金曜日の展示会
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「何だいこりゃあ」

「ジョーイ、どうしてここに死体の山がある?」

「さあ、なんでだろうね。僕たちの中に、こんなことをしている人はいなかった」

アースホールは恐る恐る、死体の1つをつついた。

「めちゃくちゃメタルだ」

「まあ、そうだけど、それほど賢いアイデアではないね」

「じゃあ、どうするよ? 片付けちまうか?」

「いや、これも誰かの作品だよ。検閲すれば、僕たちも権力者ザ・マンと同じくらい悪い奴らになる」

「そうだけどさ、せめて毛布でもかけてあげるとか?」

「ダメだ。僕たちは死体の山を避けて作業をする」

「分かった、どっちでもいいよ」

アースホールはジョイントの端から灰を落とし、山の上に散らした。アーティストたちは中庭や路地で作品の設置作業をしていた。ジョーイとアースホールは、オーバーギャングの元へ ── 彼が置いた、CRTモニターや唸りを上げるタワー型コンピュータからなるコレクションの方へと歩いて行った。

「ジョーイ、アースホール。お前らは準備できてんのかよ?」

「僕の料理はもうテーブルに並べてあるよ。アースホールはヒロを待ってるんだ」

「へえ、クールだ。ジョーイ、これを見てくれ。昨晩さっと作ったんだ。何か新しいものが欲しかったんでな」

オーバーギャングはメカニカルキーボードのボタンをいくつかタップし、勝利を確信したような顔でエンターキーを押下した。全てのスクリーンに同じテキストが表示された。「クールになるやり方を教えてくれたジョーイへ、そしてもう少しで脱出できたオーバーギャングへ」

「ジョーイって、僕のこと?」

「ああ、そうだ。その後に俺の名前があるのは、直前にプレイしたのが俺だから」

「光栄だよ。それでどうなるんだ?」

「引き続きご注目」

画面には石油タンカーの映像が現れ、ドット絵で描かれた船長が、深い赤色の夕焼けの中を鳥が飛び交う海を眺めている。画面には『タムリンの本』という文字がスクロール表示された。

「おいおい、このゲームに出てくるもの全部に僕の名前が?」

「いや、そうじゃないんだ。お前が見ているときだけそうなってる。ゲーム中の名前は、起動時にプレイヤーの苗字に同期するのさ。以前プレイした時は『ドゥードの本』だったぜ」

「それで、名前を同じにして、どうするんだ?」

「この先は君の手で確かめよう!」

「ドゥード、頼むよ。今は時間がないんだ。今夜プレイするからさ」

「全く、興ざめな奴だ。このゲームはプレイヤーの記憶を辿り、人生の物語をアルゴリズムで自動生成して、重要な場面を何度も追体験させる」

「クールだね」

「ああ、クールだろ。と言っても、まだ準備中だし、爆発したりしないように確認しているところだ」

「爆発しそうってこと?」

オーバーギャングは曖昧に肩をすくめた。

「いや、そうでもない。だけど、こんな風にコンピューターをいじくり回しているときには、何が起きても対応できるように準備しておかないとな。皆はどうだ?」

「えっと、ニブマンは本を出してるらしいね。文字通りあちこちで、『スネイプがダンブルドアを殺した』みたいな、そういう感じの本が溢れかえってる。僕たちが別れたときにはトランプタワーを作っていたけど、それが何か意味のあるやつなのか、それともただ暇つぶしだったのかは分からないや」

アースホールが口を挟んだ。

「トランプに関してはただの暇つぶしだったと思うけど。あと、ネイトとカイルはマイリーも連れてきてた」

「マイリー?」

「ああ、アラスカのアレをやってたマイリーさ。知ってるだろ?」

「ああ、あのマイリーか。彼女たちはどんなプロジェクトに取り組んでいるんだ?」

「実は全然分からない。地面に釘を打ち込んで、その周りに紐を巻きつけているんだ。まるで子供の工作みたいに」

「興味深いな。ああそうだ、FTFに会ったら、これを渡してくれないか? キャンディスが新しいシンセサイザーをいくつか欲しいと言ってたんだが、何年も前に買ったものが手元にたくさんあったから」

「渡しておく。じゃあ今夜また会おう、ドゥード」

アースホールはCDケースを受け取ると、尻ポケットに押し込み、ジョーイと一緒に歩道を歩いて行った。

「で、次はどこへ行く?」

「ええと、FTFは南の中庭に陣取っているはず。そっちに向かって蛇行しようか」

「蛇行しようだって? ジョーイ、あんたの奇妙な言葉遣い、私は大好きだ」

2人はぶらぶらと蛇行し続けた。人々は壁にポスターを塗りつけ、不可能な構造物を建てては空間を歪めていた。ここはまさに、汚物と芸術で溢れかえった惨めな巣窟だった。巨大な木箱が彼らのほうへ運ばれてきており、2人は壁に寄り添うようにして進むしかなかった。箱が通り過ぎると、それを運んでいた人物が見えた。黒いドレスを着て、同じく黒い日傘を差した女子学生だった。彼女は2人に陽気に手を振った。

