遅すぎだぜ -EndGame-
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 寸でのところで攻撃を躱し、返す刀で電撃砲の一撃を放つも、奴は一瞬で視界の外に逃げた。
 イオンは前方7メートルほどの位置で、奴と決死の肉弾戦を繰り広げていた。傷を負っても再生するイオンだが、攻撃は当たらない上に敵の手数は凄まじく、一部で再生が追い付いていない様子だった。

「フン。遅すぎだぜ」

 我ら共通の敵――恐るべき音速ハリネズミは、肉の神から盗んだ力を自由に操るばかりか、我が教団から盗んだメカニト専用キック力増強シューズを履きこなし、已む無く共同戦線を張った我ら二人を相手にしても、澄ました顔で大地を駆け回っていた。
「どうだ、ブマロよ。神すら操る俺こそ真の超越者として相応しいだろう?」
「そうは言うが、ハリネズミを信仰する人間はおるまい」
「黙れ! 口の減らない奴め。いいだろう、さらなる絶望を味わえ。俺の真の姿を見せてやる!」
 怒声を放つと、ハリネズミは全身から凄まじいエネルギーを放出して発光した。眼球のレンズを調整して目を凝らすと、光の中心にぼんやりと輪郭が浮かび上がってくる。

「ククク……この姿を見せるのはお前たちで9人目と10人目だ」
「結構いるね……」
「黙れ! 俺が本気を出した時生きていられた者はいない!」

 そう言った刹那、耳を劈く爆音が響き渡った。強風に思わず身じろぎする。舞い上がった塵埃が晴れると、奴の姿がはっきりと我が目に入ってきた。

「この完全なる美しき姿に平伏すがいい」

 その腕は、人間のように細く伸びていた。足もカモシカのように長く伸び、相対的に巨大な頭が小さく見えた。顔だちも、目が小さくなり、白い歯が生えそろい、一見して毛むくじゃらの人間のように見えた。

「気持ちわるっ……」

 思わず正直な感想が漏れてしまい、私は右手を口に当てた。その姿――人とも獣ともつかぬ姿はまさに“化け物”と形容するに相応しいものだった。

「何だと貴様ァ!」
 いきり立つハリネズミ。しかし、傍らのイオンがさらに追い打ちをかけた。
「うん、僕もすごく気持ち悪いと思う……リアルにしようとして思いきり失敗してる感じ。僕が神様だったら、きっと作らない方が良かったと思ったんじゃないかな」
 臓腑を抉るような容赦ない言葉を前に、奴の怒りは頂点に達した。
「この俺の最高速度でブチ殺してやる!」
 そう言いつつ、奴は思い切り地面を蹴った。長くなった足から繰り出されるアタックを警戒した我々が聞いたのは、「グキッ」という嫌な音だった。
 ハリネズミは、何事かを叫びながらのたうち回っている。

「捻挫したみたいだね」
「急に足を長くしたからだな」

 私とイオンは、息を揃えてハリネズミに向け雷撃と肉の一撃を放った。奴は爆発四散し、その灰はキラキラと天に昇っていった。

「ブマロ、近くのお店に寄らない? おいしいシュワルマがあるんだけど」
「遠慮しておく」

 私はおもむろに、ハリネズミのいた場所からシューズを回収すると、信徒たちの待つ教会へ向けて飛び立った。

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