戯曲
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 えーこれからお話しますのは、或る三人組の少年達に起こった怪異譚であり、我々がSCP少年団を設立するに至った前日譚であります。

 昔々と言う程ではありません。ごく最近の19██年晩夏の事でございました。
 地方都市の田舎に住む少年三人組がおりまして、名前や渾名の頭文字を取ってそれぞれ、少年S少年C少年Pとしましょう。
 少年達はとても仲の良く、自他共に親友だと言わしめる三人でした。
 当時小学校の六年生でしたが、小学校を卒業しても中学高校も大学までもずっと一緒に居よう、とお互い言い合っていたそうです。
 ではここで三人組の紹介をば。

少年Sは、仲間の中でも取り分け活発で、運動神経も頭ひとつ飛び抜けておりました。
 しかしそれを除けば、どこにでもいる平々凡々な少年です。

少年Cは頭がよく、テストの点は仲間の中でいつも一番です。
 しかし彼には自尊心の塊の様な気があり、頭でっかちだとか、またおしゃれに、メタボリックシンドロームとか、影で言われておりました。

最後に少年Pは、仲間内で一番平々凡々な子です。
 こう言うのもなんですが、Pはほどほどに賢く、ほどほどに運動が出来、全てがほどほどでしたから。
 しかし臆病で体も小さく脆弱だった為、虐められ、いつも少年SとCに助けられている具合でした。
 さて紹介はこの辺にして、本題に移ります。
 ある日、三人組の学校で林間学校が行われる事となりました。

 バスでちょっとした山の麓まで行くのですが、行き先の山は神様がいる、と町内会の御老人達の間で噂されておりました。
 その土地はかつて地滑りや土砂崩れが激しく、人柱や生け贄が捧げられていたそうです。
 さてそんな事は露知らず、三人組を含めた六年生一行を乗せたバスは、足下の悪い道を走って行きました。
 乗車している六年生達も、大いに盛り上がっております。楽しそうですね。
 それを、山の中腹から見下ろすものがありました。

 小一時間程走ったバスはとある宿泊施設に到着します。
 山麓に構える名のある宿で、夜には遮蔽物のない星空を観賞出来る事で有名でした。
 一行はそこで一泊二日で寝泊まりする予定です。
 その日の午前中にお昼のカレーを作り、午後からは自然体験と銘打って、山中をひた歩きます。
 先生方が指定したコースをぐるうッと一周するものでした。
 しかし神様がいると噂されている山です。皆露骨に嫌な顔をしておりました。しかも前日の雨で山道はぬかるんでいます。
 誰もが嫌々登山している中、例の少年団は陽気に歩いて行きました。
 早くも山の中腹にあるコースの折り返し地点まで無事辿り着いた三人は、暇をもて余していたのでしょう。
 脇道に道草食って他のクラスメイトが登って来るのを、待っておりました。
 何しろ一等での到着でしたから。
 いい具合の獣道を見つけると、悪戯心が働いたのか、少年Sがその先へ進んで行こうと言います。
 少年Cも乗り気で、ただひとり少年Pが乗り気でありませんでしたが、二人が一緒ならば大丈夫だろうと踏んで、獣道を進みました。
 背丈の高い草を掻き分け、体操着に付着したひっつき虫を払い、辿り着いた先にあったものは何だったと思います?
 ただ何もいない祠がありました。
 何かを祀っていた形跡はあるのですが、その祀られていたものはありません。空虚がそこにあるだけです。
 そう言った具合でしたから少年達も気味悪がって、しかし勇気を振り絞ってその祠を調べます。
 屋根にはぴん、と張られた赤い布に、使われている木は、まだほんのりと香りました。
 そこに収まる筈の何かが居ないのが問題でした。
 少年達は不審がって、辺りに手掛かりの一つも落ちていやしないかと、獣道の奥へ奥へと進んで行きます。
 すると、少年Cが辺りに霧が立ち込めているのに気が付きます。
 少年Pは引き返そうとしますが、ここで二人と離れる方が危険だと判断し二人と行動しました。
 その内に雨が降りだし、雨足も強まり、山頂から吹き下ろす風が一層酷くしました。
 山の天候は変化しやすいとは言いますが、ここまで降るとは少年達に想像出来ませんでした。
 兎も角雨宿りする場所を探そうと、獣道を走って行きますと、霧の中に一軒の民家が見えます。
 間口の広い立派な玄関を正面に構えた、白い漆喰壁の和風の家。
 これ幸いと、雨が打ち付ける中必死で走りました。
 少年達は入る前に玄関を叩きます。

 こんにちは、誰かいませんか。雨が止むまで中に入れてもらえませんか。それも出来なければ電話を貸してくれませんか。

 ですが返答はありません。しかも鍵がかかっていないではありませんか。
 少年達は後のお叱りを承知の上で、凍え死ぬよりましだと、家に入ります。
 しかしどうした事でしょう。家に入っても誰も出てこないどころか、人の気配もありません。
 生活感といいますか、ごみの落ちていたり電気がついていて、人のいる気配はあるのですが、人っ子一人いないのです。
 大いなる矛盾に首を傾げながらも、少年達は雨止みを待ちました。

