退屈
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退屈だ。

私は呟いている。私がこんな呟きをしたのは、確かに退屈していたが故だろう。実際のところ、今の職場はちょっとばかり奇抜で、おかしな物事ばかり扱っている。しかし、繰り返される異常はもはや日常だ。例えるなら空飛ぶ魔法の絨毯の繊維を解析するみたいな、ロマンのかけらもない作業ばかりやっていた。だから、本来細心の注意を払うべき実験中に、そんな呟きを漏らしたって仕方がなかったと思う。

とにかく退屈だ。今日も明日も、この部屋では実験が繰り返されるだろう。そのほとんどは、報告書の一行を埋めるに留まるに違いない。退屈な実験。退屈な結果。退屈しのぎになるような何かが欲しい。私は退屈だ。つまり、退屈を解消するには、どうしたらいい。とにかく、今日の実験が終わらない限り退屈だ。だから、実験は終わりだ。

実験が終わったのに、なぜ実験室にいるのだろう。実験が終わったのに、実験室にいる必要なんてない。そんな退屈なことはしたくはない。実験室の外からこっちを覗いているのは、助手のリチャードだったかな。確かリチャードだったと思う。彼はリチャードに違いない。彼が助手で、私が実験担当の博士。その通りだ。私は博士だ。だから、私が伝えなくてはならない。リチャード、もう退屈な実験は終わりだ。

私に助手がいて、私が博士なのだから、私は実験をしなければならない。もう退屈な実験は終わったのだから、退屈な実験をすることはできない。ならどうするか。私は退屈でない実験をしなくてはならない。私は退屈している。実験は退屈しのぎにはなるだろうか。なるに違いない。どんな実験ができるだろう。私が退屈な実験で扱ってきた、世にもへんてこな品々、あんなものでも作ってみれば楽しいだろうか。楽しいことをしよう。おかしなことをしよう。

私はまだ呟いている。私は、どこかで間違えたのかもしれない。ついさっきまで実験していた、あの指輪のせいなのかもしれない。あの実験室を覗いていた男は、私の助手ではないのかもしれない。私は単なる実験台で、たまたま身に着けた変な道具を悪用しているのかもしれない。私は、まだ実験室にいるのかもしれない。世にもへんてこな品々なんて、存在しないのかもしれない。退屈なんて、していなかったのかもしれない。私は、どこかの精神病院にでも入院していて、妄想を口走っているだけなのかもしれない。退屈のあまり、どこかおかしくなったのかもしれない。 真実なんて、どこにもないのかもしれない。

だけど、そんなことどうだっていい。
私は博士。やりたいことは、いくらでもある。

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