サイト-333へようこそ: アトランティックシティ


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この話を聞いてるんなら、お前らはヘマしやがったってことだ — それもこっ酷く。

サイト-333に異動になる奴はいない。研究プロジェクトに取り組んだり、研修セミナーを完了したり、その道の専門家の意見を仰ぐために来る奴もいない。

違う、人はサイト-333に流れ着くんだ。お前らは一度だけマジでどデカいやらかしをして、それがどんなもんかを自分でもよく理解してるから、上の奴らからここに — 目に付かない、忘れてしまえる場所に — 送り込まれたか、さもなきゃキャリア丸ごとやらかしの連続だったかだ。もし後者なら、きっとここには我が家かと思うくらい馴染めるぜ。

状況を説明しよう。

サイト-43の連中は“ありきたりの手法を覆す”。サイト-333ではお前が何をしても誰も気にしない。

サイト-120の奴らは“火を以て火と戦う”。サイト-333は1962年から火災予防検査に合格してない。

スロースピットでは物語に生命が宿る。アトランティックシティでは夢が死ぬ。


昔からこうだったのかって?

短い答えは“イエスでありノー”。長い答えは“それは重要なのか?”




確保施設ファイル:

サイト-333 — USNJAC

Nx-36 — “アトランティックシティ” — Briar


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サイト-333 [中央左] — セルフガイド灯台ツアーのチケットが購入可能。


概要情報

サイト機能: サイト-333は当初、1952年から1953年にかけてニュージャージー州アトランティックシティで発生した“携挙”の報告を調査する目的で設立されました。噂は立証されたものの、この事件が地元市民に及ぼした影響はごく限られており、ヴェールへの脅威にはならないと判断されました。アトランティックシティでは以後、低レベルの異常現象が続いているため、ネクサス-36に指定されました。

発足以来、サイト-333は縮小を繰り返しており、幾度となく解体が提言されました。これらの解体要請は、現在までのところ、サイト-333の職員を近隣施設へ異動させることに難色を示すO4評議会の代表者たちによって却下されています。

このため、サイト-333は引き続き、低リスク・低脅威の異常現象や擬似異常現象の汎用的かつ低コストな収容施設として運営されています。

また、サイト-333にはジャージーデビル専門の博物館があり、ネクサスを一望できる灯台が観光スポットとして併設されています。これらの施設からの観光収入は、サイト-333の年間予算の大半を占めています。


ネクサス-36: 1952年から1953年にかけて、アトランティックシティでは、視覚・聴覚現象を伴なって人間が突然消失するという終末論的事象が立て続けに発生しました (詳細は“歴史抜粋: ニュージャージーの携挙”を参照) 。目撃者の証言によると、消失したのは快活、友好的、寛大、親切といった特徴を持つ高潔な市民ばかりでした。合計23名のアトランティックシティ市民がこの自然消滅を経験しました。

1953年以降、アトランティックシティのアキヴァ放射線量はほぼ0まで低下し、“不幸な”出来事の頻度と規模は (以前から基準値より高かったものの) 著しく上昇し、市境内に48~72時間留まった人物は落胆、絶望、他者への不信、人間の条件に対する全般的無関心の顕著な増大を感じると報告しています。

特筆すべきことに、アトランティックシティのカジノにいる人間は、その施設から出るまで前述の感情的影響を受けません — カジノを出た時点で、この現象は突然、桁違いに強く作用します。これが異常現象なのか、平凡な反応なのかは、サイト-333の研究者の間でも意見が分かれています。

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Nx-36 — アトランティックシティ。


覚書: サイト-333の労働安全衛生について



念のため記す: SCP財団は秘密裏に活動する国際組織であるため、財団職員の国籍や勤務地に関係なく、如何なる地政学的国家の管轄下にもない。

従って、アメリカ合衆国労働省の労働安全衛生局 (OSHA) が定めるガイドラインや規制を順守する法的義務もない。

また、最近の予算の再配分によって、サイト-333職員はゴールドベイカー=ラインツ社の保険パッケージに含まれる職場関連の怪我、病気、障害、死亡事故に対する補償を受けられなくなった。

