しあわせの花束
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突き抜けるような晴天 一面の花畑が目の前に広がる
SCP-514が放たれた
ようやくこのクソッタレな職場ともお別れということだ


テレビから聴こえてくるニュースは、各地の花々が一斉開花しているというものやいきなり世界の気温が一律になっているのが主な話題のようだった。もう少ししたら、O5 上司の上司あたりがこの現象を世界に知らしめるだろう。私はデスクから立ち上がり、最後の指示を出して外出することにした。
歩きながらこれまでを振り返ってみた。財団に勤務してから3年は死の恐怖と戦い、4年目からは死ぬことより、死なせる恐怖との闘いだった。同期の半数以上はここから名誉退職し、残りはひとでなしのろくでなしとなった。この世はひとでなしのろくでなしには優しかった、いや厳しかったのかもしれない。なぜなら生の喜びを実感すると同時に、人をサイン1つで殺し続けなければならなくなったから。
外に出る。オレンジツナギの奴らが瓶ビール片手にポーカーをしているのが見える。ここらで咲いているのは背の高いデイジーだった。白い花弁が風で揺れている。その花を眺めていると、ふと昔の記憶が頭をよぎった。

いつだか同僚が言っていた。

━ 早死にする奴は神様が命を摘み取っているんだ、そう花みたいにね。

それには私はふてくされながらこう答えた。

━ それじゃあこの世は花畑で、死んだ人数で言ったらその神様は花束を抱えてるんだろうな。

同僚は大笑いしながら、

━ そりゃあいい!このクソみたいな世界が可愛らしく思えるよ!

そいつは5日後の自分の実験中に死んだ。

だがしかし、私たちはようやく報われたのだ。今までのゴミのように死んで逝った同僚、上司、部下は今この時をもってその死に意味を得たのだ。そして私は生き残れなかった研究員の最期にうなされることも無ければ、上司の死亡報告書の証人になることも、自身の許可した実験で人死にが出ることにこれ以上慣れることもなくなる。これこそがハッピーエンドというもんだ。そうであると確信してる。

そうだ、花束を作ろう。もう何年も贈り物なんてしていない家族のために。この日まで頑張った自分のために。世界のために。死んでいった同僚と部下たち あいつらのために。

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