オレグの証言
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プロトコル発動後の██████

道筋はまだ残っている、我々はまだ終わってはいない

しかしついに滅亡へのカウンターは始動したのだ

20██年██月██日 サイトー███ 

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乱数放送が流れる、マジックミラーで監視された尋問室にもうかれこれ4時間も閉じ込められたままだ。天井に設置されたスピーカーからはGRU式の乱数放送による自白スペクトルが再生され、正面に設置されたモニターにはよくわからない映像が流されている。白衣を着た研究員らしき男性が少し離れたところで椅子に座ってじっと私の事を見つめている。せっかく一端をつかんだと思ったらこれだ、何か持ち帰らないと今度は私が売られるというのに……

「オレグ・ベリーエフさん、あなたはロシア連邦国家保安省に所属する少佐で間違いありあせんね?」

私は忌々しい白衣の研究員に舌打ちをつきながら頷いてやる、身分証に書いてあっただろうに形式ばったことを聞いてくる。

「そうだ、オレグ・ベリーエフ、元GRU"P"部局中尉、現在はMGB1超常現象課の副課長で国家親衛隊の少佐をやってる。あんたら財団や国連のトム・クランシーめいたオカルト連合、ロゴスの変態どもみたいなロシア国内での超常現象に対して対処する奴らの活動を政府に報告し、必要があれば助力やクレームを入れるのが活動内容だ。昔の"P"部局時代と違って調査が主体になったが」

言える情報をくれてやる。さっさと戻って報告しないといけないのだ、解放してくれないものか?

「あんたらの所のイヴァノフに連絡をつけろ、俺は国家親衛隊のアリべコフ准将からの依頼でルーマニアの調査をしていただけだ、さっさと戻って次に対処しないといけないんだ」

インテリめいた研究員を急かすが白衣の男性はにべもない態度で話を続ける。

「あそこで得たものを話してください、あの場所で何が起き、誰を助け、そしてあなたがどう生き残ったのか。」

肩をすくめため息をつく。

「なら我々の上にアポを取って正式にインタビューの為に招くべきだったな、せめて尋問室でなく応接室で対応すればよかった、そのほうがよっぽどスムーズだったよ」

こいつらは私までアノマリーアイテムか何かと勘違いしてるらしい、まったくもって最悪だ。


20██年██月██日 ルーマニア ██████2

あの日、我々はオカルト連合のリーク情報に従ってルーマニアにいた。アノマリーによる事象が拡大し、ロシアに影響を与えてくる可能性があるかの調査を行うためにだ。メンバーは10人、後方で俺たちをバックアップするオペレーターが5人、リーダの私とGRUあがりのヴァシリ、FSB出身3のスーツ組二人、FSO4の凄腕スキンヘッドだ。全員が全員違う派閥についてる最悪のチーム編成で、スーツ組はオカルト連合、スキンヘッドはロゴスと繋がっていた、俺とヴァシリは旧GRU,"P"部局の残党でアリべコフ准将筆頭の中立派さ、財団にもオカルト連合にもロゴスにもバランスを取ってほどほどにやってる……まあどうでもいいか。

まあ、あの町ではアメリカで起きたコード-ボドフェル5と同じことが起きていた。出生率の異常すぎる上昇、隠蔽された大量の失踪者、人に擬態した何かの浸蝕、我々が財団と管理している610や病の村と同じような肉を信仰する奴らが巣くっているってな。

我々を派遣したアリべコフ准将は威力偵察に十分な装備を与えてくれた。ジメチルトリプタミンを配合したRYW6を数日分、数人の記憶を無かったことにするためのEタイプの健忘剤、12.7mmの焼夷徹甲弾を使用する自動小銃と拳銃、テルミットに使い捨てのロケット砲、それに軽装甲の脱出用車両、各派閥へ情報を持ち帰ることが出来る人員たち、ロシア政府に肉の脅威を再認識させるいい機会だった。

我々は██████近郊のモーテルを借り切り、脱出の手段を確保したうえであの町に入った。作戦の開始は夜の21時、RYWを摂取して完全武装の状態で街に侵入した、あんたらのシトラ・アキュラを名乗る合同部隊とかち合ったのは偶然だった。

最初の遭遇は作戦開始から1時間が経過した時だ。RYWによって強化された知覚によって本来の姿を認識した我々は血と排泄物と腐った腫瘍で覆われた町の中でとりわけ特異な建造物、街の中心部の教会があった場所に置換されて出現したジグラットを目指して移動中だった。

FSBのスーツが効きなれた音を認識したんだ、あんたらはともかく我々ロシアの諜報系に属する人間には聞きなれた懐かしい音、消音機構によって減音された銃声さ。

オカルト連合はあの町を調査中だと言っていたが、反抗作戦が実行中とは聞いてなかったかので、我々は一体何が起きているのか、状況を把握するために車両を路地裏に隠蔽して銃声の聞こえてきた辺りを調査した。