 一向に雨の止まないのに退屈し始めた少年Cが、家の中を探索しようと言い出しました。
 S曰く、誰か人が寝ていて、気が付いていないだけかもしれない、と。
 少年達はそれに賛成して、三人手分けしての家捜しになりました。
 三十分後に玄関に集合すると約束して、それぞれに散ります。
 少年SとCが家の奥まで探索している中、少年Pは奥に行く勇気も湧かず玄関を物色しておりました。
 靴箱に使い古された下駄や革靴が入っていたり、靴べらがかかっていたり、矢張人がいた気配があります。
 矢張家人がいるのだろうか。それにしても何の反応もない。
 何をしても謎が深まるばかりでした。
 三十分後に三人が集まってもそれは同じらしく、人っ子一人居らず、かといって隠れていそうな気配もありません。
 その中で唯一、少年Cが収穫物を持って戻って来ました。
 それ・・を丁寧にハンカチで包み、少年Cは恐る恐る差し出します。
 包みを解いてみれば、それは古いのこびりついた出刃包丁でした。
 少年SとPが驚いて少年Cから距離を取ります。
 C曰く、台所にこのまま放置してあった、と。
 ならば台所を調べてみようと、今度は三人固まって台所に向かいました。
 台所の調査は少年Cが済ませていたのですが、ただ一つだけ、気になる箇所を残していると言います。
 どうやっても開かない床下収納があり、三人で力を合わせれば何とか開かないだろうか、と。
 件の床下収納は、力自慢のSがやっても頑なに開きません。
 周辺の床をよく見ると、何やら赤い染みがこびりついていて、それが強く蓋をしています。
 そこでCが収穫物の包丁を上手く使ってそれを剥がし、蓋の隙間に包丁を差し込んで、テコの原理で力を加えました。
 すると、二人の助力もあって存外簡単に開き、一つ謎が解けました。
 床下収納には、白い厚手の布を被された何かがあって、布には僅かにが染みています。
 Sが好奇心に負けて布を剥ぎ取ると、カラカラに乾いた頭部の無いヒトがありました。
 Cは自慢の知識もふるえず棒立ちに、Pは腰を抜かしました。
 三人は声をあげる事もままならない状態で、完全に硬直したまま時間が過ぎて行きます。
 先に状況を整理したのはSでした。
 その次にPが、最後にCが時間をかけて、ゆっくりと平静を取り戻します。
 恐怖が残るものの、恐る恐る遺体を調べてみると、首の付け根に深い刺し傷が一つあり、Cが回収した包丁で刺すと丁度それくらいです。
 遺体は膝を抱え込んだ三角座りの状態で床下に収まっており、無理矢理そこに詰め込んだ様でした。
 こんな山中の家に死体がミイラと化すまで放置してあるのは異常でしかない。
 結論を出した三人は、早急に家を出る事に決めました。
 遺体に白い布をかけ、手を合わせてからその場を去ります。
 外はまだ雨が降っており、霧は尚更濃くなっていました。
 Sはビニール袋を被って、Pは折り畳み傘を開いたり、玄関で各々準備していると、Cだけ何もせずぼうっと突っ立っております。
 Sが声をかけても、Cは返事もなくただそこに立っているばかり。
 目の前で手を叩いても、背中を叩いてみても反応が返ってきません。
 先程のショックがまだ抜けないのかと、Pが声をかけようとした。
 突然、Cが予備動作なく包丁を振り下ろして来ました。
 先程回収していた、血のこびりついた出刃包丁です。
 刃先がPの顔を掠めて、右目の上から左頬へ斜めに朱線が走りました。
 それと同時にCの口からおぞましい何かが吐き出されました。

