ダン博士は、自分にまだそんな動きができることに驚きながら、機敏な歩みで管制室に戻った。レッドブルの翼で飛行を続けようじゃないか。「更新を」
フリューワーはちらりと彼を振り返った。「タヴ-666が外宇宙からの何らかの助けを得てサイト-37を掃除しています」ダンはその文に含まれるあらゆる要素にうろたえた。「クレフ博士から電話が来ていますが、話しますか?」
「何だと?」ダンは鼻で笑った。「絶対に嫌だね」彼は両腕を大きく広げながら部屋の真ん中へと歩いた。「残っている19の収容物をリストアップしてくれ、現状を確認したい」
即座に、収容クラス別に並べられた何十ものアノマリーが大きなボードに貼り出された。「ふむ、Keterは多くないな。Euclidは数個残っているだけだ。あと1日程度で、この星を攻略できるだろう」彼がストレッチを終えると、一瞬体の力が抜けた。「ふう。さて、始めようか」
フリューワーは欠伸をした。「ホーチミンにロボット熊が」
「サイバネ強化こそ施されているが、テディベアのようなものだ。ジョージー・ポージーのやつ、全てのモンスターが殺人モンスターだと思い込んでいるみたいだな。ウィルソンズに連絡を」
「エリトリアで我々の野戦病院が攻撃されています。インサージェンシーが町の半分を破壊したので、地元の人々を治療と記憶処理のために集めたのですが、それ以来、何者かが警備隊を狩っているようです」
「何者か、だと?」
フリューワーは両手を開き、明らかに「聞かないでくれ」と表現するジェスチャーを見せた。「詳細は不明です。赤くて、怒っている。受け取った情報はそれだけでして」
ダンはボードに目を向けた。「うーむ。負傷した現地の人の中に四肢麻痺の者はいるか?」
フリューワーは彼をちらりと見上げた。「貴方には時々ゾッとさせられますよ。でしょう?」
ダンは頷いた。「その患者を安定させたら、高気圧室に入れて荒野に置いておこう。彼は3631-2で、3631-1は彼を守ろうとしているんだ。2つを同じ所に集めておけば、収容は楽になる」彼は指を慣らそうとしたが、失敗した。
「凄いな。次はサイト-77からです…… これは、ああ、神よ」フリューワーはスクリーンから目を背けた。「巨大な…… 巨大な蜘蛛です」彼は自分自身を無理やり振り向かせた。「すみません、ちょっと。サイト-77に巨大蜘蛛です。それらは研究棟を占拠しているようです。本当に、ええ、恐ろしい」
「君の想像ほどには恐ろしくはないさ。研究員は安全だ、身体的にはな。しばらくは悪夢にうなされるかもしれないが」ダンは首を横に振った。「サイト-37からはこれだけか? 結構。警備員に、25k以上の高周波エミッターを使って蜘蛛たちをチャンバーに追い込むように伝えろ」
フリューワーの視線は彼に向けられた。
「こいつらは実際には蜘蛛じゃない、犬だ」
シフトメンバーの全員の視線が彼に集まった。
「いや、オーケー、犬のように振る舞う蜘蛛だ」
沈黙。
「dadoの素敵な蜘蛛だ」
フリューワーが隣席の男をつつくと、彼は指示伝達を開始した。
「どうした? 時間があったし、あのエントリーは面白いと聞いたからな」

戦慄を覚えるほどに大量に溢れたモノが、広い貨物用タラップに広がっていた。ジョージ・バウ将軍は、その様子を興味深げに眺めていた。「計画通りに頼むぞ」
パイロットは、彼の貨物機があり得ない乗客を乗せることになったことに警戒しながらも、頷いてみせた。「餌場に落として案内所へ誘い込む、ですね」
「そして、連中の最後の隠れ家を押し流してやれ」バウは期待に胸を膨らませていたが、それが自分のキャラクターに合わないと思い、抑えようともしていた。
白衣の男が走ってきた。「サー! 例のものが見つかりましたよ」
彼は機嫌がよく、この時ばかりは男の横柄な態度を許した。「よくやった。会議室に運び込んでおいてくれ。それと、宗教家の友人たちを呼び出して欲しい。間も無く、我々は1つになる」彼は貨物機を見上げた。「我々、全員がな」
計画が纏まるのは本当に喜ばしいことだ。

