「もっしもーし、ちゃんと働いてるー?」
マイクから可愛らしい声が響き、目の前にたくさんある監視ディスプレイの1つに1人の女の子が写りこむ。
「なんだ、また来たのか。エージェント・餅月さんよ。」
僕はあなた方の施設の周囲を監視する大事なお仕事中なんだぞ。
まったく、途方もない数の監視カメラのチェックをしてるんだ、できれば時間外にしてほしいのだが・・・。
「おーい、マイクテスマイクテスゥ。うぉーい、聞こえるかーい?おーい!!」
エージェント・餅月がカメラを見上げながら、執拗に、なおかつ無邪気に話しかけてくる。
「はいはい、聞こえますよ、全く。」
ボタンとレバーを駆使して監視カメラを頷かせる。
・・・可動式の便利なところだ。
「りょーかーい、じゃあお仕事中で悪いけどちょっと疲労度検査行うね。」
そういうとエージェント・餅月はどこからかスケッチブックを取り出し、それをカメラに見せる。
・・・なになに?疲労度チェックをします。該当する症状があったらカメラを動かしてください、か。
了解とカメラを頷かすと、ページがめくられる。
【1ページ目】
・最近仕事中に眠くなったりする?
これはないな。
【2ページ目】
・目からくる頭痛はある?
該当なし。
【3ページ目】
・腰や膝に痛みは?
あー、腰がちょっと辛いかな。
カメラを動かし、該当すると伝える。
「ずっと座ってるお仕事だもんね、上に伝えておくね。」
どうせ湿布しか支給されないさ、ははは。
【4ページ目】
・糖分と水分の適宜な補給はできてる?
「ブドウ糖のタブレットとスポーツドリンクの支給だけで十分だけど、甘いドーナツとか食べたいなぁ。」
ついつい本音が漏れてしまう
「・・・ドーナツとか持ち込んじゃだめだからね?」
なぜわかった!?
【5ページ目】
・エージェント・餅月ちゃんはかわいい!!
はいはい、かわいいかわいい。
カメラを何度か上下に動かす。
「もー、本当は思ってないでしょ!!」
怒ったような声がマイクから流れる。
ほんと面白い人だな、・・・ん?
一瞬、視界の隅に何かが写る。
ちょっと待って、とエージェント・餅月のところのカメラを左右に振る。
「へ?」
間の抜けた声を聴きながら、真剣にたくさんのディスプレイを睨む。
一瞬のことだったが、確かに誰かがカメラの前を横切るのが見えた。
急いですべてのカメラを1つ1つ動かしてチェックする。
・・・いた。
███番カメラと█番カメラに、施設の周囲をうろつく黒い影が映っていた。
影は見た感じ人間だが、この財団だ、何に狙われてもおかしくはない。
「おーい、どうしたのー?」
エージェント・餅月が心配そうにカメラを見上げている。
「疲労度検査はまた次の機会だな。」
僕はそう呟いて、侵入者警報のボタンを押す。
と、エージェント・餅月がどこからか端末を取り出し、すぐさまどこかへ仕舞う。
「ま~た侵入者かぁ~、りょーかい。じゃ、まったね~。」
つまらなそうに、なおかつ笑顔でエージェント・餅月の姿がディスプレイから消える。
代わりに███番カメラの影のところへ向かうエージェント・餅月と武装した警備員が映し出される。
「よし、あと3時間頑張ろう。」
あと3時間で交代だ、エージェント・餅月を誘ってカフェエリアにでも行くか。
あ、でもその前に侵入者の報告書書かないと。