A止まりのW(にも満たない)
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CICMA職員へ通達

8141-中枢管理スタッフは調査中の保護アノマリー14/013-18/990-JPに対し、特性自体に関する研究有益性の低さにより、Anomalousクラスに分類する決議を下した。(詳細は審査ログ: 011/013-JP-5を参照)

CICMA職員は本件の関与人員を中心に、今回の取り扱い改訂に応じた、対象(※注)に関連する情報の再整理を行うこと。なお、再整理中の情報に対しては、その重要度にかかわらず、一時的に、特定職員のみを対象外とするアクセス制限が付与される。


※注: Anomalous指定を受け、以後、未分類アイテムであったアノマリー14/013-18/990-JPに対しては、便宜上、 「対象」「対象アイテム」「対象AO(Anomalous Object)」、あるいは単に「アイテム」等での呼称が許可される。(標準的Anomalous取扱方)

既存資料上の表記も随時、上記の呼称に変換される。


Chapter 0. Anomalousアイテム記録用文書


説明: 要約すると「触ると眠らされる人型実体」となる。

また、詳しい情報は公開保留中であるが、対象が活性化すると、機密情報の低/中規模な喪失/破壊という、副次的な危険性が発生する。

回収日: [未公開]

回収場所: [未公開]

現状: サイト-8141の対人間型病棟に入院。

追記/注記: 追記事項あり。公開は保留中。

注: 関連情報の再整理開始から間もないため、複数の項目が未公開/公開保留となっている。

また、当文書は先ず、最も有益性/重要度の低い(Low-Vote)データスロットに保存されるため、当面、フリーアクセスページには掲載されない予定である。



Chapter 1. 分析

CICMA職員、および関与医療スタッフは、対象アイテム自体の調査記録、即ち特殊能力の詳細や、各種検査・測定の結果に対して、フリーアクセスの権限が付与されている。

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    回収現場1(清掃済): 掲載承認


    Eクラス医療スタッフであるあなたは、新たに担当することになった患者に対する注意事項として、以下の内容を含む情報を提供された。

    以下のデータは、かつて対象が注目すべき研究価値を持つ「特別収容オブジェクト」(俗に「スキップ」等とも呼ばれている)として期待され、つぶさに研究されていた頃の名残である。

    もし対象がAnomalousアイテムではなく、そのまま「スキップ」として格付けされていたら、以下の文書は更に洗練され、その上で、超常の存在を研究可能なCクラス以上の職員にのみ、閲覧が許可される内容となっていただろう。あなたは偶然にも、その片鱗となる情報を手に入れたのだった。

    とはいえ、Eクラスの身分で対象の特殊能力を故意に発生させるようなことは、いかなる場合であれ、違反行為に該当する。あなたにとって以下の資料は、あなたが実際に目にすることは無いはずである実在の超常現象に対して、想像を巡らすための参考材料になる程度の、ただの読み物にすぎない。



    人物情報

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      現状の対象から確認可能な、DNAを含む全ての身体/外見的プロファイルは、[編集済]嬢(享年16歳)という少女のものと一致している。

      当該故人の公的記録は調査時点で何者かに殆ど消去されていたが、数少ない手掛かりによれば、生前の彼女は明朗かつ穏やかな性格であり、自殺の理由は全く見当がつかなかったとされている。

      対象AOのパーソナリティは重度のPTSDと無気力症候群の症状により詳しい分析が困難となっているが、ファッションやアイドルへの興味・好みの傾向は、前述の故人のものとある程度の一致を示している。

      対象に関連する特筆すべき物品として、常時着用している「W」マークのペンダントが挙げられる。これは対象を保護した際、医療用衣服に着替えさせた時にも引き渡しを拒否されており、此方の働きかけで強制的に取り外そうとする試みも、全て失敗に終わっている。


    能力詳細-1: 接触

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      ヒト被験者が対象に触れると、対象と被験者は、同時に昏睡状態に陥る。この特性により、覚醒状態で対象に触れるには、10 cm以上の棒状の道具ごしでの接触が必要となる。

      また、昏睡状態に陥った対象AO、および対象AOに触れて昏睡状態となった被験者に触れた別の被験者も、いかなる接触手段であれ、同様に昏睡状態となる。即ち、睡眠中の対象AOに対しては、棒状の道具を用いても正常な(覚醒したままでの)接触、および強制的に覚醒させることは不可能となる。

      被験者は、昏睡状態から2~8時間後に覚醒する。そして対象AOは、最後まで昏睡していた被験者と同時に覚醒する。


    能力詳細-2: 「夢(授業)」とその作用

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      昏睡状態から復帰した被験者は例外なく、自身と対象が登場する夢を見たと報告している。

      対象AO自身は、この夢を「授業」と呼称している。


      夢(授業)の内容

      A. 概説

      夢の中に現れる対象は、タトゥーや傷跡等のない、健康な少女の姿となっている。

      夢の中で対象は、自身を「先生」「委員長」「お姉さん」等、被験者に何かを教育/指導する立場を自称する。

      夢の舞台は教室、テレビのスタジオ、巨大なコンサートホールといった異なるパターンが報告されているが、その場所は、夢を同時に見ている被験者の数に応じて選択されているものと推測されている。

      夢の内容は、終盤に差し掛かるまでは、主に対象による歌のライブと寸劇によって構成される。歌や寸劇が切り替わるたびに対象は衣装を変更する: 異なる学校の制服、スーツ、メイド服、水着、スカートや袖の短いドレス等が報告されている。眼鏡をかけているとの報告も多い。

