キャロル#291: 依代
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RAISAファイル: 要注意団体 [消滅済]
GOI-001: シカゴ・スピリット

ファイル作成日時: 1929年頃
GOIによる最後のファイル改訂: 1934年7月
ファイル回収日時: 1938年8月
[文章を以下に再現]1

{Carroll 291: The Bloody-Doll}

キャロル2#291: 依代

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この不気味な東洋人形が俺たちにどれだけのものをもたらしたか覚えているなら、二度と同じことは繰り返さないはずだ、そうだろう?


{Where We Kept Them}

何処に保管していたか


ニュージャージー州アトランティックシティ。オキーチョビーが倉庫を基礎ごと引きちぎるまでの間、こいつは港の片隅で埃を被ってた。日本人が送ってきた骨董品まがいのうちのひとつで、国際親善が目的だったらしい。結局、どちらかの政府が仲介業者の経営状況を確認してなかったせいで、いくつかがマーケットに流れた。フロリダの物好きな金持ちが高値で引き取るはずだったが、ハリケーンは倉庫と一緒に買い手までメキシコ湾に叩き込んでしまった。

ちょっとした理由で仕事の役に立つことがわかってからというもの、こいつはチャペルの指令通りにシカゴとマンハッタンの間をひっきりなしに往復していたわけだ。33年の冬まで、アンソニーがいわゆる置き場として役に立ってた。シカゴの"ウェストフィールド・イン"の洗濯室でやつの居場所を知るための合言葉は"酒瓶よりは軽い"。いいジョークだと思ってたんだが。

更新: 懸賞金はこいつとアンソニーの分を合わせてある。満額せしめたければ盗みを働いたやつと殺し屋を両方見つけなきゃならない。割りに合うかは知らないが、試してみる価値はあるだろう──もし仇をとったら会計管理人のテイラーソンに会いに行けば、追加で一晩の酒代分くらいは持ってくれるさ。


{Who Knew about them}

誰が知っていたか


チャペルがこいつにご執心なのは誰だって知ってることだろうが、肝心の中身についてはほとんど誰も知らない。何人ものハンターが追跡任務に加わったが、やつらが知ってるのはこいつがアンティークで、たいそうな価値があり、売り払うには無傷でないといけないってことだけだ。だが実際には、こいつは26年の9月からおおよそ1年間の間に作られた新古品だった。もし取り戻せたなら、チャペルは数人の護衛をつけてマンハッタンの倉庫の中にしまい込み、よほどのことがない限り動かさないだろう──競売カタログになぞ載せるわけがない。

お前はこの文書を読んでる、選ばれた人間のひとりというわけだ。間違っても財団や連邦捜査局にこいつの存在を気取られるな。常に街の金持ちたちの流行に気を配り、骨董品店とギャラリーに通いつめろ。消えた人形がMC&Dのリストに入ったなら、必ずやつらが回収に動く。もし不幸にもそうなったら俺たちは、戦争にならないぎりぎりのところまで無茶な綱渡りをしなくちゃならない。

更新: 一連の馬鹿げた騒動と船の出港で、俺たちがこいつをもう一度手にする機会はかなり薄れたと言っていい。アダムスキーが上海で何をしてるか知らないが、仮にやつが内通者だったとしたら、もう会うことはないだろう。

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ローワン&ベイカー合同商社の倉庫跡地。いい隠し場所だったが、爆弾低気圧には勝てなかった。


{How We Found It}

どうやって見つけたか


こういう人形は曰く付きのものと相場が決まってる。作られてからの時間は大した問題じゃあない、オビーのほらを真に受けるやつもいないだろうがな。

面倒な品が税関を通るときに商船仲買人が何をするかなんて知れたもので、どうやらこいつは大した値段じゃなかったようだ。連中の脳みそは重量とバーバー3が常に釣り合うと信じてたから、布と綿でできた塊がどんな形をしてようと関係なかった。初めのうちは誰もこいつのことを知らなかったんだ。ローワンが42番街でちょっとした東洋美術品の商いを始めたとき、俺たちはそこのショーケースに木箱を突っ込んで、厄介払いができたと笑っていた。

11月8日のことは皆覚えてる。一度に5人が殺されたあの夜、アウトフィットのはみ出しものoutcastどもとシチリオーネがわけもわからず撃ち合い、こともあろうにノースサイドの連中と間違えてスピリットの店を襲撃した4。哀れなローワンは4人目の犠牲者だ。やつは根性を見せて一人をショーケース越しに撃ち倒した。店はめちゃめちゃに略奪され、人形は血まみれで全く売り物にならなかった。

人形がキャロルだとわかったのはその後だ。エリオットが床に転がってた気味の悪い人形を拾い上げたとき、それは流暢なボストン下町風のアクセントでシチリオーネの連中の口臭と紙巻きの灰の不始末について愉快な講釈を垂れた。その声はまったくお笑い種で、半分がローワンのしゃがれ声、もう半分は誰だかわからない中西部の炭鉱訛りだった。

