リヴァイズド・エントリー
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名前:大和・von・Bismarck(オオワ・フォン・ビスマルク) Doc.OvB

セキュリティクリアランスレベル:2

業務:宰相、悪態、愚痴、嫌がらせ、雑用、プロパガンダ、喫煙、第二次ゼーレヴェ作戦、認識災害・認識災害関連オブジェクト・対認識災害用処置の研究、考案。遺体処理係。

専門分野:素粒子物理学 哲学 臨床心理学

人物:大和少佐 総統代行 大隊指揮官博士は財団の雇用記録及び彼の経歴に関する一切の資料が故意に紛失されていますが彼の外観上年齢は30代前半の様に見えます。彼の所持品と主張からは彼が1840年10月1日のドイツ生まれであることを示していますが現在サイト-8181のどの職員もそれを信用していません。
彼の薄汚く小太りな外見、容姿、一挙手一投足は周囲の人間を不快にさせ、彼自身の言動もそれに比例し他人の不快を煽るものばかりです。彼はこれらを「そういう性格なんだ仕方がない。」と説明しこの時のインタビュアーに顎を折られました。
現在まで職員による不慮の終了事案の全てが成功しています。現在大和博士への殴打、刺突、放火、発砲、等が認められています。

 


 
初めて毒舌に嘗められた新米の研究員か、通りすがりの前原博士か、あるいは事故か収容違反か。大和博士の█████回目の終了事案が発生した。問題は死体を見下ろす新たな大和博士がどう見ても2人いたことである。
 


 

補遺01 ████/██/██
大和博士が二人に増殖。未知の異常性が発現した可能性を踏まえ、大和博士達に対して暫定的な隔離・監視措置が取られる。分離のプロセスを解明する試みが進行中。

補遺02 ████/██/██
再び大和博士の増殖事案が発生。日本支部理事会の決定により、大和博士をSCP-████-JPに指定。

補遺03 ████/██/██
SCP-████-JPの収容違反が発生。サイト-8181近辺の町に突如としてSCP-████-JPが██体出現。収容部隊によって回収されるまでにその全員が住民によって終了された。

補遺07 ████/██/██
世界各地でSCP-████-JPの出現が報告される。O5評議会とGOC最高司令部により非常事態宣言が発令された。

 


 
数千年を超える暗闇との闘いはものの数週間で暗闇の勝利が決定した。財団が何の異常もないものとして守ってきた青空に今は胡麻塩を振ったように黒い点が散らばっていた。黒い点は次第に大きくなり、細長くなり、先端が黄色く色づいて人の形をとる。黒服達は地面を穿つこともなく、雨粒のように弾け、雨粒よりも大きく赤を飛ばす。美術館のパンフレットの片隅のような光景を縫って一台の装甲車両がサイトに辿り着いた。

瀬名がさっきまで見てきたものは実に奇妙な災害だった。弾丸の如く降り注いだ黒服の雨は建物を破壊し、景観を血で汚し、町を行きかう人々を道連れにした。そして運よく激突を免れた者は皆息の残っている黒服を蹴飛ばし、踏みつけ、持ち物を叩きつけた。ミーム部門が急ごしらえで作った対抗ミームを摂取していなければ自分もその一人に加わっていただろう。

黒服―SCP-████-JPあるいは大和博士がなぜ増殖を始めたのかは未だに分からない。そもそも最初の増殖の時点で彼は隔離・監視され、何者も手を出せなかったはずなのだ。となればそれ以前に何らかのアノマリーに曝露したのだろうが、それを突き止める前にSCP-████-JPは手の付けられない数になっていた。後はもう世界が終わるところまで行くだけだろう。

運の悪いエージェントの座席が2人分空いた車両を降りる。瀬名は己の無事とサイトの駐車場が地下に存在することに感謝し、せめて世界が埋め尽くされるまでは頑丈な屋根の下で過ごせることを祈った。

エントランスゲートではくすんだ金色の三つ編みを垂らした手荷物検査員が、見飽きたニヤニヤ笑いを浮かべて瀬名達を待ち受けていた。幸運はいつまでも続かない。
 


 

補遺██ ████/██/██
世界各地にて火山活動が活発化。溶岩に混じってSCP-████-JPが噴出されるのが確認される。

補遺██ ████/██/██
ブリテン諸島にて突如大量のSCP-████-JPが出現。核による殲滅が行われる。生存者なし。

補遺██ ████/██/██
中国、インド、ドイツ国籍を有する人間全員がSCP-████-JPに置換される。

補遺██ ████/██/██
月、火星、水星、金星、[編集済]にてSCP-████-JPの存在が確認される。

 


 
犀賀は普段と同じ席に掛け、琥珀色の液体に口を付けながら窓の外の光景―-90.0°を見つめていた。

既に自らに内包する質量に耐え切れず、世界は鍾乳石のように吊り下がっている。かろうじて他の世界とつながる糸を伝って、黒い人影が集っていく。外見に多少の差異はあれど、全員が黒い服を着て、全員が鈍い金色の髪であり、全員が30代ほどの年齢である。まだ-90.0°は死んではいないが、犀賀の目にはそれが死体にたかる蠅に映った。

平行世界の黒服達は引力のようなものに引き寄せられたのだろうが、そんなものはただのオマケだ。-90.0°では宙の果てから、地殻の裏から、まだ生き残った人々の中から彼が生まれ続ける。これは”何故”を求めても無駄な話で、犀賀が今日のように軽く飲みながら見てきた終わりの景色の一つでしかない。せめて他の世界が同じ轍を踏まないよう、一人でも多くの黒服を道連れに消えてもらおう。

 
 
流れ込む黒服を眺める。
 
 
黒と黄で埋まっていく世界を眺める。
 
 
 
細く脆くなっていくつながりを眺める。
 
 
 
 
世界の最後を、ちぎれる様を眺める。
 
 
 
 
 

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暗闇との闘いの、薄っぺらな1ページが捲られた。

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 


かくして一つの世界が暗闇に飲まれた。犀賀は席を立って勘定を済ませる。まずは隣り合っていた世界の同士たちと連携し、世界が切り離された穴を縫い合わせるところから始めるとしよう。ドアに手をかけたところでふと、先程まで眺めていた窓に目が向く。

願わくは一つでも多くの世界が、-90.0°と同じ喜劇とも悲劇ともつかぬ終わりを迎えることの無いよう。

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