さよならも言わずに
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の中を駆けてどのくらい時間が経ったろうか。

財団には今は邪魔だと言われ眠らされた。

だから俺は世界に何が起きたか、どうして起こったのか何も知らない。

俺は辿り着いた。ここになら、何かある。

SCP-2000ポンコツクソ機械へ。


声紋認証

黒き月は吼えているか?

生憎パスワードなんざ知ったことじゃない。適当になんか言ってみることにする。

「そもそも月は黒くねぇ」

声紋認証クリア。ようこそ、ジャック・ブライト様。

こりゃ多分答えに何言っても良かった。もうちょい面白い答え方したかったが、開いちまったもんはしょうがない。

ともあれご開帳。SCP-2000の股を弄ってやる。溜まってんだよ。


「おー、見てみたら2000の内部に猿がおるで。いつから動物園になったんや?ここ」

入ったらすぐ、若干高い日本西部の方言。日本支部行った時会ったことあるやつだ。つか久しぶりに聞いた。

「あんたカナヘビか?俺だよ」

今やトレードマークの首飾りを持ち上げる。妙にでかいモニターから、カナヘビ。相変わらず表情が分からん。しかも若干どアップだった。

「やっぱりアンタか、ブライトはん。こんなとこまで何しに来てはるんや?」

「薄い本探しにな」

「うそこけ」

「バレたか」

どうでもいい会話はそこまで続かなかった。多少真面目な話をすることになりそうだ。

「で、ホントは何探しに来たんや?」

「色々だよ。俺は目ぇ覚めたら外は灰色。人っ子一人いやしねぇ。クソッタレだ。何があったか知りてぇだけだよ」

カナヘビは「ほーん」とか言いながら俺を見ている。

「実はな、ボクもそこまで何があったかなんて分かってへん。当事者だったんだけどボクはヒトが溶けるとこしか見れへんかったわ」

「つまり?」

「アンタと同じや。ここは気になってる」

俺は適当な返事をしてデータを漁ることにした。クソつまらんデータでも1人で見るよりか2人(?)で見た方が笑えるだろう。

「どうせ同じようなことの繰り返しだ。結果見ちゃうか?」

「せやね」

辺りにはアンドロイドがいない。修理は終わったが造った人類がナノマシンに勝てなくて2000による人類復興はダメだったと言った感じか。まぁ一応答え合わせでもしてみる。

「カナヘビ、アンドロイドはこいつの起動に成功したのか?」

「成功しただけや。結果としちゃなんも変わってへん」

「皮肉なもんだ」

新しいことが知れたには知れたが、疑問はまだ腐るほどある。よく言い表せないが、とにかくそんぐらいあるってことなんだろう。別の記録もおもむろに開いてみる。

「で、その結果がこれってわけ?」

「そういうこと」

「こんなお先真っ暗なのが分かってたのにか?人類復興は無理くせぇのにこんなこと言ってたのか?」

「そうでもして嫌でも前向かなきゃ人類はもっと早くダメになってたやろ」

ああクソ、なんも言い返せねぇ。財団お得意のカバーストーリーか。デカい嘘をついたもんだ。


その後は民間人の記録は邪魔なので省きまくった。どれも見てるとこいつらみんな騙されてたんだなぁ〜とか思ってアホくさくなる。キモのO5の記録はO5-12の記録がすっぽり抜け落ちていた。こいつだけはなんも喋んねぇし投票にも棄権ばっかでまともに参加してねぇ。参加するにしても多数派に入れてばっかだ。

だがそれも今んとこはってだけだ。気になるファイルが一つだけ見つかった。ファイル名は「ブライトへDear Bright」と書かれてるだけのファイル。開こうとしたら声紋認証が再び起動していた。

「開けゴマってか?」

機械がまた声紋認証クリアの音声を投げかけ終わった瞬間、パタンと何かロックが外れた音がした。こういうのはロマンあって好きだ。探索者気分が味わえる。

「見ろよカナヘビ」

「なんや?」

「ゲームのあるあるみたいな状況だ」

「何言うとんねん」

「どっかで鍵外れる音がしたんだよ」

「そりゃ楽しみやな」

ちょっとしたワクワクと共に開いたボックスの前に移動する。

「よし、開けるぞ。ミーム殺害エージェントとか入ってたら笑ってくれ」

「へいへい」

開けて、中身を見てみる。

入ってたのは……手紙と白衣。

「何が入ってたんや?見せて」

「手紙と白衣だ。売れば薄い本の1冊や2冊買えねぇかなぁ」

そういう話をよそにカナヘビはまた聞いてくる。

「ラブレターかもしれへんよ。モテる男はつらいねぇ」

「愛なんざとっくに枯れ果てたって」

多少の冗談混じりの話をした後に、とりあえず開けてみることにする。ここまで来たら興味の方が勝ってしまう。

俺は紙をクシャクシャにして放り投げる。ついでに白衣から見つけたタバコとライターだけ抜き取って、外へ出ようと歩く。

「情報の収穫はなしだ」

「そりゃ残念やな」

涙はとっくのとうに枯れ果てた。なのに今はツーンとした感覚が鼻から目まで登ってきている。勝手に行っちまったクソ野郎だってのに。俺と面識ねぇ妹だの弟だのに構って俺に父親らしいことなんざ何一つやってこなかったゴミカスだったってのに。どっちもクソッタレだ。死んで詫びろとは何度も思った。何にしても俺だけ残されちまうのも予想はできてた。でも腹が立つのとこのツーンとした感覚のせいで頭がぐちゃぐちゃになっちまいそうだ。なんなんだ。家族愛はクソッタレなぐらいにアホらしい。けどそれを否定できない。なんなんだよ。悲しみも愛も枯れた身をどうしてまだ絞り出そうとしてくるんだよ。最後まで強がらせてくれよ。

「どこ行くんや?」

「……散歩」

カナヘビはこれ以上何か聞くわけでもなかった。俺はタバコを咥えて、火を付ける。灰色の世界に、赤いタバコの先とこれまた灰紫色の煙。少し霞む視界。

タバコは少ししけっていた。

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