「では、調査会議を始める。まず資料の2ページ目を見てくれ」
会議室に集まった各員は、各々の資料をめくる。
「昨夜未明、未分類オブジェクトに対する実験が許可無しで行われた上、実験中に当該オブジェクトの破壊事案が発生した」
「破壊されたオブジェクトは、数日前にMC&Dのオークションハウスから回収した、この生物型オブジェクト」
調査班長は、スクリーンに映る人の形をした肉塊の輪郭をポインターでなぞる。
「異常な肉体再生能力を持つ点以外は何も分かっておらず、数日前までは検証・調査待ちの段階だった」
続いてスクリーンに白衣を着た初老の男性が映される。
「実験責任者はレベル3スタッフの██博士。財団忠誠度も高く、数日前の心理分析も問題なくパスしていた」
「なるほど、確かに人事ファイルを見る限り、オブジェクトを切り刻んで消し炭にした挙句、自らの喉を掻っ切るような人物とは思えませんね」
「実験やオブジェクトのデータについては、██博士によって破棄され復旧作業中とありますが……ふむ、少なくとも百数回の実験施行ですか……」
冗談めかしに感想を述べる派手な格好の若者を横目に、皺一つない白衣を着る男性は静かに呟いた。
その後ろで資料を熱心に読み耽る、如何にも新人といった研究員が続く。
「あの、オブジェクトが自身に対しての破壊行動を取らせる、何らかの強制力や精神作用を有していた可能性は?」
「有り得るが、██博士以外のオブジェクトと接触した人物に異常が確認されていないことを考えると何とも言えん。単に、オブジェクトが破壊されたことで、異常特性が無力化されただけともとれるが」
さらに、黒いスーツの女性が右手を挙げて尋ねる。
「すいません。事案の24時間以内に、██博士が接触した他のオブジェクトは分かっていますか?」
「詳細は現在調査中だが、簡易報告では精神に影響を及ぼし得るオブジェクトとの接触は確認されていない」
「ふむ、精神作用による線は薄いですか」
「要注意団体との接触や関与の疑いもなし。唯一の家族も数年前に他界。脅迫や記憶操作を受けていた可能性も低そうだ」
派手な格好の若者はお手上げといった風に独り言ちる。
だが、そんなとき、調査班長のもとへと内線による一通の報告が届いた。
「どうしました?」
「いや、一部データの復旧に成功したそうだが……」
内線のやり取りからして、どうやら進展があったように見える。
ただ、調査班長はなぜだか妙にバツが悪いといった表情で言葉を続けた。
「このデータを見てくれ。オブジェクトのDNA鑑定資料だ」
「これは……まさか」
「あの、鑑定ミスということは?」
新たな資料に目を奪われながら、思わず何人かが声を上げる。
「結果に間違いはない。██博士とオブジェクトは血縁関係にある。いや、正確に言えば、アレは……██博士の"元"娘だ」
静まり返る会議室。そんな沈黙の中、ただ皆はこう思った。
「そんな有り触れた理由で」