「サイト-43から着信です」
「おいおい、あそこに関してはもう全て解決したと思ってたんだがな。出してくれ」
ダニイル・ソコルスキー博士の映像がボードに現れた。「やっとか! 我々は攻撃を受けている」彼は少し固まった。「多少な」
「今じゃ誰もが攻撃を受けている」ダンは溜息を吐いた。「君は列の最後尾だ。だが…… どういう訳だ? 君らは例のミーム看板を出してたし、バウ連合Bowelitionは43を諦めたはずだが」
この"Bowelition"という言葉に、周囲でクスクスと笑いが起き、ダンは顔がニヤつくのを堪えた。
ソコルスキーはウェブカメラにぶつかりそうになりながら、呆れたように手を振った。「独断行動だと考えている。連中は看板に3533を吹きかけた……」ダンの頭脳が名前を当てはめた。メタフィジクリーン!だ。 「…… だから、あれらはもう役に立たない」
ダンは肩を丸めた。結局のところは化学兵器だ。「よし、じゃあ問題のアノマリーについて説明してくれ」
ついに、ソコルスキーはウェブカメラにぶつかった。 「4119だ」
ダンは瞬きをした。「ミス・ダイナマイトだな?」
「ああ。あの女、ハイウェイ21号で爆発を起こし回っている。それで退却中のメカナイトの車列を破壊した それについて全く動揺していない だが、我々が送り込んだドローンも全て同じ目にあった。こちらも収容手順は把握している。射程距離の問題で実行できないだけだ!」
ダンはそのことについて少し考えた。ほんの一瞬だけだった。「ドローンに良いスピーカーはついているか?」

彼女は雲を見上げ、太陽を見たいという衝動と闘った。木々や鳥、爆発しそうなあらゆる物体を見下ろしたい衝動とも闘った。ゴーグル無しには、それは大変なことだった。
最終的に自分に注目を集めるために十分な音を出すことを除き、彼女には全体的な計画というものは無かった。彼女は長い間収容されていたので、協力すれば特権が得られることは知っていた。しかし、混乱すれば変化が生じる。
将軍は、彼女もそうであることを確認していた。
「タリア・コントレラス!」その声は、どこから聞こえてくるのか分からなかった。むしろ、あらゆる方向から同時に聞こえてくるように思えた。彼女は地平線を見渡した。
「私はダン博士、初対面です」
「間違いないわね。そうじゃなければ吹っ飛んでるはずだもの」そこか。彼女はドローンを見つめた。そのドローンは突然粘性のあるオレンジ色の滴に覆われ、それから突然激しく消滅した。ボカン。
「不満を抱えているのは分かっています」声が、先ほどよりやや少ない方向から続いた。「貴女のファイルに目を通しましたが、かなり長い間更新されていないようでした」もう1機、ドカン。「そのことについて話したいのでは?」
「話しても無駄」声が四方八方から来ることが分かった今、彼女はその場でターンするだけでよかった。ボン、ボカン、ドカン。
「適切な相手と話せば、そうでもないかもしれません。適切な心構えを持つ人と」
「怯えた奴とでも言いたいのかしら?」ボカン。
「懐柔的な人ですよ。財団は複数の平行宇宙と外交関係を結んでいます。貴女の出身宇宙を探し、いつか帰れるようにすることも可能かもしれません。どう思われます?」
彼女は動きを止めた。近くを旋回するドローンの音が聞こえてきそうなほどだった。彼女は、1度だけピルエットして、その全てを始末できるはずだと考えた。しかし、彼女はためらった。「なぜ私がそれを信じると? 私がアンタらについて学んだことが1つあるとするなら、それはアンタらがスキップたちに何も教えないということよ」
「ふむ、今やそれは変わろうとしています」その声は、遠くかすれながらも、正直な響きがあった。「今週の出来事の後、物事が元の道に戻ることはあり得ないでしょうね」
彼女は暫く考えてから、溜息を吐いた。「私はとにかく、自分の行き先さえわからないわ」彼女は道路に腰を下ろし、目を閉じた。

「喜んでいる暇はあまり無いかと。地下鉄の監視カメラが何か捕らえました。場所は…… 東京です」
おっと。 「了解、まずは見てみよう」
メインスクリーンに映し出された映像は…… 異様だった。地下鉄の車内には人気がなく、座席に1人座っている男がいるだけだった。誰かが彼と座席に消火器をかけたようだった。
ダンは本当に息を飲んだ。「何てことだ」
その人物を覆っていた塵は、徐々に他の席にも広がっていった。彼の息は小さく遅く、目は固く閉じている。
「地下鉄の…… ええと、アレだ。地下鉄の構内放送システムにアクセスしたい。できるか?」
フリューワーは頷いた。「既にアクセス済みです。監督司令部は伊達じゃありません。放送内容をどうぞ!」
ダンは深く息を吸った。「私が話す」

