勝利と栄光の果てに
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いつ頃からかは覚えていない。僕の人生はずっと退屈だった。
何かにつけて「人の役に立ちなさい」というのが両親と祖父の口癖で、特にそれらしい努力をしたというわけではないけど、実際そういう風に生きてきたつもりだ。学校でクラスメイトが喧嘩していれば仲裁に入ったし、路地裏で不良に絡まれている女性を見つければ助けたし、悪い大人に騙された友達を救おうと自分なりにもがいていたら、ひょんなことから警察が動いて、最後には非合法組織の撲滅に一役買ったということで、ちょっと引くくらいのお礼をもらった時だってあった。でも、あれもこれも、色んな人の協力があってこそだったと思う。不思議なことに、僕が頼めば大抵の人は言うことを聞いてくれたし、断られた時でも、最初はつれない態度を取っていた人が、後になってから反省したり偶然僕のやろうとしていることに手を貸す形になったりして、結果的に事態が解決してしまう、なんて場合も少なくなかった。

今でも人を助けるのは好きだ。
単純に難しい問題が解決していくのは爽快だし、誰かが幸せそうにしている様子を見ると自分のことのように嬉しくなる。悪い人が痛い目に遭うのもかわいそうだけど、それはそれで仕方ないことだと思う。

けど。
そうしている内に、あんまり何もかも上手くいくものだから、元から趣味の少なかった僕は、いつしか人助けすらつまらないと思い始めた。いや、つまらないと言うよりかは、僕はこんなことをするために生きているんだろうかと、疑問に感じてしまったんだ。僕はしばらく塞ぎ込んで、あまり人と話さなくなった。

「財団」という組織が僕に接触してきたのは、そうなってしばらくしてからだった。
初めは困惑した、何せ映画でしか見たこともないような重武装の兵士が、たかが僕なんかを殺すために血眼で追いかけてきたんだから。偶然に偶然が重なって命だけは勘弁してもらい、穏便に話をつけられるようになった今でも、正直生きた心地がしない。

生きた心地がしないと言えば。
財団は世の中に蔓延っている漫画でしか見たこともないような異常な物品や生き物を集めたり、捕まえたりして、一般の人々に危害を加えないよう収容しているらしい。最初は僕もその”異常な何か”扱いだった。実際、僕にはよくわからない凄い力があるそうで、それを使って特に危険で凶暴な「オブジェクト」を「終了」してくれと頼まれた。

僕は…戦った。
もちろんそういう訓練なんて受けた試しはない。何度死ぬような目に遭ったかわからない。財団の人たちは僕が生きて帰る度に褒めてくれたけど、正直どうでもよかった。怖かった。ただ怖かった。

しかし、それでも、一つ確かなことがあった。
あの恐ろしい刺青の男の人と対峙した瞬間。
確かに僕は感じたんだ。恐怖の奥底で、何か、かちりと歯車が噛み合う音を。
男が自分で自分の喉を掻き切った時、勝利の実感と共に僕は悟った。
そうか、これが僕のやるべきことなんだ、と。

僕は財団の人に頼んだ、もっと「実験」を続けてくれと。
僕が望めば物事はそういう風に進んだ。僕は多くの凶悪な怪物を倒し、奇妙な物品を無力化した。これが自分の運命なんだと信じて。財団の人々は前にもまして僕を褒めるようになったが興味はなかった。部外者である僕が大きな顔をしていることをよく思わない人も多かったけれど。


ある日、僕はふとした拍子に、「終了」したオブジェクトの断片が回収されていく様子を見た。
明らかな違和感があった。既に壊れて機能を停止しているものに対してこう思ったのも変な話だったが、何というか、これは元々、"そう異常な性質など持っていなかったのではないか"。僕はサイト中を駆けずり回って、何なら外にも出ようとしたけど、止められた。誰も僕の頼みを聞こうとしなかった。この僕が頼んだのに、だ。

「どうして?僕は正しいことをやっているのに…」

そして、僕はついに、僕の力の使い方を自覚した。

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