
「……随分ロマンチックな言い方ですね。」
「比喩で言ったわけではないよ。」

胡坐をかいて、持ってきていたバインダーをぺらぺらとめくる。そしてあるページで手を止めた。

「南雲くんのことを調査したことはカウンセラールームで伝えたよね。その時に南雲くんの仕事量に最初に目が行ったよ。普通の職員の3倍、いや、5倍は働いていたんだからね。常に異常の傍にいると言っても過言じゃない。」
「……ばれないように残業はしていたつもりなのですが。」
「お生憎様。恨むなら優秀な調査員くんにしてほしいね。」

コミカルに肩をすくめ、口をとがらせる。バインダーをリズムよく指でとんとんと突きながら天羽は話を進める。

「わざわざここまで詰め込む理由を考えていた僕は1つの仮説にたどり着いた。南雲くんは自分の中のリアルを守るためにこんなことをしているんじゃないかと。」
「リアルを守る?」
「異常を管理することで自分は正常な存在であると、こちら側だという意識を強く持ちたかったんじゃないかと思ったんだ。」

そう言われた瞬間、南雲は自身の体を包んでいる鬱蒼とした気持ちの殻にひびが入る音を聞いたような気がした。天羽の言っていることが私が堅牢の中に隠していた本音にやすやすと入り込んできたからだ。

「この説を後押ししたのは南雲くんの症状だ。周りが異常に見える。異常に見える自分は正常である。自分で思っていたかは分からないし、深層心理から来ているかもしれないけど、そんな理由かなと考えたんだ。」
「……多分、あってるんだと思います。実際、仕事を詰め込んだのは天羽さんの言っている通りですから。」
「良かった。自信満々で言っちゃったから、違ったら恥をかいちゃうなって思ってたからね。」

へらへらと笑って天羽は空気を明るくする。太陽も半分ほど顔を見せ始め、海が群青の姿を纏い始める。その風景を見て凪いできた脳内から丁寧に言葉をすくい上げる。

「しかし、それとこの景色が何か関係が?」
「うん。南雲くんは正常に関してこだわりが強い。そして、周りの人が異常に見えるような、そんな症状に悩まされている。だからこそ、正しい世界の理を見せたかったんだ。」
「それがこの風景に含まれているんですか。」
「そうさ。太陽が空に浮かんでくること。海が波をうち砂を巻き上げていくこと。シーグラスが光に照らされて綺麗に光ること。全てが当たり前で、普通の人は疑問に思わない程の普通で、正常なんだ。」

だから、と言って天羽は南雲の右手を、たんぽぽの綿毛を運ぶように優しく包み込んだ。

「そんなに世界を怖がらないで大丈夫だよ。大丈夫。」

南雲は自分の頬をくすぐったい熱を持った涙が伝っていることに気づき、手の甲で拭おうとしたが南雲より早く涙の方がシートに音を立てて落ちた。それ以降、涙が追いかけて出てくることはなかったが、心がこんなにも温かいのに、涙が出てきた経験はこれが初めてのことだった。

初めてのカウンセリングが終わってから数週間後。南雲は廊下を駆け足で移動していた。

「やばい……寝坊した!」

南雲は、せっかくかけていたアラーム3連発の攻撃を見事にすり抜けて、カウンセリングの予定時刻に間に合うか否かの瀬戸際にいた。

結論から言えば、南雲の症状はすぐには治らなかった。やはり深層心理の感情は強情みたいで、1日で幻覚症状の完治!という風に上手くはいかなかった。だから、現在進行形で南雲はカウンセリングの予約を取って、診断を受けている。とは言っても、最初のカウンセリングの時から比べれば大きな進歩をしていた。幻覚が見えてもすぐに倒れることはなく、早めに幻覚を打ち払うことが少しできるようになったし、仕事の量も減らしたから心労もなくなっている。まあ、そのせいで良質な睡眠をとってしまい今遅刻をしているのだが。

「すっ、すみません!アウト、ですか?!」

カウンセリングルームの扉を乱暴に開いて叫ぶ。その時、かちゃ、と硬く軽いものが重なり合うような音が聞こえた。脳裏に一瞬、初めてカウンセリングルームに来た時の天羽の姿を映し出してしまった。しかし、今の南雲はもうそんな幻覚の走馬灯に悩まされることはない。惑わされることはない。「そんなに世界を怖がらないで良い」胸の内で小さく唱えて改めて前を向いた。

中では天羽が紅茶を淹れるために茶こしを用意していた。成程、先ほどの音は紅茶のカップがソーサーに置かれて生まれた音だったようだ。天羽は南雲に向かって片手でOKサインを出した。

「セーフ。残り時間2分だったけど。」
「よかった……最近、天羽さんのおかげで、よく眠れるんですよね。」
「それは良かった。でも廊下を走るのはよろしくない行為だよ。」
「走ったかどうかは、分からないじゃ、ないですか。」
「そんなに息が切れてるのに、歩いたここまで来たと言い張るのかな?」
「あーっと……そうだ天羽さん、これを見てくださいよ。」

強引に話を切り替えて南雲は白衣のポケットからあるものを取り出した。透明なプラスチックコップにこれまた透明なオイルが注ぎ固められ、中に色とりどりなシーグラスが浮かんでいる。その中心にはタコ糸がしゃんと立っている。天羽は紅茶の準備の手を止めて南雲の持っているものをまじまじと見つめた。

「これは何かな、南雲くん。」
「キャンドルですよ。最初のカウンセリングの時のシーグラスを見つけたので、レシピを調べて作ったんです。」
「ほお、手作り。やあ、なかなか上手い。気泡も少ないし、まるで、海の中に沈んでいるところをくりぬいてきたようだね。」
「でしょう!だから今日はこのキャンドルの灯りを見ながら、カウンセリングをしませんか。」
「ふむ、随分ロマンチックな申し出だね?」

しかし、乗った。と天羽は言いながら紅茶を注ぎ始めた。茶こしに黒色の茶葉が溜まり、下のカップに琥珀のようなきれいな紅茶が溜まっていく。

「よし、紅茶の準備はできたよ。」
「こっちも灯りを付けました。じゃあ部屋の電気を暗くしますよ。」

ピッという電子音と共に部屋が暗くなり、机の上だけが明るく橙色に照らされる。そう言えば、ロウソクの火も癒される1/fのゆらぎってやつなんだっけ。南雲はそんなことを思い出しながら机の横にあるソファに座った。

ゆらゆらと揺れるその炎の色は、あの日の朝焼けとよく似ていた。

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