「ハロルド? 聞こえるか?」
ハロルド・トンプソン、元・SCP財団研究員にして現・大理石のミダス王は、地下鉄の車内の天井を視力を失った目で見上げた。「誰だ…… そこにいるのは…… 」と彼はつぶやき、ひび割れた唇から塵の雲が弾けた。
「ハロルド、よく聞いてくれ」
「君は…… SCP…… 28…… 60と…… 呼ばないのか?」
「博士同士、本名で呼び合おう。私はダンだ」
トンプソンが咳き込み、通路を挟んで反対の席が灰色になり始めた。「ダン? それは……」彼はまた咳をした。「ダンとは誰だ?」
静寂があった。「ダン博士だ」声が呟いた。
トンプソンは笑い始めたが、それはいつものように、更なる咳き込みという結果に終わった。「我々は…… 本名で…… 呼び…… 合うんじゃ…… なかったのか?」
放送の声は一瞬黙り込んだ。そして、しぶしぶ言った。「分かった。コズモだ」
「コズモ」トンプソンはゆっくりと頷いた。「君は…… 死んだと…… 思ってた」
「私の方も、君は昏睡状態にあると思っていたが」
「今日は…… 昏睡の人が…… 大勢…… あちこちにね…… 」トンプソンは歯の間に粒子を噛み始めた。
「こちらも、できるだけ早くそこから助け出そうとしている」ダンが言った。「ただ、1つだけやってほしいことがあるんだ」
中年の擬似石像は、砂利のような、詰まったような音を発した。それは、2度目の笑いの試みだったのかもしれない。「私は…… 何をすればいいのかな…… ダン博士?」
「車内に留まってくれ。ドアはこちらから遠隔操作で閉められる。だが、君は次の駅に着いた時ドアを開けることもできるだろう。君のその状態を考慮してもだ」
トンプソンは苦しそうに頷いた。「それはバウが…… 望んでいること…… じゃないか? コンクリートの…… 男が…… 群衆の中で…… 暴れ回るなんて」
「いいや、奴が望んでいるのは君がそう望むことだ。そして、私が君がそうするだろうと考えることだ。そうなれば私は行動を起こさねばならなくなる。東京の地下鉄網を全てシャットダウンする、それは地球最大の都市の1つを完全に封鎖するということだ。埃が出ないようにするためには、何でもしなくてはいけない。奴は君を利用して主張を証明したがっているんだ」
トンプソンは顔についた塵を払った。「そして君はむしろ…… 私に…… ここに留まってほしいと」
「そうだ。そして、そうするはずだと思っている」
トンプソンは座席に腰を下ろした。「なぜ」
地下鉄の車内には一瞬の静寂があった。
「答えが…… 無いな……. もしかすると私は……. この都市全てが塵に……. 覆われることを……. 望んでいるかも……. しれないぞ。君の気を……. 引くためにな。もしかすると……. 君に……. 私自身を……. 殺させようとしているかも」
更なる静寂があった。
「君は…… これがどういうことか…… 分かっているはずだ。だんまりか。分かっている…… だろ。そうじゃなきゃいけない」
放送システムはようやく話し出した。「車内に残ってくれれば、私が解体申請書を書こう。そうしなければ、私は……. いや。そんなことに時間を使うつもりはない。やってくれるな?」
トンプソンは盲目の瞳で虚空を見つめていた。彼はゆっくりと、細心の注意を払って瞬きをした。
ようやく返答があった。「今回は…… 君の計画が…… 使われることを祈ろう」

ダンは列車が除染されるのを見守っていた。乗客たちは、閉鎖された車両にある彫刻は予期せず行われた芸術的プロジェクトであり、著作権の関係で動かすことはできないと聞かされていた。それはカバーストーリーとしては余りにも危なっかしいものだったが、何とか機能した。
「彼が出てくるかもしれないと?」フリューワーが尋ねた。
「いいや」
「それでも、貴方はああ言わなくてはいけなかったわけですか、念のために」
ダンは鼻に皺を寄せた。「我々は皆、"悪い警官"の訓練を受けている。善い事じゃない。だが、上手くいく」
フリューワーは頷き、彼の肩を叩いた。「気に障りましたか? 気難しいですね」彼は立ち上がった。 「秘密は守りますよ、コズモ」
サフィーロは椅子に座り、もう既に眉をひそめていた。「コズモ?」
「ええ、コズモって誰?」ソフィア・ライトが再び二重扉の前に現れた。ヴォーはその横に立ち、コーヒーがいっぱいに乗ったトレイと格闘していた。
ダンは頬を膨らませて息を吐いた。「そのトレイが全部私のものだと言うなら、教えてやる」