思えばこの時にヴァシリを残したのは本当に正解だった、でなければ無茶のしようがなかったよ。

おかげで財団がベヒーモスと呼ぶあの巨人を回避するために時間がかかって、我々が彼らを発見できたのは戦闘を終えた後だったがね。我々は彼らをマーキングはしたものの接触せず、モーテルに待機していたオペレーター連中と相談して今後の方針を決めた。スキンヘッドの反対はあったが俺たちは彼らと接触せずに秘密裏に支援、データを収集する事にしたのさ。


そこまで話したところで私は休憩を求める。認められて食堂へ案内された、そしてそこで見覚えのある人物が迎えてくれた。20代後半のスーツを着た男性、元"P"部局の面汚しで、あのアリべコフ准将の手札の一人だ。

「イヴァーノフ!コンスタンティ・アレクセイヴィッチ・イヴァーノフ、遅かったじゃないか!」

イヴァーノフ、財団でエージェント・イヴァノフと呼ばれるこいつを私はよく知っている。私の後輩にあたる人物で逃げ回る事、意表をついて襲い掛かる奇襲のテクニックは彼の同期の中でピカイチだった。

「オレグ少佐、あなたがへまをするからいけないんですよ、本当はもっと別の仕事があったのに対応でここまで飛ぶ羽目になった。ルーマニアでサーキックと交戦したとか?」

彼の差し出すコーヒーを受け取りながら答えてやる。

「ちょっと調べに行くだけの筈がシトラ・アキュラの作戦とかち合った、奴らはどうなった?一方的な情報提供だけじゃ割に合わない、いくつかこっちも教えてもらいたい。」

イヴァノフは酷く悩んだそぶりを見せた後にこたえる。

「タタールの軛、少佐の部下だった奴らも混ざってるあそこの奴が一人生きて帰ってきましたね、彼の証言によると脱出したときは全滅判定ぎりぎりだったとか、ルーマニアの真っただ中、都市部への影響を考えると何処に裁可を取ったものか頭を悩ませていると思いますね。」

クリミア情勢どころかウクライナ政府のごたごたをつけてルーマニアに頭を突っ込むのはうちには無理な相談だ、
隠蔽にどんな理由を使うものか、まあ私は死んだことになるだろうが……

「で、オレグ少佐は何を見たんです、話してくれるのでしょう?」

仕方ないので彼を伴って尋問室に戻る、乱数放送もモニタも消えているおかげでずいぶんと良くなった。

「俺たちはジグラットに進行する部隊を追ったのさ、注意を引いてくれるおかげで楽についていけた。」


我々はあの汚らしい腫瘍の街、RYWさえなければただの石でできた田舎の村にしか見えないこの場所は、あの悍ましく蠢く肉の巣窟は俺たちを阻むかのように腫瘍を伸ばしてきた。シトラアキュラの一人があの巻き髭に捕えられ、テルミットでもろとも焼き払うのは震えが止まらなかった。

奴らが巻き髭を燃やし、あのデカブツを携帯用の対戦車砲でぶっ飛ばしながらジッグラトを目指す傍ら、我々は彼らの死角を静かに守った。幸いにも消音機のついたライフルは12.7mmであっても一定の効果を示してくれたおかげで、直接の被害は少なかった。

空を飛ぶ腫瘍は確かに厄介だが目立つほうを目標にしてこちらにはあまり寄り付かなかったし、人型がペットのように連れているあの小さいのは耐久力が低かった。

シトラアキュラの面々が大物を引き付けてくれたおかげで我々が苦労したのは一種だけだったよ、『概ね、人』あの『ブリャーチ』だ、頭か心臓を大火力で破壊するか焼き払わない限り大抵の負傷は意に返さず襲ってくる。

たった5人で装弾数の少ない大口径火器のみの運用でこれを押しとどめるのは非常につらかった、特に発見されずに観察を続けながらだとなおさらだった。

俺たちはシトラアキュラの奴らがあのジッグラト、黒いインカの遺跡に辿り着いた時、スキンヘッドを失って4人になっていた。幸いなことに弾は余っていたし無線も通じていた、あいつらと違ってな。

聞きたいのはあの無線が途切れていた時の事なんだろう?


