崩壊の遮光/再生の斜光_4


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妙なエレベーターだった。何の機械音もしないし、昇降機の中で感じる浮遊感もない。壁が上に流れているのを見なければ、自分が上昇しているのか下降しているのかもわからなかった。風が通り抜けていくような音が僅かに聞こえてくるが、それは自分の心拍音にさえ紛れてしまうほど微かなものだった。

「君はガニメデ・オメガ616条項に従い、保存の対象となった。我々の次の世代を率いる時まで」

私が疑問を口にする前に、奴が先に口を聞いた。

「君は今時点で消息が確認できている最高位のCRITICSメンバーだ。条項ではAEROの各主要要素から必要な人員を抽出し、模倣体の量産が確立されるまで確保され、収容され、そして保護される」

誰だ、そんなクソったれな約束をしやがったのは。

「BZHRでヒトという種を復旧させる事は出来ない。人類が力尽きる前に、代わって私たちが人類の為に戦う。だから、私たちには人類が必要だ。K級イベントは回避できないが、支配種から世界を取り戻す機会はまだある」

やめろ、私はそんな事は望んでいない。私はただ死ぬまで戦って、奴らに命をくれてやる前に1体でも多くのHESICをブッ殺す。それ以外の事に興味はない。

「私たちは人類に奉仕するように作られている。種としても、個体としても。だがこれは唯一の例外だ。分かって欲しい」

いや、違う。
人類の命運を背負うなんて、それが重いのか軽いのかなんてわかりやしない。

そんな事は肝心じゃない。

逝ってしまった仲間たちの顔が浮かぶ。
戦士として相応しくない死に方をした奴なんて誰も居ない。



ジョセフ・"ジョー"・オコーナー、合衆国連邦国防軍少尉。識別番号156509386、ラース・アル=アイン付近の財団施設"エリア126"にてHESICとの交戦中に戦死。最も危険な機関銃手の役割を負っていたが、彼が死ぬことなんて有り得ないと皆が思っていた。

マシュー"マット"ジョエル、合衆国連邦国防軍准尉。識別番号876662354、ヴォルタ州北トング地区にてHESICとの交戦中に戦死。撤退の最中に突然地面が口を開き、彼は引き摺り込まれながらも姿が見えなくなるまで怪物の口に向かって発砲し続けていた。アンジーとの2人目の子供が出来て3日後だった。

ナサニエル"ネイサン"ウィングフィールド、合衆国連邦国防軍少尉。識別番号874273993、ヴォルタ州北トング地区にてHESICとの交戦中に戦死。脱出直後にヘリがマットを食った怪物の触手に捉われた。墜落したヘリの機体から這い出し、弾が切れるまで応戦を続け、最後はマチェットでハルコスト共に引き裂かれるまで戦い続けたあの死に様を忘れる事はないだろう。

スタンリー"スタン"エプスタイン、合衆国連邦国防軍一等軍曹。識別番号156870955、コーカサス山脈北部の地下都市で悪魔崇拝者共との交戦中に戦死。孤立したチームを救助する時間稼ぎの為に私と共に降下、崩落した岩に下半身を潰され、"向こうで会おうぜ。”と告げて私に自分を置いていくよう促した。私は彼がその後も拳銃だけで戦い続け、最後は爆風の中に消えたのをライフルのスコープ越しに見ていた。

エレン"ネル"クアントリル、合衆国連邦国防軍一等軍曹、識別番号665997427、チームを狙撃で支援中にセネカ・ストリートでHESICに包囲され、私に自分を撃つよう頼んできた。ハルコスト共になって貴女を襲うのは御免だ、と。私は彼女を救えない事を悟った時、引き金を引いた時、彼女の白い肌が自分の血と漿液に覆われるのを見た時の3回、自分が何かを失ったのを実感した。



私もいつか同じようにして逝くのだろう、ずっとそう信じてきた。
死ぬ事が怖いんじゃない。その死が無駄になる事が私たちにとって一番の孤独だった。

そして、私は心の底から財団の奴らを憎んだ。私たちの大事な仲間の死を"孤独"に変えた奴らを。

人類の代わりに戦う存在がある。なら私たちは何のために戦ってきたのか。
私たちはこんな"人間擬き"を作り出す為の時間稼ぎに消耗されてきたのか。

私たちが受けた”戦場高度適応化動機付けプログラム”は、逸脱戦で遭遇する全ての"不条理"に対する交戦能力を維持する為に開発されたメソッドだった。だから、私たちは不条理の実在に対して怒りを覚える。今まではタイプ・グリーン、HOBOs、HESIC共だったが、今はその対象が財団そのものに取って代わっていた。

憎悪と怒りが意識を赤く染め上げていくのを感じながら、私は目の前の男、いや"レプリカント"の指示に従う事にした。

いつの日か、私たちの”収容プロトコル”を確立できなかった事を後悔させてやるために。


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