ジャック・ウィルフォード将軍はサイト-19に帰還する貨物機を見ていた。「危うく見逃すところだった」
ヘリのパイロットは彼をちらりと振り返った。「我々のステルス技術は優秀ですからね。優秀すぎるかもしれません」
「なぜ我々はあんなものを運べるほど大きな飛行機を持っている?」彼は、峡谷に向かってよろめきながら進む、土と、根こそぎ倒された木と、粘性のある黒い汚泥の塊を見下ろした。
「そいつらが逃げたときに連れ帰れるようにでしょう」パイロットは眉をひそめた。「19以外のサイトに2つ目があるといいんですが」
「そうだな。よし、1マイル程追跡し、それから報告を入れて搭乗者を迎えに行くぞ」
パイロットは頷いた。「ドクター・ゴーグルも、今回ばかりは自分のやっていることを分かっていると祈ってますよ」
ウィルフォードは眉をひそめた。「奴はいつだって自分のやっていることを分かっている。それが問題なんだ」

「何処だ?」それは黒い液体を大量に吐き出しながら、喘ぐように言った。「何処だ?!」
良い質問だ! それの脳内に声が響いた。何処だ、何処だ、何処だ。だが、何が何処なのかな?
「奴らは何処だ?! 見えない! 匂いもしない!」それは巨大な顎を鳴らして、自らの大きなうねる舌を切り裂き、暗赤色の血を一面に塗りたくった。「お前の匂いが分かるぞ! 見えない、だが匂いはする。何も見えない!」
そして、私は何も嗅げない。声は言った。だが、君の声はよく聞こえるとも。君は話す必要さえないし、それが難しいことも知っているよ。声は一旦止まった。だけれども、君には素晴らしい発声法があるじゃないか。
それは巨大なずぶ濡れの片足を緑のセダンの屋根に突き刺し、その爪で車内を握りしめた。それから、車を軋ませながら金属製の靴のように履き、駐車場を突進するように横断した。「黙れ!」それは濡れた声で唸った。
それじゃあ、別の方法を試そうか。もっと直接的にね。我々は何を探している?
「人間だ!」
それは、どうしてだ?
それは尻尾を大きく振り、情報表示板の列を破壊した。「苦痛だ」
次に聞こえた声は、満足げで、気取ったものでさえあった。それなら、私も助力しよう。

ヴォーはモニターに釘付けになっていた。「これは」
「これは…… 682ね、」ライトが言った。「その上、035が…… 帽子になってるなんて」
ダンは歌い出したいような気持ちになった。

建物に入ろう。
それは、波型の日避けも温暖な気候らしい薄い壁も、一切意に介さず、突き破って歩いた。
人間どもはいつもこういう場所にいる。こういう所に蔓延る。
「奴らは蔓延そのものだ」爬虫類はそれに賛同した。ガラス張りの長い廊下を抜けると、壁掛けの地図があり、ビデオモニターがあり、売店があった。それは崩れつつある車の残骸をその全てに擦り付け、部屋を破片と断片に変えた。
連中は隠れているようだ。だが必ずここにいる。こんなにもか弱いシェルターは、小さなシロアリが補強しなければ直ぐに潰れてしまうはずだ。
「シロアリども」それは叫びながら割れた床に片足を入れ、上から土台を引きちぎった。

部屋は静まりかえり、ダンを除く全員が立ちすくんでいた。
「そんな、」ライトはやっとの思いで言った。
ダンは頷いた。「バウも必死だな。この恐ろしいアイデアは、私がまだ給料を貰っていた頃でさえ古かったんだぞ」彼は両手を広げ、部屋の真ん中に飛んできて、ピルエットをした。「682はエクトプラズム性の火傷を再生し、035は奴に集中力と方向性を与える」
「特に動揺しているようには見えませんね」サフィーロが言った。彼女は動揺していた。
「そうだな。連中はどこにも向かっていないのだから」
「何ですって?」セフィーロは今、彼をじっと見ていた。「あれらは…… 我々のバックアップ基地に向かっているんですよ!」
彼は首を横に振った。「誰がバックアップ基地なんて言った?」
ライトは彼の肩に片手を置き、彼は回転を止めた。「何をやろうとしているのか、本当にわかってるの?」
彼はニヤリと笑った。「そうだ、傑作を仕組んでいる」
彼は無人のコンソールに歩み寄り、ボタンを押した。「タウ-1、こちらダン博士」
「どうぞ」ウィルフォードは唸るように言った。
「デューク・プロトコル発動だ」

