ミニ作品集
リソウノジブン
track list
- オリジン part1
- 洗MEN器
- アンドロイド、それは成りたい自分を形にしたのかもね
- 小休止
- オリジン part2
- ハートロッカー
プロローグ
アートって、魔法だよ!
でもね、あたし知ってんだ。
本物の魔法は、魔法なんか使わないんだって。
だって、そんな力が無くたって、そいつはあたし達の心を動かしたでしょ?
あたしはまだ未熟だから、魔法の力に頼っちゃう。
でも、いつかはね。
調査中アイテム1113-JP-02 暫定報告
未整理の内容や主観的な表現を含みます。ご容赦ください。
現状: 対象のSCP/Anoumalous/他への分類および収容方法は未確定(審議、調整中)です。現在は暫定的に、適切な大きさのSafeクラス向け容器に保管されています。
暫定の説明: 対象は一般的な洗面器に見えます。裏側には手(前足)を振る犬のイラストと「Jeremy」という語句が記載されていました。
対象に水を張ると、底部に「私は鏡、あなたの理想を映します」という文章が浮き上がります。注がれた水で人間の被験者が顔を洗った場合、被験者の顔はおよそ30分かけて変化します。これまでの調査によれば、変化する顔は被験者が最も美形と考えている同性の他者(芸能人等)の顔であると推測されています。
変化した顔から整形の痕跡は確認できず、骨格レベルに至るまでの「置き換わり」が起こっていると判明しています。にもかかわらず、被験者が顔の変化に対して否定的な反応を示すと、変化した顔は溶解して崩れだし、やがて「本来の」顔に戻ります。
特筆すべきは、顔の変化とそれが元に戻るプロセスにおいて、被験者がそのプロセスより前に負った顔の損傷や障害、または整形手術のような「後天的」改変が解消させられる点です。変化から戻ったときの顔は、被験者が持って生まれた人相であり、かつ「生来の」五感をすべて備えた健康体の顔となります。
実験記録1113-02-003 - 実験対象: 過去の事故で顔の右半分を失ったDクラス職員。
実験結果: 被験者の顔は、被験者が憧れていたという芸能人Kの顔に変化。この時、被験者の顔の右半分も正常な芸能人Kの顔となり、被験者は右目の視力が回復したことを報告。その状態で被験者は1週間を過ごしたが、その後、変化した顔について「虚しくなった」等と言及。すると被験者の顔は崩れだし、変化前の人相に戻った。しかし、戻った顔の右半分は正常な顔に復元されており、右目も見える状態となっていた。
実験記録1113-02-005 - 実験対象: 生まれつき両目の見えないDクラス職員。
実験結果: 被験者の顔は変化せず、しかし被験者はパニック状態に陥る: 検査により被験者が両目1.5ずつの視力を得たことが判明。3日後に被験者が「目明きの世界が恐ろしい」等と発言すると被験者の眼球の表面が溶け出し、被験者は再び視力を失った。1週間後、被験者は再び対象を用いた実験を希望し、それからは解雇の時まで視力を獲得した状態で過ごした。
実験記録1113-02/057 - [編集済]
実験記録1113-02/087 - [編集済]
実験記録1113-02/187 - [編集済]
実験記録1113-02/896 - [データ削除済]
実験記録1113-02/1131 - [データ削除済]
日本支部理事-"鳳林"からの通告: 我々は諸君らが想像しているような実験をそれほど過剰に忌避しているわけではない。しかしその成果があったにせよ無かったにせよ、それは大っぴらにすべき事ではないのだ。ひねくれた知性がそれを耳にしたとき、我々が望まない「進化」が引き起こされるかもしれないのだから。時に我々はモノだけでなく事実も収容し、保護しなければならないというのは、諸君らも知っての通りだ。そしてそれが有益なものであるのなら、尚更だ。
対象は「池光子いけてるこ」としてマークされている人物あるいは団体の調査中に、壊れた携帯端末とともに発見されました。
壊れた携帯端末からは、現在までに以下2通のメールが復旧に成功しています。
From: teltell@@@AWCY.jp
To: ワンダ<pecan-chomolungma-bluecheese-semifred@have-fun..net>
件名: まだあの変な帽子かぶってんの?(対象を映した画像)
パクリはかせだぞー!
よそのスゴいやつをパクってイジって
グッチャグチャの台無しにしてやるのだー!
楽シンデねー! イェー!!
