Info
タイトル: 財団はトランスフォビックではありません
翻訳責任者: FattyAcid
翻訳年: 2025年
原題: The Foundation Is Not Transphobic
著作権者: Dr Asteria
作成年: 2025年
初訳時参照リビジョン: rev. 15
元記事リンク: https://scp-wiki.wikidot.com/the-foundation-is-not-transphobic
SCP-6113は先に読んでおいてください。
ご存知ない方のために、まずは自己紹介をさせてください。私は倫理委員会の連絡員で、サイト-17を担当しております、ジェレミア・シメリアン博士といいます。最近起きた事件を受けて、サイト管理官であるグラハム氏の指示により、質問に回答し、意見を聴取し、財団のポリシーを再確認することになりました。
どうか手を下ろしてください。今挙げた3つのうち、2つはやりません。質問も意見も無しで、座って聞いていてください。それらの代わりに、昨年起きた収容違反についてお話ししましょう。
ニュースはサイトで急速に広まります—— 倫理委員会ではより速く。そして噂話は、それよりもさらに速く広がるものです。このサイトにおいて、SCP-6113プロジェクトの処理方法に不満を持つ人が多くいるということは、当委員会の耳にも届いております。
はい、はい、どうぞお好きなだけ不満を言ってくださって構いません。皆さんは自分が何者であるかをよくご存知でしょう。しかし、私は非難したり、辱めたりするためにここに来たわけではありません。私はただ、そのような不満を抱いている人々を教育するため、この機会を利用したいと考えています。彼らが働いている財団が、なぜこのような状態になっているのかを説明したいのです。
それでは、最初にはっきりさせておきたいことがあります。財団はトランスフォビックではありません。
どうか、手を下ろしてください。
<パーク博士がクリップボードに書き付けている数分間沈黙が生じる。>
パーク博士: 証言してくれてありがとうございます。後ほどこのことについてもっとお話するでしょう。何か他に供述したいことはありますか?
SCP-6113-3: <間>うーん…… ない。それだけ。
パーク博士: OK、それでは。
SCP-6113-3: うー、ジェームズ?
パーク博士: はい?
[データ削除済]
SCP-6113-3: なんで…… なんでそんなに気にかけてる?
パーク博士: はい?
SCP-6113-3: なんで気にしているんだよ…… こんなこと?
パーク博士: ふむ、それが私の仕事ではないですか?
<SCP-6113-3は沈黙する>
パーク博士: い、いえ、あなたのウェルビーイングについて心配するのは決して義務感だけではないのですよ、SCP-6113-3。ですが——
SCP-6113-3: それ以上のものがあるんだろ。
パーク博士: 何を言いたいんですか?
トランスジェンダーの財団職員は、各々のアイデンティティに基づき適切な配慮と丁寧な対応を受けます。財団の医療保険制度では、性別適合手術や投薬が全額カバーされますし、仕事上のあらゆる場面で希望の名前や代名詞を使用することが奨励されています。加えて、同僚の誰かがあなたを苦しめるようなことがあれば、人事部がいつでも対応するでしょう。
上層部のお偉方にとって、こうした福利厚生の提供は、職員の満足感を維持し、雑念を抱かないようにするために必要な措置なのです。我々もそれを隠しはしません。採用パンフレットを読んで、この仕事に惹かれた方もいらっしゃるでしょう。異常な特性を持つ職員への対応と同様のことです。ある職員を統制するポリシーが当人のアイデンティティと相容れないならば、如何に優れた人材であったとしても活用できません。我々はそれを理解しています。財団の中で特に著名な人的資産の一部は、例えばクレフ、ケイン、ムースなど、彼ら自身が異常存在であったりするのですよ。
もし我々財団が彼らの異常な性質に配慮しなければ、他の組織がそうするでしょう。そうして、彼らの才能は我々の手から失われます。それと全く同じことが、トランスジェンダーの職員についても言えるのです。
SCP-6113-3: <溜息> あのな…… つまり、アタシが言いたいのは、アンタがこの異常存在にめちゃめちゃ入れ込んでるから、それには理由があるはずだってこと。
パーク博士: 分かりませんね。私が熱心なアライだということでは?
SCP-6113-3: 単にアライってだけじゃあここまではやらねえよ、ジェームズ。
パーク博士: なぜそう思うんです? 私が知っているトランスジェンダーは君だけじゃありません! 私の同僚にもトランスの人はたくさんいるんですよ!
SCP-6113-3: 分かったよ…… でも、それだけじゃ、湖のことをそんなに気にしている理由にはならないだろ。
パーク博士: 気にしてはいけませんか?
SCP-6113-3: そうじゃない…… けど、うーん、それに何か理由があるはずってこと。
パーク博士: 本当に分かりません。
SCP-6113-3: ジェームズ、嘘はよくない。
パーク博士: 嘘じゃありません。誓ってもいい!