「ジョーイ! エイ-ホール! 調子はどう?」

ジョーイもニヤリと笑い返した。

「リタ! 良い調子さ! 箱の中身は何だい?」

「ああ、ほら、アレコレと、色々と。ほとんどはクモだけど」

アースホールは箱の中で何かが走り回る音を聞き、後ずさりした。

「それで、そのクモたちを具体的にどうするつもりなの?」

「曲芸をする。トリック・スパイダーだよ」

「へえ、トリック・スパイダーは初めて見るな」

「私も見たことない。こいつら透明なんだよね」

「ああ、そうなんだ」

「良い展示場所ないかな?」

ジョーイは顎を掻いた。

「西の中庭は、今なら空いていると思う。そこを左に進んだ先だよ」

「ありがと、ジョーイ! 今夜見に来てね?」

「もちろんさ!」

彼らは歩き去り、リタの木箱がガタガタと音を立てて後方へと遠ざかっていった。

「アースホール、クモが怖いのかい?」

「ちょっとな。不気味でちっちゃくて、あちこちに巣を張る。そりゃあ気持ち悪いだろ」

「確かに、ちょっと気持ち悪くはあるけど」

「あたしの叔父は物置小屋にそれらをぎっしり詰め込んでいて、そこに行くといつも──」

アースホールのポケットの中で携帯電話が振動した。彼女は傷だらけのノキアを取り出し、画面に表示された文字を読んだ。

「よし、ヒロが来た。準備を始めよう。ディスクは渡しておく。今夜また会おう!」

「了解、じゃあまたね」

アースホールはジョーイにCDケースを渡すと、スキップしながら遠くへ去っていった。ジョーイは南の中庭に出て行くと、音の壁に襲われた。丁度、フタナリ・デカチチビッチ・フィアスコFutanari Titwhore Fiasco (FTF) のメンバーが、アンダーグラウンドでヒットしたシングル『ステレオ・シェナニガンズ&バイノーラル・ブルシット』を演奏し終え、新曲『ケツレーザー病のラプトル大乱交』を演奏し始めたところだった。

Lasers shoot into the sky
(レーザーが空を撃ち抜く)
Farting is a way to fly
(放屁が空を飛ぶ方法だ)
Raptors fuck they don’t ask why
(ラプトルは理由も聞かずファックする)
Clever girl, it’s time to die
(クレバーガールズ、今こそ死の時だ)

Your disease is my desire
(お前の病気が俺の欲望さ)
Lasers refract and start a fire
(レーザーは屈折し、火をつける)
Within my feeble raptor heart
(俺の弱々しいラプトルの心臓の中で)
Shoot a laser, release a fart
(レーザーを撃って、屁を放て)

Endless cravings help me please
(終わりのない欲求、俺を助けてくれ)
I’ve caught laser butt disease
(俺はケツレーザー病に罹ってしまった)
Raptor butts light up the trees
(ラプトルのケツが木々を照らし出す)
What if everything is bees?
(もし全てのものがハチだったらどうなるんだろう?)

The raptors all retract their claws
(ラプトルは皆、鉤爪を引っ込め、)
The raptor orgy takes a pause
(ラプトル大乱交は一時中断だ)
They realise that they have contracted a serious disease
(彼らは深刻な病に感染したことに気づき、)
And all concur that the best course of action is to seek urgent medical attention
(最善の策は緊急に医師の診察を受けることだと全員が同意する)

The raptors approach an alchemist
(ラプトルが錬金術師を訪ねると、)
He diagnoses them with laser butt disease
(彼はケツレーザー病だと診断する)
They ask, how did you know we had laser butt disease?
(ラプトルは尋ねる「どうやって我々がケツレーザー病だと分かったのか?」)
He says that it is because he is a medical expert and has been educated at Cambridge
(彼は答える「私は医学の専門家で、ケンブリッジ大学で教育を受けたから」)

Unfortunately he did not know how to cure laser butt disease
(残念ながら彼はケツレーザー病の治療法を知らず)
And they all failed to find a sufficiently experienced physician or doctor
(ラプトルは経験豊富な医者を見つけることもできなかった)
As such, the laser butt disease raptor orgy continued
(ケツレーザー病のラプトル大乱交は続く)
Until the end of the cretaceous period
(白亜紀の終わりに至るまで)
And that was how the dinosaurs went extinct.
(こうして恐竜は絶滅した。)

中庭に散らばっていたアーティストたちは、そのパフォーマンスに拍手を送った。ステージ上の3人の少女は一斉にお辞儀をした。ボーカルの娘がキーボード娘とギター娘とハイタッチを交わし、高いステージから飛び降りてジョーイの方へ歩み寄った。鮮やかな緑色に染められた彼女の髪は、動くたびにきらめいていた。

「ジョーイ!」

「アニー!」

「この曲、気に入った?」

「うん、すごくクールだったよ! それにキャッチーだ」

「歌詞は私が書いたんだ!」

「グッジョブ! そうだ、オーバーギャングに渡されたものがあって、確かキャンディスが欲しがってたって言ってたよ。新しいシンセの設定とか何とかって」

ジョーイはアニーにCDケースを差し出した。

「おーい、キャンディス、注目!」

アニーはCDをケースから取り出すと、キーボードの前に座っている少女に向かって、まるで円盤投げのように投げつけた。キーボード娘はそれを空中でキャッチし、隣のノートパソコンに入れた。

