これは全くの憶測に過ぎない。ほとんど何の関連性もない。実際、多分こんなことは決して起こらないだろう。しかし、もし起こるとしたら、きっとこうなる。
あるロシア人の話。
その男には演劇の才能が自然と備わっていたが、それ以外の創造的な芸術の技能が欠けていた。彼は見栄えを理解していたが、色彩理論は理解していなかった。音響学を理解していたが、音楽理論は理解していなかった。
財団に入る前、彼はしばしば他人の演奏を見て過ごし、遠巻きに感心しながらも、自分で楽器を演奏しようなどとは一度も思わなかった。彼はこうした創作者たちに密かな憧れと尊敬の念を抱いていたが、それは往々にして昔の同僚たちから不興を買うものだった。彼はこの憧れを封印せざるを得なくなり、それは単なる一時の好奇心、ひいては時間の浪費だと言うようになった。
財団に入った今も、大した違いはない。今回、彼は演劇との相性をことさらに引き立て、科学者たちの間に紛れ込んだ奇矯なロシア人を演じていた。同僚の多くは遥かに風変わりで、彼はお喋りする犬、蝶男、角の生えた女と知り合った。しかし、今回の彼は憧れを封印した。失敗するよりは、失敗しないほうがいい。
そんなある日、彼はふとした機会に、手つかずで放置されていた1本のウクレレに目を留めた。楽器を前にして、彼が人生よりも、自分自身よりも壮大な演出家の役柄を演じてみせると、なんとも驚いたことに、ウクレレは弾き返してきた。粗野で、鼻にかかっていて、不機嫌で、その他色々と下品な言葉が当て嵌まる音色だったが、彼は嬉しかった。
それから、彼はまだ距離を置きながら、自分の想いに不安を抱きながら、できる限りのことを学んだ。最初はごく単純なこと、音符とその位置や弾き方を覚えた。それから和音と、どれが最も心地良い (或いは不愉快な) 音色を生じさせるかについて。そして、より細かい事柄へと移った。弦の張り方、木部の保護のやり方、手入れの仕方。
やがて、その時が来た。正念場だった。多分。彼は相変わらず自信がなく、実際に演奏することへの抵抗があったが、もうここまで来てしまったのだ。だから彼は始めた。ゆっくりと、アルペッジョを弾き、それからちょっと構成を弱めた旋律重視のものに移り、ほんの少し前に覚えたのと同じ和音と波を繰り返し、何か簡単な曲、快い曲に合わせて歌い始めた。そして、演奏を終えた。
あるイギリス人の話。
暴力的で口が悪く、人の神経を逆撫でするその男にも、少しは人生において気にかけている物事があった。まるで血気盛んなヤンキーのように、彼は自然と武器に惹かれた。恐らくそれは健全ではなかっただろうし、お気に入りの娯楽が植民地からの借り物だというのは実に皮肉だが、単純にそういうものだった。機械仕掛け、高出力、低労力。彼にとっては完璧だった。
彼はしばしば、他の不届き者たちとつるんで射撃場へ赴き、タバコを吸ったり酒を飲んだりして過ごした。悪趣味なジョークを飛ばし合い、腹を立て、大人げない口喧嘩をして、次の場所へ移動した。カジノかもしれない。クラブかもしれない。いつもどこか新しい場所で、同じ場所には決して足を運ばなかった。
そして、またしてもそんな夜を過ごしたせいでまたしても二日酔いに苛まれ、彼は涼しいベンチにもたれかかって身体を休めようとしたが、気分はまるで優れなかった。もしかしたら、自業自得かもしれなかった。ガンガンという頭痛と胃腸を蝕むイブプロフェンのむかつく副作用、彼の人生は永久にそんなものなのかもしれない。
そんなある日、彼は1丁の狙撃銃に出会った。純正の、よく整備されたエレガントなSV-98だった。古風なボルトアクション方式で、場違いながらも非常に似合いの現代風アクセサリが付いていた。滑らかに動き、機械加工も申し分なかったが、彼を虜にする鋭さがあった。それは重くて軽く、彼はそれがどこから来たのかを知りたくなった。
それから、彼はその銃について知るべきことは全て知り尽くしたと思った。それはGRU-P部局に改造され、幾度となく耐久試験を受け、その都度見事に作動していた。しかし、結局はただの小銃でしかなく、彼は小銃に何ができるかを知っていた。他に言うことなどあろうか。使いやすく、それなりの威力があり、間違いなく斬新だったが、それ以外の全てがお粗末な武器だった。以上のような理由で、彼はその銃を信頼しなかった。
そして、結局のところ、射撃場に持ち出した。それは衝動的な行動で、彼はその時気分が乗っていて、特に何も考えてはいなかった。一生に一度のチャンスだ、こいつの後には同じような小銃には二度とお目にかかれないだろうと自分を納得させ、ふと我に返った時にはもう狙撃の構えに入っていた。震える呼吸を無理に整えて、そのままじっとしていたいと思い、胸に当たる銃床の圧迫感を感じ、視線は僅かに的から逸れていて、スコープの照準が合っていないから外れるだろうと分かっていて時間をかけてそれを正すべきだったがもう既にボルトを引いていて彼は-
おしまい。
もし仮にこんなことがあったならのお話。