ガラスと木材の雨が降り注ぐ中で、両者は建物を飛び出し、畏敬の念を抱くはずの光景を目の当たりにした。しかし、どちらもそれを抱くことはできず、悔しさと驚きをもって、その巨大な裂け目を見下ろしていた。
これは、声が言った。随分と大きな穴だ。
「人間どもは何処だ?」爬虫類は唸り、その声はグランド・キャニオンにこだました。「汚らわしく、愚かで、忌まわしい人間ども!」それは目の前の地面を薙ぎ払い、岩に大きな傷を刻み込んだ。
それが何か問題かね? 我々は今や自由だ! 望むことは全て為せるというのに!
「我が望みは」ソレは歯の間から血を滲ませながら叫んだ。「苦痛だ!」
「そんならお前を痛めつけてやろうか、醜い緑のクソ野郎よ、」聞き覚えのある声が、天から響いてきた。
両者は上を見上げ 仮面の方には選択の余地はなかったのだが トカゲの荒い息遣いと低い唸り声越しには聞こえなかった、ヘリコプターからの新しい声を確認した。
ヘリコプターのドアが開いた。
開いたドアの中には男が立っていた。
男の体の周囲には

「あれは?」 ヴォーはほとんど叫ぶように言った。「一体?」
「何なのよ!?」ライトは叫んだ。

男の体の周囲には、虹色に輝く蝶々が飛び回り、下降気流に乗りながら陽気に舞っていた。非情さと厳格さを宿すやつれた髭面に、古めかしいカメラを首から下げ、軍帽を被った、白髪混じりのボサボサ頭。その男は、彼らを徹底的に熱狂的に見下ろしながら、ニヤニヤと笑っていた。
「第2ラウンドの用意はいいか、バカとブス?」彼はメガホンを使って話していた。「お前はバカだ。そんでお前がブス。どっちを指しているのか分からなけりゃ、くじ引きで決めろ。いや、すまない、お前らには誠実で賢い生物らしい対向な親指は無いんだったか」
爬虫類の心臓には炎が燃えていた。脳には炎が2つも燃えていた。「殺す」
いいじゃないか、そうしよう。

「説明して」ライトは息を荒くした。
「何、楽しみは取っておくものだぞ?」ダンは再びポケットに手を入れ、踵を前後に揺らしながら穏やかな笑みを浮かべていた。

コンドラキとして知られていたそれは、まさに大胆そのものだった。大胆にも、かつて君に乗った男。なるほど、動揺するのも頷ける。だが、集中を切らすな。無茶はしないことだ。
「私の思考から出ていけ」それは空中に飛び上がり、ヘリに襲いかかった。ヘリは岩棚を離れ、上空2kmでホバリングしていた。「私の顔から離れろ」
「おっと、そっちが顔かよ?」コンドラキは挑発した。「てっきりケツの方かと」
それは首を傾げながら、景色の中を探した。「其処だ」それはのろのろと動き出した。
其処だと? 何が其処なんだ?
それはミニバンやトラック、オートバイの間を縫うように走りながら、焦る様な様子で駐車場へと戻った。そして、十分に走ったところで、大きくターンした。
今向かう先は好ましくないな。私たちが向かう先は好ましくない場所だぞ。
「奴は挑んだ」
そうだ。だが、だからと言って君が挑み返してやる必要はない!
それは渓谷に向かって、ヘリコプターに向かって、その場凌ぎの逃げ場になりそうな岩場に向かって、突進していき……
まさか本気じゃないだろう。
「死ね」不死身の地獄の獣のような怒りの叫びを上げ、断崖絶壁に身を投げた。
コンドラキは指の先でメガホンを弾き、それは2体のオブジェクトを追いかけるように落ちていった。

