ある重大な現実改変者についての会議
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ある些細な現実子異常についての報告



執務室報告・会議記録 5月9日


 他の部屋よりも凝った装飾に、敷かれた深い紅の絨毯。壁には幾人かの肖像画と、財団のシンボルがあしらわれた金属製の盾がかけられている。この日、サイト-81KAのサイト管理官執務室を玉菜博士が訪ねていた。
「先日、5月8日に観測された、大規模な空間現実性濃度希薄化を伴う現実子異常の調査結果を報告しに参りました」
「ああ、結果が出ましたか。報告お願いします」
 書類の山を手際よく処理していた沼月管理官はその手を止めた。
「はい。結論から言いますと、現実子異常の原因は不明でした」
「不明ですか?」
 沼月管理官は驚いたように眉をあげる。玉菜の現実改変に対する執念深さを知っているからこその驚きだった。
「はい。周囲の現実性濃度の希薄化具合から、現実改変能強度クラスB以上の現実改変者の関与が疑われましたが、付近にそのような人物は発見されず、また、現実改変による因果の矛盾も発見されなかったことから、現実改変は行われず、単になんらかの要因で現実性濃度が変動しただけだという結論に至りました。また、突発的な発生であり、今後同様の現象が起こる可能性は極めて低いと考えます」
「現実性濃度希薄化以外、不自然な点は何もなかったということですか?」
 沼月管理官は念を押して聞き返した。てっきり、厄介な仕事が増えるのだろうと思っていたために、少し拍子抜けしてしまったのだ。
「はい。ですから、これ以上の調査は意味をなさないと考えます。……あ、異常と言えば、現実性濃度希薄化が観測された範囲内の交差点では、先日5月5日に事故が発生していました。ですが、この事故になんら不自然な点は見当たらず、これは全く現実子異常に関係がないと推測されます」
「ちなみに、その事故がどんなものだったかは分かりますか?」
「死者1名、負傷者1名の交通事故ですね。なんでも、信号無視の車両に、娘を庇った母親が轢かれたそうで。一応詳細は報告書にもまとめてありますよ」
「そうでしたか。報告ありがとうございます。報告書はここに置いておいてください」
「承知しました。それでは、失礼します」
 玉菜は報告書を執務机に載せて、踵を返し、執務室を後にした。
 沼月管理官は、ナンバーも割り振られなかった超常現象に"調査打切り"の印を押す。そして、あまり重要ではない書類が詰めこまれた段ボールへ、無造作にそれを放り込んだ。
 それは、あまりにもいつも通りで、普通の光景だった。
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