      B. 「歌」の一例

      • 明るい曲調のテクノポップ。
        中学高校レベルで習得する幾何学の公式や、星空や天体に関する用語が数多く歌詞に含まれる。

      • 激しいテンポに乗って、歌詞として英語の文章とその和訳を交互に歌い上げるヘヴィメタル。
        高校受験で頻出するとされる英単語が100種類以上使われる。

      • 俗に和(風)ロックと呼ばれる、日本の民謡や演歌を思わせるメロディラインのハードロック。
        歌詞は古文とその現代語訳で構成されており、平安時代から鎌倉時代にかけての情勢の変遷が、様々な歴史上の登場人物による心情のモノローグで綴られる。

      C. 「寸劇」の一例

      • 江戸時代の文化をコメディタッチで紹介する一人芝居。

      • 「不思議の国のアリス」をモチーフにしたようなセットの中で、対象が戯画調のキャラクターと英語の論理クイズや複雑な計算問題に挑む小規模な舞台劇。

      • 夢の「舞台」奥(壁もしくは生成されたスクリーン)に投影された、フォトグラメトリと思われる様々な文化遺産の3DCG内を戯画化された対象が探索し、歴史関連を中心とした雑学を紹介する短編映画。

      基本的に、歌では表現し難い学習範囲を、これらの寸劇でカバーしているものと分析されている。

      D. 追加パフォーマンス

      夢を見ている被験者が男性だけで構成されている場合、寸劇の中で専用のパフォーマンスが取り入れられる事がある。

      一例として、劇中の問題に対するヒントや答えの一部が対象の胸元や太ももの素肌に印字され、対象は被験者(達)に近づいてそれを読み上げさせる、等を行う──この記載には水性の塗料が使われているらしく、対象は問題が解かれた後、被験者(達)の目の前で、ボディソープを使って体の記載を落とすような行為も実施する。

      このようなパフォーマンスが行われた場合、被験者の昏睡時間はより長くなる傾向がある。

      E. 補足事項

      夢の中で被験者はある程度、行動の制限を受けていると推測されている。性犯罪者のDクラス職員を被験者に含む夢の中で、前述のパフォーマンスが行われた場合も、対象が「被験者から」暴行を受ける等の事は──少なくとも、関与した全被験者および対象自身の供述上では、発生していない。

      一方で、こんな授業をしてほしいという意見を予め準備しておき、夢の中でその要望を発言し、歌や寸劇の内容に影響させるような試みは、成功している。

      F. フィナーレ

      夢がある程度の区切りまで進むと、舞台となっている空間の壁が破壊され、侵入者が出現する。

      侵入者は高確率で通説的な姿をした恐竜の集団と報告されるが、その他に巨大な蛸、緑色の肌で豚や犬の頭をした巨人、アニメや子供番組のキャラクター等の報告事例が存在している。

      侵入者は対象と被験者(達)へ襲い掛かり、暴行、殺戮、(対象の性別にかかわらず)強姦といった行為を繰り返し行う。侵入者の襲撃が進行する中で夢は終了するが、対象AOはそれまでの間、被験者(達)を守り、逃がそうとして、時に侵入者の攻撃を代わりに受けながら、被験者(達)に何度も謝罪の言葉を叫び続ける。


      事後の作用

      覚醒した被験者は、夢の中での出来事、特に歌や寸劇の内容について、一字一句正確に暗唱することができる様になる。

      しかし多くの事例において、被験者は同時に、過去に知っていた犯罪、毒物、兵器、[アクセス拒否]に関する知識(それらに対抗するための一般的な教養を覗く)に対する、回復不可能な記憶喪失を発生させている。



    生体/健康情報

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      回収現場2: 削除済

      現在、対象の口から喉[削除済]流動食しか消費できず、通常のコミュニケーションは、筆談またはテキスト読み上げソフトで行う必要がある。

      全身の複数個所で古い手術創、比較的新しい銃創、他にも様々な暴行の痕跡、[編集済]たタトゥー等が見られ、額には阿比留草文字(日本の古代文字)と見られる焼印が捺されている。

      強いPTSDの症状により、現在の対象は発作的に体を激しく動かしたり、暴れ出したりすることがあるため、普段は拘束具による四肢の固定を余儀なくされている。

      また対象はしばしば、次に示す矛盾するような振る舞いを見せるため、その取扱いには注意する必要がある:

      1. 対象は平時、特有のPTSDに由来する発作の一環として、過剰量の睡眠薬を要求するが、提供は禁止されている。

      2. その一方で対象は、眠気を帯びたり、消灯時間が訪れたりすると、睡眠を極度に恐怖するような素振りを見せ、PTSDの発作を起こすことがある。この場合は、医療スタッフによる適切な鎮静化の処置を行うこと。

      これらの行動について専門の臨床心理士は、対象は自身の夢の中では健康な状態で活動ができるものの、その夢の世界(対象の周りの風景)はPTSDにより、悪夢の世界となることが多いのではないかと推測している。



Chapter 2. 資料

以下の資料に関しては、現状ではCICMA職員のみ、フリーアクセスの権限が付与されている。

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    超常テロ組織「カオス・インサージェンシー」対策任務エージェント(Chaos Insurgency Countermeasure Mission Agent)であるあなたは、命じられた「資料の再整理」のために当セクションを開いた。

