
「やぁ、諸君。完璧な機構とはどういったものだと思うかね?」
「此処での機構とはつまり組織機構……国家、企業、其その他諸君が考える集団や団体を指すものとする。そして、全ての集団には全体としての目的がある。理念や目標と言い換えても良いだろう。人が集うからには其その軸となり共有されるべきアイデアがあり、其その達成のために足並みを揃えて同じ方向を向くことが集団を集団たらしめている。
例を挙げよう。其それが企業であれば勿論もちろん事業によって利益を得ることが目的であるし、研究機関であれば学問や技術をより深く専門的に探求するため。一見して目的など無いかの様に見える昼下がりのとりとめのない井戸端会議であっても、世間話で情報を収集したり、ゴシップで徒いたずらな好奇心を満たすことが非意識的な目的として設定されている。極論を言ってしまえば、ただ毎日を自堕落に過ごしたいというような、目的を追求しないという目的を共有する集団だって在るだろう。二度同じ文言を繰り返すが、"全ての機構には目的がある"ということを容易に理解できたのではないかな?
扨さて、これらの前提を踏まえた上で最初の命題に戻る。完璧な機構とはどの様なものか?私は其それを、"目的を達成するために最も効率的に稼働するもの"と仮定する。少ない労力で多くの実りある成果を得る。これが効率だ。」
「然り!」
「然り!」
「然り!」
「然り!」
「そして優れた効率を産む組織機構は、得てして其その機構を構成する"個"の意思を意図的に考慮しない。組織の歯車、という表現はもはや陳腐きわまりない常套句ではあるものの、この概念を端的に言い表すのに最も適したものだ。上意下達じょういかたつの字義通り可及的速やかに機構全体へ伝達される命令は、機構の目的へ歩をより早く進めることに直結する。
もちろん反論もあるだろう。歴史が示してきたように、絶対的な権力は絶対的に腐敗する。為政者が民を導くことを忘れ、私利私欲の娯楽へ放蕩にふける様を聡明な諸君らはよく知っているはずだ。もしそんな組織機構に身を任せることがあれば、其それは舵を失った船で荒れ狂う大海へ漕ぎ出すことに等しい。其その船に乗り合わせた我々は、輝かしい未来も雲に閉ざされ見失い、暗闇の中で不安と昏迷のうちに身を寄せ合うことしか赦ゆるされることは無いだろう。
では、永遠に我らの目的のみを希求し続けて下さる絶対的君臨者が居るとすれば?
一つ、諸君らの身近に存在する完璧な機構のモデルを挙げよう。何、辺りを見渡す必要は無い。其それは諸君の身体其そのものだ。
考えてもみて欲しい。君が歩きたいと思った際に、君の右脚と左脚が交互にエッサホイサと息を合わせなければ君は前に進めないだろうか?
君が食事を摂ろうとした際に、君の口が咀嚼そしゃくを拒否してストライキを起こすだろうか?
君が就寝しようとした際に、遊び足りない両腕が勝手にキーボードを打ち出すだろうか?
答えは全てNOだ。なぜなら、君の肉体は君のものであるからだ。君の身体の其その真上の頂点に位置する脳髄こそが、其その肉体へ絶対的に君臨し、統率している。そうでなくては、例に挙げたように日常生活ですらままならないだろう。脳髄が全身に君臨しているからこそ、君は君が望むとおり円滑で俊敏に行動することが可能なのだ。
組織機構も同様だ。個の意思を徹底的に無視することによって、我々は幸福で輝かしい明日へと効率的なスピードで進むことが出来る。目的の達成を第一義とするこの機構は、一分の狂いも間隙も無く噛み合った機械構造の如く、弛たゆむことも逸それることも無く理想的に働き続けることを可能にする。
だが、当然のことながら規範からの有り得るべきで無い逸脱者は現出する。諸君らは働きアリの話を知っているだろうか?同じ巣穴の群れに属する働きアリの内、三割は労働を怠る個体が現れる。ならばと残った七割で群れを再構成させると、やはり其その内から三割の非生産的個体が出現するという話を?