結局、あの頑固親父を撃ち殺した馬鹿は見つからなかった。カポネは決して俺たちと関わろうとしなかったし、襲撃者は全員が半年以内にミシガン湖に投げ込まれ、しかも昔風の儀式に則って喉と顔を潰されてた。そういうわけで、人形に血を注いだ最初の2人の片割れは永遠に行方不明だ。

こいつを俺たちは単に人形と呼んでた。チャン兄弟によれば、台座に刻まれた文字は2月を表しているんだとか。

更新: 俺たちの組織に日系人は必要ないと思われていたが、どうも勝手が違ってきている。基隆港5で仕事ができるようになれば、商売と捜索のために何人か見繕わなければならないだろう。もちろん、あの馬鹿げたサーベル持ちの気狂いどもに気づかれないように、細心の注意を払ってだが。


{What We Used It For}

どうやって使ったか


血を飲んで喋る人形の使い道に誰かが気付くまで暫くかかった。ベイカーは相棒の敵討ちに燃えていたが、その相棒の声を出す人形のことを気味悪がったので、やつが仕切ってる通りに置いておくわけにはいかなかった。当時のアンソニーは街中が専門の運び屋で、ごみ運搬業者を装ってうまく検問をすり抜けていた。人形が大っぴらにチャペルの指令で使われるようになってからは、専属の運転手になったのさ。

人形は飲ませた血の量に応じて、血の元の持ち主の記憶をコピーする。ジョッキ一杯ぶんも飲ませれば、金庫の鍵の場所だって分かる。利用するのは簡単で、アウトフィットの連中からシマを奪い取るのにずいぶん役に立った。ニューアーク市長のトレントンが引退したのは愛人の血にボディガードをつけなかったせいだ、ハハハ。31年の春には連邦捜査局の捜査官が何人かマンハッタンで行方知れずになり、そのすぐ後に俺たちのウィスキー倉庫の場所がそっくり変わったわけだが、何が起きたか説明する必要は感じないな。

何をしたって口も手も動かせない連中が多いこの業界で、血を絞り出しさえすればいいってのはとにかく分かりやすかった。拷問には技術が必要だが、人形を赤いプールに漬けるのに訓練がいるだろうか? おまけに人形は嘘を言わないから、マクガランはこいつがお気に入りだった。ちょっとした嘘と不手際で歯を失って以来、彼は人間の言葉ってものになんの信頼も持ってなかったから、多分ちょうど良かったんだろう。"鋸歯"が吸血鬼だって噂はこの人形のせいだと思うが、マクガランが本当にそうだったとしても、別に驚くには値しない。

更新: 奪われた時点で、人形はもうマクガランの管理下を離れていた。責任が本当は誰にあるかの議論は本質的じゃない。なんにせよ、ベイカーが吊るされたのは自身の色々な不手際のせいだった。今のところ、追跡に失敗したという理由だけで処分された奴は皆無だ。それだけで十分じゃないのか?


RAISA更新



序文: 以下の文書はこの文書のコピーと共にマニラで回収されました。内容に関連性があるため、当ファイルにも収録します。

リチャード・チャペルのデスクより

ベイカーへ、

ここ最近は馬鹿げたことが次々と起きていて、私は憂慮している。マンハッタンのチャイナタウンは前々から私たちの商売にとって迷惑な存在だったが、奇妙な連中が入り込んできた。ほとんど中国語を話さず、常にナイフを持ち歩き、3人以上で行動する。義安工の残党かとも考えられるが、現地の反応は鈍い。五大ファミリーはまだ気づいていない。先手は常にスピリットが取るべきだ。連邦捜査局への一連の対処は落ち着きつつあり、そちらにも余力が生まれていると信じている。アンソニーに言って定期便で人形を寄越してくれ。連中の口と血、どちらがよく喋るか確かめてみるべきだ。

親愛なるCへ

発送は滞りなく完了した。確認は必要ないと思うが、"ダグアウト・サウザンプトン"で小包があんたの使いを待ってる。そちらでの事態はよく知らないが、きっと役に立つだろう。こちらの対処はほぼ終わっている。万が一、破れかぶれの手入れがあったときに備えて、何人か若いのを手配した。灰色コート6どもが何か嗅ぎまわっているようだが、きっと酷いことにはならないさ。

-B、あなたの腹心の部下


リチャード・チャペルのデスクより

チャンへ、

先日の報告はあまり愉快なものではなかった。日本人が東海岸でいったい何をしているのか早急に探り出す必要がある。しかしより火急の問題は内通者の方だ。明らかに複数のメンバーが私とスピリットの利益を裏切り、チャイナタウンにキャロルの情報を流している。今のところ大事には至っていないが、財団や連邦捜査局が近いうちに食いついてくるだろう。防備を強化し、通信手段を限定しろ。必要なら双子を用いても構わない。スピリットの資産を防御し、然る後に裏切り者を炙り出す。私の庭では何人たりとも逃れることは許されない。ジョーンズがどんな目にあったか教えてやるためにも、とにかく名前が必要だ。人形が役に立つだろう──骨の髄まで搾り取り、全員の名前を吐かせろ。そうすれば、私の店の床板は少しばかりきれいになるはずだ。