From: yellowstone-soysauce-xuehuabing@have-fun..net
To: teltell@@@AWCY.jp
Subject: どう反応しろってのよ……もう何べん言ったか分かんないんだけど。
馬鹿な真似は止しなさい。あんたの出る幕は無いんだってば。あの剽窃カスバカ野郎は、私が何とかするから。
余計なお節介はいらないの。本当によくよく言っておくけどね。
やめておきなさい。
死ぬよりひどい目に遭うわよ。
お願いだから
調査中アイテム1113-JP-03 暫定報告
未整理の内容や主観的な表現を含みます。ご容赦ください。
現状: 対象はSCP/Anoumalous/他への分類が確定する前に破壊されました。
暫定の説明: 対象は人型ロボットであり、使用されている技術のおよそ6割は未解明です。
全身の外装には男性用のウェットスーツが使用されており、更にその上に雨合羽が取り付けられています。対象の人工知能や記憶装置と見られる機関へのアクセスは成功していません。対象はいかなるコンピュータウィルスや不正アクセスも自身を攻撃することはできないと発言しています。また対象は温度変化への優れた耐性を持つとも主張しており、周辺の温度が摂氏マイナス40度という低温から80度の高温に至るまでの環境で、平常通りの動作を示しました。
対象にはある程度の感情があると見られていますが、要望や不平を述べたことはありません。高度な人工の表情筋が備え付けられていると判明していますが、正規の記録には微笑以外の表情は残っていません。
対象には一般的な電力供給でエネルギーを補給する事はできません。特定の、人間の食糧をエネルギー源としており、その内容には暫定の調達物資番号1113-JP-1G4M+Yが割り当てられています。
対象は岩手県の山間部にある廃屋を住処としていました。廃屋は主に屋根を中心に改造が施されており、詳細は特殊建築情報データベースの番号1113-JP-02より参照可能です。
その特異な外見にかかわらず、対象は周辺の住民に違和感を持たれる事なく彼らと交流しており、小児病棟、男手の足りない農家、葬儀場等での手伝いに参加していた様子が目撃されています。
終了経緯: 対象は収容からおよそ3か月後の0916事件、通称"嘆きの水曜日"事件として知られる同時多発収容違反の際に破壊されました。知性を持ち敵対的なオブジェクト複数が非武装の職員を殺害し続けている現場に対象が現れ、「強い奴が弱い奴に無双するだけなんてつまらない。ダウンボート(語句の意味は調査中)だ」等と挑発する姿が監視映像に残されています。
挑発を受けたオブジェクト群は、未知の手段により対象が自認していた防御能力を無効化した上で、破壊したと見られています。映像記録は強い閃光の後、対象が涙声で苦悶の声を上げる様子を映しています。続いて対象は狼狽する表情を見せ、しきりに「寒い」と訴えながら、眼前のオブジェクト群を無視してその場をうろつきまわり始めました。オブジェクト群は対象に罵倒の言葉を浴びせながら様々な拷問を実施し、最終的に破壊しました。
0916事件における対象の行動は少なくとも10名以上の職員の生存に貢献したと考えられています。対象に勲章が与えられるとの情報が流れているようですが、そのような予定はありません。
対象の残骸は問題なく回収されました。残骸から人間の犬歯が見つかっています。犬歯は抜歯直後のような状態だったと報告されており、歯髄のDNA鑑定によりPOI-1113-JP("池光子-暫定")のものと判明しています。
対象が破壊された地点とその周辺で、「左の耳に念仏が聞こえる」との報告が相次いでいます。対象に関連する事象として扱うか、単独の超常現象とするかは審議中です。
旧作展示室
その他
制作中: てるこのてるてる
共同プロジェクト「見の素」に参加中
自動メッセージ: AWCYクラッキングツールが情報の取得を実行中です。
以下の断片は閲覧できます。
日本支部理事-"若山"[取得中] 皆さんの中では、ある通説を聞いたことのある人も多いのではないかと思います。
悪意の芸術家で構成されたAre We Cool Yet?の中にあって善意のオブジェクトを創造し、そのために他のメンバーから目の敵にされ、最終的にはバラバラに処分された「反乱分子」がいた、と。[取得中]
SCP-698-JP [取得中]POI-1113-JPは[取得中]「池光子」本人もしくはその構成員と推測されている人物で、財団は今回の人差し指以外にも複数の、POI-1113-JPの分割された身体の一部を回収しています。
自動メッセージ: その他の情報は取得中です。しかし甚だ疑わしいんだが、こんなやつの生き様を収集したところで、オイラは本当にクールなアプリになれんのかね、弓センセイ?