<SCP-6113-3はパーク博士をじっと見つめる。>
ではなぜ、我々が収容している異常な人間の中で、偶然にトランスジェンダーでもあるような対象には、同じ特権が与えられないのでしょうか? 残念ながら、その厳しい真実は、サイトのセキュリティと職員の安全を守るという根本的な側面の中にあるのです。
皆さんは財団職員という特権を持つことにより、我々が管理するオブジェクトに対して権力を持つ立場にあります。この状態は確実に守られ、維持されなければなりません。"蛇の手"が我々につけたニックネームがありますね? あれは誇張された蔑称ですが、全くの的外れでもありません。自分が毎日家に帰り、家族に会い、食事を作り、自らの人生を送れていることを、決して忘れてはなりません。サイト-17に収容されている者たちにとって、それらは当たり前ではないのですから。そして、まさにそのことを理由として、多くの収容対象が皆さんを憎んでいます。
ほとんどの収容対象にとって唯一の"罪状"とは、まさに彼らの収容を必要たらしめる理由そのものであり、それは言わば呪いのようなものでしょう。しかし、知性の有無にかかわらず、オブジェクトはオブジェクトです。収容される"物"たちと雇用される"人"たちとの間には、明確な一線が引かれなければなりません。
知性を有するオブジェクトとの交流には注意が必要です。オブジェクトと研究者の間の壁が破られたとき、起き得る最良のシナリオは倫理委員会の訪問です。そして最悪のシナリオは、昨年起きた事件や105のケースのような、"収容違反"です。
パーク博士: ええ…… 私は毎日君と面会して、沢山の質問をして、職務を後回しにしています。それは、全て君個人のためです。<間> 私が君のことを気にかけているからだと思います。これでいいですか?
SCP-6113-3: ジェームズ、アタシだってアンタのことを気にかけているんだから……
<少しの間沈黙が生じる。>
SCP-6113-3: <静かに話し始める> "私たちには共通点が沢山ある" <クツクツと笑う> アンタそう言ってたけど、自分でもその真意に気づいてないんじゃないか、ジェームズ。
<パーク博士は沈黙する>
SCP-6113-3: ジェームズ、アンタとアタシが似てるってのは…… その点でもそうかな?
パーク博士: どの点ですか?
SCP-6113-3: アンタ、自分が思っている以上にアタシに共感しているだろ。
それでも、皆さんの中には、SCP-6113-3のような知的オブジェクトへの我々の扱いを非難する動機のある方がいらっしゃるでしょう。気をつけて欲しいのですが、SCP-6113-3は彼女の名前ではありません。
皆さんにお尋ねしますが、トランスジェンダーであるオブジェクトが、まさにそのことを理由にして、特別に酷い扱いを受けたことがあるでしょうか? 我々がオブジェクトを扱う手法の一つをトランスフォビアだと言うのであれば、異常存在に対する我々の一般的な扱い全体がそうであると言うことになります。これは全く真実ではありません。我々は"冷酷だが、残酷ではない"ということは覚えておいてください。
実際問題、SCP-6113-3をどのように呼ぶかについて話しましょう。彼女と交流する際に、デッドネームを使った人はいますか? いないでしょう。それは不要な残酷さだからです。一方で、彼女が望んだ名前を使った人はいますか? それもいないでしょう。それは我々の"ポリシー"だからです。
財団全体において、オブジェクトをその指定番号のみで参照することには何の問題もありません。それはオブジェクトが別の呼び名を希望している場合であっても同様です。その名前を使用してしまうことは、オブジェクトと研究者との間にある壁を破ることに繋がります。その結果として、収容下のオブジェクトとの間に、持つべきではない個人的な関係を確立することになるでしょう。残酷でない限り、冷たく平等な対応は依然として"平等な対応"なのです。
つまり私は今、オブジェクトを参照する際には正式な指定呼称を用いるように注意喚起しているのです。SCP-6113-3の代名詞については例外が設けられましたが、次回の倫理委員会では、今後の文書作成およびインタビューにおいて、全ての異常存在の推奨される代名詞として it / its を再標準化することを提案する予定です。
ジェームズ・パーク博士は、サイト-17においてSCP-6113-3の希望する名称を使用していた唯一の人物でした。皆さんがパーク博士に同情したがる気持ちは理解しますが、彼の助力によって、財団が保護していた少女が危険な異常存在に誘拐されてしまったのです。
ええ、"彼"の助力です。収容違反の際に現れた女性がいたのは事実ですが、それがパーク博士と同一人物であるとは想定できません。また、パーク博士の希望する名前や代名詞が失踪以来変わっているとも想定できません。
それはトランスフォビックに見えるかもしれませんが、財団はそうではありません。
パーク博士: それで君が何を伝えたいのか分かりません、██—— SCP-6113-3。
SCP-6113-3: ふざけんな、ジェームズ。アタシの名前は知ってるくせに!
パーク博士: █████、インタビューに集中しましょう。
SCP-6113-3: インタビューなんざクソ喰らえだ。ジェームズ! 答えてくれよ!
