全ての悪手は盤上で生まれる。指される時を待ち構えている。

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始原において、神々は天と地を創造したが、地は無定形だった。その後で、まあ地獄が突如として生まれた。

誤りを十分に含んだまま世界は始まった。1人の男と1人の女が愛し合った。誘惑があった。果実があった。知識があった。

それから2人はエデンの楽園から追放された。けれども物語は終わらなかった。2人は前進し、自分たちのための生命を生み出した。十分な生命だった。2人は子供たちを設けた。2人は長子にカインと名付けた。それから2人は更に多くの子を設けた。そのうち1人はアベルと呼ばれた。彼は寵愛を受けし者だった。カインはそれが気に食わなかった。

その後で盤上からの最初の駒の排除が起きた。

世界の壮大な仕組みの中では小さな1つの犯罪だった。だがこれほど早く発生した結果、殺人はあらゆる形を取るようになった。子らは世界中に広がった。人は過酷にして残忍な生涯を過ごした。そして誰かが穀物の栽培が可能だと悟った。土地の価値は上がった。人々は貧民の困窮ぶりに対して冷淡になっていった。王は人の上に立って支配し、皇帝は王の上に立って支配した。

最初の帝国が勃興した。ギリシャ。エジプト。ヒッタイト。アッシリア。帝国同士で交易が行われた。時には帝国同士で戦いが繰り広げられたが、勢力の均衡を崩壊させるまでには全く至らなかった。あの日が来るまでは。海原から想像もつかない軍勢が押し寄せてきた。どの帝国も襲撃者の憤怒から逃れられなかった。

青銅器時代は流血と狂気の中、幕開けと変わらぬ様の終焉を迎えた。それからの情勢ムーブは反動的だった。ある帝国が勃興し、滅亡した。ある王国が台頭し、消滅した。

幾度となく、永劫のサイクル、その名も…待て。あれは誰だ?征服王アレクサンドロスだと?何とも傲岸不遜な名前だ。彼はこれまでの世界史上最大の帝国を築き上げた。だが全ての人間と同じく、彼も息絶えた。そして帝国は分裂した。

間もなく二大帝国が勃興した。一方は西方にて、もう一方は東方においてだった。ローマ人は大陸の大半を統一した。中国は特定の時代の一時期は分裂している状況が続いていたが、二大帝国は強大であり、相当長い間存続していた。

宗教も同様に勃興した。いつの時代も信仰は強力な道具であった。そしてムーブを作ったプレーヤー2人はお望みのものを手にする方法を知っていた。だが今回は異なっていた。より…永続的だった。あらゆる人物が受容した。そしてそれこそが間違いだった。

けれども矢張り二大帝国は滅亡した。不可避の結末だったが、帝国の昔日の支配地で勃興した国家は計り知れぬものへと拡大を遂げようとしていた。こうしてチンギス・ハーンが到来して再び全てを一変させた。想像を越えた規模の破壊、そして創造を可能にした駒だった。その駒はアジアの大半を支配下に置き、アジアは彼を支配した。彼が亡くなると帝国は滅亡した。言わずもがなだ。

世界中で妖魅の如く前例のない闇黒の時代が幕を開けた。闇黒が幕を閉じると、全人類の3分の1が咳込み、血を流し、泣き叫び、死に絶える病気が到来した。

しかし勝負の決着はついていなかった。

時間を要したものの、すぐに光明が世界中に蘇り、数世紀の内に蒸気を労働で運用可能であると学んだ。多くの労働。全ての労働においてだ。しかし、いつの時代でも斯様な発見は被支配者たる人々からすれば世界を改善するものではなく、支配者たる人々をより強くするだけのものだった。

蒸気から電気へと至った。こうして現代が幕を開けた。勝負の終盤が近づいてきた。

人類はプレーヤー2人が対局の終盤のムーブに入っている様を知らずにいた。ただ生命について喚き散らすだけだった。大戦争が勃発して終結すると、人々は再び不戦の誓いを立てた。それから次の大戦争が勃発して終結すると、人々は再び不戦の誓いを立てた。それから更に戦争が勃発した。いつの時代も多くの戦争があった。

そして世界情勢に組み込まれた中で、人類そのものと未知なる存在から人類を守る役目を担う1つの団体が誕生した。知れば知るほど、究めれば究めるほど、問いに答えれば答えるほど…プレーヤーは知識を破壊した。

遂に策謀ギャンビットに先立つ策謀ギャンビットに先立つ策謀ギャンビットが効果を見せ始めた。勝負の決着そのものだ。どちらのプレーヤーも勝利出来なかった。プレーヤー2人は望む限りの膠着状態ステイルメイトを維持出来たが、大した問題ではなかった。

SCP-343が席から立ち上がり、手を差し出した。SCP-2343は頷くと立ち上がり、対戦相手と握手を交わした。

「名勝負だったよ。」343が言った。

SCP-2343は盤面に目線を落とした。「どうして俺たちはこいつを止めずにいるんだ?」

343は肩をすくめた。「競争は魂に有益だからな。」

SCP-2343は薄ら笑いを漏らした。「俺たちが興じているのは独り相撲だ。勝者なんて絶対に出て来やしないさ。」

「私たちの行いが偽善の類なのは承知の上だ。それに君だって同朋の一人と結婚した身ではないか?」

「お前さんの言うとおりだな。あいつらが俺の脱走に感付くよりも先に、独房に帰るとするよ。」

こうして神々は別々の道を進んでいくのだった。

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