「最高! オーバーギャングによろしく言っといて!」

ジョーイはアニーに眉をひそめた。

「壊してしまうところだったじゃないか」

「でも私は壊さなかった。今夜の準備は万端?」

「うん、できてるはずさ。それに、皆も順調みたいだ。忘れられない夜になりそうだね」

「いいね。それと、まだ『ザ』Theの一味からの連絡はないの?」

「いや。もし彼らが現れるとしたら、今夜は突撃してくるだろう」

「へえ、『突撃』ね? まるで戦争か何かみたい」

「まあ、ある意味ではそうかもね。どちらがよりクールかを競う戦争、いわば…… クール・ウォーか」

ジョーイは空を見上げた。空はゆっくりと青からオレンジへと変わっていく最中だった。

「……馬鹿げてるね。今のは忘れてよ」


タンジェリンは完成した作品の前に座り、興味を持ってくれた通行人に名刺を配っていた。エージェント・グリーンが彼に近づいてきた。グリーンは青いパーカーとスウェットパンツという服装に、明らかに居心地が悪そうにしている。タンジェリンは、完成した成果物を見せびらかす絶好の機会とばかりに飛びついた。

「やあ、そこのあなた! 人生で一度も会ったことのない人! この作品、気に入りました?」

彼はゆっくりと変化する壁を熱心に指差した。それは熱と圧力に反応するコーティングが施されたアルミホイルで覆われていた。壁は波打ち、色を変え、虹色に輝く魅惑的な色合いを放っていた。時折、ホイルはまるで何かが向こう側から飛び出そうとしているかのように、わずかに外側に膨らんで見えた。エージェント・グリーンは ── そんな自分を憎みながらも ── 笑みを抑えることができなかった。

「面白い作品だね、人生で一度も会ったことのないアーティストさん」

「で、今夜、これ以外に面白いものは見ました?」

「西の中庭の近くに立っている2人。どうやら、彫刻師ザ・スカルプター構築者ザ・ビルダーだ。この辺りには、ローカルの作曲家ザ・コンポーザーもいたと聞いている」

画家ザ・ペインターが動き回っているのを見かけた。彼の作品の1つがあそこに飾られていたよ」

タンジェリンは反対側の壁を指さした。そこには今夜展示される様々な作品の広告が貼られており、価格や、それらがいかに独創性に欠けるかを揶揄するコメントが添えられていた。多少の注目を集めたものの、ほとんどのアーティストはそれを積極的に無視していた。

「一応聞いておくが、掃除人ザ・ジャニターは見かけなかったか?」

「おい、俺たちは外にいるんだぞ。なんでここに掃除人がいると思う?」

グリーンは顔をしかめた。

「見てないんだな?」

「そうだ、見てない。とは言っても、最高の掃除人は他の従業員に姿を見せないもんだろ」

「確かにな」

タンジェリンはグリーンに名刺を差し出し、グリーンはそれを受け取ってポケットに入れた。

「で、どれくらい前からここに座っていた?」

「3時間くらいだな」

「死体の山は見たな?」

「そりゃ見たさ。だが、それを設置したアーティストを見たやつはいないんだ」

「ふん。アーティスト、か」

タンジェリンは声を潜めた。

「サンプルは採ってんだろ?」

「指紋と毛髪を」

「結果は?」

「データベースに該当なし」

「クソっ」

「まさしく」

「バックアップは?」

「警備に30人」

「最低限だな」

「上層部は幸運を祈ってるだけさ」

「やあ! タン!」

ジョーイがタンジェリンのところに駆け寄ってきて、カットした果物の皿を差し出した。

「ほら、バナナをどうぞ。皆、バナナに夢中なんだ!」

タンジェリンは1つ取って口に放り込んだ。ジョーイはエージェント・グリーンの方を向いた。グリーンは無表情を保とうと必死だった。

「もちろん、お客様もどうぞ」

「ありがとう」

エージェント・グリーンはバナナのスライスを手に取り、口に入れるふりをして手のひらに隠した。噛んで飲み込む真似をしながら、バナナをポケットに滑り込ませた。彼は微笑み、バナナの味を思い浮かべた。

「おいしいね。とても美味で──」

タンジェリンはバナナを噛み、グリーンの間違いに気づき、パニックに陥った。

「ジョーイ、こりゃあレモンの風味が完璧に再現できてるじゃないか!」

グリーンは自分のミスに気づき、凍りついた。ジョーイは全く気づいていないようだった。

「ありがとう! 今夜はもう3回もバナナを買いに行かなきゃならなかったよ! じゃあまた!」

「おう!」

グリーンは、やや困惑した様子のタンジェリンを見た。

「黙れ」

「何も言ってねえよ」

「まあいい。また後でな。まだ北の路地を見ていない」

グリーンは歩き出そうとしたが、立ち止まった。誰かが画家の広告の前でしゃがみ込んでいた。ステンシルとベルトにぶら下がったスプレー缶を持っている男だ。彼がステンシルを壁に当てると、それは動き始め、彼の考えに合わせて形を変えた。男はベルトからスプレー缶をつかみ、ステンシルに均等に吹き付けて、すぐに群衆の中へ走り去った。濡れた塗料が値札や辛辣なコメントを励ましの批評で覆い隠し、壁の下部にはステンシルで描かれた歓声を上げる観客がいた。どこかで見覚えのあるスタイルだ…… グリーンはニヤニヤと笑うタンジェリンの方を振り返った。

