夏休みふしぎ発見ノート: 2年3組 ██ 優希
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まだ熱のこもる夏の夜、優希は森の中を一人歩いていた。

背負いのリュックには水筒にお菓子、文房具、そして『夏休みふしぎ発見ノート』と題された、1冊の大学ノートが入っている。つばの広い帽子を被り、首から双眼鏡をぶら下げる少年の姿は、さながら密林を征く小さな探検隊員だ。夏休みの自由研究として、優希は「不思議」と思ったものをノートにまとめることにした。なんとも薄味な研究だが、優希には勝算があった。小2ながら、優希は「質より量」理論を理解し、実践したのだ。

ふしぎその21: かみきりむし

日にち: 8月2日

ばしょ:

せつ明: お父さんといっしょに見つけた、緑色でとてもきれいな虫です。ナシみたいな形をしていて、美味しそうな香りがします。でもお父さんは「気のせい」と言っていました。家に持ち帰ったので、後で味を確かめてみます。お母さんが捨ててしまいました。ゴキブリ呼ばわりはあんまりだと思います。

ふしぎその28: ウサギ

日にち: 8月2日

ばしょ:

せつ明: 茶色い野ウサギです。学校のウサギとちがって、おじさんみたいな変な声で鳴くので、少し気持ちわるいです。お父さんは聞きとれませんでしたが、僕は「パセリ」とはっきりしゃべっているように聞こえました。パセリが好きなのかもしれません。今はほけんじょにいるらしいです。

子どもにとって、普段行くことのない山という地は「不思議」の宝庫である。森に根付く植物、虫、鳥、動物すべてが、優希には見慣れない新鮮な物として映っていた。これまでに記録した不思議は、近所にあった「煙を出すタイヤっぽいもの(不審火と判明)」「くねくね動く髪の毛(ハリガネムシと判明)」等を含め、すでに29個にも上っている。優希は先生から褒められる姿を想像しつつ、記念すべき30個目を見つけるため、昨日行ったばかりの裏山に分け入った。

しかしこの時、そばには昨日いたはずの「父」の姿は無かった。それもそのはず、今回の探検はある種の「逃避行」でもあったのだ。原因は優希の見つけた「幻のふしぎ」にあった。

ふ`"30: まんが

にち: ゜3日

"ょ: 公園

せ' 女の子の頭が゜"  '`ます。すごく怖かったで`’

「こらっ、子どもがこんなもん読むんじゃない!」

優希が拾ったのは、暴力的表現の多い青年漫画であった。しかし教育上宜しくないということで、父親が取り上げてしまったのだ。優希は反発した。涙を浮かべながら、優希はノートを掴み取り、家を飛び出した。

「大人ってずるいや」

そう呟きながら、道なき道を進んでいく。夜の森は、昼とは違う神秘的な様相を呈する。暗黒から来る恐怖心、そして孤独感よりも、優希は探究心の方が勝っていた。もっとすごい不思議があるかもしれない…優希は胸を膨らませる。その時だった。

「「「俺はパセリ…」」」

「あっ、ウサギさんだ!」

聞き覚えのある声に安心し、声の元を探る。だが奇妙なことに、声は四方八方から聞こえてきた。目を凝らすと、藪の中に光る眼がいくつも確認できる。一部は優希の背丈よりも高い位置にあった。

「えっ…ウサギ?」

優希はここにきて、彼らがパセリのお化けであるとの確信に至った。パセリをいつも残すから、パセリのお化けが懲らしめにきたんだ…優希はようやく恐怖し、走り出した。

「俺はパセリ…」「俺もパセリ…」「俺はパクチー…」

パセリの亡霊から逃れるため、必死に元来た道を駆け抜ける。だが一寸先は闇、電灯も持たずに来たため、優希は知らぬ間に迷子と化していた。

「俺達はパセリ…!」

憐れ、少年はパセリの付け合せに───

優希!

「…えっ?」

闇から一転、眩しい光に照らされる。父だ。父が探しに来てくれたんだ。

「お父さん!」

優希は父の胸に飛びこむ。気がつけば、パセリの大群は消え失せていた。喜びを噛みしめると同時に、疲れからか、猛烈な眠気に襲われる。

「えっと、ごめんなさい…あと、ありがとう…」

「いいんだ優希。父さんも悪かった。…また一緒に探検しよう、な?」

「うん」

優希は父におぶられ、家路に着く。肩に1枚の葉を乗せて──



AO-36304
説明: 窃盗や災害などの外的要因も含め、本人が意図せず紛失した所有物が必ず手元に帰ってくる成人男性。なお、紛失した物が必ずしも無事とは限らない。
回収日: 19██/██/██
回収場所: エージェントとして雇用後、異常性を発見。
現状: 所属部署を変更し雇用を継続。

AO-45623
説明: 低脅威物品に誘引されやすい体質の少年。
回収日: 20██/██/██
回収場所: [編集済]。空輸中の事故により付近に散在していたAnomalousアイテム群の回収に貢献。
現状: 財団付属██小学校に在学中。本人の意思と経過を見て、将来的なエージェントとしての雇用を検討。

腕白でもいい。このまま好奇心を忘れず、たくましく育つようにと願っています。 - ██管理官

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