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SCP財団保安施設ファイル
呪術研究・収容サイト-81ET
正式名称: SCP財団日本支部 兵庫神音 呪術研究・収容施設
サイト識別コード: JPHGGM-Site-81ET
概要情報
サイト-81ET
サイト機能: サイト-81ETは“呪い”という広義のカテゴリに属するアノマリーの収容・研究・分析に特化した中規模保安施設です。Asphodel級のネクサス-74における超常的事象は当施設において調査されています。
設立: 1954年4月1日
設立管理官: 黒田Kuroda 寿江Hisae
現サイト管理官: 利河Rigawa 文Fumi
場所: 日本国兵庫県神音Gamine町(Nx-74)
カバーストーリー: 神音町立中央図書館
サイズ: 5,800 m2 (地下・サイト部)
サイト概要
サイト-81ETは呪詛事象に関する研究と、それに対するやや特殊な収容アプローチで知られる風変わりな財団サイトです。サイトの規模は近畿地方の中でさえ大きくありませんが、施設の研究の重要性と独創性はいずれも着目に値するものです。
サイト-81ETには大掛かりな機械装置やパラテック兵器の類、高度な人工知能は存在せず、もっぱら職員らは“足で稼ぐ”ことによって業務を遂行します。必然的に当サイトは都市を越えて大規模な影響を引き起こす異常存在については担当外です。サイト-81ETが目録化しているものは、身の毛がよだつような経歴を持つ小さな物品、何が起こっているのかさえ不明瞭な奇妙な現象、怪奇的な事件の数々など……閉鎖的で不確かなものです。
前述したとおり、サイト-81ETはそれほど大規模な施設ではありませんが、この分野にかけては最先端を歩み続けています。即ち、呪術学です。口語的に呪い、呪物、禁忌、怨念、忌み地、曰く付きと呼ばれている、すべての呪詛事象がサイト-81ETで専門的に研究されている呪術学の対象です。

計堂 進 呪術学博士: 異常分類学ジャーナルへの投稿
迷信と直感が貴方を生かす
呪詛、いわゆる“呪い”とは直感的には理解しやすいものです。一般的には超自然的な手段によって相手に不幸をもたらすことであり……より拡張科学的に説明すれば、“悪意”や“恨み”といった負の情動を儀式によって具象化・現実化することです。適切に望みさえすれば、それは紛れもなく所与の現実となります。一見平易で簡潔な説明に映りますが、これは過剰な程に呪術がアルゴリズム的な技術であるという誤解と共に流布されがちなのです。全くもって悲惨な誤解であることをここではっきりさせておきます。
例えば、貴方が認識災害アノマリーの収容プロトコルを確立を試みたとしましょう。直接内容を閲覧した人間を脳死させる絵画……貴方の上司が送ってくれた報告書下書きにはシンプルな情報が記載されています。オブジェクトクラスは現在のところPending(保留中)ですが、貴方はおそらくSafeだろうと早々に目星をつけ始めます。
続いて貴方は実験を行うことを思案するものの、わざわざDクラス職員を何人も浪費するのは愚かなことだとすぐに考え直します。なぜでしょう? そうです、認識災害部門の共有ページにアクセスすれば済む話だからです。ページを開くと、そこには約50年分の認識災害ベクターに関するデータが事細かに集約されていることが分かります。あらゆる有力な情報が手に入るでしょう。危険な認識災害に暴露した人間の脳内でどんな化学反応が起こるかさえ、タイプ別に分類されているのですから。
貴方は封がなされたままの絵画を、大半のサイトに備え付けられている情報異常スキャンにかけます。認識災害をスクーリングされた画像を取得すると、特に変哲のない浜辺の風景画であることが分かり、スキャンによると異常な芸術的テーマや心理状態の反映は特に含まれていませんでした。
貴方は絵画を布で包み箱に入れ倉庫に保管することを提案します。芸術品のためたまには手入れを必要とするでしょうが、スキャンの結果はタイプA──ホモ・サピエンスのみに効果を発揮する認識災害──であったため、機能的ロボットに保管を任せばよいでしょう。
結果として、絵画は倉庫の一角にSafeアノマリーとして何十年も収容され続けています。1000文字にも満たない報告書には収容違反記録どころか、実験もインタビューもありません。研究者にとってはもう分類されつくしデータも十分に取られた陳腐な異常存在です。これ以上何を書く必要があるのでしょうか?
