マニスティーク放送
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喪失メディアに魅せられたサブカルチャーがインターネット上に存在する。打ち切られて久しいテレビ番組の欠落エピソード、歴史上の重大な出来事の未公開写真、凄惨な事件事故の差し止めになったニュース映像など、あらゆるものが追及され、次なる珍奇なメディアが何処で再発見されるかの手掛かりがウェブフォーラムやチャットチャンネルで際限なく議論されている。

経験を積んだ年配マニアの一部は、1982年のとある夜に元の映像が放送されたというミシガン州北部の小さな町の名前を取って、喪失メディア界隈で“マニスティーク放送”と呼ばれているものを探し続けている。この放送に関する最初の言及は、五大湖地域の海賊放送愛好家たちの間で流通していた安っぽい複写ニュースレターに現れる。そこでニュースレターの運営者 (“ニール・フリーク”の筆名を用いている) は、読者たちに対して、1982年11月2日未明に発生したとされるミシガン州スクールクラフト郡NBC系列放送への12分間の信号干渉の録画を持っている者はいないかと問いかけている。

この放送が具体的にどんなものであったかという詳細は、情報源によって異なっており、録画がまだ発見されておらず、これまでに得られた全ての情報は当時スクールクラフト郡に住んでいた人物数名の記憶が頼りなので、全容が明らかになることは決してあるまい。それでも、マニスティークのテレビ局WLUCから何者かが回収し、インターネットの画像掲示板4chanに投稿した記録は、1982年のあの晩に信号干渉が確かにあったことを裏付けているのだ。

マニスティーク放送を探し求める人々の大半は、元の放送を見たと主張する者たちの証言を基に、その映像に写ったのが1975年に連邦当局に失踪届が出された女性、エリザベス・エクダールだと同意している。エクダール氏の失踪は1970年代にアメリカ中西部で起きた数件の事件のうち1つであり、FBIはまだ知られていない単独犯の犯行だと考えている。特筆すべきはエクダール氏の右目の周りにある特徴的な傷痕で、これは放送に関する既知の全ての目撃証言で一貫して述べられている。そしてもう1つ、電子的に加工された声が放送に重なって流れたという点でも概ね意見の一致を見ている。この声がカメラを扱っている人物のものか、別な手段で放送に付け加えられたのかは分かっていない。

映像は夜間、見たところ死亡しているエクダール氏が、スクールクラフト郡の近隣と推定される森林地域の地面に横たわっている姿を映していたという。放送の冒頭で、画面外からの声は“過去の過ちを如何にして正すのか、11時に訪れる”というフレーズを告げる。これ以降の放送内容に関する説明はまちまちである。

幾つかの証言によると、この放送はただエクダール氏の遺体を12分間映し続け、その後に大きなスノーノイズが聞こえて映像が終了したという。映像のある時点で、エクダール氏の目が何度か、一瞬だけ開いたように見えたと主張する者たちもいるが、これは映像の画質が劣悪だったために一部の視聴者が見間違えたというのが大方の意見である。そのような場面では画面外からの声も聞こえたという証言もあるが、この点に関する説明は互いに矛盾している。

1990年代初頭、マニスティーク放送を見たと主張する1人の人物が、現在既に解散した海賊放送関連のユーズネット・グループに、映像に関する自らの証言を投稿したことがある。このユーザーの説明は、最初のうちは他の証言と一致するが、約6分の時点から大幅に食い違ってくる — 多数の大きな裂傷や胸部の広範な外傷にも拘らず、エクダール氏が立ち上がったというのだ。彼女はその後、足を引きずりながら周囲の森の中へゆっくりと歩いていき、放送はやはり12分時点でスノーノイズと共に終了したと述べられている。

当時はテレビの録画機能など普及しておらず、信号干渉があった時間帯も併せて考えると、マニスティーク放送の録画は存在しそうもない。この放送から切り抜いたとされる静止画像が画像共有サイトに時折投稿されるが、加工が施されている可能性があるので、ほとんどのユーザーはこれらの画像の信憑性を疑っている。

マニスティーク放送に関心を寄せる者たちの間では、特定の事柄が度々議論の的となっている。エクダール氏と関連する4件の失踪事件で、未だに遺体が回収されていないのは彼女だけだ。回収された失踪者のうち2人には、放送でエクダール氏が負っていたとされるものと似た傷痕が残されており、3人目の遺体は腐敗が進行していたので死因を特定できなくなっていた。エクダール氏の母親は、1989年に放送された“モーニング・ウィズ・レン”で、エクダール氏が夜に自宅の外にいるのを何度か目撃したと主張し、捜査が1992年に公式に打ち切られたにも拘らず、娘の失踪を調査し続けるべきだと当局に訴え続けている。1984年、とあるプライベート・エクイティ企業が、エクダール氏の旧家から約2マイルの位置にあるスクールクラフト郡の森林300エーカーを買い取り、以来その土地への立ち入りを禁止している。一部の喪失メディアフォーラムのユーザーは、この地域を訪れた後、深夜の脅迫電話やその他不特定多数の嫌がらせを受けたと報告している。

1982年にWLUCに影響を及ぼした信号干渉の実在は疑う余地が無いものの、その放送の本質が、いや、正確な内容さえも、解明される見込みは薄い。

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