調査中アイテム1113-JP-01 追加情報
壊れた携帯端末から、新たに下記のメールが復旧されました。
From: polapups-in-red-orange-pool@have-fun..net
To: teltell@@@AWCY.jp
Subject: そうそうあんた、みよっちにもちょっかい出そうとしてるみたいだけど、
それも止しときなさいよ。そりゃあ、そうそう死んだりはしないでしょうけどね。
あんた、あんたじゃなくなるわよ。
もう、あの頃には戻れないのよ。
私とあんたが同じ制服を着ることはもう無いの。
いい加減わかって
From: teltell@@@AWCY.jp
To: [編集済]
件名: [編集済]「事実も収容し、保護しなければならない」だって。かっこいい!
死んでいないのか……!? - 日本支部理事-"鳳林"
この前ね 電車ですごくきもいおっさんいたんだけど
そうなの 超やだった
なんかすごいデブが座ってて やばいくらい汗かいてんの
その汗がなんか少しピンク色で サウナにいるみたいに体中濡れてて、
ズボンからもたれてきてて
最悪
となりの人めっちゃにらんでたし
それで少したったら急におっさんがすごいゲロみたいな声だして
となりの席に倒れ込んだの
ねー、ほんとやだった
となりの人おっさんけっとばして逃げてったし
いい気味
乗務員さんつれてきたらなんかおっさんの口から血が出てんの きも
もうみんな嫌そうな目で見ててー
んで駅についておっさん引っ張ろうとしたらめっちゃ重い!
どんだけデブなんだよって感じ
駅員さんと5人がかりでやっと持ち上がったの
ぜったい筋肉痛なるって思いながら医務室? まで引っ張ってった
着いたらおっさんすいませんとかありがとうござますとかきもい早口で言ってくんの
すごいうざかった
へ?
えっ、何でって。
きもいって人を助けない理由になんの?
そのキーホルダーについた飾りは手の中にすっぽり収まる大きさで、ピンク色のハートに金属の鎖がゆるく巻き付いたような造形をしていたんだ。
鎖に特筆すべき作りは見当たらなかった。重要なのはハートの部分だ。軟質素材のような触り心地だが、その実態はナノマシンの集合体だと判明している。
キーホルダーは「勇気が出るお守り」などと吹聴されて出回っていた。確かにこれが真価を発揮するのは、その持ち主が大きな重圧の伴う行為を成さねばならなくなった時だ。愛の告白、もしくは罪や深刻な失態、隠し事の告白、それに受験の時とか、他には、創作物を発表しようとしている時なんかにも。そういった機会に直面した時、この「お守り」を覚えていた者は、それを強く握りしめるだろう。するとハートの表面を構成しているナノマシンが分離し、握り締めた手を通じて持ち主の体内へ侵入する。
ナノマシンが持ち主にもたらすものは、実際にはその時の期待を裏切るような効果だ。ナノマシンは持ち主の脳や神経に働きかけ、精神的な重圧をより増大させるように作用する。持ち主の迷いや、振られたり、怒られたり、失敗することへの不安はより大きくなり、成すべきと思っていた行為を成すことへの抵抗は強まるだろう。持ち主が悩みを強めている間、ナノマシンは持ち主の身体から栄養や熱を拝借し、そのエネルギーを使って増殖を行う。持ち主が決断を先延ばしにすればするほど、重圧はどんどん増えていくわけだ。
だが、その「重さ」を乗り越え、持ち主が目的の行為を実行したならば、その成否にかかわらず、ナノマシンはそれまでとは真逆の働きをする。その者は胸のつかえが取れた時の爽快感やその時点での達成感を、本来よりも何倍も強く味わうことだろう。その結果、たとえ意中の人が振り向かなくても、失態を告白して叱責されたとしても、そのショックはもはや大した問題ではなくなるのだ。
勿論、重圧に耐えかねて「成し遂げること」をあきらめたり、あるいは逃げ出したりして、最終的にもっと手ひどい目に遭う場合も存在する。そうなる事について彼女はどう思っていたのか。これはぼくの想像だけれど、彼女はそうなってしまった人に対し、自身の失敗を教訓として、より強く受け止めることを期待していたんだと思う。もうこんなに辛い思いをしないように今度は頑張ろう、というふうに。