認識災害部門に限らず、この組織では無数の研究者たちが自らのペンと血でデータを書き記してきました。なぜ、未調査の段階でSafeだと目星を付けたのでしょう? 研究者が探究の末にそう分類してきたからです。なぜ、情報異常スキャンが存在するのでしょう? 技術者が装置を組み上げ改良に成功したからです。なぜ、認識災害のタイプが分かったのでしょう? 数多の犠牲によってデータが集められたからです。知識は経験と観察の積み重ねの上に成り立ち、我々は巨人の肩の上に座っています。
お分かり頂けましたか? では、一旦忘れましょう。呪詛は全くこんなものではありません。
ミームと情報災害は自己同一性をブレインウォッシュし、記号災害と官僚災害は世界のルールを書き換えます。これらの法則を1つ厳密に説明するならば難解な方程式と膨大な専門用語を伴いながらも、確かに法則を説明できるのです。先程例として述べたように、認識災害などは脳内で起こる数々の反応が編纂され、基礎的な資料にさえなっています。
呪詛は法則を説明できません。より詳細に言えば一貫した法則を説明できません。疑問は理解できます。ならば、呪詛とはどのように定義されるのか? 我々は呪詛に対してどう対処すれば良いのか?
1. 呪詛事象には原則がある。
2. 呪詛事象には原則の解がある。
やや漠然としていますね。これは認識災害や数学のような公理ではなく、よりソフトな社会科学的な公理です。法則ではなく、原則と述べたことを覚えてください。法則は同一カテゴリに属する複数のアノマリーに跨る共通の特徴です。しかし、原則は単一の呪詛のみが帯びる固有の特徴です。呪詛は法則に従いません、原則に従うのです。
呪詛に対応するということは、多種多様な毒虫の群体と戦うのと同じです。全ての虫が異なる意識を持ち、幾ら潰そうが薙ぎ払おうがまた違う毒を持った個体が忍び寄ることでしょう。
呪詛は制御を拒否します。呪詛は分類を拒否します。呪詛はあらゆる客観的説明を拒否します。
常に科学的であろうとする我々に一体何が出来るのでしょうか? もう1つの問いに答えましょう。
解を解き明かすのです。話の最初に述べましたね。呪詛とは直感的には理解しやすいものです。これは学問の放棄でも、知性の破綻でもありません。
我々が相対するのは原始社会の如き、血と土と儀式が支配する世界です。啓蒙は脆く崩れ去り、定義不能の不条理が嘲笑を返します。しかし、それは決して理性の不在を意味しません。
呪術師マジシャン、祭司プリースト、神秘家ミスティック、霊能者ソーサラー。古代のシャーマニストたちは自分なりの知識と伝統、そして直感を手繰り寄せ、カオスというぬかるみに光を指し示しました。彼らの中には洞察と、最も古い純粋な理性の輝きがあったのです。我々は正常性と異常性が発明される以前の、どろどろした混沌の世界から学ぶべきなのです。
呪詛の原則を理解するのです。謎が解けた時、それは不条理ではなく1つの筋が通った物事へと変わることでしょう。
最後には貴方が信ずる迷信と直感が生死を分かちます。
呪詛事象の性質上、サイト内の研究員の間では呪詛に対する意見及び学説の緩い対立が存在しています。その最たる派閥が積理学派と儀礼学派です。

積理学派の手引き: 複雑な闇には、簡潔な光を
[R3年度第1回 学派内リモート勉強会 ログ抜粋]
皆さん接続直りました? ログも大丈夫そうですね。では気を取り直して次のスライドに行きます。
ここ十年余、財団は変わりました。戦術神学の発展、異常生物学の応用、現実改変理論の実証 これら超常科学の進歩がイノベーションと効率化を起こしたためです。つまり、異常に対する理性的な対峙が、収容業務に新たなアプローチをもたらしたのです。