エージェント・クラコフは尋問の様子をミラー越しに聞きながら肩をすくめていた。かつての上司は態度こそ今も昔と全く変わらぬ様子だったが、幾分かやつれているように見える。

「街の被害は結局どっちだったんだ?例の件か、それともアノマリーのせいか?」

クラコフは録音を続ける防諜部のエージェントに尋ねる。その拳は未だ握られたままで、消して緩められる様子はなかった。ぎりぎりと音が出そうなほど握られた拳は今にもガラスに叩きつけられそうだったが、今はまだその自制心によって維持されていた。

「被害のうち65%がアノマリー、サーキック由来の生物種によるものとみられてます。残りがアリべコフの指示によるものだとみられています。回収された死体からも大体そんな感じだと推測できます。」

防諜部のエージェントの操作するノートPCのモニターには、焼け焦げ廃墟となった町が映っていた。


そう、シトラアキュラの奴らはあそこでキチン質の集団に囲まれた。
奴らがSK-BIO タイプB7あの味気ない名前で呼ばれる奴らの先兵はジッグラトに開かれた門から続々と出現していたよ、数は俺たちにはもう計測不可能なほど多かった……それにあれがいたんだ。

シトラアキュラの奴らがあのキチン質の化け物から逃げようとしたときにはもう遅かった。地下は巻き髭の巣窟だとわかっていたし、主要な道路はあのデカブツどもの監視下にあるか、少なくとも人型を突破しなくちゃいけない。奴らは騒ぎすぎたのさ。

私はあれを見る直前まであいつらを見殺しにして潜伏するつもりだった。武器を隠して昼間に町を出て行けば誰か一人は外にたどり着ける、そう思っていたし実際に沿う指示をしようとした時だった。

目が合ってしまったのさ、よりにもよってタタールの軛の、今もなお肉と戦うかつての部下と……

私はあの時の、タタールの軛から引きはがされた時のことは一つも覚えていない、国と財団にあの時の事を奪われて以来、ずっと彼らを取り戻すすべを探してきた、だから決断するしかなかった。

アリべコフに託された唯一の破壊手段をあそこで使うことにしたんだ。


イヴァノフはかつての上司をじっと見据えた、そして震える声で言った。

「それで、それでミサイルをあの町に?」

かつての上司は迷わず頷いた。

「ただ閉じこもって失うのを見るのはたくさんだった、かつての仲間を取り戻すチャンスがあればなおさらだ、俺はスーツどもの頭を無かった事にしたうえでオペレータにコード・マケドニア、つまりイスカンデル・戦略ミサイル8による直接火力支援の緊急コードを指示したのさ、燃料気化爆弾弾頭で街ごと焼き払うように。当然俺たちも巻き込まれるが、手があった。」

イヴァノフは本当に頭を抱えた、無茶がどうとかそういう話ではない、彼はかつての部下がいたからすべて焼き払ってでも助けようとしただけだと言ってのけたのだ、街を一つ焼き払い、市民を全員殺してだ。

「それで、どうやってミサイルがすべてを焼き払う前に逃げたんです?大量殺戮の前にそんな状況じゃそう生き残れたものでない。」

「簡単だよ、ヴァシリと車で突っ込んでロケットランチャーと手榴弾をありったけぶち込んだ。道を開いて載せられるだけ載せて道を無視して走ったのさ。」

ジェラルド博士なる人物の名前を聞いたことがあるが、それをはるかに凌駕する厄災がそこにいた。
ロシアならわかる、情報統制をして街の存在を無かった事にできる。だがルーマニアだ、彼はいったいどうしてそれを決断できるというのか、イヴァノフにはかつての上司がただの悪魔にしか見えなかった。

「少佐、それで今後どうするというのですか?」

「決まってる、しばらくは潜って戦力を集めることにする、俺はあのゲートの向こうに立っていたあの男の名前を知っている、お前も聞いたことがある大物があそこにいたんだ、おそらくあいつはあの程度じゃ死なない、だから備える必要がある。」

イヴァノフはこの悪魔の次の言葉を聞かなかったことにしたかった、しかしその言葉はしっかりと口にされた。

「カルキスト・イオン、この世界に再び魔術師王が返ってきたぞ、終わりは、始まったんだ」


インシデント:█████消失事件

20██年██月██日:ルーマニア

この事件はサーキシズムに起因するSK支配シフトの可能性を含む事象を防ぐため、クリミア半島より発射された戦略級のミサイルによりルーマニアの地方集落██████が消滅させられたことに起因します。この事件は財団と世界オカルト連合による合意の上、地下火山の突発的な噴火による致命的な災害として隠蔽情報が拡散されました。

現地にて行われていたプロジェクト・シトラ・アキュラによるサーキックカルト由来の次元侵略の阻止作戦はロシア連邦国家親衛隊によるミサイル攻撃により部分的に成功、投入されていた戦力の半分を喪失しましたが、ゲートをその都市ごと焼き払う事により再起動不能な状態まで損傷させることに成功しました。

現在、ミサイル発射の指示を出したオレグ・ベリーエフ少佐は遺物サイト-215にて拘禁されており、その処遇についてロシア政府との協議が行われています。

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