ダンにとって、映画の世界の住人になりたいと思うことはまず無いことだったが、今だけは、まさにそう思った。そうなれば時間はゆっくりと流れ、この場面は完璧なフレームに収まっただろう。巨大なトカゲは、滴るような黒い液体と真紅の血液に塗れ、峡谷の上の何もない空間に飛び込んだ。その顎が急加速して離れていくヘリコプターに届く寸前で閉じ、蝶の男は右手でさらばと手を振り、左手では無礼なジェスチャーをしながら、笑っていた。最高に絵になる光景だった。
しかし、実際には、誰かが腐ったゴミの山を崖から投げ捨てたようにしか見えなかった。その爬虫類は滑稽なほどのスピードで谷底に墜落した。
映像の解像度が低くて見えなかったものの、ダンは想像した。あの仮面の表情が、地面に落ちる直前に、喜劇から悲劇に変わったところを思い描いた。

一瞬の静寂の後、部屋は喧騒に包まれた。
10人の研究員と5人のエージェントが大きな拍手を送る中、サフィーロはサイト-19の収容物リストを呼び出し、最後の2つの厄介なアノマリーにチェックを入れた。ソフィア・ライトは彼に向けて温かい、評価するような視線を送った。「408ね?」
彼は彼女にウインクして見せた。「408さ」
「あの、全く理解が追いつきません」ヴォーが言った。その言葉は、彼の顔にも反映されていた。
「蝶々よ」ライトは説明した。「幻想術師の蝶。色を操って、好きな形を作れるの」彼女は目を丸くして笑った。「全く、してやられたわ。コズモ」
彼は溜息を吐いた。それから、彼は突然倒れそうになった。果てしない危機的瞬間は過ぎ去り、この1週間が突然自己主張してきたのだ。
彼女は何かを悟った。「待った。コズモ。貴方…… ファーストネームを変えたことを知られないように、ラストネームを編集してたの?」
彼はSCP-179のコンソールに腰を下ろし、その上に頭を置いた。「マキャヴェリも私には敵わないだろうな」彼は目を閉じた。
彼女は彼の肩を叩いた。「682はすぐに目を覚ますはずよ。怪我をしてるだろうけれど、きっとめちゃくちゃに怒ってる」
彼は白衣の袖に顔を擦り付けた。「5分もすれば、自分で自分をノックアウトしてくれるはずだ」
「何? どうやって? どうして?」
彼は誰にも見えないところで微笑んだ。
「本当にヤバいのはもう一方のアノマリーだからな」

これは君の落ち度だ。
「黙れ!」それは折れた2本の脚を引きずりながら、峡谷の壁に向かって飛び跳ねた。石灰岩に顔を押し付け、仮面を剥がそうとしていた。「この愚かな、無用のガラクタめ! 黙れ!」
我々は無敵だったはずだ、君と私は! 君の強靭さと私の頭脳があれば何だって出来たはずだろう! それなのに君はこんな穴に身を投げた。バカな人間にまんまと操られた!
「黙れ!」それが後ずさりして再び壁に体を衝突させると、玉石の雨が背中に叩きつけられた。
君も同類だ。
「黙れ!」
君も彼らと同じように愚かだ
「黙れ!」
君は人間どもと同レベルじゃないか、実に無価値で
「黙れ!」それは岩に体を打ち付けた。身を削り、軋ませ、血と黒い滲みを残しながら、アリゾナの地層の太古の岩盤に体を打ち付け続けた。最後には、両者ともしばらく何も言えなくなった。

