クレジット
翻訳責任者: EastGRASSWALL
翻訳年: 2025
原題: The Most Dangerous Game
著作権者: DrMagnus
作成年: 2017
初訳時参照リビジョン: 10
元記事リンク: https://scp-wiki.wikidot.com/the-most-dangerous-game
最も危険なゲーム
サイト-19
収容警報が背後で鳴り響く中、マグナス博士は自信に溢れた顔付きの男と向かい合う形で、精巧に色付いた盤の前に座った。
彼は目を細め、口を固く結びつつ、対戦相手を睨みつけようとした。彼は一瞬躊躇った後、手を前へゆっくりと伸ばし、意図を示さない様に意識しながら、盤に向かって手をなぞらせた。
彼らは既に、この舞を今日の内に幾度となく繰り返していた。彼は、あまりにも長くこの机に向かって座り続けたことで、夕刻の無精ひげが濃くなっていくのを感じ取れた。対戦相手は自信に満ちていた。過去数回の闘争は負けに終わり、今度の賭け金は敗戦処理に見合わない程高かった。
「勝たせねぇからな、」マグナスは、圧を込めて張った声でそう述べた。彼の指が震える中、廊下を徘徊する危険生物に関する警告音を除いては、コマが入る音しか発せられていなかった。
対戦相手は気取った笑みをその顔に浮かべており、彼らが手を伸ばし、不吉な音を鳴らしてコマを入れる中、彼はしかめっ面を見せないように試みた。彼らが視線をドアに向けると、足音を鳴らしながら走っている、12足のブーツの影が見えた。「あいつら、急いでるみてぇだな。」
マグナスは、しばらくの間向かいの相手を凝視した後、点滅する警報に視線を移し、それから盤に戻し、コマの動きを確認した。彼はあまりにも多大な危機に瀕しているが故、このゲームに負けるわけにいかなかった。彼は躊躇った。
「何回やってりゃ良いんだよ、」彼は思い切って和平の試みた。「もう終いにしようぜ。」
「そうだな、だが結果は常に同じさ、」対戦相手の不吉な声が響いた。彼らは苛立たしげな様子を見せた。「君の番の筈だぞ、マイケル。終わらせたいなら、おそらく急いだ方が良いだろうな。」遠くから、叫び声が聞こえた。
マグナスは追い詰められていることを悟り、唾を強く飲み込んだ。彼は指を持ち上げ、コマを盤に滑らせ、無意識に瞬きした。
「マイケル。これは確かなことで、君は今日、既に4回もプレーしておきながら、決して何も学んでいないのさ。」対戦相手はコマを持ち上げ、激しく決定的な勢いで盤に入れ込んだ。「この通りさ。何も学んでいない。」
マグナス博士は混乱に陥った。どうしてそれを見落としてしまったのか。彼の守備に隙があったことは明白であり、そして今、再度負けたのだ。彼は掛け金を払えるかどうか分からず、対戦相手の口から発せられる言葉を恐れていた。
対戦相手は身を乗り出し、微笑んで首を傾げた。「残念だがマイケル、もう終わりだよ。」
マグナス博士は頭を下げ、溜息をついた。「はっきり言えや。どう終わんのか、分かってんだろうが。」
対戦相手は大きく笑みを浮かべ、歯を見せ始めた。その馬鹿げた程に完璧な歯並びは、まるで嘲笑うかのように規則正しく並んでいた。
「分かってらぁ。もうこれ以上、長引かせたかねぇよ。これで何回目だ?俺の負けは。」
机の下で、マグナスは苛立たしげに手を握りしめ、歯を食いしばった。「今日は、5回だ。」
対戦相手は再び背もたれに寄りかかり、得意げな笑みを浮かべながら、気に障る程に真っ直ぐな歯を唇で覆った。「5回だ。私に5回も負けるなんて、紛れもなく恥辱だな。負け続ける余裕なんて、君にはあるのか?」
マグナスは微笑もうとしたが、彼の思考は暗く染まっていった。実のところ、彼には無理だった。既に多くのものを失い、度を越していた。このままでは全てを失ってしまうだろう。彼が端末に視線を移すと、画面をスクロールする程の速さで大量のメールが届いていた。「何が言いてぇ。もうこんなこたぁウンザリだ、はっきり言ってみやがれ。」
対戦相手は微笑み、手を組んだ。「分かったよ。つまらないヤツめ。」
彼は手を伸ばし、小さな、色づいたコマに触れ、明白な歓喜を見せながら、守備の欠陥を指摘した。「4目並びコネクト・フォーだ。5ゲーム目の、パイ1切れ1を貰おうか。」室外から、誰かが救護を求めて叫ぶ声がした。
マグナスは悪態をつき、引き出しに手を伸ばして、コーヒー代の為に守っていた最後の紙幣数枚を取り出した。「てめぇはクソだな、ケンズ。」
ケンジントン研究員は微笑み、机の上から3ドル分の紙幣と25セント硬貨2枚を取り上げて、コネクト・フォーのセットからコマを振り落とした。「それでも、君は負け続ける。今のところでも、パイ6切れ分に値する程だ。」
背後から遠く離れた場所で、何かがサイトの基盤を揺るがした。マグナス博士はケンジントンを見上げ、眉を上げた。「俺らも…行くべきか?」マグナスが視線をドアの方へ滑らせると、そこには重武装の機動部隊員達が流れ込んでいた。
ケンジントンは肩をすくめて、立ち上がった。「何故だ?また胸骨ナイフであの世へ向かいたいのか?」
マグナスは彼に中指を立て、共に立ち上がった。「ざけんじゃねぇ。行くぞ、エスプレッソの…半分ぐれぇなら間に合う。カフェテリアがアノマリーか何かに食われてなけりゃな。」
ケンジントンは立ち上がり、ドアの方へと向かった。「明日もまた、同じ時間かな?」
今度のマグナスはニヤリと笑った。秘密兵器を披露する準備が出来たからだ。彼はくるりと回り、ケンジントンに顔を向けた。「いや、ケンズ。コネクト・フォーはもうやらねぇ。ガキの遊びだ。明日から、新しいゲームを始めるぞ。」
ケンジントンは躊躇いがちに、1歩後退りした。「何のゲームだ?マグナス。」
マグナスは静かに笑い、2人の間の空気が雷雲の如く張り詰められていった。緊張は肌で感じ取れるほどで、ケンジントンの思考が駆け出し、マグナスが彼に仕掛けているものへの想像が恐ろしく広がっていった。
マグナスは勝利の仕草で両手を上げ、声を上げた。「ツイスターだ!俺の柔軟な関節に、てめぇはぜってぇ勝てねぇさ!」
誰かの体当たりによりドアが少し揺れ、研究員達は両者共に頭を振り動かし、互いの顔をゆっくりと向き合わせた。
ケンジントンは数回瞬きをし、あり得んとばかりに、口を固く結んだ。「君、アレを持ってるんじゃないだろうな?古代シュメールの──2」
マグナスは両手を頭上に挙げながら、共有オフィスの外へと足を踏み付けた。「その話はすんじゃねぇ、忘れたくとも出来やしねぇよ!クソが!さっさと行くぞ。」マグナスはドアを開き、意識を失った機動部隊員達を越えながらオフィスの外へ踏み出した。
ケンジントンのニヤリとした笑いと共に、彼らがカフェテリアに向かって歩む中、サイトの保安職員は美味しいパイの方ではなく、名も無き恐怖に立ち向かう為、彼らを通り過ぎた。
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