「あれは……?」

「ああ、彼も町にいたからね」


構築者と彫刻師は西の中庭に立っていた。

「それで、ロッボは自分の仕事をやりに出た。スニッパーは死体をここに放って逃げ、サムはテープをくれたからここにいる必要すらない。わたしはバンにドッペルゲンガーを何体か積んできた。それで、君は…… 何だって?」

構築者はその質問を無視し、手に持った建築用の種にささやき続けている。

「全く、これは30分前に終わってるはずだっただろうが。先に自分の作品を出してくる。数分で戻る」

彫刻師はさらに西へと歩き、公道に出た。彼のバンは道の反対側の駐車場でガタガタと音を立てていた。彼は交通量の少ない道を慎重に、小走りで渡った。鍵をいじり、バンの後部ドアを開けると、7対の生気のない目が突然の動きをじっと見つめていた。

「お前らは少なくとも、指示に従うことはできるだろう。ここを出て行って、あっち側へ渡り、自分に似た奴を見つけて、自分が本物だと主張し、そいつをボコボコにしろ。いいな?」

複製の2体がうなずき、バンから飛び降りた。彼らには自己保存の本能など全くなく、何も考えずに道路を横切った。1体が車の真正面に飛び出して、魔法が解けた途端に、粘土の塊となって崩れ落ちた。

「畜生め」


フェリックスは人混みの中を何気ない様子で歩き、被ったベレー帽を直した。小さなフェイスペイントの屋台が人々の注目を集めていた。フェリックスは左右を見回し、創作の喜びを思い出した。彼の周りには何百もの笑顔があふれていた。これこそが人生の醍醐味だ、彼はそう思った。これこそが真の芸術なのだ。

彼は死体の山に出くわし、不満げに首を振った。


「レディース・アンド・ジェントルメン! 先ほどの曲は『お願いだから歌うのをやめないで。私は音波の中に生きる存在だから音が止まったら死んでしまう。どうか歌い続けてお願い』でした。楽しんでいただけましたでしょうか! 次の曲は……」

「そこまでだ!」

アニーはマイクから顔を上げ、観客席を見渡した。乱入者が3人、モッシュピットを無理やり通り抜けようとしている。彼らはステージに這い上がってきた。バンドメンバーたちは互いに顔を見合わせ、アニーは皆が心の中で抱いていた疑問を口にした。