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 何を言っているかさっぱりでしたが、危険を察知したSが、振り向き様にCの手首を蹴りあげて包丁を床に落とし、Cの腹部に頭突きを食らわせます。
 包丁はCの足許に落ちました。
 Sは悲鳴を上げ顔の傷を手で押さえているPを連れ、雨の打ち付ける中走りました。
 濃霧の立ち込め視界が悪い中、何とか元来た獣道の手前まで戻ってくる事が出来た二人は、Cがついてきていない事を確認して木陰に腰を下ろします。
 SはPにハンカチを手渡して傷に宛がう様促し、Pもそれに素直に従います。
 霧の中、木陰に身を隠しながら雨止みを待ちました。
 次第に、濡れはしないが何とはなしに肌の濡れる霧雨に変わり、その頃にはPの出血も治まっていました。
 さあこれからどうしましょう。
 戻ってもCが包丁を持って襲ってきますし、かといって彼を置き去りにするのも気が引けました。
 濃霧がCを閉じ込めて、二度と会えないんじゃないだろうかと、そんな気がしてなりません。
 ならば、と二人は覚悟を決め、霧の中をあの民家へと歩いて行きました。
 程なくして、霧にも惑わされず訳もなく民家へ辿り着きます。
 不思議に思いながらも、二人は玄関の脇に隠れました。
 二人は作戦を考えてありました。
 PはSの目配せを受け取ると、扉に向かって石を投げます。
 掌ほどもある石は扉に当たると、鈍い音を立てました。
 すると、内側から扉が開かれ、片手に包丁を握り締めたCが出てきます。
 Cは扉に当たった石を手に取り不思議そうに見ていましたが、やがて家から出でて周囲をきょろきょろしだしました。
 Pは勇気を振り絞り、Cに向かって小石を投げます。
 小石はCのこめかみに当たり、それが地面に落ちると同時にCはPに襲いかかりました。
 包丁を振り上げたその時、背後からSがCに組み付き、その勢いで包丁が、ぽおんっ、と手から放り出されます。
 包丁は地面に突き刺さり、SはCを地面に組み敷きました。
 それでも尚、Cは包丁を手にしようと力任せにもがきます。
 SがCを抑えている間に、Pは示し合わせていた通り、包丁を何回も石に叩きつけてとうとう折りました。
 刃が折れると同時にCが急にぐったりとし、全身の力が抜けていきます。
 Sが恐る恐る揺さぶってみても、ぴくりとも動かず起きる気配がありません。
 一体どうした事だろうかと、二人はCの頬を叩いたり、思い切り揺すってみたりしましたが、全く起きませんでした。
 結果二人は、Cは気絶している、と結論付けました。
 さあ問題は帰り道です。
 Pは顔に大きな傷があり、SはCを抑えつける時に擦り傷や打撲傷などを作り、二人にCを運べるだけの体力はありません。
 仕方なく、交代交代でCを少しずつ運んでいたのですが、その内に体力も無くなってしましました。
 Cは一向に起きなければ、霧も先程より濃く重くなっています。
 このまま遭難してしまうんじゃないかしら、と一抹の不安が過ったその時、霧が少年達を瞬く間に包んでしまいました。
 真っ白い霧は少年達を窒息させながら、やがてかき消えてました。
 不思議な事に、その後には三人の少年達の姿はなく、辺りは痛い程の静寂に満たされています。

 一方、獣道では怪我をした子供が三人発見され、その子達は三日間行方不明だった少年S、C、P、だったそうです。

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エージェント: お疲れ様でした。████[調査対象Pの本名]さん。

調査対象P: いえ、あなたがたのお役に立てるなら。

エージェント: 一つ質問をしても宜しいでしょうか。

調査対象P: ええ、なんなりと。

エージェント: ……この少年達は最終的に全員生還していますが、当時の保護者や捜索に関わった関係者はこう話しています。
「誘拐事件だった」と。
何故行方不明ではなく誘拐として扱われたのですか?

調査対象P: ええ、それに関しては少年達──もとい、私達・・がそう言ったからそうなったのですよ。

エージェント: と言いますと?

調査対象P: 簡単な事ですよ。僕たちは怖い大人に誘拐された。ただ、目隠しと耳栓をされていたから顔も声も分からない。連れて行かれた場所も知らない。と、数ヶ月も言い張りました。お蔭で、今でも空想上の犯人探しが続いているんですよ。当時こそ考察や憶測が盛り上がりましたが、今はもう、たまに新聞で取り上げられる程度になりました。

エージェント: 回答ありがとうございます。では本題に入りましょう。██市立██小学校に周辺地域の児童達に根付く少年SCP団は、公にはあなた方が創設したクラブと言う認識で間違いないでしょうか。

調査対象P: はい。

エージェント: 活動内容は「学区内とその周辺地域を見直しレポートとして纏め発表する」事。しかしその実態は、我々財団が管理する様な危険な場所や物品を調査し、児童等にその危険性を伝え、異常現象から遠ざけ保護する事。
……これが、私の調査から導きだした結論です。

調査対象P: ええ。████[エージェントの仮名]さんの結論と合致していますよ。

エージェント: 少年団創設当時から現在までに纏められたのはいずれも異常性を失くしたオブジェクトばかりです。しかし、少年団を創設する切っ掛けとなった事件、あれは異常性を持ち、今も捜しているものだ、とお聞きしましたが。

調査対象Pは30秒沈黙する。

エージェント: どうされました?

調査対象P: いえ、少し思い出してしまって……。いやはや、お恥ずかしい所を。

エージェント: ……今回我々と接触したのは偶然だと思っていましたが、誘導したのは創設者であるあなた方3人ですね?

調査対象P: いや真逆。あなた方が私達を見付けてくれたのでしょう? 私は何もしていません。

エージェント: そうですか。それではこれにてインタビューを終了とさせていただきます。ご協力ありがとうございました。

調査対象P: こちらこそ。

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