向こうの経理屋どもは“マズい考え”だと宣ったが、サイト-333では個人の責任と自由を信じているので、諸君に代わってこの決断を下した。

危険と思われる事項、 安全性に欠ける労働条件、最近の運営方針の変更に対する不満などの報告に対応するため、新しい制度を導入している。今後の苦情は匿名投書箱を通じて提出すること。

機密保持のため、この投書箱は俺のオフィスのデスクに設置する。

サイト-333を安全・健全に維持するのは諸君の責任であることを忘れないように。

ヴィンセント・ボハート
サイト-333管理官


歴史抜粋

背景 — アトランティックシティ: 1854年にニュージャージー州沿岸に設立されたアトランティックシティは、アメリカ合衆国東海岸の有名なリゾート都市としての地位を確立しています。板張り遊歩道、見本市会場、カジノに加えて、アトランティックシティはミス・アメリカ美人コンテストの開催地、ボードゲーム“モノポリー”のアメリカ版の発祥地としても注目されています — 後者2つはNx-36の異常効果との関連性が疑われるため、暫定的にアノマリー指定されており、研究予算が承認待ちです。

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シカゴ・スピリットによるアトランティックシティ内での鉄道密輸作戦の記録 — 脱線事故。

禁酒法時代、アトランティックシティは違法な酒類・賭博市場を資本源とする超常犯罪シンジケート、シカゴ・スピリットの支配下に置かれていました。しかし、1935年までに、スピリットは客層の全般的な不愉快さ、度重なる誤配や遅延、無気力な従業員、そして十分な利益を上げられないことへの不満による業務疲弊を理由として、アトランティックシティでの活動からほぼ手を引いていました。

スピリットの撤退後、1930年代半ばから1950年まで、散発的な犯罪の増加、貧困の蔓延、独立行政機関の腐敗が続きました。異常な人脈を持つ事業者たちは、保護やより一般的な事業のためにスピリットとの契約を再交渉しようと試みましたが、多くの要求には回答がなく、認識されることもありませんでした。


ニュージャージーの携挙: 1952年8月24日、遊歩道で買い物をしていたエメラ・マーフィーは、実体の無いトランペットのファンファーレと共に消失しました。

この事件は現地の新聞で一時取り上げられましたが、一般に広く知られることはありませんでした。エメラ・マーフィーは専ら孤立した生活を送っており、自宅の敷地を渡り鳥や昆虫の保護区域に転用したため、近隣住民からは概ね不評を買っていました。

その後6ヶ月間に合計23人の失踪が確認され、その全員が地域社会、生態系、もしくは文化に貢献する仕事を的確に遂行していました。エメラと同様、彼らの失踪はほとんど認知されませんでした。

例外は、1952年11月23日、混雑した聖マリア恩寵教会の内部で起きたマイケル・インスウォーターの消失です。マイケルは献金を募っている最中に消失したため、集められた献金は教会の床に散乱しました。最初の驚愕と、“タダの”金銭を集めようとする出席者たちの掴み合いに続いて、特定の人物らが何故“神様に”選ばれなかったかを巡る神学的な論争が起こりました。やがてこの論争は乱闘に発展しました。乱闘者たちが拘留されたのをきっかけに警察の捜査が始まり、牧師の常習的な資金横領が発覚しましたが、地元の刑事司法制度の腐敗によって後日不起訴処分となりました。

1953年初頭までに、この異常事象は収束しました。財団の対応チームは数ヶ月遅れで到着したものの、アトランティックシティに残留し、その後の状況の推移を監視することを決定しました。


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サイト-333の旧所在地、1975年頃。

サイト-333: 財団職員がアトランティックシティに常設サイトの設置を決定した後 — 頻繁な列車の遅延と運休が一因となった — 担当職員はサイト-333の設立要請書を提出しました。この要請書は誤った形式でまとめられ、あたかも現地の官僚施設が短期間使用できなくなった場合に備えて、財団職員のための一時的な緊急オフィス空間を申請したかのように処理されました。その結果、廃業した遊園地の事務所跡にある桟橋沿いの小部屋が幾つか借り上げられました。

