回収された通常物品202X-5-10
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分類: 対象は回収された時点から異常を有していないものとされ、一般娯楽品に分類された。

取扱方: 簡易認証ドアロックシステム付き娯楽品倉庫に格納。原則、申請をすればクラスD/Eを含む全ての職員、およびその家族が利用可能。
他の娯楽品と同じく、不正利用や乱雑な扱いによる破損は懲罰の対象となる。
また対象に過度の愛着を抱く等の行為も警告の対象となる可能性がある。
破損の修復は必ず対象IDのマニュアルに沿って実施すること。

内部アプリケーションに対して、より対象年齢を高めるための
(あくまで想定される開発意図からは脱しない範囲内における)改善が許可されている。
ただし改善前のバックアップは、圧縮ファイル化した上で、必ずヘッドセットのデータ領域に残しておくこと。

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テクスチャA: 比較用にペンを前方に設置。

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テクスチャB

利用記録の更新が1年間見られなかった場合、
ドアロックシステムはメンテナンス要請を
中枢システムへ送信する。

説明: 対象はボールとVR/ARヘッドセット(ゴーグル)によって構成される。ボールは模様の入った厚手の毛皮状素材で覆われており、表面の一部に粗雑な縫合の跡が見られる。ヘッドセットは一般流通している[編集済]モデルであり、2020年代の平均的なスタンドアロン/インサイドアウト方式の性能を持ち、またハンドトラッキング機能を備えている。
各物品を構成する物質に異常な点は見られない。ヘッドセットも無改造と確認されている。

ヘッドセットには1点のアプリケーション/プログラムがインストールされている。アプリケーションは実行/コピー/移動が問題なく可能であり、そのソースコードも完全に解析されているが、異常な点は確認されていない。

アプリケーションは非常に簡素な内容であり、個人製作のものと推定されている。アプリケーションを起動すると、ヘッドセットはAR(パススルー)モードに切り替わる。そのヘッドセットを着用してボールの方を見た場合、アプリケーションはボールの模様を特徴点トラッキングマーカーとして検出し、ボールの角度や装着者との距離にかかわらず、装着者の正面の方を向くテクスチャをボール上に表示させる。

表示されるテクスチャは2種類のみである。通常時、ボールはテクスチャAを表示する。ハンドトラッキングによって装着者の手がボールに触れたと判定された場合、ボールはテクスチャBを表示する。テクスチャBの表示条件は単純であり、手のひらで触れる/撫でる/持ち上げる以外に、指先で小突いた程度でもテクスチャはAからBに切り替わる。テクスチャBは接触が無くなった後も10秒間程度持続する。A/B以外のテクスチャは一切保存されていない。

対象は敵対組織であるカオス・インサージェンシーの施設から回収された。
併せて回収された情報は、対象の起源が当該組織とは別にあることを示している。
断片的な情報から、対象は本来、閉塞感の時代を生きる現代人へ簡単に癒しの感情を与えるために、できる限りシンプルな仕組みによって、現実上の「モフモフ」な非生物をサイバーペットへ変換する試みのために開発された、はずであったことが推測されている。

対象に関連する情報の中で、以下の記録が特に注目された。

研修-基礎的アノマライズ試験

指導: "ククリナイフ"補佐拷問官
監修: 呪術部門 - 怨念課チームC班
被験者: 下級職員29/96-1号。窃盗と業務横領。殺人/傷害の記録なし1。精神鑑定: 良好。
受講者数: 24名。

実験1: 撫でるように指示。
結果: -2への変化。

実験2: 高い高いをするように指示。
結果: -2への変化。

[撫でる、つつく、高い高いの実験と、それに対する同一の実験結果が連続するため、省略]

実験9: 高い高いと言いながら強く上に放り投げて床に落とすよう指示。
結果: -2への変化。

[撫でる、つつく、高い高いの実験と、それに対する同一の実験結果が連続するため、省略]