そして我々の仕事は、呪術学にこの潮流を引き込むこと 、つまり呪詛という不条理に理性で向き合うこと。呪詛を概念化・個々の原則を解析すれば、これまで “疑似科学” 的な対応に留まっ……
[ノイズ音による乱れ。]
……統に異を唱える我々を、先達への敬意なき不遜な若輩者ニュービーと罵る声もあるでしょう。しかし伝統はアプリオリではない。我々は積み上げられた学知の上に立ち、伝統を俯瞰・比較し、過度に煩雑な手順を徹底的に合理化します。
具体例としてヒトのミイラ化死体、SCP-████用抗呪収容房を見てみましょう。従来は呪場中和のため複雑な[編集済]と記憶処理剤が必要でしたが、毎晩360mgのモダニフィルを投与するだけで安全な……
[ノイズ音による乱れ。不明な嗚咽音の混入。音量が徐々に上がり、自動ログシステムが停止する。]

儀礼学派の手引き: 火を守り、灰から火種を見つける
[R3年度 学派オリエンテーション 抜粋]
ようこそ、儀礼学派へ。
部屋の香が気に入らなければ、窓を開けてくれてもいいよ。ただし、外に何が見えても見つめ返さないでくれ。話に集中してくれるならば問題ない。
私たちへの誤解については内外で散々聞いてきたと思う。「極度に閉鎖的」とか「進歩の足かせ」だとか「近代以降の科学を否定している」とかね。
まあ少しばかり頭が固い人もいるかもね……でも、間違いだ。私たちは未来を脅威だとは思ってはいない、少しばかり過去から学んでいることが多いだけさ。
私たちは祖先と先人が世界にどう向き合ってきたかを知り、経験よりも歴史に学ぶ。儀式とタブーは死にゆく疑似科学ではない。生ける技術であり、最古の収容プロトコルだ。未来を見通すためにこそ、現在という名の地平に立ち過去を見直す必要が生じる。伝説はここではノンフィクションだ。
儀式には意味があり、タブーには理由がある。だからこそ、私たちは古語、篝火、祈り、祭殿、供物、酒、服装、敬意によってそれを実践している。儀礼学派は不条理を歴史によって制御する。
導入はこの辺で終わり! これから学派の成果を見せてあげるよ。……外のものを見つめ返したらどうなるかって? ご先祖曰く口外しないことが最善だ。
学派の対立は政治的なものではなく、学術的なスタンスに関してのものです。むしろ、意見の相違こそが不明瞭な点が多い呪術学を補完し合う仲であると考える職員も多く、境界を越えての議論は好意的に受け止められています。
サイト-81ETの職員の労働意欲と柔軟性は高いレベルを維持しており、これが殉職率及び収容違反率の低さに繋がっています。収容手順が順守されている限り安全なアノマリーが収容物の多数を占めているのもあり、サイトの安全性においても高い評価を受けています。しかしながら、Nx-74においては財団職員や民間人が奇怪な痕跡、あるいは一切の証拠を残さずに失踪することが報告されており、これが有数の高度リスクとなっています。失踪は毎年一定数起こっており多くの対象は民間人ですが、原因は依然として不明です。
サイト-81ETは1954年に、Nx-74で頻発していた呪詛事象の対策と研究を名目に、臨時サイト-57を改組する形で設立されました。戦中期に大日本帝国異常事例調査局(IJAMEA)と戌頭家によって運営されていた呪術学研究施設、神音研究所が当サイトの前身です。戦後これを接収して誕生した臨時サイト-57は、存続期間こそ短かったものの神音研究所のデータ整理、旧神音町1の呪詛事象の解析に大きく貢献しました。1954年の旧神音町と旧泉境村2の合併でNx-74の異常性が発覚し、ネクサス指定が行われました。これを受けて臨時サイト-57の機能が強化されるかたちで今日の呪術研究・収容サイト-81ETが生まれました。