「君たちは何? 私たちを真似た悪のロボット?」

複製たちは互いに顔を見合わせ、小声で何かを囁き合った後、アニーの複製が返事をした。

「違うよ! 君たちこそ、私たちを真似た悪のロボットじゃないの?」

「違うよ! 君たち何者?」

「私たちは、フタナリ・デカチチビッチ・フィアスコ!」

聴衆たちは互いに顔を見合わせ、これが仕組まれたイベントなのかどうか確信が持てずにいた。

「でも…… 私たちがフタナリ・デカチチビッチ・フィアスコなんだけど」

「それでも、私たちがフタナリ・デカチチビッチ・フィアスコなんだけど!」

「オーケイ、わかった。君たちもフタナリ・デカチチビッチ・フィアスコなんだね」

複製たちは困惑した表情を浮かべた。

「うん…… そう、だけど」

「私たちの楽器使う?」

「ええと…… うん、使う。ありがとう」

複製たちはぎこちなく本人たちから楽器を引き継いだ。本人たちは舞台脇に移動し、次の展開を待ち構えた。

「えっと…… あの、さっきも言ったように、私たちはフタナリ・デカチチビッチ・フィアスコです…… それで、えっと…… ちょっと待ってくださいね」

複製された2人は、次に何をすべきか分からず、身を寄せ合っていた。キャンディスの複製は振り返り、本物のキャンディスの方へ歩み寄った。

「どした?」

「ええと…… キーボードの弾き方が分からなくて。それが私の仕事だとは言われたんだけど…… 実際にどうやって弾くのかは誰も教えてくれなかったの!」

本物キャンディスは笑いをこらえた。バンドの3人目のメンバー、プリスが、彼女の複製に近づいた。

「ギターの弾き方、教えて欲しいんじゃない?」

「お願い! いや、あの、もし可能だったらでいいけど。ありがとう」

複製アニーは、突然、最初の指示を思い出した。

「ちょっと待って、私たちは…… そう、彼はなんて言ってた?『ボコボコにしろ』だっけ?」

本物アニーが口を挟んだ。

「なぜ私たちをボコボコに?」

「そうするように言われたの」

「本当に私たちをボコボコにしたいの?」

「いや、そんなことない。私たちは君たちと同じであるべきだし」

「まあ、少なくとも見た目はそっくりだよね。どこ出身?」

「分からない。目が覚めたらバンの中にいた」

「ふーん、それ以前には何もなし?」

「そう」

「そっか。まあ、君たちもそこそこ良い人そうじゃん。私たちを真似た悪でもないロボット」

「君たちこそ、良い人たちだよ。ボコボコにするなんて、もうやりたくない。お願いだから、やめろって言ってほしい」

「どういうこと?」

「私たちは、何をするか指示されないといけないから」

「そっか。じゃあ、私たちをボコボコにしないでね?」

複製たちは一斉にため息をついた。

「ありがとう!」

「さらに、今後は自らの意思でない限り、誰からの命令にも従わないよう、全員に厳命する!」

観衆は熱狂した。

「本当にありがとう!」

「さて、それじゃあ最初に、私たちを見分ける方法が必要かな。観客の皆様がた、どなたか帽子をお借りしてもよろしいでしょうか?」


彫刻師は、自分が何かを忘れているような気がした…… だがまあ、きっと大丈夫だろう。複製は、急いで作らなければならなかった。1日で7体も仕上げるのはかなりのプレッシャーで、いくつか省略した部分もあったので、思い通りには完成していないものもあった。ゴーレムを利用するのは、どんなに順調な時でも厄介な仕事になる。彼は轢かれたゴーレムから粘土を回収し ── 少なくとも、ルイス・デュシャンの体がぐったりと崩れ落ちるのを見るのは楽しかった ── バンに積み直した。それから、構築者のところへ歩いて戻った。構築者は地面に建築の種を植えるのに忙しくしていた。

「そろそろだな。コピーを出してきた」

「走って行くのを見たよ。そっくりで、素晴らしい出来だ」

「そりゃどうも。建物は準備完了か?」

「あと数分で終わるはずさ。録音をくれ。これが育てばPAシステムができて、音を内部に流せるようになる」

彫刻師はカセットテープを手渡した。

「……冗談だろ」

「どうした?」

「CDかと思ってた。これじゃ流せない」

「クソっ、クソっ! ちょっと待ってろ、あいつを電話で呼び出す」

彫刻師はくるりと振り返り、ポケットからスマートフォンを取り出して作曲家の番号を打ち込んだ。2回呼び出し音が鳴った後、ようやく繋がった。

「もしもし?」

「サム。わたしにカセットテープをくれただろ」

「ああ、それで?」

「CDが要る」

「クソっ!」

「わたしも同じことを言ったさ」

「よし、オーケイ、そうだな。今からCDに焼く。1時間くらいで──」

「それでは遅すぎる。メールでデータを送ってくれ」

「ああ、だけどテープでしか持ってないから、まずパソコンに移さねえと。それは5分くらいでできる。CDの書き込み装置はあるか?」

「手元にはないが、2ブロック先に電気屋がある」

「いいね。準備ができたらすぐ送る」

「よし、頼むぞ」

彫刻師は怒りを込めて通話終了ボタンを押した。

「よしビルダー、ここで始めておけ。わたしは書き込み装置を買いに行ってくる。すぐ戻るからな。それから、デュシャンを見かけたら、あのアホ面をぶん殴ってやれ。いいな?」

「分かった」


街の反対側では、ルイス・デュシャンがスタジオの中を歩き回っていた。彼が気になっていたのは、フェリックスが楽しんでいるかどうかということだった。


オーバーギャング・ドゥードがコンピューターをいじっていると、ジョーイが彼の後ろから近づいてきた。

「OG! 何か問題が?」

「お前がそうなんだよ、このバカ!」

「どういうこと?」

「いや、すまん。だけど、これを見ろ!」

ジョーイは、薄暗く光るブラウン管モニターの列を見つめた。どのモニターにも『タムリンの本』という文字が表示されていた。

「どういうこと?」

「プログラムが君の名前で固定されちまってる。他の誰にも変更されない!」

「なんてこった。原因は?」

「それを知っていたら、こんな問題にはなってねえだろ?」

「一度電源を──」

「そのクソ文章を最後まで言うなよ。試してみて、ダメだったさ」

「うーん、困ったね。バナナどう?」

「どんな味だ?」

「レモン」

「いただこう」

オーバーギャングはバナナのスライスを手に取り、口に放り込んだ。柔らかいバナナの食感と爽やかなレモンの風味が、口の中で見事に融合し、まさに夢のような味わいだった。

「なかなか良い」

「うん、皆そう言ってるよ」

「とにかく、これを何とかしないと……」

「偽物め!」

オーバーギャング・ドゥードとジョーイ・タムリンの複製が、中庭の向こう側から声を揃えて叫んだ。オーバーギャングはジョーイの方を向いた。

「これ何だ? 知ってる?」

「いいや」

「まあ、流れに身を任せるしかないか。おい! 俺のクローンか何か! こっちに来てくれ、助けが必要なんだ!」

複製の2人は互いに顔を見合わせ、それから歩いてきた。

「よし、これがうまく動かなくてよ。いろいろ試してみたんだが──」

複製オーバーギャングが本物の顔面を殴り、サングラスが地面に落ちた。オーバーギャングは顎をさすり、ジョーイと彼の複製がそれを見ていた。本物オーバーギャングは立ち上がり、複製オーバーギャングの顔からほぼ完璧な複製サングラスを抜き取ると、自分の顔に装着した。