実験14: 高い高いと言いながら強く上に放り投げて床に落とすよう指示。
結果: -2への変化。

実験15: 実験室の壁に向かって強く放り投げるよう指示。
結果: -2への変化。

実験16: 実験室の壁に強くぶつかるように、更に勢いよく投げるよう指示。
結果: -2への変化。

実験17: 殴りつけるよう指示。
結果: -2への変化。

実験18: 変更指示があるまでの間、殴り続けるよう指示。
結果: 変更指示までの30分間の間、-2への変化。

実験19: 支給されたナイフで切り裂くよう指示。
結果: -2への変化。ボールの破損。

実験15: 変更指示があるまでの間、凝視するよう指示。その間、指導員配下のスタッフによる、一般利用済の針と糸を用いた補修が行われる。
結果: -1継続。

実験16: 変更指示があるまでの間、殴り続けるよう指示。
結果: 2時間にわたる継続的な-2表示の中で、一時的な「軽い砂嵐のようなノイズ」が報告される。プログラムコードおよびデータ領域全体に一切の変質が見られていないことに注意。

[以上と同じ実験内容の繰り返しが続くため省略。実験の内訳はポジティブ(撫でる/つつく/高い高い等)とネガティブ(投げる/叩く等)のアクションがおおよそ半々ずつである。後者の実験時には常に「軽い砂嵐のようなノイズ」が報告されている]

実験26: 変更指示があるまでの間、補修個所を蹴り続けるよう指示。
結果: 継続的な-2表示の中で、一時的な「軽い砂嵐のようなノイズ」が報告される。ボールの再破損。

実験27: 変更指示があるまでの間、凝視するよう指示。その間、指導員配下のスタッフによる、一般利用済の針と糸を用いた補修が行われる。
結果: 更なる変化として、パススルー画面全体が「暗くなった」との報告。プログラムコードに一切の変質が見られていないことに注意。

実験28: 投げ飛ばすよう指示。
結果: -2への変化/砂嵐のようなノイズ/パススルー画面の不鮮明化の報告。

実験29: 変更指示があるまでの間、殴り続けるよう指示。
結果: 新たな表情パターンの報告。プログラムコードおよびデータ領域全体に一切の変質が見られていないことに注意。

実験30: 一時的に被験者を観察中の受講者の1人に変更、任意の暴力を行使させる。
結果: 被験者を変更しても、実験29と同様の表情パターンが報告された。

実験31: 被験者を戻す。ボールを持ち上げて、現状の感想を話しかけるよう指示。
結果: 被験者は報告を拒否。指導員の指示により、被験者へ実験協力に対する中間報酬が供与される。

実験32: 変更指示があるまでの間、殴り続けるよう指示。
結果: より決定的/典型的なアノマライズ反応の観測。詳細な情報は限定クリアランス資料に取りまとめられる。事後の身体検査による裏付けも確認され、アノマライズ完了の判定が下される。実験/研修を修了。撤収。

修了後の受講者数: 17名。


この情報を受けた管理スタッフは、奇跡論部門にアドバイスを要請。協議の結果、対象を調査する初期段階においては、対象について、矮小規模ではあるが潜在的な敵対性が懸念されるAE(人工感情)実体と仮定的に見做す判断が下された。この時点で構成素材の検査は完了しており、異常が無いことが確認されていたが、その次に行われることになっていた実践的異常性検査における最初の5回分については、標準的な対AE心理療法カリキュラム - レベル2が並行して実施された。

前述のカリキュラムを内包した検査、それに続く10回分の検査(計15回、いずれも検査内容は一般的な倫理規範に基づく)において、異常な点は確認されなかった。対象はテクスチャBのみを返した。
検査結果に基づく、取り扱い方針決定の議論が行われた。この議論は紛糾し(特に、“アノマライズ”なる現象{?}の対象/根源がボールなのか、VRヘッドセットにあるのか等が争点となった)、最終的な決定は上位研究スタッフの多数決によって行われた。

対象は回収された時点から異常を有していないものとされ、一般娯楽品に分類された。

議論の結果、対象は結局、Neutralized/Explained/(元)Anomalousのいずれにも該当しない、通常物品であると判断される形となった。しかしながら、物品と共に回収された情報を考慮し、対象の廃棄/破壊処理については保留とされた。

関連して、中枢管理スタッフは次の内容を決議している: 通常物品と判明した本対象の検査/実験に消費されたリソースは、無為/過剰であった、または異常性除去に用いられてしまったとは判断されない。

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