「ダン」彼は震えていた。いや、誰かが彼を揺さぶった、だろうか? 「ダン」
誰かが彼を揺さぶっていた。彼は目を覚ました。「ああ…… どれくらい……」
「小一時間ほど。起こしてごめん」
彼は体を伸ばそうとし、全身の筋繊維がそれに反発した。「ううううう」ライトとサフィーロが横に立っていた。彼は目を細めた。「眠れなかったか?」
彼女は首を横に振った。
「どうやら、私もそうらしい」
ライトは微笑んでいた。「タウ-1から連絡があったわ。サイト-19からのメッセージを転送すると」
彼は頷いた。「立ち上がるつもりはない」
彼女は首を傾げ、フリューワーはコンソールのボタンを押した。中央のスクリーンにジョージ・バウ将軍の顔が映し出された。
ダンは手を振って、欠伸をした。「これは…… 不吉な敗戦演説か?」彼は砂漠のように乾いた口の中を舌でまさぐった。「それともまさか、不吉な勝利演説か?」
「それは君の見方次第だ」バウは、現代の陸軍将軍の模範であるかのようにきっちりと整い、アイロンまでかけられているように見えた。「しかし、この時点では、我々のそれと大差はないだろうな」
ダンがのろのろと立ち上がった。「ああ実に、我々は多くのことを一緒に、お前と私で、乗り越えてきたな」
「2人の死人がパーティーをしている」バウは映像配信が始まってから口を閉じておらず、ダンは自分がその不自然なほど白い歯を見つめていることに気づいた。
「死にたい気分だね」彼は部屋を見回した。もうエナジードリンクはない。彼は溜息を吐き、その音とともに魂の半分が出てくるような気がした。
バウは両眉を上げた。「しかし、私は君に目的を与えただろう。新しい人生を与えた」
ダンはまだその歯を見つめていた。突然、彼はその中央にある消えたピクセルdead pixelに目を止めた。
画面の不具合? サイト-01で?
バウは音を立てて口を閉じた。「そして今、私はそれを取り上げよう。さらばだ、ダン博士」
通信が打ち切られた。
最初に口を開いたのはフリューワーだった。「サー、我々は 」
「ああ、そうだ、分かってる、分かっているとも」ダンは呼吸困難に陥っていた。「分かっている。くそ、ええと…… 畜生。ヘリを呼び戻せ、私は……行かなければ。ウィルフォードに連絡を。発射台まで連れて行ってくれ。彼は掌を額に打ちつけた。「だめだ、そんな時間はない」タイムアップ。彼の目は潤んでいた。「クソっ、クソっ、クソっ」
「ねえ、どうしたの?」ライトは彼の肩に手をかけようとしたが、彼の歩みが速すぎて失敗した。
「サイト-01で画面の不具合なんてあり得ない。そんな不具合が起き得るスクリーンさえここにはないだろう」
「一体何の話?」
サフィーロは咳払いをした。「サイト-17で収容違反が発生しました」彼女はダンを見つめていた。「096です」
「あの野郎、」ダンが呟いた。「私の計画が台無しじゃないか。ヘリの準備はできたか?」彼はドアに向かった。
無線から声がした。ウィルフォードだ。「こちらは096を追跡中だ。ダン博士を大至急連れ出せ。彼がそこにいると、評議会が危険に晒される」
「彼らは皆別の場所にいる」とダンは言った。彼の視線は行ったり来たりしていた。「O5はアクティブ・アノマリーのある所にはいない」
ライトは眉をひそめた。「何? どんなアクティブ・アノマリーがあるの? ここではアクティブ・アノマリーは禁止されてるのよ、ここはサイ 」
「サー、」フリューワーはスクリーンを指さしながら言った。「貴方はこれを見たいはずです」
「もう遅い、いつも手遅れだった」彼はドアノブに片手をかけた。「もういかなければ。奴は数分以内にここに来る」
「見殺しにするつもりはないわ」ライトは囁き、今度は片手を彼の肩に置くことが出来た。「何とかしてみせる」
「私はすでに死んでいるんだ」彼は言った。「これはただの水そ 」
「サー!」フリューワーは叫んだ。「貴方は絶対にこれを見たいはずです!」

アメリカの平原を、灰色のひょろ長い一本の線が風を切って走り抜けた。ソニックブームが起きた。
あれはそこまで速くはないはずだったが。
「閉ざされた少年の日の息づかいが、空虚なる街の郁々たる時計の中、語られざる恐怖の腐敗した断片に現れる。その寄る場こそ 」
「月ムーンだとも」

息を呑むような静けさの中、彼らは、ムーン・チャンピオンが心臓と血管の馬を腿の間に挟んだままに急降下し、地獄から這い出た悪魔を掠めて着地するのを見た。2体の怪物は再び音速の壁を破り、互いに蹴り合い、引き裂きあった。
「それは光栄であり、喜びであり、学者であり、紳士であった」ムーン・チャンピオンの声はとても大きく、スピーカーが割れるほどかと思われた。「貴方は鉄の目を持つ者、ミサイル・ダン。私は貴方に敬意を表そう」
ダンは泣きそうになった。
無線が再び鳴った。「さあ、このちょっとした問題を解決して、蝋燭に火を灯そうじゃないか?」
ダンは涙を流した。

「さあ、天へ昇って」サウエルスエソルはムーン・チャンピオンの心へ歌いかけた。「私はここよ」
「マイ・レディ!」
「マイ・チャンピオン」彼女は微笑んだ。彼にはそれが分かった。微笑み。
彼が腿を緩めて蹴ると、既にぺしゃんこになりつつあった牛の心臓的な蜘蛛は、未だ意味不明な独り言を言いながら空へと落ちていった。
灰色の獣は彼の顔/マスクを引っ掻き、悲鳴をあげ、泣き叫び、盲目的に彼を引き裂こうとした。彼はジェットパックを更に強く噴射し、それを強く抱きしめた。
「ハニー!」液体燃料の炎に包まれて大気圏を突破しながら、彼はほとんど叫ぶ様に言った。「今帰るぞ、夕飯も用意してあるんだ!」