サイト333の職員は数年間この場所に留まりましたが、財団の管理部門が誤りに気付くことはありませんでした。この間、不快臭の発生、洗面所の頻繁な溢水、電気配線の不整合による停電や火災警報システムの誤作動など、数々の懸念や苦情が提出されました。郵便局の不手際で、これらの苦情の大半が適切な宛先に届きませんでした。

サイト職員が火災警報システムを無効にした結果、建造物のアスベスト断熱材が — 異常物質の収容体制が不適切であったため — 発火するという軽微な事件も発生しました。サイト-333職員は避難時に軽傷を負いましたが、その主な原因は、不正確な非常口案内表示によって、火災避難設備が既に撤去されていた屋外の吊り下げ式バルコニーに誘導されたためでした。

火災後、サイト-333職員は“ラッキー・スター食堂”へと移動し、そこを臨時の仮設オフィス空間として使用し始めました。サイト-333は12年間ここで業務を行い、その後、建造物は海浜ミニゴルフ場の施設予定地として買収されました。ゴルフ場の建設工事は現在も続いています。

現在のサイト-333は管理、研究、収容をそれぞれ担当する小規模チームの駐在施設として順調に機能しています。サイトの運営方針に問題が無いとは言い難い反面、地元住民の評価からは、彼らがこの施設や従業員の私生活に総じて無関心であることが伺えます。現在、サイト-333にはニュージャージー州由来の未確認生物“ジャージーデビル”をテーマとする博物館が設けられており、また併設された灯台からの眺望を観光客向けに提供しています。

2019年、サイト-333管理官のヴィンセント・ボハートは、財団サイト-666のハウス管理官に連絡を取り、両施設が“姉妹サイト”としての関係を強化すべきだと要請しました。ハウス管理官からは返答が無かったため、同意が得られたと解釈されました。サイト-333では小規模な式典が開かれ、サイト-666の招待客は出席しませんでした。


特筆すべき職員 — Q&A:

トニー・カタラーノ: サイト-333部門長 — 経理・観光

Q: あなた自身について少し教えていただけますか?

トニー・カタラーノ — A: おう。あー、俺はトニーだ。サイト-333に勤め始めて… かれこれ34年? えーっと、ほとんどの時間を経理に費やしてきた。今は経理と観光をやってる。

誤解のないように言っておくが、この2つは別個の部門じゃないぞ。“経理・観光部門”に改称した。面白い話でな。前任のサイト管理官が引退した時… ありゃ2003年だったか? とにかく、ヴィンセントはそいつの年金をサイトの予算に充てたんだ。あの時は大助かりだったよ! 新調したエアコンには、あの元管理官の爺さんと同じ名前を付けたっけ。本人がくたばった後にエアコンもすぐ後追いしたのは残念だ。その後、財団に裏工作がバレちまったんで、俺たちは新しい資金調達の手段をひねり出さないといけなくなってな。灯台がすぐそこにあったから、ヴィンセントは“登りたい奴らからカネを取ったらどうだ”って思いついた。だから監視機器とかアキヴァモニターとか広域記憶処理薬散布システムなんかを取っ払って、非常用バックアップランプを無効にして、遠くを眺めたい連中から入場料を取るようにしたのさ。成果は上々、ウチでは何年も黒字が続いてる。

いやまぁ、少なくとも赤字が膨らみすぎることはない。

それでもまだ結構な赤字だけどよ。


レオノーラ・モラレス: サイト-333 (異常)野生動物スペシャリスト

Q: どのような研究に取り組んでいらっしゃるのですか?