    以下に参照されるテキスト転写記録は、回収されて間もない頃の、情景の感情的な書き起こしを多分に含む、「取り急ぎ」の資料のままとなっている。

    今のあなたは、それらの記録がよりクリニカル(医療的)で冷静な文体に昇華されることを必要とはしていない。あなたはこれらの情報を研究目的ではなく、目標組織を追撃するための参考資料として活用する。



    LoI(要注意領域)-011/013-5-JP: 「第3協同テアトル」への襲撃作戦時に入手した資料より

    ※以下、入手/解析に成功した順に記載。


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      近年のカオス・インサージェンシーは、専ら「ステップ・コンピレーション」と呼ばれる作戦指令書に基づいて行動しているらしい、ということが明らかになっている。

      「第3協同テアトル」襲撃作戦においても、データ名や階層(ディレクトリ)の段階から「ステップ・コンピレーション」であると推定されるデータファイルが回収されている。

      しかし、当該データのセキュリティは非常に強固であり、回収から当面の間は、下記の画像を除いて、一切の内容を表示させることができなかった。


      a-hogehoge-1.png

      「デルタコマンド3-JP」が書いたとされる、「形而上多次元ベクトルを可変可能な最新式の夢/精神世界(オネイロイ)型神経毒」による捕獲作戦の図。回収された他の情報によると、他のCI構成員からは「分かり難い」と大変不評であった。



    資料1-映像記録A(テキスト転写)

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      インタビュー対象: AO(SC)-14/013-18/990-JP[以下、対象AO]

      インタビュアー: 対象の向かいに座っている初老の男性がインタビューを実施している。

      <記録開始>

      インタビュアー: まずは自己紹介をしてもらおう。というと、お前は決まり文句を言うのだろう?

      対象AO: [立ち上がり]ハァイ! 本家公認の新ブランド、「大人のワンダーテインメントシリーズ」がお送りする、「ミズ・おやすみ」こと、地下アイドルの「闇暗千佳あんぐら ちか(注: 漢字は入手した資料を元に表記)でーす! わー、安直ぅー! [インタビュアーを両手で指差すようなポーズ]……あれー、面白くありませんでしたー?

      インタビュアー: ああ、いや、別に不機嫌なわけじゃない。いつもこんな調子さ。昔から、この世の全てがつまんねえような顔をしてる、とか言われてる──すまんな。

      対象AO: いえいえ、そのお顔も個性の内ですよー。それでー、おじさまはー、チカのCDを買ってくれたんですかー?

      インタビュアー: CD、ああ、売ってるんだってな。

      対象AO: あのね、チカね、地下アイドルだけにー、表じゃ絶対できない画期的なことしちゃうの! その名もズバリ! お泊り会イベント! チカのCDを買ってくれて、「イエス」のチケットが入っていた人にはー、ななななーんと! 監視カメラもボディーガードもないお部屋の中で、チカとおねんねしちゃえるんです! ……ねえ、おじさまもー、チカと、夜のお勉強、しよ? [唇に指を当てる仕草]

      インタビュアー: CDに何か効果はあるのか?

      対象AO: [着席しながら]ううん、CDには変なことしてないよ! あのお歌はね、単に単に数式や年号を覚えてもらうだけじゃなくって、聴いてるだけで数学とか歴史とか、いろんなお勉強がチカの事とおんなじくらい大好きになってほしいって思って、みんなで頑張って良い曲にしたんだよ! だから、純粋に楽しんでほしいんだー。

      インタビュアー: 勉強勉強とほざいているが、俺たちの同志から[音声復元失敗]を忘れさせたのは何故だ? 勉強させることと矛盾するじゃないか。

      対象AO: えーっ、だってだって、あんなの、つまんないし、だいたい人が知っちゃいけない知識だもん。あんな人がいなくなるばっかりの事よりも、エッチな事お勉強して人間の数を増やすこと考える方がー、素敵でしょ? [ミニスカートをカメラに見せつけるようにしながら、脚を組み直す]

      インタビュアー: そんなくだらない理由で、「スカウト」の若い衆をあんなつまらん事にしやがったのか? 3人も?

      対象AO: ああ、あのロリっ子ちゃんとショタっ子ちゃんたち? そりゃあ、あの世界も素敵ですけどー、外に出ればもーっとたくさんの「大好き」に出会えるって、知ってほしくて。チカがオ、ト、ナ、にしてあげちゃったのだ。

      インタビュアー: 大人。……[額に手を当てながら]あー、そういう事か。

      対象AO: 何だか合点がいったようで何よりですー。

      インタビュアー: 単刀直入に訊こう。

      対象AO: 単刀直入ってー、考えようによっては何かエッチですよねー。

      インタビュアー: 池光子いけてるこはワンダーテインメントとどういう関係なんだ?

      [対象AOが無表情になる]

      インタビュアー: どうもリトル・シリーズにしちゃおかしいと思っていたんだ。粗悪な模造品どもと比べたとしてもな──そもそも、どうしようもないくらいオフィシャルなマークをぶら下げてやがるからな、お前さんは。だが、奴があの生臭坊主や透明野郎なんぞとつるむとも思えねえ、そうなると俺の知る限りじゃ、後は消去法で決まりだ。

      対象AO: [微笑を取り戻しつつも、そっぽを向き]……黙秘権を行使しますー。

      インタビュアー: あんな奴に義理立てするのか? この世からオサラバできたはずのお前を、あいつらは無理やりこき使っていやがるんだぞ。

      対象AO: [両手で机を叩き、立ち上がる]違っ、そんなんじゃ!