ダンはスクリーンを見つめていた。
「ムーン・チャンピオンが、全て終わらせてくれたのだと思います」フリューワーが囁くように言った。
ダンは白衣の袖で顔の水分を除去すると、血走った目でチームを見た。ライト、ヴォー、サフィーロの3人が彼を見つめていた。彼らの表情が分からなかった。突然、彼は何も分からなくなった。私の頭はどうなってる?
彼は後ろに倒れ、コンソールに支えられた。彼は自分が言葉を話せると思えなかった。
「片付けの時間よ」ライトが言った。彼女はサフィーロの方を向いた。「貴女のシフトメンバーを集めて。デブリーフィングをやるから、30分以内に全員を部屋に集合させてほしいの」
ダンは指を鳴らした。今度は上手くいった。「実は、もう1つやることがある」
ライトは眉をひそめた。「何?」

「こんなものは時間の無駄だ」ブマロは不満そうに言った。
「学生に戻れとでも言うのか?」イトリックは腕を組んだまま聞いた尋ねた。
バウはホワイトボードに向かい、書き始めた。「今こそ、我々の不和が終わりを告げる時だ」
教会はバウに忠誠を誓わねばならない
彼は2人に顔を向けた。
ブマロは頷いた。「気分が悪い」
イトリックも同様に頷いた。「ああ、本当に気分が悪い。それで?」
バウはホワイトボードに向き直った。ボードには新たなメッセージが現れていた。
それしらないひと
彼はドアの脇に立っていた研究員に目線を向けた。「これはどういうことだ?」
男は恐怖と混乱の両方を感じているようだった。「知りません!」彼は頭を振った。「あー…… もしかすると、異常なホワイトボードは複数あったとか?」

ダンはホワイトボードまで歩き、マーカーの蓋を外すと、ゆっくり、じっくりと書き始めた。
スパイは名乗り出なければならない
「私はO5の指示で貴方を見張っていました」フリューワーが即座に言った。
「私はウィルフォード将軍の指示で」彼の後ろにいた女性が言った。
「私はカオス・インサージェンシーの内通者です」サフィーロはそう言うと、本当に両手を口に当てた。
部屋にいた誰もが、ショックと共に彼女を見つめた。ダン博士を除いては。「君は優秀な情報提供者だったね、ケリィ。まるでサイト-19の内部情報提供者のようだった、これ以上に望むものはなかったよ」彼はマーカーに蓋を付け直した。「だが今は、サイトの外にメッセージを送るのはかなり難しくなっただろう」
ライトの口は動いたが、何も言わなかった。ダンはホワイトボードをマーカーで叩いた。「サイト-01にアノマリーを持ち込むのに必要な書類仕事は、信じられないほど大変だったよ。君らにはSCP-2330、ミーム性の強制力のあるホワイトボードを見せていたんだ。包囲網の中でこれを密輸するのは簡単じゃなかった、本当にな」彼はボードを完全に消し、最後のメッセージを書き込んだ。
以上、解散
それから彼はドアへ向かった。
エージェントたちは微動だにしないサフィーロを拘束しに向かい、ライトは呆然としてダンの後を追った。「ねえ、待ってよ」
「眠気覚ましのジュースがどれだけ残っているか分からない」2人で二重扉を通りながら、彼はそう言った。
「怒ってる?」
彼は立ち止まって振り返り、彼女の顔を見つめ、欠伸をしたい衝動を何とか抑えた。「何に対してだ?」
「分かってるはずよ」
彼は肩をすくめた。「君が奴を太陽に発射していないことくらい分かってたさ。君と言ったが、実際には彼らか。恐らく、君ならそうしただろう」
彼女は頷いた。「すぐにでもね」
彼は彼女に微笑みかけると、再び歩き出した。
突然、過去数時間の出来事が未解決の狂気の波となり、彼女の脳に直撃した。「待った、ちょっと。408は実際には喋れないし、メガホンも持てないんじゃないかしら。出来るの、ダン?」
彼は、白衣をなびかせながら、廊下を走り抜けていった。
彼女は追いつくために走った。「ダン?! 出来るの?!」
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