レオノーラ・モラレス — A: 地元の鳥、主にカモメに関する研究助成を受けようと努力してます。朝方、海岸を歩いていると、いつもゴミが散乱しているんですが、私はそのうち何となく違和感を覚えるようになりました。

カモメの群れがタバコの吸殻に囲まれて突っ立ってるんですよ。いえ、つまり、山ほどの吸殻です。あのカモメたちはそれぞれ1日に1箱は吸ってるはずです。安いものじゃないから、何処からか調達してるんでしょう。ビデオカメラを設置して鳥に目を光らせておきたいんですが、どうもウチのカメラはスーパー8mmフィルムを使ってるらしくて、しかもフィルムの在庫は去年7月の洪水で全部ダメになっちゃったんですよね。

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タバコの吸殻を咥えるアトランティックシティのカモメ、喫煙後と推定される。


ノア・パテル: 未確認動物学者 兼 博物館学芸員

Q: サイト-333で働き始めたきっかけは何だったのでしょうか?

ノア・パテル — A: 実のところ、私はここサウス・ジャージーで生まれた。アトランティックシティ暮らしが染みついていると言ってもいい。いや、今思えばそもそも州を出た覚えがない。大して出る理由も無かった。ここにはジャージーデビルがいる、捕まえたければ近くに張り込んでいるしかない。

私の専門知識は博物館で大いに役立った。ほとんどの工芸品は私個人が集めたものなんだ、展示する場があるのはとてもありがたい。観光客の相手をするのも普段は苦にならない。ただねぇ、たまに“迷信”を論破したがる小生意気な奴らが来るんだよ。そういう時は言い返したいのをぐっと堪えるのが大変なんだ。ゴートマンや、ネッシーや、チュパカブラや、ドアーチュや、南極ニンゲンや、スクォンクや… とにかく、そういう諸々の未確認生物が本当に存在するのをバラしちゃマズいからね。

ジャージーデビルも実在するんだ。私には分かる。

よくよく考えると、一度だけ離れかけた時があった。私が手掛けてきたデビルについてのアーカイブ研究を見て、ペイジ・ハーパーがチームに誘ってくれたんだよ。彼女は吸血鬼のフィクトクリティカルな研究をしていた。実はここにもちょっとの間来てくれてね、本当にクールな人で、結構仲良くなったよ。彼女はその研究で財団内の権威ある賞を受賞したそうだ。

授賞式の様子も上映された。みんなとても幸せそうで、誇らしげだったなぁ。私もその道を歩んでいるんだよ、ジャージーデビルの謎を解明する必要があるだけだ。


関連アノマリー & 現地報告


提案:

  • SCP-8666: ジャージーデビル — 分類の根拠が不足
  • SCP-8271: 喫煙するカモメ — 分類の根拠が不足

注記: 提案されたアノマリーが最後に審査されたのは 2018年 3月 12日 です。

検証済:

注記: その他のアイテムはAnomalousアイテム記録と超常現象記録に再分類されました。

事案報告書 & 私的な苦情申立書:

人事部門、倫理委員会、国際労働機関には送るなよ!


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アトランティックシティの眺望。浜辺で鉤虫が異常発生したため、バレーボール大会は中止になった。





ざっとこんなもんかな。サイト-333へようこそ。ここでの仕事の流れはすぐ掴めるはずだ。まぁ多分、ウチに押し付けられたお前らのほとんどにとっては大した変化も無いだろう。まず最初に伝えておくが、オフィスに何か問題があっても、俺はそれについて聞きたくない。ちっぼけな黒カビが生えてる程度で人は死にゃしない。

さぁ、楽しい話題に移るか。ちょっとした“アトランティックシティへようこそ”土産を用意したんで、帰り際に受け取ってくれ — そう悪い事ばかりじゃない! 俺たちの奢りでミニゴルフが1回無料になるし、シーザーズのビュッフェ利用券もあるし、ソルトウォーター・タフィーの小袋まで入ってるぞ。

賞味期限は気にするな。どうせただの砂糖だ。

最後にもう一言。俗に“良い物は3つ続けて来る”と言うから、お前らには4つ目を伝えておく。


幸運の女神がサイト-666に目を止める時、胴元は常に勝つ。サイト-333が女神の目を引く時、お前らは必ず負ける。

以上、サイト-333管理官、ヴィンセント・ボハートから贈る言葉だ。



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