      インタビュアー: ボロを出したな。[立ち上がりながら、ドアに向かって大声で]ククリナイフ! 出番だぞ。

      [戯画化したトリケラトプスと見られる被り物を頭に着けた、屈強な男性が入室する。続いて、様々な爬虫類の覆面をした多数の男性、および少数の、頭から袋状の物を被せられ、拘束された女性と見られる人物が、部屋へと入る]

      インタビュアー: 話は外で聞いていたな。詳しい情報を引き出せ。
      [対象AOに向かって]実際のところ、あんたが魂の無い喋る死体でなくて良かったよ。有益なレスポンスが得られるわけだからな。

      [インタビュアーはトリケラトプスの頭をした男の肩を軽く叩いて、退室する]

      トリケラトプス頭の男: ──さあ、直接触れなくても、君の体を存分に楽しめるという事を、これから証明してみせよう!

      [部屋の中にあったロッカーが開かれる。中には[削除済]]

      [対象AOは着席し、頬杖をついて、眉を少しひそめる]

      対象AO: 悲しい人達ね。

      [削除済──以降の映像資料書き起こしにおいて、全ての暴力、傷害、猥褻物の出現/生成、強姦、乱交、[削除済]および認識災害の懸念されるような描写は、全て省略する]


    資料2-映像記録B(テキスト転写)

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      回収現場3: 掲載承認

      <記録開始>


      トリケラトプス頭の男の主導による拷問が、再開されようとしている。

      対象AOは激しく傷つけられているものの、確保/保護時点の損傷と比べると、まだ半分以上の素肌が認識可能な状態である。

      インタビュアー(初老の男)は拷問に興味のない様子で、椅子に座って新聞を読んでいる。


      トリケラトプス頭の男: チカちゃん、タフだねぇ~。でもいい加減何か吐いてくれないと、お兄さん困っちゃうよ。アルファクラスに降格されちゃう。

      対象AO: [発話がやや困難な様子である]えーっ、良いじゃ、ないですか、お兄さぁん、っ。チカと、一緒にー、堕ちちゃいましょう、よ、っ。

      トリケラトプス頭の男: いやいやいや。冗談じゃないよう、もう!
      [男は歯科用ドリルを用いて対象AOに拷問をする]
      ……ねえ、おじいちゃん。ちょっと。たまには助けてくれたって、いいんじゃない?

      インタビュアー: ふむ──いや、ククリよ。お前の仕事には、ちゃんと意味があったぞ。こいつには正常な拷問では意味がないことを判明させられた、という、な。

      トリケラトプス頭の男: あのう、そんなこと言われたら、僕のクリアランスでは、もう何も──

      [インタビュアーはスーツの上着を脱ぎ、ワイシャツ姿になる。
      ワイシャツの下に、肌着の着用は見られない]

      対象AO: わー、おじさまの身体、たくま、しい。おじさま、とうとう、チカの、中に、入っちゃう、の?

      トリケラトプス頭の男: いや、わざわざ君の夢の中に侵入したりはしないでしょ……敵陣じゃないの。

      対象AO: えーっ、お、おじさま、チカに、侵入、して、くれないん、です、かー?

      [インタビュアーは部屋の壁の方を向き、姿勢を正す]

      トリケラトプス頭の男: うっわ、出たよ。

      対象AO: お、おじさま、出ちゃう、出しちゃう、の? で、でもー、チカは、こっちだよ? そっちは、か、べ──

      [インタビュアーは小声で壁に向かって話しかけ始める]

      インタビュアー: うんだんがいせいへうずうせうじんがいせ

      対象AO: [急激に顔を青ざめさせ始める]えっ、何してんの。

      トリケラトプス頭の男: ああ、あれ? でたらめな呪文さ。

      インタビュアー: せうじんがいせすむうのんぼう

      対象AO: [語気を強める]何してんのって聞いてんの。

      トリケラトプス頭の男: 僕には全く何も分からないよ。でも君には、大体分かるんじゃないかな。きっとアノマリーの霊的な感覚で、何が起ころうとしているのかを、おじいちゃんの雰囲気から察することができているんだろうね。

      [インタビュアーは首を掻きむしり始める。
      その合間に、ワイシャツの第2~3ボタンまでを外しているようにも見える]

      対象AO: ……やめて。

      インタビュアー: うしんもんけえまいわいわおれい

      対象AO: ……やめてって言ってるの。

      [インタビュアーは更に激しく首を掻きむしる。ワイシャツの襟が下にずれていき、インタビュアーの首の下の方の素肌が現れ始める。そこに刻まれた傷跡には認識災害の効果があるため、最高レベルの倫理クリアランス向け映像資料においても、検閲が施される]

      トリケラトプス頭の男: ああっ、やばい。[顔を背ける]

      [映像に、微量な「砂嵐のようなノイズ」が混じり始める]

      インタビュアー: そうしたかとこるつまてたいいあにつじ

      [対象AOは同様の色を強め、抗議の声を更に激しくする]

      対象AO: やめて、やめて! 何なの、私が、私たちが何をしたって言うの!?