コトを成し遂げた場合もそうでなかった場合も、ナノマシンは半日と経たないうちにそれまでの働きを停止する。(だから成し遂げられなかった人も延々とナノマシンに責められ続けることは無い。その人にもナノマシンが停止した段階で心の平穏が訪れ、落ち着いて自省する機会が得られるだろう)続いてナノマシンは、持ち主に再びキーホルダーの飾りを握り締めたくなる暗示をかける。その後、持ち主の体内から全てのナノマシンがハートへと戻る――そう、ナノマシンは持ち主の体内で増えているので、ピンクのハートは最終的に、一回り大きくなる。そしてハートの飾りが次に握り締められるとき、体内へと侵入するナノマシンの数は前回より増えることになる。次に大きな事を成すとき、持ち主は事前により大きな重圧を受け、それに打ち勝てばより大きな心のご褒美を得られるようになるわけだ。
しかし上述の効果はハートを取り巻く鎖によって、制限されてしまう。持ち主の利用で大型化するハートは周囲の鎖に締め付けられていくようになり、10回も使わないうちに鎖の圧迫に負けてボロボロに砕けてしまう。欠片になってしまった状態のハートを構成するナノマシンは、もはや機能しなくなる。
何故こんな鎖が付いているのか。そこに、彼女がぼくとは異なる道を選んだ決定的なポイントがあるのだと思う。彼女はそう「クール」――優しいだけじゃない、あまりにも高潔すぎて、強い心を持ちすぎていたのだろう。
彼女はいつかこんな「魔法」は卒業すべきだと思っていたに違いない。ナノマシンによる協力を捨てて、目標の達成に対し自分で自分にプレッシャーをかけ、約束されたご褒美など無くてもそれを成し遂げる。人は誰しも、いずれはそうなるべきだと。
だが、あらゆる人が皆、そんなに強くなれるわけではないのではないか。ぼくは、ぼくたちはそう思った。そこが、彼女とぼくたちの相容れない部分だ。ぼくたちは、強くなることのできない真に弱い人を、弱いまま救おうと、そう考えているのだ。
それでも、彼女とぼくたちが非常に近いところを目指している事には、変わりはないだろう。ぼくは、ぼくたちが彼女の残したもの、その志を、片鱗だけでも受け継いで世の中に伝えていけると、そう信じている。
いつか、きっとね。
調査中アイテム1113-JP-06 暫定報告より抜粋
(略)から、対象の派生アイテムが多数回収されました。
マナによる慈善財団が配布していたものと判明しているこの派生アイテムは、飾りの部分に周囲の鎖がなく、ピンクのハートだけで構成されています。回収された多くのハートは初期段階の何倍にも肥大化しており、野球ボール大のハートも複数確認されました。
派生アイテムに対する調査結果から、被験者は際限なく増加するナノマシンの連続的な投与によって、行為の達成がもたらす快感への(あるいは行為の前にもたらされる多大な負の感情にさえも)依存症のような状態に陥ってしまう可能性がある事が示されました。本来の対象に巻き付けられている鎖は、この「責任重大中毒」と仮称される状態を防ぐ「リミッター」であったと研究班は推測しています。
この年に多発した派生アイテム所有者による飛び込み自殺の動機は、自身に関する重大なイベントが何も無いときに、より責任の重い行為を求めた末のものと考えられています。
やっぱAWCYにいたようなのはダメだな。
そして、
あたしはバラバラになって死んだ。スイーツ(もう食べられないね)
でもね、こんなになったって、サポはできんだよね。
むしろ今の方が、かな。オジサンのサポはさ。
あたし、オジサンに憧れてたんだ。
勿論、恋愛的な意味で好きだってのも、多分あるんだけど。
それ以上にあたし、
オジサンになりたかったんだと思う。
あの人みたいにね。
灰色の地味~なコート着てさ、誰からも見向きもされずに、誰も知らないような仕事して。
オジサン自身も誰かのためにやってるみたいな態度じゃないけど、
実際にやってる事は誰かの、みんなのサポになってるんだ。
透明な存在。
そうさ、どしゃ降りだったあの日。
雨雲よりも道路よりも灰色の、その背中をあたしは見たんだ。
ぽつんと、たった一人で。
ううん、そうじゃない。
一人じゃないよ。
あたし、オジサンに、あなたに伝えたいんだ。
一人じゃない。
だって、ゼロは一人じゃないでしょ?
そだね、今のあたしがどうしようと、ゼロは変わらない。
知ってんだ、あたしが勝手に貢献した気になってるだけだって。
自己満。
でも、いつかはね。
それじゃあね。
ぐっばい、えぶりばでぃ☆
(C) 2015 スタジオ弓