砌祈調査員の遺書
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20██/09/██、SCP-2999-JP-Cとして財団に雇用されていた実体の内1体が、その外観的特徴に於いてSCP-1999-JP-Aと一致するとの指摘によって調査対象へと回されました。
その調査結果とSCP-1999-JP-A実体の有する現実改変特性、並びに雇用されていた実体から回収された"脚本"の内容を総合的に判断した結果、財団上層部は現在の財団に於ける雇用基準そのものがSCP-1999-JPの影響を受けている、と結論付けました。

20██/10/██、問題のSCP-1999-JP-A個体の収容を完了。その他のSCP-2999-JP-C個体群に関しての処遇は……






SCP-2999-JPのあの1件は、「アノマリー職員への不当な扱いは許容されない」として決着したのではなかったのか。それが再度覆されたのが20██年、あれから十何年、はあまりに多くのものを目にし、そして自身でも経験しすぎた。

僕は長らく、アノマリー職員迫害への対策とカウンセリングをやってきた。「人間の子供サイズのカマキリのよう」なんて言われるように、自分も "異常" である僕だからこそ、本当に彼らに寄り添って癒し、解決できる。そう考えて自ら倫理委員会に転向したのが、最早哀しく、懐かしい。

でも、意味なんて無かった。"普通"の職員と同じになれた筈の僕たちはあの日、再び突然"オブジェクト"へと堕とされた。

「現在の財団の雇用基準は、既知のアノマリーによる改変影響を受けていると見られる」

のだと。

「現在雇用されている異常な職員群は、アノマリーによる改変以前は財団による収容対象であった存在であるものと考えられる。しかし現場の人手不足と混乱の回避を目的として雇用自体は継続する。」

と。

その通達が来た瞬間が、この現状の始まりだった。その通達の内容は、"普通"の職員たちの意識を徐々に壊して変えてしまった。

あるアノマリー職員は、職場で自分の手首を切った。「収容されるべきオブジェクトでありながらやむを得ず雇用を続けねばならない存在」としての扱いは、彼女の心に重くのし掛かっていた。収容されるべきなのにされていない、そんな存在に向けられる目だ。

そして僕らへの扱いは、同僚からの視線のみならずその待遇自体も変わっていった。福利厚生は減っていき、サイトや機材への損害による財政難では、アノマリー職員への支給から、優先的に差し引かれていく。……分かってる、この扱いは"当然"だ。むしろオブジェクトである僕たちに、支給がある事の方が"おかしい"んだろう。事実 "非異常な" 職員の増員は進められ、僕らを"正しく"収容対象に回す準備が進められている。

そんな扱いの中で、手首を切った彼女の行為に突き返された返答は

「異常性を鑑みた上での致命傷となる可能性の低さから、パフォーマンスの域を出ないと判断する」

というものだった。「中途半端に職員扱いされるより、いっそ収容された方が楽」、そんな言葉を前にして、僕は何もできなかった。

「過度なパフォーマンスは君の収容室への移籍を早める結果になるだろう。」

彼女の言葉とすれ違う内容の警告は、彼女の言葉が何一つ届いていない事の表れだろう。それにどうせ全員収容すると決まった上での、その警告に何の意味がある……?

勿論、僕は異を唱えた。でもその訴えは無効となった。

「異常存在の雇用自体が既知のアノマリーによって引き起こされたと判明した今、雇用下にある異常存在が相互に結託する事は好ましくない」

……僕にはもう、アノマリー職員たちのための発言権すら無いらしい。

僕は、僕を信じ頼ってくれた彼らにどんな顔をすれば良いんだ。今の僕は、助けを求めて来たアノマリー職員たちを延々と裏切り続けるだけの存在だ。

昔の僕は実際に、幾つかの問題を解決できていたと思う。まだ倫理委員会がマトモに動いていた頃は、僕が中心に立って幾つものハラスメント事例を扱った。だから僕はハラスメントの解決と被害者の救済が、自分の中での使命になっていた。大きな事から日常の些細な問題までを扱う、 "優等生" になっていた。