      [映像上の砂嵐のような乱れが少しずつ強くなっていく。インタビュアーの背後で、天井から黒または赤褐色の水滴が、少しずつ滴り落ち始める様子が観測できる]

      トリケラトプス頭の男: いや、何したかって。それは分かっているでしょうに。僕たち正義の組織にとって、君のような悪の怪人がもたらす損失はだね──
      [男は画面端で腕をごそごそと動かしているが、何をしているのかは画面から見切れて判別できない]

      インタビュアー: るつまてた[声色の違う、不明瞭な声が一瞬混じる]しかそくそんもんみこ[声色の違う、すすり泣くような声が混じる]けえ

      [低いノイズ音と共に、「画面が」小刻みに揺れ始める。実際の部屋の中で振動が起きている様子は見られない]

      対象AO: [泣き叫ぶ]やめて!! やめろ、やめろ、この野郎!

      インタビュアー: とこまみめうの──[女性のすすり泣く声]……[女性の声で]ごめんね……

      [天井から黒または赤褐色の液体と、その液体に塗れた何らかの塊が、やや勢いを増して零れ落ちてくる様子が観察できる]

      対象AO: だめ、てるこ、お願い、来ちゃだめ!! こんな、こんな……!

      [対象AOは泣き叫び、拘束された状態で暴れ、身をよじらせる。最早、叫び声の内容は不明瞭なものとなる]

      インタビュアー: ちくそん──[女性の声]……ワンダ……[編集済](先述の「故人」の名前。Chapter 1の「人物情報」を参照)……[インタビュアーの声に戻る]もんけ──[女性の声]ごめんね……ごめんね……[インタビュアーの声]──ほうお[不明瞭]らん

      対象AO: [更に大きな、短い叫び声を上げる]

      トリケラトプス頭の男: あっ!! こいつ、舌を噛みきりやがっ──[素早く手を伸ばすような素振り]

      [画面と音声に、非常に激しいノイズ。
      音声のノイズは非常に大音量で再生されるため、実際の映像を参照する際は注意すること
      ノイズの回復後は、先刻から見られていた画面の乱れ等の各種異変も、
      収まっているように見える]

      トリケラトプス頭の男: ……おじいちゃん……ごめん。焼きごて口に入れちゃった……。

      インタビュアー: ……こ、この糞トンマ野郎……。

      [インタビュアーは、本件に関連する既知の全ての映像記録の中でも、
      最も絶望に満ちた表情を見せている]

      <記録一時終了>


    資料3-映像記録C(断片、テキスト転写)

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      この記録は現在、拷問が行われている途中の場面からのみ、復元に成功している。

      対象AOの損傷は、口(発話)の自由が存在している以外は、確保/保護時点のものとほぼ同様の程度となっている。

      インタビュアー(初老の男)は室内にいるが、拷問の様子に興味を示さず、VRヘッドセットとコントローラを装着して、散乱している肉片や体液を踏むのを躊躇うことなく遊興に耽っている──
      「Beat Saber」をプレイしているものと分析されている。


      トリケラトプス頭の男: いや~、最近はようやくまともなことを喋ってくれるようになって、安心してるよ。

      対象AO: [一言ごとに複数回の息継ぎを必要としているようである]それは……っ、おじさま、の……、アレが……ぁ、ものすごかった……んっ、……だもん……。あんたの……拷問なんか……っ、屁でも……ないん……だ、から……。

      トリケラトプス頭の男: いやはや、本当に、減らず口も全っ然、減らないようだねえ!
      [男は血や肉片や何かのこびりついた「鬼おろし」を投げ捨て、目の細かいヤスリを持って拷問を再開する]

      インタビュアー: 健気なもんだな。[プレイしていたステージ(曲)をクリアし、次のステージを選択し、プレイする素振りをしながら]
      ……何だってお前さん、治療を受け入れたんだ? 喋れるようになったら、またこんな目に遭わされるってことは、分かっていただろうに。

      対象AO: そ……っ、それ、は……[何度も息継ぎを繰り返す。逡巡しているように見える]……たぶん、……私は、……おじさまの……言う、通り……っ、死んだ、人間の……っ、ゾンビの、身体だけの存在、……でしか、ない……から……。私は……きっと……っ、偽物の、人間、……自分ってものが無くて、……っ、人の言うことしか聞けない、……アンドロイド、みたいな、……もの、だから……

      インタビュアー: ロボットみたいなもんだから、他人の要求に従っているっていうことか? 俺たちがお前さんを拷問して、情報を引き出そうとしているのを望んでいるから、お前はそれに奉仕してやろうとでも?

      対象AO: そ──そう、いう……こと……なんだと……思う、……ひとは……自分のこと、なんて……なんでも、……分かっている……わけじゃ……っ、無いから……。

      インタビュアー: 俺たちの望み通りに拷問されて情報を吐かされるのが、今のお前の、在り方──望みなんだとしたら、だな。
      ──お前さんに拷問をして、情報を要求している俺たちの行為は、即ちお前の望みを叶えるために、奉仕しているってことになりゃあしねえか? なあ、お嬢様よ?

      対象AO: そ、そん、……な……パラドキシカル、な、

      トリケラトプス頭の男: [対象AOとほぼ同時に]ちょっとおじいちゃん、あんまりパラドキシカルなことを言わないでよ! 僕アホなんだから!