パーク博士: だから、君が何の話をしているのかさっぱり分からないんですよ!
SCP-6113-3: 頼むよジェームズ! アンタは、自分がトランスかもしれないと思うか?
<パーク博士はSCP-6113-3の質問に一瞬動揺したが、すぐに椅子に深く座り込み、SCP-6113-3の視線から顔を背ける。>
パーク博士: <口ごもる> いいえ……
しかし、私はまだここでの真の問題に対処していません。サイト-17における不満を調査する中で、職員の間で共有されている、より厄介な信念に遭遇しました。多くの方がその疑問を抱いていることを聞き、我々は失望しています。それは、SCP-6113を収容すること、あるいは収容しようとすること自体がトランスフォビアではないか、という疑問です。パーク博士による理想論的な提言のように、SCP-6113がベースライン現実の一部として確立されることは許されるべきかどうか、と。
我々が財団でやることは何か? この問いには、わざわざ答える必要さえないでしょう。私の真上の壁に描かれていることです。我々は確保し、収容し、保護します。
なぜそうするのか? 平凡な世界はヴェールの向こうにあるものを知るべきでないからです。我々は、世界のどこにでもいるような一般人のお子さんが、ベッドの下に怪物がいないことを確信し、夜ぐっすり眠れるようにするために、その使命を果たしています。時折、慈悲深い例外が存在することも事実ですが、しかし、"より良い世界"を作ることは、S-C-Pの3文字には含まれていません。
我々の仕事は、異常存在を"より大きな善"のために利用することの費用対効果を検討することではありません。たとえそれが、どれほど有益であってもです。我々の使命は、本質的に改善ではなく削減であると、随分前に決定されました。我々倫理委員会は、その"より大きな善"が何であるかを決定します。我々の仕事は倫理であり、"道徳"ではありません。
SCP-500の収容は障害者差別エイブリズムでしょうか? そうでないのなら、SCP-6113の収容もトランスフォビアではありません。確かにSCP-6113は、偶然にもトランスジェンダーの助けになる存在です。しかし、それは問題ではありません。我々は、それが何をするのかを問わず、あらゆる異常存在を収容します。
それが私たちの使命でないと言うのなら、私は一体ここで何をしているのでしょうか?
SCP-6113-3: アンタはアタシにも自分自身にも、全部を誤魔化している。
パーク博士: <顔を上げる> だから何だと言うんですか、█████? 誤魔化しているから何なんです? 君の質問への答えは、本当に分かりません。私が抱えている問題は、それを望んでいないにもかかわらず、湖を収容しなければならないということだけです。だから今、答えは「いいえ」です。そして、これからもずっと「いいえ」でしょう。確かに、私と君は互いに共感し合っていますが、しかし、多くの点で違いもあります。<間> これはそのような違いの1つです…… だから、お願いします。SCP-6113-3…… その話はもうやめにしましょう。
<少しの間沈黙が生じる。>
慎重な検討を重ねた末、倫理委員会は、過去および現在の財団における慣行はトランスフォビア的な行為には該当しないと判断しました。
残念なことですが、トランスフォビアの存在は正常性の範囲内です。その一方で、ラディカルな自己変容の試みは最も蔓延し最も危険な、ヴェールに対する脅威の一つです。我々はトランスフォビックな行為を行いませんし、今後もそうするつもりはありませんが、それを止めることは財団の仕事ではありません。
透明性を保つために述べておきますと、皆さんは記録部の職員がSCP-6113-1の後始末で多忙になっていると耳にしたことがあるかもしれません。対象者に対するSCP-6113の影響は取り消しようがないため、ひとまずはSCP-6113-1による訪問の理由を取り除くことで妥協しなければならないのです。記憶処理によってトランスジェンダーとしての以前のアイデンティティは失われ、そうなればトランスフォビア自体、彼らにとってはもはや関係のないものになるでしょう。
SCP-6113-1の活動が活発化していることから、記録部の職員のために休憩室利用権の追加を検討しています。これについては、承認され次第お知らせします。
パーク博士: それに…… 私はそうあることができない、と思います。█████。つまり…… それは私の在り方ではなく…… 私は絶対にそうあることができないと思うのです。
SCP-6113-3: ごめん、ジェームズ。
<パーク博士は自分の目を拭う。>
パーク博士: <鼻をすすり、咳払いをする> これで、第22回目のインタビューを終了したいと思います。証言してくれてありがとうございます、SCP-6113-3。
<ログ終了>
これで、SCP-6113のような異常存在に対する財団の立場を理解していただければ幸いです。もしそうでない場合は、ここで要約させてください。トランスジェンダーの人々に対する財団の公式方針は、寛容であり、それ以上ではありません。倫理委員会は、これをすぐに変更する予定はありません。
ご出席ありがとうございました。これで終了といたします。最初に言いましたように、質問の時間は設けておりませんので悪しからず。