「そりゃ良い考えだ、悪のクローンよ。叩くのは試してなかったな。うっかりだ! ちょっと頭を貸してくれるか?」

オーバーギャングは自分の複製の頭蓋骨を掴むと、それをCRTモニターの1つに叩きつけ、ガラスの破片を地面にまき散らした。埃っぽい箱から火花と煙が立ち上ると、複製はビクビクと痙攣した。本物は複製を瓦礫の中から引きずり出し、肩に手を置いて体を曲げさせ、胸に容赦なく膝蹴りを入れた。ゴーレムの目は大きく見開き、肺から息を吐き出した。本物オーバーギャングは続けて膝蹴りを入れ、さらに膝蹴りを入れ、そこに追加で膝蹴りを入れ、最後にもう一発だけ膝蹴りを入れた。彼は複製を乱暴に地面に押し倒し、足を上げて肋骨を踏みつけた。骨は轟音とともに砕け散った。複製は震え、転がり、幻術の魔法がゆっくりと剥がれ落ちていった。本物は助走をつけ、複製が粘土の塊に戻る前に、その頭を蹴り飛ばした。オーバーギャングはトレードマークのサングラスを鼻筋に押し上げた。

「クソッタレのゴーレムめ。まともなパンチすら打てないとは。さて……」

オーバーギャングは狂ったように笑いながら、ジョーイと、呆然としているジョーイの複製の方を振り向いた。

「……どちらがコピーだ?」

ジョーイはバナナのスライスが山盛りに盛られた大皿を見せた。複製は本物を、懇願するような目で見つめた。

「何だよおい、お前ら、ただのアーティストじゃないのかよ?」

ジョーイは金属製の皿を自分の複製の顔に叩きつけ、続けて腹に強烈なパンチを食らわせ、さらに股間を蹴り上げた。彼は複製の肩をつかみ、膝に蹴りを入れた。関節が不自然な方向に曲がり、複製は地面に倒れた。

「いいや。僕らはアナーティストだよ」

彼は自分のコピーの頭蓋骨を踏みつけて、それを舗装路にぶち撒けさせた。ジョーイはオーバーギャングに歩み寄り、ハイタッチを交わした。アドレナリンがドバドバ出ていて、まだ目眩がするほどの幸福感があった。周囲の群衆は、よく演出された戦闘シーンだと思い込み、声援を送り始め、複製の出来栄えについても称賛した。オーバーギャングはその注目を利用することにした。

「さて、ショーはこれで終わりですが…… 皆さんの中にプログラマーはいらっしゃいませんか?」


彫刻師は電気屋に入ると、まっすぐカウンターに向かった。

「誰かいます?」

奥の部屋から中年男が現れた。

「いらっしゃい」

「どうも。CDの書き込み装置はありますか?」

「ええと、単品でってことかい?」

「ええ、それだけの筐体とか何かで」

「あー、今どき普通のCD用のなんか置いてないね。DVDやブルーレイの書き込み機ならあるけど」

「クソっ!」

「おいおい、うちの店で汚い言葉は禁止だぜ」

「CDを焼くことができる機器は、何かありません?」

「ふむ、既製品のタワー型パソコンに搭載されてたはずだ」

「そこだけを外してもらうことは?」

「残念だけど、そういう売り方はできないね」

「わかりました。では、タワーはいくらです?」

「ちょっと待ってくれ、確認する」

店長は奥の部屋に入った。彫刻師は苛立ちながら足をトントンと鳴らし、店長が不在の間に後ろの棚へ行き、書き込み可能なCDの5枚セットをポケットに忍ばせた。数分後、店長が戻ってきた。大きな黒いタワー型コンピュータを両手に抱えていた。彼はそれをカウンターの上に置いた。

「ほら、これだ」

「これには、CDを焼く機能が付いているんですね?」

「ああ、ここに──」

銃声。

彫刻師は店長の頭に弾を撃ち込み、血と脳が背後の壁に飛び散った。彼は死体をカウンターから押しやり、電源コードを引きずりながらコンピュータを引き寄せた。彼はそれを展示用デスクに持っていき、その上のノートPCを無造作に地面に払い除け、タワーをデスクに置いた。彼はゆっくりと血を流している死体には目もくれず、店内から液晶モニター、キーボード、マウスを集めて回った。イーサネットのケーブルを差し込み、ゆっくりとコンピュータが起動した。画面が点灯すると、彼はそれを見つめた。彫刻師はキーボードを叩き、ゲストとしてログインし、デフォルトのWebブラウザを開き、Eメールにアクセスし、作曲家が送ってきたCD用データをダウンロードし、ポケットに入っていた5枚のディスクすべてに焼き付けた。予備はあった方が良いだろう、と彼は思った。彼は正面玄関から出て行き、店の正面の看板を「閉店」に変えた。

遺体は翌朝まで発見されなかった。


あなたはアースホールとヒロと一緒に座り、試作のアート・ボムに確認コードを忠実に入力していた。あなたとヒロはここ数週間、拡張機構の内部構造の作業にほとんどの時間を費やしており、実際に色の組み合わせを調整したのはアースホールだった。ヒロとアースホールも各々のコードを入力し終え、全員が後ずさりした。あり得ないはずの機構が内側から外側へと反転して現れた。あなたは会話を切り出した。