      [対象AOはトリケラトプス頭の男を不機嫌そうに睨みつける。トリケラトプス頭の男も、対象AOの顔をじっと向いている。男の表情は被り物で読み取れないが、両者とも、「パラドキシカル」という言葉が被ったことに対し、不本意な様子が読み取れる。なお、両者が正確な言葉の定義を理解して「パラドキシカル」という発言を行っていたかどうかは不明である]

      インタビュアー: 何でお前は、今はすっかり拷問を受け入れている──それどころか、わざわざ拷問官を挑発するような真似をしている? 何で、ククリの野郎はその挑発に何の疑問も無く乗っちまうんだ? 大体何でこいつは、盛大なヘマに対するお咎めを何も受けずに、今でもここで拷問なんてことを続けられている? 何でこの拷問は、こう何日も順調に回っているんだ? アノマリーへの拷問が長期間異常なし、なんていう状況を、何で誰も異常に思わなかった?

      トリケラトプス頭の男: ちょ、ちょっと、あんまり一気に質問しないでよ! 大体そんな質問、一体どんな拷問で情報を引き出すっていうのさ!

      [インタビュアーはVR機器の装着を外し、投げ捨てる。
      その後、壁の方を向いて座り込む]

      インタビュアー: ……ぬや、あたりばら、……やあたりば……

      対象AO: ──えっ。

      トリケラトプス頭の男: ……あのさあ、一応拷問吏の端くれとして言わせてもらうとね、同じ拷問を続けてやるのは、あんまり良くないんだよ? 痛みに慣れちゃう。

      インタビュアー: ……あたりばや……らつばん、……じま、むどん……

      対象AO: ち……ちが……う。確かに、でたらめな呪文……っ、だけど……寄せているのは、別の……っ……あ……貴方は、一体……。

      インタビュアー: ……あにまらだ……ぼみかまう……のだやしろい……

      [突如、部屋の入口が非常に強くノックされる]

      不明: すいません! すいませーん!!

      トリケラトプス頭の男: いやあの! 鍵空いてるよ! [ドアを開けようとする]──あれっ!? ねえ、おじいちゃん! ドア閉まっちゃってるんだけど!!

      [ノックの音は更に激しくなる。ドアノブをガチャガチャと強く動かす音も発生し始める]

      不明: すいませーん! 誰かいますかー!?

      トリケラトプス頭の男: おじいちゃん! ねえ、鍵!!

      インタビュアー: ……べやぶきつ……ぼあ、のう……やあたりばら……

      [激しいノックと、ドアノブを動かす音が響き渡る]

      不明: すいませーん! 夢界(オネイロイ・)セキュリティの者ですけどー!! 夢に閉じ込められた人がいるっていう通報を受けてきたんですがー!

      [対象AOと、トリケラトプス頭の男が、声を揃えて叫ぶ]:
      ──嘘っ!?

      インタビュアー: [立ち上がりながら]……何だ、あいつらでも破れねえのか。

      対象AO: な……何で……。そん、な……。

      インタビュアー: メディア・ループと夢の中。確かに良く似ている。見事な隠し玉だ、俺もすっかり騙されたよ。

      [激しいノックの音が、部屋の壁全体から響いてくるようになる]

      トリケラトプス頭の男: ば、莫迦な……。

      インタビュアー: しかし、こんな強固なファイアウォールを展開できるってえのに、あんなチープなキャプチャーに引っかかるのも変な話だな。……案外、最初から俺たちを狙っていたのだったりしてな。

      対象AO: そ……っ、そこまで、は……。

      インタビュアー: そうかい、ならテルコってやつの差し金か?

      対象AO: [逆上して力の限り身をよじり、食ってかかるような動作をする]
      そ、んな……っ! わ、けない……っ、て……! あんたた、ち……わ、か……っ……!!

      [激しいノックの音と、救助の旨を告げる大声がドアの向こうから聞こえる]

      トリケラトプス頭の男: [激しく動揺して体を揺すり始め、顔の被り物を掻きむしるような動作をし始める]
      そ、そんな……いつからだ……いつからだよ……!

      インタビュアー: ともあれ、これでお前も明晰夢の影響下に入ったわけだ──ククリ。なあ、ひょっとしたら、お前の失態は、チャラになるかもしれないぞ?

      トリケラトプス頭の男: [急激に姿勢を正す]は、はいっ! そのためでしたら、どのようなご命令でも何なりとお申し付──

      [男の発言は、インタビュアーが懐から取り出した拳銃で、男を射殺することによって遮られる]

      [対象AOはそれを見て、かすれた声であらん限りの悲鳴を上げる]

      インタビュアー: ──何せ、やらかす前のバックアップに戻されるわけだからな。

      対象AO: [トリケラトプス頭の男の遺体を見て、息を荒げ、目に涙を浮かべ始める]
      そんな……そんな……どうして……っ、

      [激しいノックの音と、救助の旨を告げる大声がドアの向こうから響き続ける]

      インタビュアー: [懐からもう一丁の拳銃を取り出す]まあ、俺もそうなる訳だが。
      ──機密情報の破壊、か。デルタ3-JPの若旦那も、なかなか良い目の付け所をしていたっていう訳か。

      [インタビュアーは両手に持った拳銃の片方の銃口を自身の口の中、もう片方の銃口を記録カメラの方向に向ける。
      その目は対象AOを見ていない]

      対象AO: [ひどく震えながら]い……っ、嫌……。

      [インタビュアーは両方の銃の引き金を同時に引く]

