隔壁は未だ健在なりや
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非日常に憧れていた。日常など、ただ退屈なだけで何の魅力も持ち合わせていなかった。朝、目が覚めて学校に行くという当然すぎることが嫌で嫌でしょうがなかったし、夜、布団に入って朝が来るまで眠るだけの生活がつまらなかったし、友達とダラダラと話してなんとなく楽しいと感じる瞬間を自覚した時、ふと無力感や脱力感に近い、気の抜けた感じがするのだ。

今日も学校に登校し、ホームルームが始まるまで待ち続ける。同級生や友達はまばらに雑談をしており、今日も昨日も似たような話をしている気がした。昨日の本で読んだ話について、昨日のテレビについて。どれもこれも似たり寄ったり。つまらない。

担任が教室に入る。予鈴と共に、教室は静まり返り、ホームルームが始まった。
「えー、今日は月曜日ですね。一週間頑張っていきましょう。じゃ、出席を取ります。」

出席番号順に名前が呼ばれていく。自分の番号は後ろの方だから、呼ばれるまでには時間がある。今日の時間割はなんだったかなと考えながら窓の外を眺めていた。夏の陽気が校庭を燦々と照らしている。



皆さん、こんばんは。そして初めまして。私たちは財団と呼ばれています。古くより、あなた方を守り続けた組織です。

世界中に中継された世界一有名なスピーチ。画質の悪いテレビや、雑音が混じりつつも音を垂れ流すラジオを食い入るように聞き、次に放たれる一言を待った。
彼らはこう言った。私たちは世界を秘密裏に守り続けていたと。異常な物体から人類を匿い、“正常な日々”を作り続けていたのだと。そして、秘密のままでいるには大きすぎる失敗をしたのだと。SFの類だとしたら陳腐すぎてつまらない存在が、画面を通して、音を通して、実在を主張してくる。あれだけ見飽きるほどに読んだ陰謀論のバックに存在するような超巨大組織が、今、こうして私に語りかけている。それは興奮とも恐怖ともつかない感情だった。刺激に満ちた非日常を奴らは奪っていたのだ!目の前に重力を無視して動き回れるような箒があったらどんなに楽しいか!奴らはそういうものを独占していたに違いない。しかし、そんな素晴らしいものを独占できるような力を持った存在がいる事実は、ゾッとする。いろんな感情が渦巻いていた。これからの世界への期待があれば、空飛ぶ箒にうまく乗りこなすことが出来なければどうしようと不安でもあった。取り敢えず確実に言えることは、明日の学校が楽しみだってことだけだ。




翌朝、当然のごとく話題は昨夜のスピーチ、そして財団で持ちきりだった。ある者は財団が“収容”しているというモノに対して想いを馳せ、ある者は財団が犯した失敗について声高らかに喧伝し、またある者は全く興味がない様子で相槌を打ちながら欠伸をしていた。
ホームルームが始まり、先生の話が始まる。徐々に空気がヒートアップすることを感じる。先生は、いや、学校はこの世紀の大事件に対してどう反応するだろうか。一言目に、多くの人が期待をしていた。

「昨日は皆さん眠れましたか?全員知ってると思いますが、昨日、世界的なスピーチがありましたね。柄にもなく少しワクワクしてしまいました。じゃ、出席とりますよ。」

失望。なんてつまらない話だろう。昨日のスピーチに比べると退屈の二文字が相応しい。学校側は、例え秘密組織が明るみに出たとしても全く変わらないらしい。日常はやはり嫌になるほどに日常で、変わる様子を全くもって見せない。ああ、つまらない。

担任が出席番号順に生徒の名前を呼ぶ。自分の名前が呼ばれるまで時間はある。結局、昨日までと何も変わらずに窓の外を眺めながら自分の番が来るのを待っていた。夏の陽気が校庭を燦々と照らしている。

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