ボス、

どうにも妙なことになっているのは、連日の報告で把握されていると信じています。弟の聞き違いでなければ、日本人共は人形を探しています。ほとんどの部下はチャイナタウンの住人と連中の区別がついていないため、調査は難航しています。あれが元々あの国から来たという事実を踏まえて、我々はどう動くべきでしょう? バーニーとリッケルトは昨夜、11番街の角辻で危うく斬り殺されるところでした。襲撃者の1人は腕が8本はあったそうです──彼らは酒に酔っていませんでした。もう街は昔のようではなくなっています。誰もが殺気立っていて、スピリットの名には5年前のような力がありません。

少なくとも灰色コートの連中は、我々とボナンノ一家の争いに介入するつもりはないようです。昨日、裏切り者の1人の血を飲ませたところ、人形がルチアーノの居場所を吐きました。もう移動している頃合いですが、襲撃には一定の価値があります。拠点の移動が必要であればご裁可ください。人形は特に厳重に隠してあり、必要ならばシカゴに送り返す用意があります。アンソニーはもうこちらに来ています。ここ数日、人形は支離滅裂なことを喋るようになってきて、当初の計画は破綻しつつあります。キャロルの性質を考えれば、あまり良い兆候とは言えません。今は隠匿を優先するべきだと進言させていただきます。無駄な心配であれば良いのですが。

-チャン、ヤン、ダニエル。


緊急、リチャード・チャペル宛

現場の確認は済んだ。考えられる限り最悪の事態の一つがここで起きていた。実に馬鹿げたことだ。ニューヨークの、俺達の街のど真ん中で、俺の知りうる限り最も優秀な運び屋のひとりが殺され、キャロルは完全に行方不明だ。

そっちに戻れば色々と話せるんだろうが、まだ分かっていないことが多すぎる。ここ数年の俺達の仕事からして、この街の人間の半分はこれに関わった可能性がある。五大ファミリーは言わずもがなだ。アンソニーの頭がどこに行ったのか知らないが、スピリット流に下手人を同じ目に遭わせるためにはそれなりの苦労が要るだろう。

UIUが絡んでくる前に現場を掃除するように指示しておいた。チャペル、今俺が気にしているのは、人形がこれから何に使われるかだ。いったい何人の血をあれに飲ませた? これ以上イカれた事件が起きる前に、キャロルの使い方は考え直すべきじゃないのか?

- CFD7

リチャード・チャペルのデスクより

デリンジャーへ、

東海岸の魔法市場とキャロルの利用について、最も理解しているのはこの私だ。あの人形は私に少なくとも150万ドルをもたらしている。君は期待されていることを過不足なく理解すべきだ──あらゆる手を使って下手人と人形を探し出し、腐りきった裏切り者どもを一掃しろ。人形がカートライト8の血を吸っているのは事実だが、それを知っているのは私と、君だけだ。


緊急、リチャード・チャペル宛

良い知らせと悪い知らせがある。こういう時にはどちらも悪い知らせなもんだが、まあ、その部類に漏れないな。

裏切り者は始末した。と言っても、本当に裏切っていたかはわからない。ニューヨークから逃げ出した連中を追いかけて、ハドソン湾に沈めただけだ。総当たりにしちゃあまずまずの出来だった。

襲撃の犯人も分かった。日本人共だ。連中の拠点も粗方叩いたが、ほとんどは引き払われていた。チャイナタウンを根城にするのは諦めたらしい。こっちは6人ほど失ったが、代わりに向こうは全滅した。港湾労働者組合に問い合わせて船便を確認した限りでは、全ての資材は満州国に向かってる。人形はその中だろう。チャンに捕虜を尋問させたが、血の盟約がどうの永遠の命がどうのと叫んで舌を噛みやがった。どうにもこの街は気狂いばかりだな。

どちらにせよ、船は出港してしまった。追跡はほとんど不可能だ。

- CFD


更新: デリンジャーはかなり上手くやったほうだと思うが、チャペルの怒りを収めるほどじゃあなかった。懸賞金がかけられたが、最初のうちはどうにもならなかった。台湾での商売の可能性に気づいた誰かがチャペルに進言して、それから進出計画が練られた。連邦捜査局が勘付いてない限り、実行はまもなくだ。大陸まで足を伸ばすには、さらにもう少しかかるだろうな。可哀想なアンソニーのことはすっかり忘れ去られていた。マクガランが懸賞金を追加したのは、たぶん奴なりの情だったんだろう。

奪われて以降の人形については、追加の情報はほとんどない。多分あれは死人の記憶をいつまでも保存しておくための、上等な記憶装置か何かだったんだろう。チャペルはそれを取り戻したがってる。日本人共がどういう目的であれを使うのかは知らないが、元の持ち主だからって、正しい使い方を知ってるとは限らない。なんにせよ、スピリットの面子を潰した報いを連中は血で贖うことになる。組織の勝利を導くために、チャペルは気狂い共とすら手を組んだ。じきに俺たちは高笑いしてこの暑すぎる島国を後にし、シカゴに凱旋できるだろうさ。

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