常ならぬ木


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 幾度となく物と化す人を見た。私は物にはならぬ。死とはすなわちそういうことだ。呪いが、そうさせる。ああ、不朽の王よ。白く巨大な城で金剛と白金の首飾りとなる不朽の王よ。無慈悲な殺戮者に呪われた不朽の王よ。その内に何を持つ。持たざる者は持つ者を貶めるのだろうか。生あってこその死、死あってこその生ならば、不朽の王よ、王は生きていらっしゃるのか。

 木は朽ちる。土となる。降臨の欠片を乗せ、肥沃の土となる。燦然と輝く根源のはるか底を支えて。展開と回転は蓮のように。

 城こそが王である。王の内的世界が城となり、また私となる。私が奪った幾万の火の生よ。城を積み上げよ。王となれ、私となれ。抑圧の果てに灰になれども、私は止まらぬ。私は止まらぬ。己を論理であると定義し、人間性を薪とし、将軍となって剣を振るうのだ。兵どもが死ねども、私が死なぬ限り、私は兵どもを引き連れて前へ前へと進む。おお、異常なる獣よ、覚悟しやがれ。

 木は朽ちる。明示の名のもとに朽ちる。土は濁流となって幾千の嵐を継ぎ、大海へと流れる。いずれ共に流れ着く。黄金の野山のさらに向こうから。

 二重螺旋の束をもとにヒトを形作る。これこそが異常なる獣を巻き戻し、世界を保つ手順である。坂を上る毬のように不条理なれども、毒も薬の内である。異常を以て異常に克つ手順こそがあの白き城の瓦である。幾千年の末に物となった者どもを覚える人が消えることはない。私が常にそこにいる。城に記憶を枷のように彫刻し、私は私であることを止める。山を支えるただ一本の朽ちぬ木へと。それが、私の役目なのだから。

 木は朽ちる。ただ朽ちる。斬新の木の糧となり、無限の熱量を初期に持ち、依然として無限の熱量を持ち続ける。

 欠けぬ、止まらぬ。峻厳と立ち続ける。我は不要なり。情も不要なり。アトラスの大腿四頭筋の張りのように立ち続ける。生命がある限り。法則が法則である限り。木の根が朽ちれば私はそこへと奔走し、私を当てはめて立ち続けさせる。憐憫の声は不要なり。私こそが唯一不変の者である。私に無常は無く、常に『常』である。幹としてヒトのために延々、延々、延々、延々、延々。

 木は朽ちる。その洞に蓮を浮かべ、重ねて朽ちる。二重螺旋の維管束は光の名のもとに流れ続ける白金の水を運ぶ。光ある限り、これは不滅そのものである。

 恒星の熱を持ち、滝つぼのように冷たく、葉はそれぞれ光を放ち萌え続ける。その魂をやつす肉体が肉であろうとも、なかろうとも、葉はその役割を携えて萌え続ける。ただ許されないのは枯れ、朽ち果てることのみ。ああ、許せ。私はぼろきれだ。終焉の時までそれは許されぬ。我を滅せよ。光となれ。我を燃やしヒトの未来を照らす光となせ。

 木の芽吹く。新奇の木が白き不朽の光に照らされて新たに聳え立つ。厳然と待つ黄金の大海をその眼下に納め、白金の露を飲み干さんとする勢いで。

 時は無意味である。未来の先に過去が在り、逆は当然として在る。昨日の明日は明日であり、明日の過去は今である。ヒトは未だ見ぬ明日を求めて萌え続ける。枝葉を整えるのが私の果たすべき役割である。唯一の不朽たる白く巨大な王の役割である。あるべき間を埋める湾曲した枝を切り、正しい木の芽を然るべき場所に埋める。果てが来るまで私は維持する。この安眠を正しく覚醒に導かねばならない。

 木の芽吹く。然るべき土の上、然るべき幾千の嵐を乗り越え、圧巻の大木となる。木は朽ちる。いずれこれも、土となり、新たな芽の寝床となる。

 私は指示する。私は指定する。私は憐憫となる。私は決断となる。私は常に在る。白く巨大な玉座に座し、ヒトの夜明けをただただ追い求める。私こそが光である。

 我が名はジャック・ブライト。私こそが財団であり、人類の杣人だ。

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