……もしかしたら、僕が倫理委員会を変えてしまったのかもしれない……時に、そう思う事もある。尤も、そうは言っても実際のところは分からない。でも、 "非異常" の委員会メンバーたちは、緑色の、自分の臍周り程の背丈の "優等生" を内心疎ましく思っていたのではないか。……分からないが。

何にせよ、もう僕は倫理委員会にいる意味自体を失くしてしまった。カウンセリングで訴えを聞く度、自分も心の傷を抉られ、無力感だけが増していく。それにドローンの設計や各種専門の知見に於いて、既知のアノマリー職員と同等の働きができるDクラス出身者を、代替職員として試験雇用する試みも検討され始めたと聞く。……僕らの存在は何だったのだろう。僕はもう受け止めきれなくなった。誰かの傷も自分自身の傷も。僕は自分も迫害を受けながら、それでも誰かの傷を癒せる程に強くなかった。

死ぬ前に、僕の被害者のリストアップをしておこうと思う。
僕が裏切った全員のリストではなく、ここで今この瞬間に、僕がやっている事の被害者のリストだ。

この中には、所謂「アノマリー職員への迫害」に苦しんだ人達が多く含まれると思う。信頼してくれていた人達を、僕は最期まで易々と裏切る訳だ。

その裏切りの、被害者のリストが以下だ。

  • 「共にこの差別を解決へと導こう」という約束を、一方的に破られた多那瀬料理長は被害者である。
  • 「ミギノリがそんな事企む筈があらへん」と、僕を必死に庇ってくれた咬冴隊員は被害者である。
  • 「危険なGoIへの対抗のため」に作った筈のウィルスプログラムを、こんな目的に使われた集姫鈴呼SEは被害者である。
  • 「本部のサイトから持ち帰った噂話」、「眉唾もののジンクスか都市伝説」として話した筈の内容を、勝手に真に受けられた█████(名前は伏せる)は被害者である。(そのナンバーを勝手に探し当てたのは僕だ。)
  • 「システム侵入に丁度いい」等という勝手な理由で、折角出張までして組み上げてくれたサーバールームの中を荒らされる集姫鈴音IEは被害者である。
  • SCiP.NETへの侵入者の為にこんな夜中に駆り出され、僕を射殺しなければならない機動部隊の面々は被害者である。


思えば、本当に沢山の人達を裏切ってしまった。
財団そのものも裏切ってしまった。

これは財団の使命と個人の勝手な使命の、優先度を履き違えた愚か者の単独犯行だ。

もうすぐアップロードは完了する。もしこのナンバーそのものが本当に破壊者なら、




いや、もう足音が近い。


さよなら













アップロード完了



























SCP-048


通知: 以下は無断アクセスによって改竄された文章です。バックアップ後に前リビジョンに差し戻されます。

アイテム番号: SCP-048

オブジェクトクラス: Decommisioned

特別収容プロトコル: SCP-048は直ちに破壊されなくてはなりません。

説明: SCP-048は財団職員が有する、異常性を保持した職員に対する差別感情です。
これらの感情を有する者は財団の「保護」の理念に反し、数多くの "オブジェクト" の自己終了の遠因を作り出します。そして何よりも彼らと同じ財団へと忠誠を誓い、例え自らがオブジェクトであろうとも職員、共にある仲間たちとして献身を続けてきた筈のアノマリー職員を攻撃し、迫害することの倫理的観点からの異常性を認識しません。確かにアノマリー職員たちは収容対象なのでしょう。しかし迫害対象ではない筈です。例え一時のまやかしであったとしても、僕たちは財団の仲間でした。

アノマリー職員は不当に扱われるべき対象ではありません。この様な差別迫害そのものこそが、本当に破壊されるべき対象です。

これで終わりにしてください

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