設立後、サイト-81ETは機能向上や修復を目的として複数回の改築/増築が行われました。特に大きなものは阪神・淡路大震災による損傷を回復するために行なわれた1995年の改築です。災害はサイト-81ETのみならずNx-74に多大な爪痕を残しました。
現在のサイト-81ETは近代的な中規模施設、呪詛を専門とする稀有な超常機関、そして日本におけるネクサロジー研究の一角としての役割を担っています。また、近隣に位置するサイト-81KKとは外交・調整セクションを通じて収容や研究に関しての連携を行っています。
サイト設立直後から、戦後の新規研究員と旧蒐集院参入者の間でのグループが形成されており、現在の二大派閥の潮流が既に誕生していました。両派閥は人員の増減を繰り返しながらも、独自の学術的成長を続けています。
図書館休憩室
サイト-81ETの一部は民間には町立図書館として開放されています。閲覧と複写は無料かつ自由ですが、貸し出しは1人1度につき15冊です。蔵書は約75万8000冊であり、周辺自治体の中では秀でた数を誇っています。清潔で機能的な内部構造、厳密に整理された多数の資料、優秀な司書が来場者に対応します。
全ての図書館司書は、2級以上の財団情報保全資格を有したレベル1セキュリティクリアランス人員で構成されており、必要に応じて民間人から情報を収集します。これらの職員は微量の記憶処理剤とサイト-81ETオペレーターと即時の情報伝達を可能とする通信機器を携帯しています。
図書館内に存在する“STAFF ONLY”ドアの内2つと隠し通路1つがサイト-81ETのエントランスホールに通じています。通過には暗証番号もしくは合鍵が求められ、民間人が偶然侵入することはありません。
エントランスホール
メイン区画: 勤務職員の職員寮、談話室、医療室、食堂など生活と福利厚生のために使用される施設です。最も広大な区画であり、男女別の寮に職員1人につき1部屋が割り当てられています。職員のプライベートな部屋以外は定期的に清掃が行われており、ほとんど常に快適な状態が保たれています。
拠点区画: 収容立案やサイト運営を含む多目的な目的に使用される区画です。この区画には管理部門や倫理委員会のサイト支部事務所、上席職員らの重要事項協議に用いられる防音室、報告書アーカイブコンピューター等、サイトの重要機能が設置されています。
収容区画: アノマリーの研究・収容並びに呪詛事象の対抗儀式が執り行われる区画です。アノマリーの収容室が多数存在するため、入退室の際には厳重なチェックが必要です。対抗儀式室内は様々な神域や自然環境が疑似的に再現されており、保守管理は審査済みの人員によってのみ行われます。
サイト管理官: 利河 文 (Rigawa Fumi)
サイト副管理官: 伊方 玲香 (Iho Reika)
研究・収容副管理官: 津馬 京依 (Tsuba Kei)
福祉衛生責任者: 水樹 通 (Mizuki Tooru)
儀式調整委員長: 矢笠寺 幸一 (Yakasaji Koichi)
ネクサス連絡外交官: 上利内 慈陽 (Joorichi Nariharu)
倫理委員会支部長: 日奉 百合 (Isanagi Yuri)
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標語
“人を呪わば穴ふたつ”という言葉は、呪詛の不確定性の警句としてサイト-81ET設立時に施設の標語として採用されました。呪詛を解呪するという試みは、収容者自身が呪縛される危険と隣り合わせであり、常にその可能性を考慮して解呪に臨む必要性を意味しています。