      [以後、画面上では砂嵐が続く]

      [様々な方向からの、激しいノックの音と、救助の旨を告げる叫び声が続いている]

      [対象AOのすすり泣く声が聞こえる]

      対象AO: [涙声で]ごめんなさい……

      [激しいノックの音と、救助の旨を告げる声が続いている。だがその音声は、少しずつくぐもっていく]

      対象AO: [激しく泣きじゃくっている]ごめんなさい……ごめんなさい……貴方たちに、何も……

      [ノックのような音と、何かを呼ぶような声が聞こえる。
      該当の各音声は完全にくぐもった状態となり、救助の言葉は最早判別不能となる]

      対象AO: [鼻をすする声]……私、やっぱり、ダメな子だ。

      <記録終了>

      (C) スタジオ弓


    ※補足/参考情報: 資料内で言及されていた個人または組織について

      • _

      本項は、以下に示す組織の調査にこれまで関わったことの無い本件担当者向けの簡易版案内資料であり、各組織について熟知している職員は、以下の再確認は不要。(本件に関連する新たな情報は、下記のリンク先には記載されていない)


        • _


        • 池光子いけてるこについて知られている情報は少なく、またデータベース上のハブ(取りまとめ)ページの整理も完了していない。しかし、集積された未整理のデータ群に関するアクセス制限は今は行われておらず、参照が可能である。

          ごく簡単に言うと、人類にとって有益な超常物品の製作者だと考えられている。しかし、それら超常物品の技術は「アート・テロリスト」とも評される悪意の超常技術集団のものが流用されており、そのために、現在に至るまでに粛清を受けたらしい、という情報が、いくつかの調査結果から確認されている。

        • ワンダーテインメントはRAISA-JPによる英語版ハブページの日本語版データベースへの移行が完了していない。(“「社長室」の盗聴記録として入手した信頼性の無い情報”といった1部のデータは、日本語で参照可能)
          こちらについても、日本語の簡単な説明が必要なのであれば、全職員用資料の抄録を確認することができる。

          上記よりも更に簡単(乱暴)に言うと、子どもの遊びやいたずらを超常技術によって助長するような物品の製作者である。各物品からは子どもを率先して傷つけるようなものは作らない、というポリシーが見られるが、その一方で、上述の記録においてインタビュアーが指摘した通り、一般的な正義や善のために行動するようなオブジェクトを製作した前例は、あまり見られていない。

        • なお、カオス・インサージェンシーはあまりにも広範/大規模な組織であり、非常に多数の分派の存在により、同じ組織名であっても全く違う目的・意図で行動していることも珍しくはなく、組織に関する完全な統一見解を示すようなデータページは、現状確認されていない。

          全職員用の配布資料に記載された抄録が、最も多くの職員が共通で認識している情報だと考えられるが、これも当該組織の一側面を表しているに過ぎない点に留意すべきである。


    資料4-データ断片

      • _

      新たに復元された、「ステップ・コンピレーション」と見られる文書の一部:

      [解読進行中]

      序文: 我らデルタ第3日本支部はオブジェクトの、いわば「配役上重み」を上下させることを、中心的な活動の1つとしている。

      以下の以津真天(イツマデ)作戦もその典型だ。構成員諸君は、オブジェクトへの率先的な「カラミ」(insert)を行い、奴さんの外(メタ)的ミーム価値を急落させて、表層(上層)宇宙の正式目録には程遠い領域にまで、引きずり落としてやるのだ。この物語は、最早「そいつ」の物語では無くなる──「主役は我々だ!」 という訳である。もとより奴に関しては、ここ5年の間ドラフト(塩漬け/水面下)状態にあったわけ(※注)だから、作戦の遂行には、そう難しいことは無いだろう。

      表層宇宙からの完全な排除(パージ)は、筆者(第3日本支部長)はあまり善い手だとは思っていない──筆者は、いわゆる「異常個性の保存則」仮説を支持する立場だ。インサージェンシーに都合の悪い存在を安易にデリート/デコミッション/ニュートラライズしてしまうと、我らの感知できないところで、似たような特殊能力のやつがタケノコのごとく生えてくる可能性を、筆者は懸念している。したがって、非有用な存在は、いわば生かさず殺さずの状態にしておくのが一番良いだろうと思うのだ。そう、我らの得意分野である。

      [以下、解読進行中]


      注: この情報を受けて行われた再調査により、対象AOが過去5年間での、12件の異常組織に対する弱体化または解体(主な要因は人材の辞職/失職)、5点のアノマリーの無力化等に関わっていたことが明らかになった。

      特筆すべき点として、対象の関与した、これまで認識されていなかった活動の内2件がヴェール・プロテクト・オペレーションに比肩する規模のものであり、それらはいずれも秘密裏に成功を収めていた、との記録が発見されている。


    資料4の解析が成功したほぼ直後に発生した「0916事件」により、本件の解析を担当していたCICMA職員は急遽、当該事件の事後処理における情報解析/整理、および各種の情報/記録からの認識災害の除去等の作業に従事する方針となった。事件の爪痕はいまだ根深く、「第3協同テアトル」関連資料の解析作業については、再開の目途は立っていない。