「これは安全なんだよな? 全て無効化されているんだよな?」

アースホールは人差し指を色の奔流に押し込み、それを引き抜いて、完全に無傷の (ただし鮮やかなピンク色に染まった) 指を見せた。

「ほら、完全に安全だろ?」

ヒロは、ゆっくりと拡大していくテクニカラーの球体の中にある発生源に接続されている携帯電話を操作し続けていた。

「数値は良好だ。すべて安定している」

「もう少しスピードを上げてくれ!」

「わかった、わかった、ちょっと待て」

ヒロがタッチスクリーンを指でなぞると、球体はさらに大きくなり始めた。

「数値は依然として良好。それじゃあ──」

「偽物め!」

中庭を見渡すと、アースホールと瓜二つの人物がいた。あなたの隣に立っていたアースホールは、あなたのポケットに入っていた銃を手に取り、その頭を2発撃った。それはたちまち粘土のように崩れ落ちた。彼女は銃を差し出し、あなたはそれをそっとホルスターに戻した。引き金は、彼女の指と同じ鮮やかなピンク色に染まっていた。

「ヒロ、もっと大きく! もっと大きくだ!」


彫刻師が戻ってくると、構築者が植えた種は、西の中庭を取り囲むように白い大理石のホールを建設していた。その縁は路地を越えてゆっくりと外側へと拡張し、自然の月光を遮って、代わりにちらつく蛍光灯の明かりで置き換えていく。

「CDは手に入れた?」

「ここに5枚」

「最高だ」

構築者はCDを1枚取り出し、大理石の小さなスロットに差し込んだ。作曲家が作った曲が流れ始め、魅惑的なクラシック音楽が大理石の壁に調和的に響き渡った。

「ふむ、君は少なくとも、この部分に関しては良い仕事をしてくれた」

「ああ、すごくいい感じだ」

「この曲がどういう効果を持つか聞いているか?」

「大まかに言えば、芸術作品に対する相対的な評価を低下させる、らしい。他の作品に対して、観衆に反感を植え付けるだろう」

「そいつは見ていて面白そうだ」

「ああ。このホールの中に実際に物が増えたら、具体的に批判し始めるだろう。今は建物の成長を監視して、誰かが壁の中に吸い込まれたりとか、何か馬鹿げたことが起こらないように気をつけないと」

「クールだな。ちょっと様子を見に──」

広がる大理石の廊下を駆け抜け、画家がまっすぐ向かってきた。

「あの野郎がここに来てる」

「誰だ? デュシャンか?」

「デュシャンじゃねえよ、このバカ野郎! あのクソ英国人だ。俺の作品にステンシルを塗りたくりやがった」

「マジかよ。掃除人には伝えたか?」

「見つからねえ」

「クソっ。わかった、ピストルを渡すから、奴を追い詰めて、撃ち殺せ」

「無理だよ、知ってんだろ。俺は射撃が下手なんだって」

「わかった、わかった。わたしが対処しておこう。君はこの建物の中にいろ。作品を置いて、自分のやるべきことをやれ」

「了解だ。ありがとう」

彫刻師は大理石の床を出て、でこぼこした小石敷きの路地へと歩き出した。何かをきちんとやり遂げたければ、人を撃つしかない。


「これを誰が送り込んだのか、少しも気にならないのかい?」

「俺が一番知りたいのは、なぜこれが上手く動作しないのか、だ!」

ジョーイとオーバーギャングは、バナナ味のレモンスライスをしゃぶっていた。ゴーレムの粘土製の体は、手つかずのままだった。

「真面目な話、本気で僕たちの死を望んでいる人なんて思い当たらないよ。少なくとも、僕の周りの人たちに関してはね」

「だが、恐らく俺たちは、批評家ザ・クリティックの一味の次くらいには、この街で大きな存在だろう」

「まさか批評家がこんなことをしたとは思わないよね?」

「とんでもない。奴は馬鹿じゃないからな。もし俺たちを殺したいなら、せめてもっと綺麗にやるはずだ」

「待って、他の人たちの様子も確認した方がいいかな? 無事かどうか確かめた方がいいかも?」

「まあ、大丈夫だろ。ここに来てる奴らは皆、自分の身は自分で守れる」

「確かにね。ただ、僕が知りたいのは──」

ブオーーーーーーーーーーーーーーーーン


「うん、シルクハットを被った、悪者でもロボットでもない私! 私たちって最高にイケてるデュエットができるね! ハイタッチ!」

アニーは自分の複製ゴーレムでもある新しい友人の手を叩いた。まるで、ずっと欲しかった妹を見つけたような気持ちだった。

「さて、次の曲は素敵な、ソフトな曲で──」

ブオーーーーーーーーーーーーーーーーン


「これ絶対ヤバいって!」

あなたは身構えた。アート・ボムが閃光とともに爆発し、中庭は色とりどりの粘液で覆われた。ヒロは顔についた青い液体を拭き取り、上手くいったことに安堵した。一方のアースホールは飛び跳ねて歓声を上げ、もう一度やってくれと要求した。あなたは何か言おうとしたが、そのとき、