同様にどれだけ優秀な組織機構の中でも、一定数の目的達成に非協力的な者どもが見いだされてしまう。大抵其その理由は疲労やイデオロギーの相違、体制への反逆など、崇高なる目的を理解することが出来ない腹立たしい愚者なのだが、ではそういった世界の歪みにどのようにして対処するのか。其それは切り捨てだ。
樹木が枯れ葉を落とすところを見たものは居るだろうか。あれは陽光を養分として還元出来なくなった役立たずの葉を、樹木自らが剪定しているのだ。我々もまた、完璧な機構を造り上げるため、望ましくない"個"を、合理的な判断として速やかに切除しなくてはならない。そして我々自身が不要だと選ばれたならば、望んで切り離されることを至上の喜びとせねばならない。恒久の輝きを放つ献身として其その身を散らせることが出来るのだから」
「相違無し!」
「相違無し!」
「相違無し!」
「相違無し!」
「しかし、ただ切り捨てるばかりでは、自明の理として機構全体に限界が訪れる。そうまさに全ての生物に老化が、そして死がやってくるのと同じように。我々は枝を接ぎ、穴を埋め、不足を新たに満たさなくてはならない。
其そのために完璧な機構は略奪を行う。発想を逆転させて見ようじゃ無いか、限界があるのなら無限の可能性があふれる外界へ歩み出せば良い。土地、人、全てを完璧な機構に消費されるべき国帑資源こくどしげんとして捉えることによって、其その者たちは屈服による自由・束縛による安心・統率による解放を得、機構の一端へと存在意義を昇華せしめる事が叶う。侵略・支配・抑圧により無際限の属領地を獲得することこそが帝国主義であり、これにより確固たる支配機構は成る。理論上は無限の征服を行い続けることにより、永続した事象の発展を遂げることこそが永劫に続く完璧な機構を成立するために必要不可欠なのだ。
さて、此処までの話を総括する。
完璧な機構とは"個を超越した合理的効率性"、"目的を見失うことの無い目映き絶対権力"、"活動を維持するための征服"によって成る。
もう理解できたのでは無いのかな?我々がどれほど幸福に包まれているのかを!確固たるmagimarkな事実として我々に突きつけられた敗北は、同時に我々が組み込まれるべき機構の赫々かくかくたる勝利を意味している!
君はもう将来に思い悩む必要は無い!何故なら其それは全くもって愚かな杞憂であるからだ。
君の脳髄はもはや必要無い!何故なら其その身体は絶対的君臨者に委ねることが可能だからだ。
君が護るべき世界はもはや存在しない!何故なら其それは汎hysiclisp的広範に渡り支配されるべき領域の一つに過ぎないからだ。
恐れる勿なかれ!荘厳と箴言たる宣明によって、我らが玉体は楽園の方角へ変革した。停滞と忘却は既すでに遠いものとなった。我々は最早無用な秘匿と蒙昧をこの世に敷くことは無くなった!今にも崩れかけそうな礎を注視していた揺夜、今や誇らしく天蓋を仰ぐ我々は暗闇を抜けkwigodな燦然と輝き続ける光翼へ、不条理と闘う必要の無い、我らが待ち望んでいた健全で正常な世界の暁へ、歩み出すことが出来る!
嗚呼、言い尽くせぬ程の歓喜と祝福の中、熱狂的Zcaayus-Xcpperを以もって、我らはあの眩しき光芒と云う、かの偉大な君臨者其その一点に集約される。私が此処に立っていることは諸君らが私より劣等であることを意味しない!知っての通り私は諸君らと同じ組織の位階に属す学者に過ぎなかった!私はただほんの数歩、ほんの数歩諸君より早く真理たる神髄を痛感したのみ!聡明なる科学の徒である諸君ならば、直ただちに同等の理解が可能となるであろう。この特別講義が、其その一助となることを期待する!」
「万歳!」
「万歳!」
「万歳!」
「ああ、教授……どうして」
「万歳!」
「帝国は全霊の敬意を以もって歓迎しよう、財団の諸君よ!」