    なお、対象AOおよびカオス・インサージェンシーは、現段階では「0916事件」とは無関係であるとされている。




Chapter 3. 近況

医療スタッフは、対象に注目すべき異変が見られた場合、CICMAチーム連絡窓口に第1報を入れるよう指示されている。

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    インシデント [編集済]/9/20-8141

    まず、この日の朝、対象AOは収容以来初めて、前日の就寝時から一度もうなされる事なしに、起床を遂げた。

    対象は快適そうに長い「伸び」をした後、それまで肌身離さず身に着けていた「W」マークのペンダントを外し、医療スタッフに引き渡した。

    同日、「W(ダブリュー)からの使者」を名乗る人物がサイト-8141を訪問した。

    訪問者との間で、上記ペンダントを含む幾つかの書面・物品の取り交わしが行われた。

    先方から提供された書面や物品には、以下のものが含まれている。

    • 「大人のミズ・おやすみ」を「リトル・シリーズ」から除名する正式文書。

    • 「大人のワンダーテインメント」プロジェクトを凍結する旨の正式文書。

    • DNAがPoI(要注意人物)-011/013-JP("池光子-暫定")のものと一致する人体の部位。
      どの部位であるかの情報は公開保留中。
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      bed2.gif

      [キャプション未定義]


      この訪問者が対象AOとの面会を行ったかどうかについての情報は、公開されていない。

      しかしながら、ここがクリックされて開いたのであるならば、面会は行われたものだと仮定しよう。

      サイト-8141への来訪者は、眼鏡とそばかすが印象的な、十代半ばと見られる、喪服を着た人種不明の少女であった。
      訪問時の長い黒髪の色は、髪染めによる後天的なものと分析されている。

      対象との面会は、一連の手続きが完了した後に行われた。

      記録されている内容は全て、とりとめもない雑談であった。
      それは俗に言う、「お互いの空白期間を埋める」ようなやり取りであったと報告されている。

      対象AOは訪問者に、主に自分が昔に離れてしまった物事の(とりわけ、現在の拘束~収容に至った経緯の間における)現状について、話を聞いていた。学校のこと──友達のこと。商店街のこと。ゲームセンター、カラオケのこと。それと、会えるはずが無いとは分かっている上で、家族のこと、ペットのこと。

      訪問者は対象AOに、ここ数年間の「活動」について、状況や感想を問うた。対象を慕う人たちのこと、対象と志を同じくする仲間たちのこと、本来はいたはずである「スタッフ」のこと──

      訪問者は極力、対象の「傷跡」やその背景について言及しないようにしていた。だが、どうしてもそこに話題が行かざるを得なくなったときや、あるいは対象に発作的な痛みが出た時には、対象AOの側が、率先して自虐/自嘲するような物言いをして、場の雰囲気を重くしないように努めた。その際、訪問者は、沈痛な面持ちで、小さく謝罪の言葉を述べるばかりであった──対象AOはそれを、ひたすらに許して、なだめ続けていた。

      雑談中の全ての具体的な情報は、既に対象からの聞き取りが済んでいる範疇のものであり、両者は明らかに、言葉を選んで会話を行っていた。
      しかし両者からは、発言内容の不自由に対してストレスを感じている様子は見られなかった。

      そんな時間を、3時間ほど繰り返していた頃だったろうか。
      どちらからともなく、次の言葉が、ぽつりと呟かれた。
      ──何か、うとうとしちゃうね。

      そして、明らかに異常存在(アノマリー)に由来すると考えられる訪問者は、
      その時、当たり前のように、厳重なセキュリティの隙を、掻い潜ったのだった。

      散漫になっていた注意力を取り戻した監視者が次に見たのは、2人の少女──アノマリーと重要参考人が、互いの手を重ねて、肩を寄せ合いながら、眠っている姿だった。

      一度こうなってしまうと、迂闊に手を出すことはできない。無暗に起床を強制させようとする考えは、連鎖的な二次被害発生の懸念を、容易に連想させた。
      二人が自然に目覚めることを、待つしかなかった。

      眠っている二人を写した監視映像は、軽度の認識災害を発生させる。
      観測中、両者の衣服は時折、様々な、華やかなものに変化を遂げるのである。
      報告される衣装の様相は、観測者によって千差万別に異なっている。

      およそ4時間の睡眠から目覚めた報告者は、回復不能な重度の記憶障害に陥っていた──
      訪問者は自分の出自について、名前すらも含む一切を、思い出せなくなっていた。

      一般的な倫理規範に基づく、後遺症を残さない尋問により、訪問者には最早、情報提供者としての一切の価値が存在しないものと判断された。

      記憶を失った訪問者は偽装の出自を与えられ、一般社会へと解放された。
      監視報告によれば、彼女は同年代の常人を「やや」上回るIQ等の各種知的能力により、概ね幸福な生活を続けているらしい。

      訪問者が件のペンダント、および此方から受け渡した書類や物品を確かに詰め込んでいたはずの彼女の鞄は、彼女の記憶喪失による混乱の中で、所在不明となった。
      所持品検査の記録によれば、此方への提供物が全て取り出された後のその鞄には、たった1つの私物のみが入っていたとされている。

      ──それは婦人用に拵えられた、小さな黒いシルクハットだったという。




    この出来事以来、対象の精神状態は、非常にゆっくりではあるが、回復の傾向を見せている。しかし同時に、専門のカウンセラーは対象の現状について、タイプ・グリーンまたはブルーの超能力者に見られる典型的な、存在の希釈/希薄化による自己終了の兆候と著しい類似が見られる、とも警告している。現在、対応方針が議論されている。


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