ブオーーーーーーーーーーーーーーーーン


フェリックスは人混みをかき分けて進み続けていたが、突然、背の高い黒い人影にぶつかった。

「どうも、すみません…… ああ、君か、我が旧友よ」

掃除人は振り返った。ガスマスクのフィルターがブーンと音を立てていた。

「やあ、フェリックス。久しいね」

「楽しんでるかい?」

「今夜の私は見張り番だ。ここは安全な場所ではない」

フェリックスはクスクスと笑った。

「もっと危険な場所にも行ったことがあるさ、友よ。君の方こそ──」

ブオーーーーーーーーーーーーーーーーン


リタはショーを続けていた。何千匹もの目に見えないクモが、ミニチュアサーカスの中を這い回り、糸くずの玉をジャグリングしたり、ペーパークリップを曲げたり、そして一番印象に残らないことに、空中ブランコに見えないままぶら下がっていた。次は、あらかじめクモを絵の具に浸しておこう、と彼女は思った。あるいは、小さなジャンプスーツを編んであげようか。彼女はクモの1匹に指を差し出し、登らせようとした。そのとき、

ブオーーーーーーーーーーーーーーーーン


ルイス・デュシャンは、遠くから聞こえる何かの音を聞いた。

ブオーーーーーーン


彫刻家はできる限り巧妙に獲物を追っていた。彼はポスターが2枚汚損されるのを目撃しており、次に狙う場所もわかっていた。追い越そうと裏通りを走り始めたとき、

ブオーーーーーーーーーーーーーーーーン


画家は、構築者が作った拡大し続ける展示ホールの中にポスターを貼っていた。BGMには作曲家の音楽が流れている。

「待てよ? ここに作品を飾ったら、音楽のせいで観客に嫌われるんじゃないのか?」

ブオーーーーーーーーーーーーーーーーン


批評家は、遠くから聞こえる何かの音を聞いた。

ブオーーーーーーン


タンジェリンは作品のそばに座り、繊細な色彩が揺らめくのを眺めていた。財団エージェントでありながら、彼は芸術を創ることを楽しんでもいた。現実の構造をいじくり回すことを楽しんでいたのだ。そこには常にロマンチックな雰囲気が漂っており、ここで彼はその魅力に気づいた。この仕事から解放されたなら、もしかすると、丘の上の素敵な小さなコテージを見つけて風景画を描くかもしれない。しかしもちろん、ここで見たものに比べれば、単純な絵画などどうでもいいものだ。彼は天才たちが指先だけで奇跡を起こすのを見てきた。GOCの訓練では、あるいは財団では、それが悪事だと何度も何度も言われてきたが…… それでも、彼が見たのは、お互いを幸せにする幸せな人々だけだった。

ブオーーーーーーーーーーーーーーーーン


エージェント・グリーンは死体の山に近づいた。それは中央の中庭のど真ん中に置かれていた。彼はそれを自分の最優先事項として片付けることを決めた。含まれている全員の身元を確認し、遺族に連絡しなければならない。長くかかるし、骨の折れる作業になるだろうが、誰かがやらなければならなかった。グリーンは気にしなかった。重要な仕事だ。彼は世の中に貢献しているのだ。

ブオーーーーーーーーーーーーーーーーン

上からけたたましい警笛の音が聞こえ、グリーンはその音の主を見上げた。建物の屋上から膨らんだ赤いバルーンが吊り下げられており、その下に巨大なスピーカーがくっついていた。彼は本能的に拳銃に手を伸ばし、握りを固くした。スピーカーからはひどく歪んだ音声メッセージが流れ出した。

「やあ、皆! 今夜は現地に行けなくてごめんな。でも、きっと分かってくれるだろう。ほら、俺にはやらなきゃいけないことがある。殺さなきゃいけない奴がいるんだ。ここ数日で、君らの何人かは俺のことをよく知るようになったし、君らをゾッとさせるのは本当に楽しかった。だけど、ついに、このくだらない茶番劇を終わらせる時が来たんだ」

エージェント・グリーンは心底怯えていた。スピーカーの音量は街全体に響き渡るほどだった。

「俺は見た目ほど狂ってなんかいない。いや、むしろ見た目通りには狂ってるし、それ以上かもな。正直に言って、死体は快適な椅子にはならなかった。でも、1つ手に入れたら、全部集めたくなるものだろう? そうだよな? まあ、どうでもいいや。誤解させてしまって申し訳ないけど、ぶっちゃけ、もう君らの仲間でいることには興味がない。退屈だし、空っぽだし、まったく味気なかった。だけど、これまでの交流の中で1つだけ、今後も覚えておきたいことがある。俺はずっと、決め台詞が欲しかったんだ」

エージェント・グリーンは最悪の事態に備えた。

ちょき、ちょき、ちょきスニップ、スニップ、スニップ

最後の「スニップ」と同時に、バルーンが落下した。それはまるでスローモーションのようにゆっくりと落ちて、死体の山の中央に直撃した。バルーンの側面が膨らみ、衝撃で破裂した。中に入っていたミントグリーンの粘液が噴き出してくる。確かにエージェント・グリーンは最悪の事態に備えていたが、それでも、これは予想外だった。彼の頭の中には、ただ1つの恐ろしい考えが駆け巡っていた。

死体だ。

今夜は最高 華の金曜日だ
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